『混沌の叫び3 人という怪物』上(パトリック・ネス/東京創元社)

*ネタバレ注意


『混沌の叫び3 人という怪物』上(パトリック・ネス/東京創元社)


三部作、最終。まずは上巻。

スパクルの大軍が攻めてきた。プレンティスを捕らえていたものの、突然の事態
にどうしていいのかわからず、「戦争」を経験し、勝った男であるプレンティスに
指揮を任せるしかなかった。

自軍を操りスパクルをなんとか食い止めようとする人。戦争の混乱、惨劇に
愕然となるトッド。馬のアングラハットはすっかり怯えてしまう。
トッドの側、ヴァイオラの側からも描かれていて、スパクルの側からも描かれて
いて、なんにせよどこも地獄だよ。辛い。
偵察機のブラッドリーとシモーヌは、ヴァイオラの味方だけれども、この星の
争いに巻き込まれるわけにはいかない、と、中立でいようとする。

この世界で秘密兵器のように登場したのは大砲で、プレンティス首長が密かに
作らせていたようなんだけども、最初こそスパクルたちを蹴散らすことができた
ものの、スパクルたちがゲリラ戦に出てくるとどうしようもなく。

偵察機が持つ武器、ミサイルとかがこの世界では最強かなあ。
中立でいようとしたものの、トッドの危機の瞬間、ヴァイオラは武器を使って
しまう。
結局、こういう辛い目にあうのがヴァイオラなのがなあ。アーロンを殺したのも
彼女の方だったし。人を殺せないことこそがトッドの特別さ、汚れなき強さ、
みたいになってて、まあ、それはそれで、うーん。いいんだけど。マンチーを
見殺しにしてしまったり、偶然出会ったスパクルを結果的に殺してしまったけれど
人は殺してない、というスペシャルさ。でもヴァイオラにはそうさせてるんだよ
ねえ。辛い。
この世界の特別さではあるんだけど、女と男の対立で、まあわりとどっちも
どっちに酷いんだけれども。トッドが救世主になるのかなあ。ヴァイオラという
運命の女神を得て、って感じになるのかなあ。どーなんだろう。

上巻では、アスク部隊、ミストレル・コイルとプレンティスがスパクルに
対抗すべく一旦手を組もう、という風に少し落ち着く。
スパクルによって水を断たれてどうしようもなく。

しかしスパクルの情報源として、死んだと思われていたベンが、トッドの父
がわりだったベンが、スパクルに助けられていた、と。あんま意識ないみたい
だけれども。今後トッドへの取引材料になるのか、スパクルのリターンの怒り
恨みのとばっちりで殺されちゃうのか。ああ~。
と、すごく気になるところで続く。
下巻は帰省後じゃないと無理だ。早く読みたい。どーなるんだ。どう決着する
んだろう。あまりに状況は過酷じゃないか。
ヴァイオラの感染症からの病も重くなるばかりだし。
トッドはプレンティスにだんだん感化されてくし。人を操る能力まで持ちつつ
ある。ヴァイオラといつまでもほんとに心通じ合うことができるの?
思春期ならではっつーか、恋心、エロさの芽生えみたいなのもくすぐったいし、
トッド~お前しっかりしろよ~~と言いたくなる。うーん。

ここで行われていることはかつてプレンティスタウンであったことの反復なのか
どうか。こんな風に男女の対立から一方を皆殺しみたいなことになったのか、
違うのか。母の日記を読める時は、きっと終わるまでにはあると思うけど、
日記に真実が書かれているのかどーなのか。
プレンティス首長が、トッドをかなり本気で可愛がってるのも気になる所だし。
個人的にはプレンティスに思い入れ持って読んじゃうからな~。どうなるんだろう。
楽しみ。


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『混沌の叫び2 問う者、答える者』上下(パトリック・ネス/東京創元社)

*ネタバレ、結末まで触れています。

『混沌の叫び2 問う者、答える者』上下(パトリック・ネス/東京創元社)


三部作の二作目。

ヘイヴンを支配し始めるプレンティス首長。
傷を負ったヴァイオラと引き離されたトッドは首長の元で与えられた仕事につく
しかなかった。
ヴァイオラは治療院で回復したものの、やはり自由はなく、トッドに会えない
日々が続く。
一見平和的に新たな統治者となろうとしているプレンティス。だが、男と女を
引き離し、女たちは自由を奪われたことに抵抗しようとしていた。


