『パーフェクト・クオーツ 北の結晶』 (五條瑛/小学館文庫)


*ネタバレします。


『パーフェクト・クオーツ 北の結晶』 (五條瑛/小学館文庫)


 北の国の指導者の跡継ぎになれなかった男。ヨハンと呼ばれる彼が亡命を求めているという情報が米軍にもたらされ、ひそかに情報部が動き出した。
 橋渡しをする韓国の財閥の若き社長、重貞高平と接触するエディと葉山隆。慎重に、だが焦っているヨハン。政治スキャンダルに巻き込まれた高平。亡命は成し遂げられるのか。


 そんなこんなで、現実の暗殺だか殺人だかのあの事件を思いつつ、こんな背後があったりして~という想像リアリティがすごく面白くて、複雑だけど読みやすくて、大満足。

 父と息子の物語なんだよな。高平のところも。葉山くんとミスター・オリエンタルな亡き父と。北の指導者とヨハンと。兄弟もか。五條さんの世界はこういう業の深い父と息子、血の絆とかの呪縛が苦しくてとても良い。好き。一方通行の愛みたいなの、受ける方には酷くて、とてもよい。好き。

 亡命どうなるかのところと、葉山くんが偶然、父を知る男に会ったり、スリー・アゲーツのあと託されたテープからスパイを探ろうとしてたり、細々した謎も深まったり明らかになったりして楽しい。そして猫目石へ続く、みたいなことらしいんだけど。

 だけどー。作者のあとがきでも、なんかもう出版する気はないみたいな感じだったりして、単なる一読者でしかない私にはもう読めない世界なのかなと、悲しくなる。まー……。作者が出さないってゆーならただの読者にはどうしようもない……。つか、オンデマンド出版の時買っちゃっててごめんなさい……。出すほどに赤字でタイヘンだったみたいに書いてたから、なんか、そういうのわからなくて、買っちゃってたの悪かったのかなと……。うーむ。

 ともあれ、やっぱりエディと葉山くんがあまりにもいちゃついてて、何度読んでも萌え転げてしまう。ご褒美か……。ありがとう……。
 一緒にお仕事~。おめかしのお着換えお洋服買ってあげる~、南国リゾート~、ホテルは同じ部屋(一応ツイン)、酔って溺れかかって助けてくれる~、つい噛んでしまう~~あとから傷跡を見てドキドキ~。ファースト・キスだとかあああ~~クリスマス直前、雪、好きなコーヒー豆用意して待っててくれて、泊まっていけ。とか~~~ああああ~~~。そんな。そんなときめきシーンたっぷりすぎて、凄かった。ありがとう……(*ノωノ)

 ほんとは二冊セットのはず、とのこと。この中ではソウルに行ってた坂下くんのお話があるのかな。読みたいな~。無理なのかなあ。読みたいけど……。期待しないで待ち続けます……。

 

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『特捜部Q -アサドの祈り-』


*ネタバレします。


『特捜部Q -アサドの祈り-』


 シリーズ8作目。サブタイトル通り、アサドの物語。

 ヨーロッパに渡ってくる難民、移民。不法に海からこっそり上陸してこようとする彼らはしかし、不慮の事故でなくなってしまうこともある。海辺に示される、難民の犠牲者の数。2117という数字になった老女の遺体をたまたま近くに居合わせたジャーナリスト、ジュアンが写真にとって新聞に大きく掲載された。
 しかしその老女は、事故死ではなく殺害されたのだとわかる。ジュアンはこの事件を追うことにした。

 デンマークでアサドはその記事、写真を見ると、号泣してしまった。すっかり引き籠りになっているローセの様子を見に行った時で、ローセに少しずつ話をする。
 アサドの隠してきた過去。アサドの本当の名前はサイード。語学に堪能な兵士だった。愛する妻子と離れたのは、かつてアフガニスタンへ派兵された時の事件のせい。捕虜となった仲間を助けた出来事だった。
 刑務所から逃げた時、怪我を負わせたカーリブが、アサドを深く恨み、復讐のために家族を奪ったのだった。


 これまでにもアサドには何か凄い過去があるんだろうなと思ってきたけれども、描かれて見ると、むちゃむちゃ過酷すぎて読むのが辛くて、一気読みなんてとてもできなくてちょっとずつ読みました。
 おー国際情勢。9.11の頃とか。イスラム世界との西側の対立とか。国連軍とか。そんな渦中に、ラース・ビャアンとその兄を助けることに協力したアサド。ラースの病死で過去の縛りがとける時でもあったのか。

 巻き込んだ責任としてラースはアサドをデンマーク警察内部に匿ってた、ってことかな。けどさー。あんまり酷いことに巻き込んだんじゃないか。酷い。
 妻と娘二人。大事な家族を奪われて、生死も不明なまま、アサドは作中で12年くらい? 特捜部の一員としてしっかり働いてきたわけか……。カールと、チームのみんなと仲良くなって。
 特捜部での日々は、命にかかわる事件もいくつもあったとはいえ、それでも、まだ穏やかだったのか。心の中は苦しみ悲しみでいっぱいだったとしても……。カールやローセと事件を追って解決して、というのは、アサドにも多少なりとも生きていける力になる日々だったのだと、思う……。今作では、ローセが復活になってアサドの力になるし。何よりアサドはカールがいることを信頼しているのがわかってよかった。カールももちろんアサドのために力を尽くす。

