『はだかの太陽』(新訳版/アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『はだかの太陽』(新訳版/アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫)


2015年刊の新訳版だそうで、前に『鋼鉄都市』読んだ時よりは随分読みやすく感じた。本国で出たのは1957年。で、この続編が1983年『夜明けのロボット』として出ているらしい。その間26年? タイヘンだ。そしてさらに『ロボットと帝国』というのもあるらしい。ええ~と~。まあ、一応、シリーズとのことで、読む。読むよ順次。

 イライジャ・ベイリは司法次官に呼ばれて、飛行機に乗るという恐怖に耐えてワシントンへ出かけていった。そこで与えられた任務は、宇宙国家ソラリアでの殺人事件の捜査。別の星へ行けという指令に逆らう事は出来なかった。

 というわけで、ベイリは宇宙旅行へ。都市が丸ごとドームで覆われた世界に暮らしているこの作中での地球人はとにかく広い場所、囲いのない場所が苦手。そして宇宙国家からは地球人というのは宇宙の片隅の星の引き籠り、後進国で劣った存在とみなされている。
 ソラリアへ到着すると、そこにいたのはかつて一緒に捜査を担当した、オーロラのロボット、ダニール・オリヴォーだった。ダニールはロボットであることを隠し、人間として共に捜査にあたるという。
 慣れない環境、直接人が接近接触することのないソラリアの社会に悩まされながら、ライジはなんとか主導権をとって殺人事件の捜査を進める。

 ベイリはこの作中で43歳らしい。いい年した立派な大人なのに、ダニールにめちゃめちゃ過保護に守られてるのがすごい可愛い~。
 ロボットは人間を守らなくてはならない。
 ロボット三原則。
 ソラリアは、人口二万人、と、星ひとつに対してあまりに少ない人間しかいない。一人一人が広大な領地に棲み、そしてあらゆる仕事、実務はロボットがこなしている。人間同士は映像対面しかしない。夫婦は遺伝上問題ない組み合わせで割り当てで決まり、夫婦でなら直接会う機会も少しは持つ。子どもは妊娠一ヵ月でとりだされてファームで集中管理で育てられる。ケアする、責任者こそ人間だけれどもそこでもほぼ全てはロボットが仕事をする。
 とにかく人との接触は忌み嫌われ、親子関係ももたない。広大な星、広大な領地に人間は一人だけ、というのが当たり前の社会。ロボット産業の大国として地位を得ている星。
 そんな場所で起きた殺人事件。
 直接接近する機会があるとすれば妻だけ。ロボットは人間を傷つけることはできない。
 だが、本当に?

 そんなこんなで、ベイリが慣れない星で戸惑いながらも、自分のペースに持ち込んで推理していくのを見守るダニールがまたくそ真面目で可愛いな~。
 ソラリアの社会は他の星でも辿る未来なのではないか、とか、ロボットが本当に完全に人間に危害与えることはないのか、とか、いろいろと示唆に富んでいて面白い。うまく命令を使いわけてこなせば、ロボットにも殺人はできる、とか。
 
 結局、実際に手を下した犯人としては、妻、グレディアってことだよねえ。逆上し何も覚えていないの、っていってたけど。でもそうなるようにロボットの手、腕? が外れるようなタイプのものを送り込んでいてグレディアがその腕を使って殴るように仕向けたのは、デルマー博士と仕事をしていたロボット工学博士のリービック。恋愛とかの概念がなさそうなソラリアで、でも結局恋めいたものの嫉妬が動機の一つになりうる。
 ロボットを使っての他国への攻撃みたいな計画もあり。そういう、ロボットが人間を殺せるようになるのか、できるのか、というのはなかなか。その後には殺人ロボットつーかアンドロイドっつーか、SFでばんばん出てきてるよねえ。ターミネーターとか。アシモフの世界ではどうなってくの。

 ダニールがロボットであるといことをソラリアでは隠している。でもそのことがリービックの自殺まで引き起こしてしまう。ダニールの存在も難しいものだなあ。目の前で人間が死に、それを止められなかった、ということは、あのあとダニール大丈夫だったのか……。死体を抱くダニールのシーンとても美しかった。
 続編ではベイリはオーロラへ行くことになるようだから、その辺も描かれたりするんだろうか。ダニールが心配だよ。


 「ベイリは息を呑んだ。もしダニールが、リービックを殺したのは、人間そっくりの自分の姿形だと気づいたら、第一条に縛られた彼の頭脳は強烈なダメージを受けるかもしれない。
 だが、ダニールは、膝をつき、その繊細な指でリービックのあちこちに触れただけだった。そして、自分にとってとても大切なものだとでもいうように、リービックの頭をもちあげ、それをそっと抱きかかえ、やさしく愛撫した。
 彼の端正な顔がほかのひとたちを凝視し、彼は小声で言った。「人間が死にました!」」(p388)


 それとベイリが思いがけずダニールと再会したシーンもすっごくよくってもえころげた……。


 「「きみを忘れるなんてことがあるものか、ダニール」
「それはうれしいことです」ダニールは言って、重々しくうなずいた。「あなたもご承知のことですが、わたしは、正常に作動しているあいだは、あなたを忘れることはまったく不可能なのです。あなたにまたお会いできてよかった」
 ダニールはベイリの手をとり、それをひんやりした自分の手で握った。相手の指は、心地よい、決して痛くはない握力をくわえ、そしてはなした。
 この創造物の判読しがたい目が、ベイリの心を貫き、ベイリの全身がほとんど愛にも等しい熱烈な友情に浸りきったこの狂おしい瞬間、いまだ醒めやらぬその瞬間を見透かされないようにと、ベイリはひたすら祈った。
 けっきょく、ひとは、このダニール・オリヴォー友人として愛することはできないのだ。人間ではない、ロボットにすぎないものを。」(p51)