一部の終りでどうなるんだーっと思った所で、今度は二人が引き離された中で、
互いを本当に信じあえるか、という試練になるのねえ。
プレンティス首長が一見穏やかで、でもがっつり抑圧的で酷い。

ヘイヴンはニュー・プレンティスタウンと名前を変えられる。ここにはノイズを
抑制?除去?できる薬が開発されてあったんだけど、その薬を取り上げて管理
することで男たちへの支配を強め、そもそも薬関係ない女たちは隔離していって。
スパクルが奴隷として、でもまあそこそこ友好的に?奴隷として町にいたよう
なんだけど、スパクルも隔離して酷い環境で肉体労働させたりして。
その管理をトッドと、首長の息子であるデイヴィとにやらせて。
いろいろと試すんだよなー。
出来の悪い息子より、トッドのほうに素質があるとみて、首長はトッドを自分に
取り込もうとする。

二部ではヴァイオラは離れてるので、トッドの一人称だけじゃなくてヴァイオラ
視点の話も交互に描かれる。
酷い目に合わされている女たちの中、ヴァイオラは、なんとか入植を待っている
はずの宇宙船へ通信を送りたい。トッドに会いたい。

女たちはテロを起こして、プレンティス首長たちの軍隊へダメージを与え、
囚われている女たちを救い、街を自分たちで取り戻そうとする。

この、平和的にただただしたがってなんとかやり過ごしたい、という住民たちと、
そんな支配下の平和は平和じゃない、って自由を求めてテロを繰り返すアスク隊と。
何が正義か。何が正解か、ものすごい、わからない。

トッドとヴァイオラも、離れて別の立場に身を置いて。互いを信じるのか、
信じていいのか、何故、って苦しむことになる。
過酷。。。

スパクルの大量虐殺でトッドは心閉ざしてしまうんだけれども、でもこれは
多分首長の仕業、なん、だよな?? ちょっと私はっきりしない。
ヴァイオラをも利用するアスク隊のやり方はキツイなと思うけど、かといって
首長のいいなりになってていいわけないし。

物凄く大変だったけどヘイヴンという希望目指してトッドとヴァイオラ、二人で
逃げてくだけだった一部がまだ平和だったな、って思っちゃう。政治というか
支配と自由というか、なんかもう、ほんと、正解が単純に出る話じゃない。
でもとにかく、トッドとヴァイオラは二人で戦うぞ、プレンティス首長とも
アスク隊とも妥協しない、って感じか。

空から入植者がくる、というタイムリミットみたいなのがありながらの緊迫感も
あって、二部はぐっと面白く読んだ。
で、ついに首長を追いつめた、って所で新たな脅威がやってくる。
人間とは距離をおいていたはずのスパクルの大軍が攻めてくる。
それに勝てるのはプレンティス首長しかない。って感じで、「戦争だ」
って所で終わる。

ええーっ。どうなるのーっ。と、ここでもひっぱられて、三部をすぐに読まねば、
ってなるよねー。

プレンティス首長の出番がいっぱいで、すごい悪の魅力って感じでいい~。
ノイズを武器のように操れる、とか、外連味もたっぷり。でも主人公たちには
負けるか~って所で、いやまだだ、って感じで、三部ではどうなんだろうって
すっごく気になる。
面白い。
三部はまだ順番待ち。

映画化だと、どうなるのかなあ。三部作まとめて一本の映画?一部だけ??
でもそれだけだとちょっとつまんなくないかなあ?ノイズとかどうするんだろう。
映画出来たらぜひ見たい。


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『混沌の叫び1 心のナイフ』上下(パトリック・ネス/東京創元社)

*ネタバレ、結末まで触れています。

『混沌の叫び1 心のナイフ』上下(パトリック・ネス/東京創元社)


混沌の叫びは3部作だそうで、その1。
映画化されるようで、気になって読んでみることにした。

トッド・ヒューイット。プレンティスタウンに住む少年。もうすぐ大人になる。
大人になるのは13歳。ぼくはこの町の最後の子ども。あと30日で大人になれば
この町に子どもはいなくなる。