 あともう一つの事件として、ひきこもり青年アレクサンダが、なんだか犠牲者2117の写真に好きだったおばあちゃんの面影を見て、ブチ切れでゲームで2117のステージまで行ったら、日本刀もって外に出て無差別殺人してやる! と張り切っちゃう話も並行してあった。微妙に日本かぶれで、日本刀とか偽名にトシローって名乗ったりして。
 この引きこもりくんの話は何なんだ。父親は実際殺しちゃったし、母とご近所さんもあわやという所だったけど。特捜部のチームを二分割するため? なんか、アサドの方に集中するときつすぎるからちょっと緩い、といってもまあ重大事件になるとこだったけど、まあ、引きこもりくん事件も並行していくことに。でもそんな坊やの話なんか邪魔だー。
 
 邪魔だ―、ってのが狙いなのかなあ。犠牲者に勝手にわいわいやるはた迷惑な野次馬みたいなことなのか。んー。わからん。
 まあ、ともかく、ゴードンの見せ場ってことかな。ゴードンとローセががんばって、一応なんとか、犠牲は父だけという所で止められた。よかったよかった、かなあ。

 アサドに復讐したいカーリブがついでにベルリンで酷いテロを企んでいて。アサドの妻子を薬漬けにして車椅子に縛り付け、爆弾つけて、アサドの目の前で爆発を、ってたくらみで。酷い。その日まで、カウントダウンに描かれていってて、読むのが、ほんとしんどくなってしまう。
 最後まで、ダメなのかもしれない、目の前で殺されちゃうかも。と思いながら読んだ。
 かろうじて間に合って、助かったけれども。

 けれども、助かったのはよかった、けど。カーリブの息子なのかと思ってた子が本当はアサドの子だといったり。妻子は人質になっていた十年以上もの間、蹂躙されまくっていたみたいで。アサドと再会できて、家族がまた家族として、やっていけるのか。あまりにも辛い日々になるんじゃないのか。わからない。難しい。どうなっていくの。アサドに心の平安が来る日はくるの? どうなるの……。今すぐ続きを読ませてくれ;;

 カールはモーナとの間に赤ちゃんができるみたいだし。ハーディに、動けるようになるかもしれない希望とかあるみたいだけどやっぱりダメだったのかなとか、いよいよ一作目の最初、そもそもカールが特捜部に閉じ込められるきっかけともいう事件、仲間を失ってカール自身も怪我して、ハーディが動けなくなった事件のことが、動きがあるのかな。次、どうなるの。読ませてくれー。

 特捜部Qの翻訳出たのが2011年みたい。途中全部細々と覚えているわけじゃないけれども、長く付き合ってきた気分なので、登場人物たち、知り合い、って気分。カールたちが、どうなるのか。心配しちゃうよ……。
 全10作の予定だよね。無事に全部書いてくれ。読ませてくれー。みんな、生きててくれと願う。みんなを見届けたいと思う。早く次が書かれますように。読めますように。

 

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『月蝕の夜の子守歌』(白鷺あおい/創元推理文庫)


*ネタバレします。


『月蝕の夜の子守歌』(白鷺あおい/創元推理文庫)

 大正浪漫 横濱魔女学校2

 

 シリーズ2作目。横濱女子仏語塾に通う女学生たち。けれどそこは本当は、魔女学校。
 てことで前作の続きでありつつ、これ単発でも迷子の女の子事件があったりして面白かった。人さらいの天狗団に妖魅を混ぜて話成立するなんてすごい~。姑獲鳥が出てきて、わ~~~京極堂!なんて目次でもえたけど、勿論全然違う風味で切ない。
 幽霊と妖魅はまた違うんだよねえ。けどお話というか心通じることはできる。霊感ある人間がいるようなもんで妖魅であれば霊感的なものもただの人間よりはある感じかな。
 楽しい学園もの、として読んでて、あっ、そういえば妖魅でしたね魔女でしたね、ってなるの、わかってるのに読みながら毎度新鮮に驚けて面白い。

 千秋くんが、通ってきてるの、楽しい。女学校だし、魔女学校だし、だけどすごくフラットな世界で心地いいなあ。意地悪というか嫌味な登場人物がいなくてすごく読みやすい。いらんストレスなく読めるのすごく嬉しい。ファンタジーだもの。夢をありがとう;;

 大正浪漫~で、横濱~で、異国情緒なのもあり、って感じも面白い。インターナショナル~。世界が広々としていて風通しが良い感じも心地よい。舞台は日本で横濱で、ちょっとご近所気分で読めるんだけど、異国とかなんなら時空を超えて絵の中の秘密まで広がるの。今作では、絵の由来が少しわかる。千秋くんの祖父のいとこのエステバンおじさんが描いたものなんだって。エル・ドラドへ行ってきたという、ほら吹きおじさん呼ばわりされてた人がいたそうだ。
 エル・ドラド~!? 黄金郷~!三作目で絵の秘密とか黄金世界みたいなことが描かれたりする?? すごい楽しみ。

 学校生活も楽しく描かれていて、寮でみんなで月蝕を見ましょう、ってお夕飯にお稲荷とか巻きずし作るのとか、飛べたらお祝いにマドレエヌを焼くのとか、そういうのもいちいち美味しそうで楽しい。