 ベイリってばさー。ダニールを友達として思いたいのにロボットだから嫌だみたいな葛藤抱えまくってるの可愛い。ダニールに過保護に守られるのに反抗したりするのも可愛いんだよ……。ほんといいキャラ。続き読むのが楽しみだ。


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『グッド・オーメンズ』上・下(ニール・ゲイマン/テリー・プラチット/角川書店)


*ネタバレ、結末まで触れています。


『グッド・オーメンズ』上・下(ニール・ゲイマン/テリー・プラチット/角川書店)


 1990年刊の作品、で、この翻訳2007年刊。来年、2019年にアマゾンプライムでドラマ化らしく、その天使と悪魔のおっさんたち(?)のビジュアルが素敵で、どんななんだろう?と思って読んでみた。世紀末ものなんだなあ。そっか1990年刊か。2000年問題どうなるんだとかいろいろあったな~と思う。

 グッド・オーメンズ―よき兆し。
 人間界に天使のアジラフェール、人間の姿としては古書店経営、と、悪魔クロウリー、人間としてはベントレーが愛車、オシャレマンションに住んでいる二人がいた。六千年もともにいれば天使と悪魔といえども仲良くなろうというもの。しかしついに、反キリストとなる赤ん坊が使わされ、クロウリーは人間の赤ん坊と取りかえて地上で育てさせる。
 しかし取りかえる家庭を間違えるというミスが発生。反キリスト、世界を終わらせ天使と悪魔の戦いを始めさせるはずの子どもは、極めて普通の男の子として11歳になる。ついに世界を滅亡させる時、彼の本性は目覚めるのか。天使と悪魔はどうする?

 これは、コメディ、ってことか。ドタバタ劇か。世紀末で、終末戦争で、世界滅亡しそうなんだけれども、軽やか。というか、11歳の男の子アダムくんが、友達同士で悪だくみ、くらいのノリに世界存亡の危機が~。天使と悪魔もなんだか人間界に情がうつって、なんとなく仲間気分で。ド派手なことになりそうなんだけれども、軽くかわしてる感じ。楽しかった。でも多分これイギリスの地理感覚とかあるほうがもっと楽しそう。まー仕方ないけどな。脚注も沢山ついているんだけれども、その脚注ネタの面白さがいまいちピンとこない。ま~~仕方ない。
 子どもたちパート、天使悪魔パートが終盤にはクロスして魔王だとか神そのものとかすこ~しチラ見せされてる感じ。結局神のてのひらの上なのか。ま~いっか。

 で、アダムくんが子どもらしく自分の世界は自分の身の回りのこの世界で、このままでいいから、って言うわけで、世界は現状維持。魔女や魔女退治軍もみんな、ほどほどに良い関係、いい感じにめでたしめでたしでした。アダムが普通に男の子して地獄の犬も普通に犬で、ちょっとほろっとなってしまった。全然そんなでもないのに、うまいバランスなんだなと思う。楽しみました。

 あと、この、ニール・ゲイマンて、『アメリカン・ゴッズ』書いた人なんだと後で知る。アマゾンプライムのドラマ見たよ~。あれもなんだか凄かった。というかそれは翻訳まだなのか。ちょっと、他の著作も読もうかどうしようか迷うなあ。うーん。

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『鋼鉄都市』(アイザック・アシモフ/早川書房)

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『鋼鉄都市』(アイザック・アシモフ/早川書房)


 これは今日読み終わり。
 刑事とロボット、ハンサムなアンドロイド?のバディもの、とかいう感じの煽りがツイッターに流れてきて、それにまんまとつられて読んでみた。「世界SF全集 14」という1978年の本で。この小説が出たのは1954年らしい。64年前か? すごい。
 アシモフ、有名だよねーと思うものの、私は多分読んできてない気がする。ロボット三原則なんかは勿論きいたことはある。

 1.ロボットは人間に危害を加えてはならない。
 2.ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。
 3.ロボットは第一条、第二条に反するおそれのない限り自己を守らなければならない。

 ざっくりとこういうやつですね。この小説の中でもこの原則を守っているのかどうか、ロボット、っつてもほぼ人間と見分けがつかないほどの、アンドロイド? ヒューマノイド? そういうタイプと人間との、付き合いってできるのかどうか、という所が突き詰められていく。
 まだこの頃ってアンドロイドって言わないのかな。ロボットだったな。R(アール)と呼んでる世界。
 地球から宇宙へ移民していって、宇宙でそれなりに繁栄して地球へまた戻ってきた人類を宇宙人と言ってる世界。地球にも人間型のロボットはいて、それに仕事奪われる、みたいな嫌悪とか不気味の谷的嫌悪とかあるような世界。宇宙人のテクノロジーの方が進んでる感じで、人間と見分けがつかないタイプのロボット、R・ダニール・オリヴァーが宇宙人を代表して、地球人のベイリとコンビになって、宇宙人の博士が殺された事件の捜査をすることになる。

 ミステリかな?って思ったけれども、それよりはSF色の方が強いか。ロボットのダニールをベイリが(イライジャとかライジとか呼ばれてて紛らわしい……イライジャ・ベイリがフルネーム。地の文ではベイリ。上司で友達の警視総監からはライジと呼ばれ、ロボットからは丁寧にパートナー、イライジャと呼ばれてる)嫌悪したり犯人扱いしたり、でも段々対等に思うようになっていく。その途中で、地球の事とか宇宙人の世界の事ととか、行き詰まりそうな地球のドームの世界からもう一度宇宙へ飛び出さねばならないみたいな、社会問題とか哲学とか語られていく話。
 