SFというか、異世界ものっていうか。ヤングアダルトにあたる小説ですね。
基本的にトッドの一人称。
ニューワールド新世界では一年は13カ月。新天地を求めて植民してきた人々。
でもこの星には先住民スパクルがいて、戦争が起きて、今はスパクルはいない。
この星独特の細菌があって、それに感染して、男たちは心の中、声がノイズと
して隠せなくなり、女たちはみんな死んでしまった。
男だけの世界。
心の声が全部きこえる。
なんか萩尾望都の「マージナル」みたいな感じ? と読む前は思ってたけど違う。

沼地で謎のノイズの穴を知ってしまった時からトッドの運命が変わる。
それまで育ててくれていたベンとキリアンが、今すぐこの町から逃げろ、と言う。
この日がくるのをわかって怖れていたようで、すぐに旅立つ荷物を渡されて、
でも何にも説明してくれないまま、町の人に追われてトッドは犬のマンチーと
一緒に逃げ出す。

謎のノイズの穴というのが、実は女の子だった。女の子の心の声は聞こえない。
見えない。ノイズだらけのこの世界で、無音であるのは女の子だけ。
成り行き上一緒に逃げ始める二人。
世界はプレンティスタウンだけ、女は全員死んだ、と聞かされて育ってきたのに、
別の町がある、プレンティスタウンの外では女が生きている。
出会った女の子はでも、別の入植者の偵察の一員だった、とか。
トッドが町を出ると次々にいろんなことがわかってくる。

人の心の声のノイズだらけの世界、ってことで、普通の本文のページの活字が
いろんな書体になってたり、がーーっとでっかい落書きみたいな文字いっぱいの
ページがあったりして、へーがんばって表現しているなあと感心する。
でもまあとにかく、トッドは何にもわからない中逃げる、女の子も最初は全然
喋ってくれなくて何にもわからなくて。
イライラしたりもどかしかったりで、最初はなかなか読みづらかった。
別の町に到着して、逃げる二人以外の人物が出てくるようになると、ちょっと
面白くなったかなあ。
犬のマンチーも心の声喋れるので、といってもわんちゃんなので単純で可愛くて
でも困ったちゃんだったりもして、あ~マンチーが癒しだわあ。って読んでると、
終盤、引き離された女の子、ヴァイオラを助けに行って、マンチーを見殺しに
せざるをえないことになって。あああああーーーっ、と、愕然。

これはかなり容赦ないんだな、って、ヤングアダルトだからって話じゃないと、
ぐっときた。
でもさあ。マンチー。マンチーにはなんとか助かって欲しかったよぉ。。。

最初は数人に追われてるだけだったのに、いつの間にかトッドたちを追ってくる
のは軍隊、って規模になり。
プレンティスタウンは何故隔絶されているのか。何故女がいないのか。
いろいろと謎がわかりかけると、深刻にキツイ感じになってくる。
プテンティスタウンの歴史。トッドが信じてきていた歴史は嘘なのか。

心の声が聞こえない女とノイズだだ漏れの男との対立。戦争。プレンティスタウン
の女は皆殺しにされた、のか。

トッドは学校教育とかなかったようで、文字が読めない。ベンたちが教えて
くれたこともあったみたいだけど、ちゃんと読めるようにはなるほど学んで
なかった。
トッドの母が残してくれた日記をベンに託されたけれども、自分じゃ読めなくて。
そういうのも切なくて、でも重要なポイントにもなってて。

ヘイヴンという大きな町へ行けば、助かるはずだ、と信じて、トッドとヴァイオラ
は逃げ続ける。ついに辿り着いたヘイヴン。撃たれて重傷を負っているヴァイオラ。
静かに敵に備えているかのように見えた希望の町で、でもトッドたちを迎えた
のは、必死で逃げてきたプレンティスタウンの首長だった。

ええーっ。どうなるのーっ。
って所でおしまい。2部へ続く、っと。

二人で逃げる。最初の最悪の出会いから互いにかけがえのない相手となる。
大人になる直前。ナイフを持っていても人を殺せない少年。偵察機の墜落で
両親を亡くしたけれど、生きる強さを持っている少女。
基本的にはボーイミーツガールで、成長物語であって、でも追い込まれる状況が
思ってたよりずっと過酷で大変だった。大人たちよ、もうちょっと説明して
やってから旅立たせてやってくれ。まあそうはいかなかったんだけれども。