 ぬばたまおろち の頃からそうだけど、妖魅たちの少年少女たち、それを見守り導く先生たち、みんなはぐれ者な世界ですね。魔法でファンタジーで、優しい人々がたくさんいて、楽しいこともいっぱいに描かれているから元気が出る。登場人物みんなが自分なりに頑張ってる。守ってやってくれ、と、読みながら思う。今作でも、頭飛んじゃう小さな女の子を小春ちゃんたちはじめ精一杯みんなが守るの、良かったなあ。遠い異国からはるばるやってきてくれる叔父さんもおじーちゃん。いつだって正しくいられるわけないけど、優しくなれるんだな。
 
 千秋くん視点の話も増えて、千秋くんが攫われそうになったりで、ハラハラする~。このシリーズのヒロインというか、概念としてお姫様なのは千秋くんだ。歩けないけど、ちょっと飛べるようになってきたし、豹になれるからダイジョウブなんだけど、なんかもう、ドキドキハラハラする。黄金郷にほんとに行ったりするのかなあ。千秋くんのことがもっとわかるのかなあ。続きもすごく楽しみです。

 

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『すこし痛みますよ』 (アダム・ケイ/羊土社)


*ネタバレします。ネタバレっていうか。お終いの方まで触れます。


『すこし痛みますよ』 (アダム・ケイ/羊土社)

 ジュニアドクターの赤裸々すぎる日記


 大学で6年学んだあと、さらに病棟で6年経験を積んで、ドクターになる。そういう、イギリスの医療サービス、NHS。
 ジュニアドクターになった作者の日記をまとめた一冊。作者は医者として6年勤務。今は脚本家でありコメディアンでもあるそうだ。さすが、皮肉、ユーモアいっぱいの一冊。けれど、笑っちゃったりしながらあまりにも医者、タイヘンすぎじゃないかと涙ぐんでしまう。

 ベン・ウィショー主演でドラマ化、というニュースを見て、翻訳が出てるのを知って読んでみました。

 新任で初めて自分の医療処置で人を助けられた! と喜んでも上司はそっけないとか、友人に無茶ぶりな相談をされてしまうとか、こんな患者がいてびっくりすぎるとか、ドタバタコメディになるのかなあ。

 残業しまくり、休日にも病院からの呼び出しは容赦ない。自分の結婚式であろうとも、丸一日の休暇なんてほとんど奇跡。それなのに給料は病院のパーキングメーターの稼ぎに劣る、とか。
 医者は激務。特に研修医だとかは金もないとか。それはどこも同じようなものなのか。日本でも大変そうだものね……。

 イギリスは、医療無料なんだねえ。ゆりかごから墓場まで、って、世界史で聞いたことあるフレーズだ。そうかそうか。
 NHSに拍手を、って、コビッド19の中でやってたのも見た。
 この作品は2004年から2010年の日記。今このコロナ禍の世界でドラマ化されるとなんかまた、違う風にもなるのかなあ。

 産科を選んだ作者。出産って、順調にいけば病気じゃないとはいえ、印象的に書かれてることはいろいろ、ほんといろいろあって、本当に命がけで命を産み出すんだなあ。
 一人の医師にのしかかる責任が、母と赤ちゃんとの分だし、さらに同時に何人もの緊急事態とかあったりもして、タイヘンすぎる。人手不足。金もなく。自分の時間なんてない。それでも、責任と、患者のありがとうと支えに頑張っている。

 頑張ってることに甘えちゃダメなんだよねえ。医者だって人間。沢山学んで経験を積んでいくとはいえ、ただの一人の人間。組織が機能するようにしないと、人の頑張りに頼るとか無理すぎる。そして働きにはちゃんとした報酬を。

 激務が続く中、それでもキャリアを重ねて、もうじきジュニアドクターから次のステップへ、という時に、作者は医者をやめた。ある妊婦の帝王切開手術。後輩の執刀を見守るだけだったはずなのに、事前の診療ミスがあり、死産であり子宮からの出血は止まらず。コンサルタントを呼び出し、大量出血、子宮摘出でようやく終わったこと。それはつまり、もう取り返しがつかないこと。泣きつづけたこと。

 泣いてしまった。
 医者だから。命と向き合う仕事だから。助けられることもあるし、ダメなこともある。医者であっても、一人の人間。心が折れることもある。ユーモアとシニカルさで軽やかに書かれた日記。面白可笑しいことも感謝されることもある。でも本当に切実に、ドクター大変で、頼むなんとか彼らの働きを、もっとまともに休んだり稼いだりできるようにしてくれと思った。医者であっても、心も体も、ケアしなくちゃダメだよ。日本でもさー。

 今本当に、医療従事者とか、エッセンシャルワーカーとか、介護とか、人の生活に欠かせなくて大変な仕事をしている人に、心から感謝するしかない。大変な思いと労力に、せめてまともな報酬ある世界であってくれと思う。
 すべての仕事、働く人に心から感謝します。社会なんだから、組織つくってる人間社会なんだから、個人のやりがい搾取とかじゃなくて、社会的に機能していくべきなのでは。個人の頑張りに頼る、使い捨てるみたいな無理な組織は、何とかしてほしい。医療従事者だって聖人君子の自己犠牲しなくていいようになっていて欲しい。
 
 今読めてよかった。
 そしてウィショーくんがやるっていうのすごく見たい~~。ドラマどっか配信にくるかなあ。見たい~~~。いつできるのかな。どんなドラマになるのかな。でもどうか無事に。安全に。みんなが健やかに、生きような。