 一緒に食事を出来るのか、とか。家につれていくと妻が怯えるとか、息子がいるのに近づけたくないとか。ベイリはちょっと頑固でちょっと頑なで、でもちゃんと柔軟性のある思考が出来る優秀な刑事。ダニールは人間と見た目はほとんど同じ。けど人間と実際に接するのは不慣れで、生真面目な感じがちょっと面白い。見た目はハンサムらしいので妄想は楽しい。
 事件の捜査はなんとなくな感じだったかなあ。まあでも推理はいろいろしてて、その感じも結構面白かった。

 パソコンって感じの世界ではなくて、電子計算機的な感じ。んでも64年も昔なわけで、まーそうですよねと思う。高速路で移動とか、ちょっと不思議なレトロフューチャーな感じ。んでも宇宙へ移民ってテクノロジーな世界でもある。しかし宇宙と地球と分断されてて、地球は人口爆発中で都市はドームの中で、自然とか隔絶してて、イースト菌が大事でなんか、食糧難をいろいろ合成食品でなんとか賄ってる感じとか、あ~こういう感じ~ディストピアみたいな? 世界観が面白くて、こういうのがSFのベースなんだなあと思う。
 で、これ、2020年くらいの時代設定みたいなんだよねえ。ベイリの妻との出会いが2002年で、それから結婚18年目、ってことなので。今じゃーん。そうかそうだよなあ。2000年代ってすごく未来って感じだったものなあ。でももう違うんだよなあ。

 結局、宇宙へもう一度新天地を求めていくべきだ、という方向へ社会を向けようって感じで、そのためにベイリは観察されていたとか。殺人事件そのものは、計画的なものではなく、警視総監がつい、はずみで、って感じ。懐古趣味が悪、悪というか、引き籠りになってくのはダメってことですね。過去を懐かしんでも駄目だ、という未来志向。
 
 続編があるようなので、読んでみるか。ベイリとダニールが仲良くなってよかったね、という続きかなあ。どうなってるんだろう。楽しみ。

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『傷だらけのカミーユ』(ピエール・ルメートル/文春文庫)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『傷だらけのカミーユ』(ピエール・ルメートル/文春文庫)


 カミーユ・ヴェルーヴェン警部、三部作の完結編、だそうで。そうか完結ってことなのか。この文庫、2016年刊行。

 カミーユに恋人が出来ている。アンヌ。イレーヌを失って5年。偶然の出会いから、かりそめの関係、として、アンヌと親しさを深めているカミーユ。そのアンヌが、宝石強盗犯に出くわし、巻き込まれて酷い怪我を負った。
 カミーユは、アンヌとの関係を知られてないままに、事件を自分で解決しようと奔走する。犯人は執拗にアンヌを狙っている。アンヌは単なる目撃者というだけではないのか。犯人の本当の狙いは。

 って、また、タイトルからしてカミーユが辛い目に合うんだなとしか思えないし辛い。アンヌがもしかしてまた殺される? そんなの酷過ぎるヤメテ、って思いながらドキドキと読み進めた。
 アンヌが襲われた時から、一日目、二日目、三日目という三部構成。
 これもまた、徐々に、単なる強盗ではなく。アンヌはただカミーユの恋人というだけではなく。「おれ」という犯人の一人称視点が混ざり。背後には一体何が?? と思って読んでいく。

 カミーユが余にも暴走してる。自分でなんとかしなくては、って、上司にも仲間にも嘘をついて自分の事件として抱え込む。イレーヌのことがあるから、と思って読むけど、それにしても。アンヌも狙われているというのに行動が無謀すぎるのでは。
 ってことで、実はアンヌとの関係は仕組まれたもので、事件の糸を引いていたのはマレヴァルだった。
 マレヴァル。一作目の時、新聞記者であり連続殺人犯である男に内部情報を売り渡し、それが犯人だと知らなかったとはいえ、許されることなく警察をクビになった男。
 
 この話の最初に、アルマンが癌で亡くなって葬儀に出る所だったりして、時が流れ、カミーユのチームで残るはルイばかり、という、切なさになっていたところに、黒幕がそいつなのかよーっと愕然としてしまう。
 
 三部作、とはこういうことか。カミーユの最愛の妻イレーヌ。彼女を亡くし、立ち直ろうとして、またしても裏切りにあい。カミーユは最後には辞表を書かねばな、という所で終わる。カミーユは警部として登場し、そして悲しみのまま警察官であることをやめてしまう……。アンヌも消えてしまった。
 最後にはイレーヌの事件のファイルを燃やしていたから。本当にこれで区切りをつけて、なんとか心の平安のある暮らしをしてくれるといいのに、と、願うけれども。救いではないんじゃないのか。マレヴァルという、イレーヌの事件の最後の関係者を逮捕しけりをつけたとはいえ。辛い……。ルイくんともっとよくお喋りとかして、心の友になればいいのに~。そういうわけにもいかないのか……。カミーユが警察を去ったあとのルイくんもとてつもなく辛いのではないか。ルイくんはスマートで何でもできるから大丈夫な風にちゃんと仕事はしていけるだろうけどさ。

 ルイがマレヴァル逮捕に現れた時の感じ、すごくよかった。マレヴァルもハンサムで女ったらしで、ルイにたかって、でも仲良くやってた、若き日のひと時というものがあったんだよなあ。しかしマレヴァルはどうしようもないクズになり果ててしまったんだよ。最低で、悲しい。ルイは、どんな心情だったのかね。ルイの内心というのは、全然描かれないんだよなあ……。いつもスマートで、いつも完璧に優秀で。切ない。