別世界のお話とはいえ、植民地時代って感じで差別や偏見の物語なのは現実世界
を引き写してる所多々って感じですかっと楽しいわけじゃないねえ。

最初の読みづらさを乗り越えてからはかなり引き込まれて、すぐに第二部
読み始めました。

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『スパイは楽園に戯れる』(五條瑛/双葉社)

*ネタバレ、結末まで触れています。

『スパイは楽園に戯れる』(五條瑛/双葉社)


プロローグ、少年の日。父と母に連れられて港へ来ていた。わけはわからないが
特別に学校も休んで、姉や弟とではなく、一人だけ連れられて。
そこで出会った大人の男の人。将来の夢は、と問われる。これといって答えの
ない少年に、男は言った。誰かの役に立つ人になりなさい。誰にでもじゃない、
誰かの役にたつ。国の役に立つ人間ということだ。少年の心にその言葉はずっと
響き続けた。

葉山隆はマカオのカジノでかつて羽振りの良かったヨハンという人物に関する
情報収集にあたっていた。どうやら北の重要人物の息子、らしい。亡命させる
ことができれば、いい情報源になる可能性が、あるかもしれない。
曖昧であまり重要度の高くない情報の確認作業を回される米国の情報部員の下っ端、
である隆は、そんな作業の中から気になることを見つけだす。
そして、まるで無関係なはずの小さな頼み事や人間関係が繋がって、当初思って
いたよりずっと、大きな過去の物語が広がっていた。


雑誌連載時は「パーフェクト・クォーツ」というタイトルだったそうです。
2016年6月刊行。わ~~!!新刊出た!買って眺めてたもの。読み終わるのが
惜しいような気がして。久しぶりにエディとタカシを眺められる~。

ヨハンは、北の後継者、にはならない息子の一人ってことらしく。
モデルの人、でも、この前謎の死を遂げたよねえ。そのうちそんな話も五條さん
書いてくれるだろうか。ドキドキ。

そして湧井というステキな政治家。スパイ防止法を成立させるべく努力している
人気政治家。しかし、彼が実は、本人が意図せぬうちに、スパイのバックアップを
受けて、夢物語の期待をかけられていて。
って、この辺の感じは革命シリーズでもあったな。密かに日本の一般家庭の
養子となった、大陸の血を持つ子ども。
火蛇、サラマンダーって、ええ~と~~革命シリーズにも出てきてたんだっけ。
ちょっと、記憶がない。。。うーん。なんか、あったっけ、って気がしつつ
覚えてないな。
でもサーシャの知り合い的な感じなので、うーん。もう記憶力駄目駄目だ。

そう。サーシャの名前がほんと一瞬出てくすぐられる~~~。
でもこの話は時間軸どーなんだろ。革命シリーズの終わった後のことなのか
どーなのか、ん~~。わかんないけど。

日本の現状とか、なんかこううっすらとこわい感じになっていて、そういう背景
を感じながら、こういう小説を読むリアルタイムな感じ贅沢だ。でも、こんな
楽しんで読んじゃっていいのか、って、すごく考えてしまうことにもなって、
結構辛い。

革命シリーズの方では、自分たちのルーツを知ったかつての子どもたちは
革命に向かって動いたけれども、湧井は自殺という道を選んでしまった。
スパイとは。
大陸をもし断ち切ったとしても、米国のほうも手を伸ばそうとしていたし、
それは知らなかったとしても、自分の理想に影がある、あった、これからも
付き纏うことを、断ち切るためには、自分を終りにするしかない、という、
真っ直ぐさが、魅力であり弱さだよなあ。難しい。


今回も、エディに屈折しまくりながら褒めてもらいたいタカシが~も~~っ。
可愛い。しっかり有能。エディ相変わらずかっこいい。楽しい。妄想広がる~。
最高大好き。また読みたいすぐ読みたいもっと読みたいよ~~。
堪能しました。

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『弟の夫』1~4巻(田亀源五郎/双葉社 アクションコミックス)

*ネタバレ、かな?