 

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『コリーニ事件』(フェルディナンド・フォン・シーラッハ/東京創元社)

 

*ネタバレします。


『コリーニ事件』(フェルディナンド・フォン・シーラッハ/東京創元社)


 ファブリツィオ・コリーニは記者のふりをして男を訪ねた。快適なホテルのスイートルーム。ニ十分後、男は死んだ。コリーニは血のついた足跡を残しながらロビーへ降りて、警察を呼んでくれと頼んだ。

 先日映画を見てすごく面白かったので、本も読む。
 これ、翻訳出た時に、すごく評判良くて面白いらしいとはずっと思っていたものの、なんとなく小難しいんじゃないかなと思って手を出してなかった。ドイツの現役弁護士の書いた小説、初の長編ってふれこみで。
 でもすごく読みやすかった。そっけないほどのクールな文体。翻訳が上手いんだろうか。でも多分原文もこういう雰囲気なのかなあと思う。

 基本的にお話は映画と同じ。けど、映画よりずっとさっぱりしてる。ライネンくんは女の子と出会ってないしイタリアにも行ってない。イタリアから証人呼んでないし、父や友達とチームでがんばったぞって感じでもない。黙々と淡々と記録を読み込んで調査をものにしている。移民の子ってわけでもなく、父よりもハンス・マイヤーに懐いて世話になってたけど、原作での父は蒸発して疎遠になってるわけじゃない。敵対することになる教授が抜け道作った法の成立に関わったのでもなかった。
 
 コリーニの過去においても、映画みたいに父が目の前で殺されたのではなかった。姉がレイプされ家が燃やされてた。どっちが酷いでもなくなんにせよとてつもなく酷い。少年のコリーニくんに降りかかった途方もない暴力だった。直接自分が殴られたわけではなくても、本当に本当に、酷い傷を残しただろう。それが、戦争で、戦争行為として罪の度合いが云々であったとしても。許せるわけない。
 それでも、私的報復の人殺しは人殺し。殺人は犯罪。辛い……。

 とてもわかりやすく読めたのは映画を見てるせいかなあ。けど、多分本を先に読んでいても全然小難しくはなかったと思う。
 映画化は、いろいろとドラマチックにアレンジしていたんだなとよくわかって、読んでみてよかった。映画化だから、今日的な要素も入れながらって感じなんだと思う。原作の基本を忠実に、けれどドラマチックな盛り上げとか見せ場とか。すごく、私はうまくてよかったと思った。
 これ本国で出たのは2011年か2012年くらいかな。この小説きっかけで政府にナチの過去再検討委員会ができたとかなんとか。時効を認める法の再検討とかしたのかしら。ドイツ、ナチスの負の遺産は巨大すぎるよね……。

 「訳者あとがき」で、モデルとなる人物がいたと知る。そして作者の祖父はナチスの高官だったそうで。私、勝手に作者はライネンくん的な立場かと思ってたけど、ヨハナ・マイヤーの側だったのかと知って、またいっそう、どっと重く感じた。
 作者の学校の同級生にはそういう、ナチ政治下のあれこれの人物の孫たちがいたそうで、そうかーそりゃそうか……と……。
 勿論、子孫に祖父たちがしたことの責任があるわけじゃない。おじいちゃんになった彼らは、ハンス・マイヤーのようにいいおじいちゃんだったかもしれない。孫が知るのはそういう姿で、けれど、その祖父が「誰」だったのか知る時がくる。そして。

 そして、けれど、どうにもどうしようもない。自分はじぶんとして生きるしかない。
 そしてこういう作品を書いたりしたんだなあ。いやまあ、わからないですけれども。
 ……面白かった。

 

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『三体 Ⅱ 黒暗森林』上下(劉慈欣/早川書房)


*ネタバレします。

 

『三体 Ⅱ 黒暗森林』上下(劉慈欣/早川書房)

 三体世界からの攻撃がくる。と知った人類は、何とか対抗手段を探る。
 あらゆる情報が筒抜けの中、三体人には人間の心が読めない。世界は、面壁者という、誰にも何も言わずただその人の頭の中でだけ作戦を立てる四人の人間を選ぶ。彼らは人類を救えるのか。

 て感じで、三体からの艦隊がやってくる四百年の間に、なんとか、人類が勝利して生き延びる道を探るべく、面壁人があれこれがんばる話、かなーこの第二部は。

 正直、第一部のことをあんまり覚えていなくて。冒頭の葉文潔、あの文革を生き延びて宇宙にメッセージおくっちゃった彼女のこと、は、覚えてる。けど。あと、大史だーしー、史強ね、タフな刑事。だーしーは今回もわりと出番あって、好きなキャラで認識してる。
 けどな~。
 
 すっごく壮大な思考シミュレーション、もしも他の文明がせめてきたらどうする、というのは、すっごい、凄いなあとは思うけど、登場人物に思い入れがまったく持てず。
 まー正直私の記憶力がダメすぎて、誰が誰とかなんだっけとかすんなり読めなかったりしたせいでしょう

 特に、一応多分メイン、主役の羅ジー(漢字が出せないごめんなさい)の思考が気持ち悪くて。以前作家の彼女がいたとかで、自分でキャラクター生み出してみなさいよ、みたいにすすめられて、理想の彼女を考えだしていくんだけど。で、面壁者に選ばれた特権で、夢の彼女そっくりさんを探してだしてもらって、一緒に暮らすし結婚して娘もできちゃうと。