 シリーズとしてはやっぱり一作目読んだ衝撃が凄すぎたけれども、三部作、一気読みできて幸せだった。
 この前かな、まだ中編があって、それは翻訳が出ていないみたい。でも出る予定、かな?出るよね?? 待つ~。読みたい。


 「ルイだった。懐かしいルイが真っ先に入ってきた。相変わらず完璧な身だしなみ。いったいいつまでミサの侍者をやってんだ?
 「久しぶりだな、ルイ」
 おれは平気なふりをしたかった。堂々と芝居を続けたかった。だがこんなふうにルイが登場したりしたら……。すべての過去が、おれが台無しにしたすべてのものがよみがえり、おれの心を引き裂いた。
 「やあ、ジャン=クロード」そう言ってルイが近づいてきた。
 おれはもう一度ヴェルーヴェンのほうを振り向いたが、すでに立ち去ったあとだった」
 (p371-372)

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『その女アレックス』(ピエール・ルメートル/文春文庫)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『その女アレックス』(ピエール・ルメートル/文春文庫)


 アレックスは魅力的な女性だ。自分でもそのことをわかっている。レストランで食事を楽しみ、思わせぶりな男の視線を交わしてその夜、少し歩いて帰ろうとしていた。そこにあった一台の車。そして、男に誘拐された。

 カミーユ・ヴェルーヴェン警部、二作目。
 日本で翻訳されたのはこっちが先ってことらしい。2014年刊。んでも二作目です。前作で愛する妻イレーヌを失って、カミーユはどうなっちゃったの。と思ってましたが、前の事件から一年ほどは心も壊れたようになっていたようですが、この作品の時点は前の事件から4年くらいすぎたあたり。警察に復帰しているものの、第一級殺人の事件はもう扱えない、という感じになっている。ルイとも離れてるのねー。
 しかし、この誘拐事件の一報が入った時に、他に人がいないんだ、という部長のル・グエンの計らいで、カミーユが担当することになる。

 三部構成。誘拐事件としてアレックスの悲惨な状況があり、警察~~早く~見つけて~~なんとかして~~というハラハラドキドキの緊迫感。でもまあそれだけだったら、他にもありそうな話だけれども、被害者であるアレックスが、単にたまたま攫われたわけではなくて、単に可哀想な被害者ではなくて、実は彼女が恨みを買うような人間だったのかも。彼女もまた連続殺人犯なのかも。ということがわかってくる。
 何故。
 で、アレックスの生い立ちがわかってきて。彼女は兄に性的虐待を受けていた。母も黙認しいてた。そんなこんなの酷い出来事がわかってきて。
 そして、誘拐犯から逃れた彼女の復讐。それを知り、過去を知り、カミーユはアレックスの最後の計略、自分を殺したのは兄だ、という計略にのって、彼をアレックス殺害の罪で逮捕する。

 何が、正義なのか。犯罪の証拠って。葬られた虐待を訴える術を持たなかった子どもだった彼女の復讐をとげさせることは。単純な司法の在り方ではなく。何を、正義として行うか。
 難しい。辛い。もちろん兄は裁かれるべきだと思う。アレックスの、その苦しみ。やり方。どうすればいい?

 カミーユの、復帰になったのはよかったなーと思うし、ケチケチしみったれアルマンがカミーユの母の絵をプレゼントするなんて、というのもすごくよかった。ルイくんは相変わらず有能でハンサム。
 カミーユが怒りっぽくて無茶をしかける、こういう感じがカミーユなのかあと思う。イレーヌ亡き哀しみから、よく復帰したなあ。それでも、忘れたわけではなくて、随所に哀しみはある。
 猫を飼っててよかった。可愛い。ドゥドゥーシュだって。男やもめに猫ちゃん。お似合いです。可愛かった。

 今作でも、一部二部三部と、どんどん凄い展開になっていって、面白かった。辛かった。衝撃でいったらやっぱ一作目読んだのには及ばないまでも、やはりすごく翻弄された気分。面白い。
 んでもこれ先だと、イレーヌのことがそうなんだってなるし、その後、一作目読む時には結末知ってしまうわけで、うーん。まあ。仕方ないか。何はともあれ読んでよかった。

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『悲しみのイレーヌ』(ピエール・ルメートル/文春文庫)

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『悲しみのイレーヌ』(ピエール・ルメートル/文春文庫)


 なんだか評判よくて名前は見たことあるって思うルメートル。初読み。この作品がデビュー作で、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズって3作出てるみたい。でも翻訳では『その女アレックス』というのが先に出たみたい。んん? ともあれ、まずはこれを読んでみようかなと、手に取りました。


 カミーユ・ヴェルーヴァン警部。パリ警視庁にオフィス、自分のチームを持つ警部。40代なのかな。愛する妻、イレーヌは妊娠中。
 ある朝、ルイという部下から電話が入る。優秀な部下。だがその彼がこんなのは見たことがない、と、いう残酷な事件が起きる。若い女性二人が殺され、死体はバラバラ、血みどろの現場には不可解なことばかりだった。

 そんなこんなで、事件は連続猟奇殺人だとわかり、警察が捜査を進め。という王道なミステリ。
 カミーユは、母が画家、その母の妊娠中の煙草の不摂生の影響で、身長が145センチほどしかない、ちょっと特徴的な外見ながら、優秀な成果をあげてチームを指揮している。
 ルイは、由緒ある資産家の出で、ブロンドでエレガントでスリムでデリケート。自分の産まれに甘んじるよりは「つらい仕事」をするべきなのではとある時思い立って警官になった、というキャラ。驕らず、忍耐強く、優秀。カミーユの部下の中で一番に信頼されている。
 これは惚れる~。こんなハンサムキャラがいるとは。ってことで、ルイくんに注目~なんて甘い気分で読み始めたのだけれども。