『弟の夫』1~4巻(田亀源五郎/双葉社 アクションコミックス)

いろいろ評判いいのは見てて気になってて、4巻で完結とのことで、1~4電書
でまとめ買いしてみた。

両親を事故でなくしているヤイチ。双子の弟がいたけれど、弟はアメリカに
渡って10年。その弟が亡くなり、弟と結婚していた「夫」、マイクが日本にきた。
離婚して小学生の娘の夏菜と二人で暮らしている家に、マイクがしばらく滞在
することになる。

ってことで、多分ごく普通の男としてのヤイチが、「弟の夫」とどう接していい
のか、どう認識を改めていくのか、が、とてもとても丁寧に、一つ一つの疑問に
立ち止まり考えていくお話。
最初は、おかしいだろ、変だろ、いや別に差別とかじゃないけどなんか違うだろ、
みたいな所にいたヤイチが、無自覚だった差別意識に気が付いていく。

全体通して、本当に丁寧に描かれていて、どうして、何が、おかしいと思うのか、
それは本当に自分の考えなのか、ただなんとなく世間みたいな曖昧なものの
思い込みなんじゃないのか、無理な押しつけではなく静かに問いかける感じ。

人が出会って一緒にいたくて結婚して家族になっていく。
そこに性別へのこだわりは本当に必要ですか。人と人との関わりに性別という
要素についてことさらに不必要に過剰反応しなくてもいいんじゃないの。

実はゲイかもと思って悩んでる子とか、ずっとカミングアウトはせずに隠してる
人とか、子どもを心配するという中で悪影響とか悪気ないつもりで言っちゃう人
とか。いろいろな要素が描かれながらも、ちゃんとわかりあっていける人達が
いるという、希望と願いの漫画だと思う。

個人的には、夏菜ちゃんとか~別れた元妻とか~、お話に都合いい無邪気なフラット
な存在、疑問を呈する人とか理想の理解者って役割キャラという気がしたけどなあ。
子供らしさの概念って気が。
でもまあ私も実際リアルに子どもを知ってるかというと、まあ知らないし
わかんないんだけどね。

Twitterでの感想リツイとか眺めていると、教科書にして読ませたい
みたいなのもあったと思うけど、ほんと、そう。そういう理想的なところが
あって、でもそれが必要っていう気がするなあ。
無自覚だったり自分のこととは思わなかったり、というのが日本の社会、という、
イメージ。うーん。どうなのかな。あんまり、わかんないけど。。。

田亀源五郎さんの漫画とかわりとがっつりハード目な方、って思ってたけど
たぶんだいぶマイルドにしてるのかな。それでもちゃんとしっかり筋肉~だし
毛ももじゃもじゃもあるよ、ってのが素敵でした^^

LGBTブームみたいなことじゃなくて、こういう静かな丁寧な漫画があって、
たぶん評判も良くて、って、いいなと思う。私もすごく、なんかいろいろ無自覚で
駄目なことが、ほんと気づかずにあるんだろうし気づいていきたいと思った。

好きで一緒にいる、家族になる、ってことを、誰でもが、他人に強制されるとか
禁じられるとか、逆に奨励されるとかではなくて、自由でいられるようになると
いいのにね。


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『楽園の世捨て人』(トーマス・リュダール/ハヤカワポケットミステリ)


*ネタバレ、結末まで触れています。


『楽園の世捨て人』(トーマス・リュダール/ハヤカワポケットミステリ)

(2017年1月刊)

エアハートはタクシー運転手。ピアノ調律師。67歳。デンマーク人だが国から
離れて17年ほど。スペインのカナリア諸島で世捨て人と呼ばれながら暮らして
いる。別れた故郷の妻アネッテに仕送りを続けている。
島で友人といえる人は少ない。ラウールという金持ちの道楽息子とその恋人と
酔っ払い、雷見物に行った時、海辺で発見された車の中に男の子の赤ん坊が
捨てられている騒ぎに遭遇した。
警察はその赤ん坊に関する捜査を早々に切り上げようとしていた。
エアハートは見過ごすことができず、一人、調べ始める。


老人素人探偵の登場、ってことなんだけども、颯爽とって感じはなくて、正直、
なかなか面白く読めなくてすごく時間がかかってしまった。
エアハートがどういう人物なのかなかなかつかめない。
なんでそんなことするの??? って不思議で仕方ない。

エアハートは指を一本なくしてるんだけども、それが何故なのかとかは不明。
でも欠けた指に思う所は深いらしく、事故った車、亡くなった人から指を
貰って帰って自分の指にくっつけてみたりする。もちろんくっつくわけじゃない。
指はやがて腐り干からびる。なんで。何やってんのエアハートじーさん??