 ……。いやまあ、作家個人の妄想ですしフィクションですし、いいんだけど。ラオジーくん、一応大学で教えてるとかだから、まあ、いい歳じゃん。いくら若手だとしても30代かな。んで、理想の彼女、学校でたばかり、って、まー二十代前半でしょ、そういう夢の女の子連れてきてもらって、幸せになりなさい、とかって、見つめあって恋に落ちて。って。そういう過程がかなり丁寧に描写されてて、そ、それ大事なとこ????? って、どうにも気持ち悪かった。
 まあ、いいんですけどね。。。

 でも一応、途中お手軽に冬眠とかしちゃってるし、二百年とか過ぎてる未来、結局かいまみえる社会において、女性っていうのが、ぼくのさいこうのりそうの彼女。とか、父の娘。あたりの主体性しかなさそーな社会でしかないなんて。人類滅びちゃえば? と思う。
 今の時点で見てもこの社会80年代くらいの感じ~と思うのに未来って感じに描かれてもなあ。まあ。個人の妄想でしょうからいいけどね。女の主体性とかありえないんですよこの未来では。という世界であっても別にまあ。そうなんですねというしかない。
 途中文明崩壊に近いような、暗黒時代もあったりしたようですし。人類、人口半分になってるらしいし。また原初な社会からやりなおしたのだーってことかもしれないし。と、思ってみても、やっぱ全然この世界にいい意味見られない。私の好みの問題かね。

 それに主眼は三体人が攻めて来る、どうする!? って話だからまあ、まあね。ラオジーくんに理想の彼女がいて娘までできちゃったからこそ、生きる希望、執着になるでしょー。ってことかなあ。けどなー。まあ。私個人的にはドン引き。

 宇宙艦隊が、三体からの探索機一機、水滴と呼ぶ、小さな一機でまたたくまに壊滅状態に追い込まれ、とかの終盤は面白かった。
 そして、人類は負ける。地球は終わりだ、と思って、宇宙艦船に今いる自分たちこそが人類の最後の希望、と、宇宙の彼方へ新天地求めて旅へ、というのも面白かった。ひとまずの目的地までにでも、燃料が足りない、と、5隻残ってたうちで、行動を起こして自分たち一隻だけでも、と、他の艦船を攻撃してエネルギーと予備パーツ、って奪還していく、暗黒の選択もよかった。
 三部ではこの星の戦艦の話も出てくるのかな。どうなるんだろう彼らは。

 ラオジーくんが、ついに三体人を欺ききって、交渉に持ち込んで、人類は攻撃されなくなった。
 宇宙の資源には限りがあるから。文明がある星は自分たちの存在を隠す。他の文明を見つけると先制攻撃以外にはありえない、という説も面白かった。

 壮大だな~。三部では人類と三体世界はどうなってるんだろうな~。と。一応、三部も出たら読むつもりではある。

 でもなんか。これ、ひょっとしてもしかして、リング的なオチだったらヤダな、という気持ち。この小説丸ごとコンピューターシミュレーションなんだよ、異星人が攻めて来たら困るね怖いね、みたいになったりしませんように……。
 お気軽に冬眠に入っちゃうし、夢の女がそっくりそのまま見つかって、見つめあうだけで恋におちて、とか、なんか、てきとうに都合よく進みすぎなんだよなあ。三体人もラオジーくんとの交渉がやけにあっさりしてるし。
 三体人はすべて心の裡を隠さず読みあう人たちらしく。『混沌の叫び』的なモノかなと想像。それかテレパシー全員あるのがあたりまえみたいな? だから人類が陰謀とか隠し事とかするのが理解できない。怖い。みたいな朴訥さがあるよ、ってことだけど。そーなの~~???

 ま、読んじゃってるので三部も楽しみにお待ちします。けど、なー。期待はしないでおこう。期待が裏切られることを期待……。

 

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『約束』(ロバート・クレイス/創元推理文庫)


*ネタバレします。

『約束』(ロバート・クレイス/創元推理文庫)


 ロスの私立探偵であるエルヴィス・コールは、メリル・ローレンスという女性から、同僚、というか部下だったかな、エイミー・ブレスリンを探して欲しいと依頼を受ける。エイミーは息子ジェイコブをテロで亡くしていた。メリルから得た情報をもとに、コールはまずトマス・ラーナーというジェイコブの友人らしい男の家を訪ねてみた。

 その家は、ロリンズ氏という偽名を使う男が、犯罪組織との取引に使う家だった。エイミーは爆弾を作る材料をロリンズ氏を介してアルカイダに売ろうとしていた。ロリンズ氏の家に、チンピラが使いっぱしりにやってくる。警察に追われながら。
 ロリンズは厄介を避けてパシリの男を殺した。そこへ、警察犬マギーをつれたスコット・ジェイムズが来る。いったんはごまかしたものの、スコットに顔を見られたロリンズ氏は、彼を始末しなければならない。ロリンズ氏は、自分のルールを守って慎重にずっと隠れてうまくやってきたのだから。


 そんなこんなで、私立探偵のエルヴィス・コールと相棒ジョー・パイクのシリーズ、に、『容疑者』でコンビになったスコットと警察犬マギーが登場してきて、成り行き上コールに協力することになって、警察組織との板挟みでたいへんだったりする話。スコットとマギーはシリーズってほどではなく、これは一応、『容疑者』の続編ってことかな。2017年、刊。本国では2015年か。
 相変わらず、マギーの内心描写が可愛くて美しくて参る。犬よ。純粋に賢く仲間への愛情あふれる犬よ。今回もマギーは素晴らしい能力発揮してスコットを守っていてとってもとっても可愛かった。