 タイトルが『悲しみのイレーヌ』なわけで。カミーユ警部の妻が、愛する妻が、イレーヌで。妊娠している。と、くると、もう序盤からこれは、悲しいことになるってことは……と思いつつ読むことになるわけで。このタイトルでいいのかよ……。辛かった……。まあ、イレーヌとの結婚をいかに大事に思ってるかとか、イレーヌがどんなに美しく素晴らしい女性かとか、描写される旅に、でもでも彼女はどうなってしまうのか……と怯える。そして、終盤には怒涛の勢いで、イレーヌが犯人に攫われ、となって。ああああ……。

 そして、第一部、第二部という構成なんだけど、やたら第一部の方が長いんだなあと思ってると、実は、この第一部って、犯人が書いた手記というか小説で、過去のミステリ作になぞられて殺人事件を起こし、それはでも実は自分の小説として描き出す事件で、そして最後に自分の小説になぞらえてイレーヌを殺す、という、そういう仕掛けだったのかと、わかる。

 あんまりじゃないか。と、茫然とした。
 イレーヌがやっぱりそんな目に、という残酷さと、今まで私が読んできたものは何だったんだ、という手酷い裏切り。愚弄された気分。これまでのカミーユや、部下たちや、事件、人物描写、それって犯人の、ゲスい新聞記者の、小説を、今まで私は読んできたのかよ。
 じゃあ本当のカミーユは? 本当のルイは? いや、本当って。何が。何が。何が。
 そんなこんなのショックがたまんなかった。こんな風に騙されるなんて。めちゃめちゃ面白かった……。凄い。

 で、これ、シリーズってことで。この、こんな、事件のあとに、カミーユはどうなってんだよ。どう描かれていくんだろう、この次には??? ってすっごい気になる。読みたい。すぐ読みたい。
 でもこれ、本国では2006年刊、そして次作は2011年に出てるみたい。5年も間があいてたのかあ。まあでも、これここで終りってことでもいいというか、すごいこの、突き放された感が物凄くたまらないわけで、これ読んだあと5年後に、続きというか、シリーズとなって出た衝撃みたいなのも思って、いやあ。面白かっただろうなあ。今、その気になれば一気読み出来るっていうしあわせもあるけれど。

 この文庫は2015年刊行。二作目の方が先に翻訳出たんだね。そしてすごく面白いって賞というかベストにやたら選ばれてたのは知ってる。読むの楽しみ。どーなってるんだろうカミーユ警部……。


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『人魚と十六夜の魔法』(白鷺あおい/創元推理文庫)

 8月はいろいろなことが色々とあり過ぎて日記もすっかりご無沙汰してるな。
一応一段落はして、合間に映画も見てて、感想メモもおいおい書くとして。まずは先日読み終えたこれメモっておく。


*ネタバレ、結末まで触れています。


『人魚と十六夜の魔法』(白鷺あおい/創元推理文庫)


 ぬばたまおろち、しらたまおろち の第二作目ですね。待ってました~。8月の色々を乗り越えたら読もうとお楽しみにしてた。

 ディア―ヌ学院の春。新入生が入学してくる春で始まる。中等部、高等部がある学院。中学一年生の桜子たちに、高等部一年である綾乃たちがオリエンテーションをする所から始まる。
今回、視点が、綾乃だけではなく、その中学一年生たち、景山桜子たちと、前回から引き続き主役ってことかな、「わたし」である綾乃と、変わりながら話が進んでいく。

 登場人物も増えるし話の筋もあちこちいくし、ロシアからの転校生がやってくるしで、すごくたくさんたくさん盛り沢山の要素がもりもりなのに、すいすい読めて凄い。章変わりにお花❁と蛇🐍にょろ~なマークが入ってて、それで区別もつけられる。けど普通に読んでても読みやすいです。楽しい。

 今回はすっかり基本的に学園もの、という感じ。で、日常系ミステリで、妖魅、ファンタジーで、民族学的なこともあり、ロシアや吸血鬼なんて遠い国の妖魅も登場、人魚は小川未明の「赤い蝋燭と人魚」で、でもその解釈を巡ってのあれこれ考察とか、んで、ちょっとほんのり恋とか嫉妬とか、ええと、今こうして書き出していても、そんなに要素いっぱいでいいのかって感じだ。けれども、ちゃんと出来上がりは美味しくいただける一皿でございますという、ほんと、作者の力技なのか。。。面白いです。面白かったです。

 妖魅についての解釈が、ちゃんと今現代の、綾乃とかの目を通じて語られるので、とっても今の普通にわかる感覚としてはこういう解釈かも、という感じが面白い。
 アロウと雪之丞も単に一つになったわけではなく、二重人格的な感じなのかな? その辺とかまた続きが出て読ませて欲しいし~。成長していくにつれて、自分の中の自分に嫉妬とかすっごいややこしそうで気になる。いつまでもプラトニックではいられないのでは、とか、あ~これはよしこまな人間であるワタシが腐ってるせいですごめんなさい。