 やはり前半は、コールは手掛かりを求めてあちこちうろうろしたり電話したりでエミリーのあとをおう。今回びっくりなのは、依頼人メリルがメリルじゃなくて実は国土安全保障省の主任捜査官なんだ、ってわかったあたり。ジャネット・ヘスがホントの名前。最後にはコールと仲良くなっていくのかな~ってとこ。
 『指名手配』はこのあと。らしく。コールってヘスと付き合ってたっけ。女の名前まで覚えてないわ……。

 コールとジョー・パイクだけじゃなくて、ジョン・ストーンという傭兵、凄腕の傭兵が出てきた。一見チャラそうな感じみたい。だけど有能で忍耐強く、兵士としての心意気が強くある感じ。かっこよかった。ジョー・パイクとは仲間って感じ。コールのことは、何だあいつ、くらいに思ってるけど、しっかり協力してた。

 エイミー。息子をテロで亡くした母親。傭兵であるジョン・ストーンは彼女の悲しみが誰よりもよくわかる。
 息子の敵を、なんとか知りたい、殺してやりたい。と、願い狂気し、粘り強く自分でやり遂げようとする能力のある母親。コールたちは途中からエイリーを助ける、という方に舵を切って、協力していく。

 スコットくんは、たまたま犯人の顔を見てしまった男、で、警察には当然協力するけれども、ロリンズ氏に狙われることになって、マギーの命まで狙われて静かにキレる。自分が狙われるのは勿論許せないし、大事な大事な大事なパートナーであるマギーを殺そうとするなんて、絶対に絶対に許せない。犬とパートナーな絆が今作でもほんっとよかった。

 メリルになりすましていたヘスは、内部犯がいるんじゃないかと思ってて、組織と無関係のコールに依頼という捜査を行った。案の定、ミッチェルという捜査官がロリンズ氏と繋がってて、エイミーの爆薬を、エイミーの願いどおりのアルカイダじゃなくて、犯罪者に売り渡す手はずだった。
 
 エイミーがしっかりした母ですごくよかった。ジョン・ストーンとどんな話をしたのかとか書かれてないんだけど、なんかそれもすごくよかった。安易な心情吐露とかより深いと思う。最後、ジョン・ストーンは彼女の願いを叶えたのかもしれない。

 スコットはまた狙われたけどロリンズ氏を返り討ちにしたし。マギーはスコットを守ろうとしてかっこよかった。

 

 主要人物が多いな~~~てなるけど、随時、中心人物の名前でエピソードが重なっていくので、まあ、混乱はしなかった。
 これって、一応シリーズもの人物の話だけど、事件はそれぞれに解決していってるから、ほぼ単発で読んでもいける感じだったかな。前後の小説の細かい内容とか覚えてないけど、十分楽しかった。

 『指名手配』(2019年)の時に、『容疑者』とつづく三部作!みたいにしてたけど、そんな三部作っていうほど深くつながってはいないよね? 登場人物それぞれの続きみたいなことはあるけど。三部作とか言わないでほしいなあ。気になっちゃう。というか気になるように煽りでやってんだろうけど。出版社への不信感。。。

 コールの猫と、マギーとちょっとご対面だったの面白かったな。可愛いな~。
 終盤は面白くなってきてぐっと一気読みだった。作品、人物に私が読み馴染んできたのかな。でもやっぱ、話のひっぱり、人物の魅力、読者の焦らし方が上手いんだと思う。満足した。

 

 

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『アイル・ビー・ゴーン』(エイドリアン・マッキンティ/ハヤカワ文庫)


*ネタバレします。

『アイル・ビー・ゴーン』(エイドリアン・マッキンティ/ハヤカワ文庫)


 ショーン・ダフィのシリーズ三作目。


 前作で刑事からただの制服警官に降格させられていたダフィ。地方で地道な警備をしていた。ある日、同僚と飲んで車で帰る時、何かにぶつかったような物音がした。運転していたのはダフィではない。けれど、濡れ衣を着せられ、警察を放逐されてしまった。
 あてのない日々に、ケイトが訪れてくる。刑務所から脱獄したIRAのメンバー。その中の一人、大物のダーモットとダフィは同じ学校だった。なんとか、ダーモットを捕まえる手がかりをつかんでほしい。MI5の仕事をするために警察に復帰することになったダフィ。
 まずはダーモットの元妻アニーに聞き込み。だが最初に対応したのはアニーの母、メアリー。最初追い返されたダフィだったが、数年前に、その家の三女リジ―が事故でなくなった話を聞かされる。事故だとみなされて捜査は終わっている。だが、検視官は不審死としていた。メアリーは娘の死の真相を知りたい。そうすれば、かつての義理息子、ダーモットの居場所を教えてもいいと言う。
 完全に密室で起きた死。他にダーモットの手がかりを見つけられないダフィは過去の謎を解くべく捜査を始めた。


 解説を島田荘司が書いていて、作者やシリーズについてよく知らないのだが、みたいに始まって、なんだそれ? と思ったら。『占星術殺人事件』が英訳されて、それを読んだエイドリアン・マッキンティがすごく褒めてベストミステリにあげていて、とかの関りがあったらしい。てゆーか占星術何年前のよ。凄いな。今翻訳されて、さらに人気集めたのかあ。すごい~。

 で、そっかーその影響ありで、今回密室殺人事件だったのね。これまでのシリーズの雰囲気壊すことなく過去の事件捜査ってことでうまく取り入れてる。IRAの一員捜しのための密室解決。で、情報得てのさらにたくらみ阻止のためのうんざりするような張り込み。からの、爆破テロ。

 相変わらずなかなか捜査が進まないなあ。ダフィたいへんねえ。って半ばまでの地道さから、一転、後の終盤の激しさ面白くて後半はほぼ一気読みした。
 密室事件の犯人は、リジーの事を心配し、事故じゃない事件だと言い張っていた恋人のハーパーだった。閂を閉めて密室を成立させたのは、リジーを探してて、警官が扉ぶち破った時、一緒に現場に最初に入っていた恋人ねー。解決してみればあまりにもシンプル。でも見つけていく途中面白かったしがっかりってことはない。そして証拠はなくて、ダフィはただその真実をメアリーに話すだけ。それで、ダーモットの情報を得る。
 ハーパーは後に多分メアリーに、ひっそり殺されたのねえ。ダフィはそうなることをわかっていて任せた。ほんとこのシリーズ、警察、警官小説だけど、私刑を許すよなあ。アイルランドではありなのか。というか、この時代、やっぱほんと物騒すぎる……。

 警察署にもテロがあって、ダフィも巻き込まれる。大丈夫だったけれど、マティが亡くなってしまってショック……。一冊目の時にはどーにもダメダメ鑑識、チャラ男~って感じだったけどさあ。マティ。アイルランドを出て、別の所で人生やってこうってしていた所だったのに。ダフィのチームの一員ってなんだかんだいつの間にか親しみ持ってたよ。確かに、しょっちゅうテロで、危ない毎日、だけど、主要キャラだったじゃん。死ぬか……。そうか……。

 ダーモットに襲われて、けどかろうじて返り討ち。サッチャー首相狙いの爆破テロをギリギリ回避。回避っつーか爆発して巻き込まれたけどサッチャーは無事だったからよし。で。
 サッチャー直々にお見舞いに来てもらってたダフィ。これで、また警察に正式に復帰するのか。どうするのか本人も決められない、というところで終り。

 サッチャーが1984年の保守党大会の時、泊まっていたホテルが爆破テロにあった、というのは史実でいいのか。たいへんすぎる。あ~私がもっとアイルランドと英国の歴史をよく知ってれば、もっともっと面白く読めるのかなあ。まーいいけど。でも。アイルランドをもっと知りたい。

 シリーズはもう6作くらい出てるのかな。続きも翻訳してくれー。この翻訳が2019年3月刊なんですね。次出るのはいつかなあ。出るよね? 待ってる~。

 

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『スパイは楽園に戯れる』(五條瑛/双葉文庫)

 *ネタバレします。

 

 緊急事態宣言、昨日解除された。けどまあ、散歩ばかりする日々に変わりはない気がする。でも映画館営業再開が待ち遠しい。新作を映画館で見たい。そしたらちょっとは気力も回復するかなあ。今、映画見て、本読んですら、気力が足りない日々だから……。

 さて。 

『スパイは楽園に戯れる』(五條瑛/双葉文庫)

 

 少年の頃のある日、港で出会ったおじさん。いつか世の中の人々、国の役に立つ人間になりなさい。すぐに忘れてもいいはずの、些細なある日のことだった。だが、少年はその言葉を強く心に刻み、政治家として名をはせていく。

 

 北の指導者の後継者争い。何人かいるらしき子どものうち、早くから海外にいたヨハンと名乗る男は、本当に今も価値ある情報源なのかどうか。大方の見方としては、ヨハンにもう価値はないというもの。だがアナリストの葉山は、くすぶるその噂を確認する調査を続けるうちに、情報漏洩のスキャンダルに触れることになった。

 

 

 単行本は2016年だそうで。文庫化が2019年ですね。去年、そういえば買うつもりで保留していたのだった、と、やっと買い、読みました。文庫化につく短い書下ろしがエディとタカシなのねー。今作でも葉山くんはみんなに愛されていました。かわいい。中華系のみなさんが頑張ってて、なんとなくなんとかなって。涌井氏は自殺してしまう。ピュアすぎるぜ……。

 

 今読むと、何もかも社会がコロナ対策で止まってる中で、でもこう、暗躍する情報戦とかはあるのかな~とか思う。何もかもがコロナ対策に向かってるから、なんか陰謀進めるなら今、とか。まあでも正直、ここまで世界規模国家規模の混乱の中だと、陰謀もなにもやってる暇はないだろうなと思うけど。

 

 この後なのか、オンライン出版で読んだ、ヨハン暗殺の話とか。まー。エディに愛されてるよねえ葉山くん。かわいい。

 

 今、政治のなんだかんだを見るにつけ、この涌井みたいな、ピュアに国のためにとかいう人物って、あまりにもあまりにもフィクションに見える。ほんとはこのタイプの真面目な理想家みたいな議員がいるんだろうか。いないか。そういう人は当選しないか。ほんとにさー。政治家、頼むから建前としてだけでも、理想を掲げて、そのために働いている、ふりでもいいからしてくれ……。