 ロシアからの転校生を追って、吸血鬼が、とかで、対決というか戦いもあって、それも上手くて面白かった。でも個人的好みだけど、アクションシーンが!もっと欲しい!なんかクライマックスな戦いの肝心な決着の所で光に包まれて場面転換みたいな、低予算映画で本格アクションはCG厳しいのでいい感じにフェイドアウトしました、みたいな肩透かしをくらった気分。
 でもまーこれは私が戦いとか好きだから、そこは殺せ、とか思ってしまうから、な。このお話としては、ここでより優しいというか、まあほんとは優しいわけじゃなくて、生き続けていくのそーとー辛い厳しいことになるよなとは思いつつ、まあ、一応は、生きていく、という道になるというのはわかる。
 そこで殺せよ、っていうのは一時のカタルシスかなあ。ともあれ学園もので彼女らは未成年で、って思うとこっちになって、でも厳しくて、というのもわかる。
 しかしそこ、ハリポタなら対決して死だろ~と思う、と、ハリポタの容赦ない加減もなかなか凄く思える。まあ帯で煽られるけど作品としては全然テイストは違うと思う。

 まだ続くかなあ。続いて欲しいなあ。綾乃がちゃんと成長して学院を出ていく、雪と、という感じで卒業まで描いて欲しいなあ。
 まだ今の所、学院の中の彼女たち生徒たちは勿論子どもで、子どもだからこその、あーもーそこは、自分らが、自分が、一人で勝手になんとかしたいとかじゃなくて、とツッコミたいこと山盛りで、あ~10代の子たちときたら、という感じでそのハラハラがドキドキです。成長していく姿が見たいかなあ。

 ともあれお楽しみを読み終わってしまった。8月が終わる。長い8月だった。暑過ぎる夏がまだ続くかなあ。秋が待ち遠しい。


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『サイモンvs人類平等化計画』(ベッキー・アルバータリ/岩波書店)

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『サイモンvs人類平等化計画』(ベッキー・アルバータリ/岩波書店)


 サイモンはごく普通の高校生。16歳だっけ、17かな。友達のニック、リアとつるんでる。アビーという転校生とも仲良くなってる4人グループ。他にもランチの時同じテーブルになる仲間もいる。
 ある日とんでもないヘマをやらかしてしまった。図書館のパソコンでメールチェックしたあと、ログアウトしてなかったのだ。マーティンはそのメールを見てしまったという。それはお互い匿名でやりとりしてる、ブルーとのメール。ブルーに恋し始めているサイモン。サイモンとブルーはゲイという秘密を共有しているのが、マーティンにバレた。そして、アビーと仲良くなりたいから協力してくれないか、と。それって脅迫されてるんだよな? サイモンは仕方なくマーティンをアビーたちとの遊びに誘うようになる。

 2017年刊。
 これ、映画になってて、その映画「Love, Simon」が今年アメリカ公開になってて、とても評判よさそう。すごく見たい。と思ってた所、この原作がちゃんと翻訳されていることを知って読んでみた。
 
 タイトルの「人類平等化計画」というのは、サイモンが、なんでゲイばっかカミングアウトするかどうか悩まなきゃいけないわけ? 異性愛の人もみんな、自分のセクシャリティ平等に宣言するとかならいいのにね、みたいに言ってた感じ。そうだよな~。ゲイだ、と自覚して、それから、カミングアウトするかどうか、って、またもう一段悩まなくちゃいけないの、たいへん。カミングアウトするかどうかって悩みなくなるといいのに。

 で。これ、も~~~~すっごい!胸きゅん青春物語!
 友達グループが、恋をする年齢になってきてちょっとバランス壊れそうとか、新たな人間関係とか、学校という場とか。
 家族。友達。恋。そんなこんなの青春はそこにゲイであることの悩みが+されてもやっぱ普遍的なんだなあと思う。それでも、やはり今、2017年だとかだからこその描かれ方で、ずっとサイモンのモノローグなんだけど、その喋るような口調の感じとか、タンブラーとかテキストのやりとりとか、ハリーポッターは全員必修みたいな感じとか、ゲイであることそのものは別に珍しくもないけど、でもやっぱ実際カミングアウトってなるとそれぞれ個人としては大問題なわけで、とか。すごく今なんだなあと思う。
 そして今、であってもやっぱり、ゲイ差別というか、からかうバカはいるし、そう、やんわりとした脅迫に使っちゃうマーティンとかなー。ゲイだからっていうか、恋愛ネタって感じくらいに思ってたのかマーティン、って感じだけど、でもやっぱり、勿論まだ完全にフラットなわけにはいかないんだよなあ。

 カミングアウトをするか、しないか。それは極めて個人的な問題で、マーティンがしたことは絶対に酷い悪い最悪なこと。学校裏掲示板的、なんだろうね、タンブラーへ勝手な暴露書き込みして。妹がそれを見て教えてくれるとか、そのせいで、サイモンは家族や友達にもう自分から言うしかないってことに追い込まれる。マーティンがしたことを勿論許せない。でもマーティンにも極悪人ってことじゃなくてやっぱ若くて自分の恋の問題でヤケにもなって、兄がゲイだってことで家族の中でもまあたぶんいろいろあって、な、なんだかんだの面白くないムカつく秘密バラしちゃえ、っていう、その、その、そうしちゃった感じっていうのはわかるんだよなあ。でもそんなの、わかるよって許せることじゃない。
 幸い、サイモンはラブラブを手に入れて両親や兄弟や友達には恵まれてて。いつか、遠いいつかにはマーティンを許せるのかもしれない。