 

 

 五條さんの作品がどんどん読めなく、買えなく、なってるとかなんか、私にはよくわからないけれども、なんかいろいろあるっぽい。単なる消費者で、ずーーーーっと前から大好きでファンであっても、本屋で本を買うしかしてないただの読者である私にはわからないことばかり。作家続けて本を出してくれたらいいのになあと思うけど、それは勝手な願いなので叶わないんだろう。今持ってる本を大事にするしかないかー。作家が書いてくれなきゃなかったものだけれども、本を手にして、読む、その作品は私が得たもの。読んだ感動は私のもの。愛してるよ。ありがとう。

 

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短歌入門書を三冊

 ちょっと思い立って短歌入門の本を三冊読みました。

 

『今はじめる人のための短歌入門』 岡井隆(角川ソフィア文庫)2011年文庫化、元は1988年刊。

『今日から始める短歌入門』 池田はるみ 編・著(家の光協会)2003年刊

『ここからはじめる短歌入門』 坂井修一(角川選書)2010年刊

 

 読み終わってみると、刊行年がざっくり10年ごとで、なんとなーく、時代、社会の変化を感じられたきがする。この三冊を選んだのは単純に「短歌入門」キーワードで検索してぱっと目についたもので、読み比べて時代の変化を感じようとしてたわけじゃないけど、結果的に。短歌入門、なので、短歌を作ることについての本。基本的な所は同じなわけ。けれど、自分の身の回りのこと、社会のことを歌う、という時にみえる感覚って、そりゃあ時代によって違うかーと思った。

 

 岡井隆のは、私が短歌を始めた頃に買って読んで、その後も読んで、多分再読3回目かな。あんまりはっきり覚えてはない。読み返しても忘れてることの方が多くて、やっぱ大変なこと書いているなあ。短歌難しいですよねえ。岡井隆すてきーって萌え萌えになりながら読みました。とっても柔らかな文体で優しく語るように丁寧に書いてあるけれども、まあ自分で考えなさいよ、とふいっと突き放して微笑んでるようです。素敵。かっこいい。

すいません短歌全然わかりませんっ。てなりながら満喫しました。私はねえ、ほんとにねえ、短歌の勉強やってなくて、ちゃんと近代すらおさえてなくて、なんも知らないまんまぼんやりと、短歌作ってもう十年以上だな……。すみません。けど、ゆっくり読み、かつゆっくり作り、とやってくもので、一生かけるものです、ということだから。ゆっくり、やらせていただきます……。

 

 池田はるみ 編・著のは、他に佐々木史子、関谷啓子 と、三人で分担して書かれています。岡井隆のあとによむと、なんて親切に短歌へのハードル下げて誘ってくれるんだ~優しい~~優しさが沁みる~~~という気持ちになりました。NHK学園の短歌講座の講師でもあるみなさんなんですね。短歌は簡単ですよ、さあどんどん作ってみましょう、っていうお誘い。でも勿論、ちゃんと丁寧に、実例いっぱいで短歌の基礎を書いていってくれてて、これすごいわかりやすくていい本だなあって思った。読んでみてよかった。

 短歌、続けていくと難しいたいへんってなるのはいわずもがななので、ほんっとのほんとの初心者、ちょっと作ってみたいって入り口の所としては、この気安さは有難い。巻末に動詞活用だとか旧仮名新仮名だとかの表もついてて、とても実用的~。面白かったです。

 

 坂井修一のは、これもまた読み物的である。岡井隆のと同じく、角川の「短歌」に連載だったのですね。短歌を作って作り続けて生きてていく、みたいなところまで描いていってくれてます。面白かった。

 「熟年の恋」という所で、岡井隆の歌ひいて、褒めて、岡井隆に会ったとき聞いてみた話とか書いてあって、なーんこれ自慢じゃね~? 岡井隆とこんな話したんだよ~いいでしょ~って書いてあるーーっと思って嫉妬した私(笑) いいな~。

 技法について書かれていることもわかりやすく丁寧に解説されてて面白かった。最近の人の歌とかいうのがほんとに最近の感じがして、あ、そっか10年前っていったら私、一応は短歌を始めていて、短歌の人々のことをすこーしは知るようになりかけていて、で、なんか近い気がするんだな。とはいえ10年も前、でもある。

 この本の中での、この頃の若い人は、って感じの所からもう10年過ぎているんだね。

 

 東日本大震災があったのが2011年。そして今、新型コロナでこの、緊急事態宣言発令のさなか。10年前にも、社会の貧困、暗鬱たるものはあったけれども、それからまたもう、すごく、多分今のこの2020年からあと、すごく社会は変わるだろう。この事態がいつ終わるのかわからないし、終わらないかなあとも思うし。明日どうなってるのかもわかんない。

 短歌にまた違う流れがくるだろう。まだ、わからないけど。2030年には、あの頃、みたいに俯瞰的な見え方ができているのかなあ。

 その頃ちゃんと社会が機能していれば。私は生きていてそういうなんだかんだを、見たり読んだりできるんだろうか。私も何か歌を作れているんだろうか。

 わっかんないな~~~~。

 

 でも短歌作りたいな。作っていたいなと思った。

 私、あんまり短歌好きな人間ではなくてダメダメでなーって思うんだけど、今、この三冊読んでみてよかった。短歌を作っている人であれたらいいなと思った。がんばらないけどがんばろー。

 

 

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