 カミングアウトを受けた両親というものの描写も、なるほど今ってこういう感じ、か。こういう感じが理想というか、望ましいというか、こういう感じならあり、ってことかなあと思いながら読んだ。
 サイモンの家族はかなり仲良し。両親も姉、妹とも。家族だけでのくだらない遊びに一緒に夢中になったりする。でも姉は大学生で家を出てる。両親は子どもたちの成長を喜び見守り、親しみやすい良い親であろうとしている。カミングアウト前には、父親はゲイ絡みでジョークを言ったりしてて。それは悪気ないつもりのもので、サイモンも殊更ひどくそれで傷ついてるわけではないけれども、カミングアウト受けて、父は、悪かったって謝罪する。
物凄く完璧な幸せな家庭というわけではないにせよ、ごくありきたりに、こういうおうち、こういう家族、こういう子どもたち、いそうな感じがするなあという世界なんだよね。
 そういう、ドラマとしては平凡なような、普通っぽさ、の中で、でもとても丁寧に、真摯に、よりよくあるといいなと思える理想が描かれていると思った。

 ブルーとのメールのやりとりの中で、サイモンがどんどんブルーに夢中になって恋しちゃって、もしかしてブルーはカルなんじゃないかなとかドキドキしていくのにつれて読んでるこっちもすっごいドキドキが高まっていく。ああ~~恋~~。恋だねえ。いいねえ。
 ブルーが誰なのか、というのはかなり引っ張られる。私はわかんなかったなあ。ランチ友達でサッカーやってるブラムくんね。途中では全然ひっかからないキャラだったよ。そういう、ブルーは誰か、というちょっとミステリ要素っていう雰囲気も楽しかった。
 そして、無事お互い顔を合わせて。キスをして。ってゆ~~~~おしまいのほうの~~~胸きゅんときめき~~~すっごく可愛くてよかった。幸せになってくれ。10代バカップル誕生素晴らしいよ。
 
 ヤングアダルト分類なので、実際10代の子がこういう本を読んでときめいたり考えたりできるといいよねえ。映画も見たいなあ。日本にも来ないかなあ。見せてくれ~。
 アメリカの高校生たちってこんななのか? というのを読むのも楽しかった。基本的にはコメディというか、サイモンはあんまり悲観的じゃなくて、ちゃんと楽しむしちゃんといい子だし適度にダメっぽかったりもして。すごく好きになれた。いいもの読みました。

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『泥濘』(黒川博行/文藝春秋)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『泥濘』(黒川博行/文藝春秋)


疫病神シリーズ、第7弾、らしい。「ぬかるみ」ね。
たぶん全部読んできてる。けどまあこのシリーズは大体一応の決着はつくので大丈夫と思う。

 建築コンサルタントの二宮企画で、だがほとんど仕事もなくオカメインコのマキちゃんとぼんやりしている二宮の所へ、桑原がやってきた。以前、二宮がサバキを頼んだことがある伝手で、白姚会に案内を頼むという。
 歯医者の診療報酬詐欺、不正受給の新聞記事。老人ホーム。桑原がシノギのネタを嗅ぎつけた所に二宮はまた巻き込まれていく。関わりがあるのはヤクザだけじゃない、警察OBやオレオレ詐欺等、事態はどんどん泥沼に。

 てことで、最初はただ紹介する案内するだけだった白姚会と、桑原はいきなりガツンとやり合い始め二宮くんはとばっちりで怪我、ふらふら。それでも成り行き上、桑原のあがりの一割をもらう、と、とことん付き合う羽目に。
 ってもー、またもう、だから桑原と付き合うのはやめておけと、みんなに散々言われてるのにやっぱりついていっちゃう。桑原さんも、嶋田さんまで担ぎ出して手打ちにするはずが、どんどんイケイケでしつこい。こんとこのコンビの腐れ縁の突っ走りっぷり最高!
 二宮くんと桑原さんさあ、すごい嫌い嫌い言いながら大好きなんだろ、という、この、これ、この感じはどこまで作者の思惑なのかどうか、わかんない。すごいよなあ。キャラの魅力が完全に出来上がってて、この二人の掛け合いってもう作者もなんも考えなくても二人が勝手に喋り出す、みたいな所なんじゃないのかなあ。ほんと二人見てると飽きない。二人だけじゃなくてレギュラーキャラたちもね。中川とか嶋田さんとかユキとかももうそれぞれキャラが勝手に喋ってるんじゃないかって思う。
 あちこち美味しいもの食べに行くのも相変わらずで。これホントにあるお店たちなんだろうか。グルメ案内~。こんなにあちこちでガンガンぶつかって怪我もしまくりなのによく食べるしどんどん動く。すごい面白い。

 表紙ひらいた内側の所に、桑原が心肺停止、ってな文字があっていきなりびっくりしながら読んだ。もしかしてほんとに? シリーズ終りにしようとしてる?? とドキドキしながら読みました。実施桑原さんがどんどん行くので、これ、殺されるやろ……と思うには十分。終りのほうで跳ねっ帰りに勢いで撃たれてしまった。
 危ないところだったけれどもなんとか、一命はとりとめたようでよかった。二宮くんとはまたしばらく会わないみたいだけれども。シリーズは続くのか、どうなるんだろう。
 
 桑原に付き合って、金の収支損得勘定しまくってる二宮くん。なんだかんだボロボロになっちゃうのに呼ばれてついていっちゃう二宮くん。カタギだけれどもヤクザにどうにも惚れちゃってる二宮くん。この、自分はまともなつもりなのに破滅的な感じが桑原さんと相性ええんやろなあ。すごいそそる。二宮くんに最低最悪大嫌い疫病神扱いの、あとは行動と会話のみの、文字の中だけの人物なのに桑原さんにめっちゃめちゃ凄まじい色気感じる。

 この話どこまで広がるんや。桑原さんどこまでいくんやー。と思ってたけどさすがで、これも一応話は一段落ついた。広げた風呂敷強引にでも畳んで見せるのほんと上手い。さすがベテラン。面白かった。桑原さん元気になってね。また続き出るといいなあ。

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『僕が殺した人と僕を殺した人』(東山彰良/文藝春秋)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『僕が殺した人と僕を殺した人』(東山彰良/文藝春秋)


 2017年刊。

 1984年。わたしたちは13歳だった。
 過去と、今、2015年ふたつの時間。台湾での少年時代と、少年を7人殺した連続殺人事件。
 犯人は。あの頃は。今、わたしは。

 ツイッターで、これは素晴らしいメリバBL小説!という紹介ツイートが流れてきて、記事はバレがこわくて読まなかったけれども、なんだか興味をとってもそそられる~と思って読んでみました。東山彰良、初めて読む。

 サックマン、と呼ばれる、少年を狙った連続殺人犯の、8番目の犠牲者になりかけたデューイ・コナーはたまたま近くにいた警官に助けられ、犯人は捕まるとあっさり犯行を自白した。2015年。
 1984年。兄が事故というか事件で亡くなってしまい、精神のバランスが壊れてしまった母を、父はしばらくアメリカへ連れて行ってみることにした。ユンは、近所のアホンさんのうちへ預けられることになった。アホンさんの牛麺屋をよく手伝いにいっていた。その家のアガンとは友達。その頃、ご近所づきあいとはそういう、みんなが助け合う大きな家族のようなものだった。

 少年時代の主人公はユン。というか、全体通して主に、ユンの物語かなあ。少年時代の、友達。仲間。喧嘩して競い合って、バカげた遊びに熱中して、大人に叱られる悪い事もして。親がいなくなり、不安で、でもアガンやジェイとつるんで最高の夏休みを過ごした時間。

 途中まで、少年殺害の犯人はジェイだろうと思わされる。それが違った、とわかった瞬間の鮮やかにああ騙されていた、という快感凄かった。
 人形劇を子どもを誘う手口の一つとして使っていたり、二人きりでビデオを見ていた時、唐突にユンにキスをしたりするジェイ。少年愛というか同性愛の傾向? というミスリード。それが、実は犯人はユンの方で、国際弁護士となっているジェイが、アガンに頼まれたこともあってユンのもとを訪ね、弁護してやろうとする。
 かつて、ジェイを殴る義父を3人で殺そうという計画をたてた仲間だった。毒蛇を使って、事故にみせかけて。だが、思いがけず毒蛇はアガンの父、ホアンを死なせてしまう。計画は狂い、3人の仲も壊れる。

 その時、その頃、何があったのか。現在の時間から振り返るように小出しにいろんな展開がにおわされて、そして過去を読む。すごくひきが上手くて面白くて、一気読みしてしまった。少年たちよ……。
 まだ子ども扱いされる。けれどもう子供ではない。大人の支配下にいなくてはならないことにどうしようもなく怒り渦巻き、なんとかしようとする考えはあまりにも視野が狭く愚かだ。でも、大事な友達のため。大事な自分たちのため。計画は現実へとうつされる。
 ユンは、だが、仲間割れの報いで酷い怪我を負って二年、意識不明の状態だったようだ。

 大人になったジェイは、弁護士となり、パートナーも得ている。同性愛者であることの苦悩は乗り越えて、よきパートナーを得て、そう、今、時代としても、同性愛者であることは、まだ勿論平等ってわけではないが、30年前に比べればずっとマシになっている。何よりジェイはもう大人になっている。

 ユンは。
 意識不明で寝たきりになった2年のせいなのか。激しい損傷で脳のダメージが暴力的な方向へ振れ切ったのか。ユンが何故その犯行に踏み切ったのかは、本当にはわからない。
 ジェイに憧れていたらしいユン。ジェイとの不意のキスが嫌だったのかそうではなかったのか。あの頃、の自分たちである、12歳13歳あたりの少年たちを攫って殺す。それは、あの頃の何か、あの頃の自分、あの頃の世界を取り戻したかったのか。あの頃、で、時間が止まったまま、なのか。ユンが漫画を描こうとしていた、ヒーローたち、悪役たち。それが全てユンの中の人格として犯行し続けたのか。
 ユンとジェイ。二人が初めてあった少年だったころ。始まりを思い出し語り直す物語。


 メリバ、の意味が私、ちゃんとわかっているわけではないのです。メリーバッドエンド。末永く幸せに暮らしましためでたしめでたし、という風なハッピーエンドではなくて不幸な、悲しいエンディングだけれども、その二人にとっては幸せだから、メリー、というか、世界に二人だけの二人にとっては幸せみたいなエンディング、って感じかなあ、と、思ってる。
 ユンは少年を殺し続けた最悪の人間だ。
 でも、ジェイと、ユンと、アガンと。少年のころ、確かに仲間だったことを、この物語は描く。もしもユンが怪我をすることなく普通に成長して大人になっていれば。もしもジェイの義父殺害計画がただの空想の計画のままだったら。もしも不慮の事故でアガンの父が亡くなったりしなければ。同性愛者であることがあれほどの嫌悪や憎悪の対象でなかったら。もしも。もしも。もしも。もうどうしようもないもしもの話をいくら思っても仕方ない。
 ユンは死刑にならなくてはならない。
 ジェイには今は理解ある大事なパートナーがいる。
 もしも。
 ユンとジェイが互いの初恋を初恋として育てられていたら。
 ありえなかった世界。でも、最後に二人はたっぷり語り合ったのだろう。その、物語。

 子ども時代と、最悪の現在と。何より子ども時代のやるせなさ切なさ、でも貧しくて不安だけど最高に眩しい夏休みの事と。とてもとてもよかった。『スタンド・バイ・ミー』的な世界であり。もっともっと物狂おしい世界であり。
すごく面白かった。よかった。読んでよかった。よかったです。


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