恋人が欲しい。って、娘みたいな女と付き合う妄想してたり。
ラウールんちで飲んだくれた後、目が覚めるとラウールがいなくなってて、恋人
ベアトリスも頭殴られて意識不明、ってなってて。それでもベアトリスが
「私を隠して」という声を聴いた、と、思い込み、思い込みなんだろうかなあ、
多分。で、病院に連れて行くのではなくうちでこっそり寝かせておくことに
したり。知り合いの医者に脅しをかけて協力してもらって。

タクシー運転手であり、調律師ってことで島の人間のうちに入り込んだりしてる
うちになんとなく人の弱み、秘密を握ってるんだねー。
別に普通に暮らしている間にはただなんでもなく見過ごしたけど、こう切羽詰まって
じわっと脅したりする。
エアハート自身は、死んだ赤ん坊のためになんとかしなくちゃ、って突き動かされて
いるんだけど、その衝動っつーか情熱というか、なんでそこまでその事に
首突っ込みまくってんだか、なんで??? って不思議だった。
最後まで読んでも、なんでだよ、って思いは残る。。。
なんでそんなに頑張っちゃったんだよエアハート。

素人なりにあれこれ聞きまわって、数少ない友人知人と思ってたちょい悪な
金持ち、エマヌエル・パラブラスがちょい悪どころじゃないのか!ってなったり、
でもでも実はラウールなのかよ!?ってなったり。
その最後も、逃げようとして海へ沈んだ、とか、うーん。
まあ、素人のおじいちゃんが華麗なアクションで追いつめたりできるもんじゃ
ないもんねえ。そういうぜいぜいもう駄目無理ってしんどい感じはリアルで
辛かった。まあそれでもおじいちゃんすごいタフにがんばってたけど。
そしておじいちゃんってか、中年くらいな感じ? 女とやることにもそこそこに
熱心だったりして、枯れた渋み探偵ってわけでもない。


作者は2014年、この作品でデビュー、北欧ミステリの最高峰「ガラスの鍵」を
得た、ってあったけど、そんなにすごい面白いだろうか? というのが私には
わからなかった。。。文化の差なのか私の理解力がダメダメだからか。。。
エアハート何やってんの? なんで?? という面白さでがんばってずっと
読みました。てことはキャラの魅力あるってことなのかなあ。
三部作構想らしくて、2016年に二作目出てるらしい。三部作全部翻訳出るかなあ。
出たとして読むかなあ私。わからない。でも読みたい気もする。わからないな~。
一応読んだぞという満足はあります。

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『暮れてゆくバッハ』(岡井隆/書肆侃侃房)

『暮れてゆくバッハ』(岡井隆/書肆侃侃房)


岡井隆のこれは歌集、だけど詩、散文、水彩画等入ってる文集、かなあ。2015年7月刊。

2014年の秋ごろから2015年の半ばまでの作品。初出は未来が多いけれども、
未発表のものも入っている。
2014年の終り頃、手術をしていて、その体験時の歌、文章がある。簡単な手術
ですよ、と言われるものだったようだけど、実際2週間ほどでほぼ癒えたという
ことらしいけれども、まあ、大変ですよね。亡き弟との対話の文章はすごく、
素敵です。
水彩画と歌はノートからそのままの印刷だそうで。2015年の1月2月頃か。
岡井さんの文字、好きなんだよね~。絵も素敵。こういうの出してみようかなと
いうのは、やっぱり子規さんのこと好きだからという感じなのかなあと想像する。

歌は、もう、日常全て、生きて呼吸するように歌が出来ているんじゃないかと
いう感じなので、なんかこう好きな一首とか私選べない。。。もう丸ごと愛してる
としか言いようがない。丸ごとうつくしい。何言おうとしても私のうすっぺらな
言葉じゃ全然遙かに無理って気がする。好きなんだもん。


とはいえまあ、いくつか引いてみる。


  いやッといふ人は居ないが好きといふ人は夕顔の白さで並ぶ (p9)

ちょっと何のことかはわからない。激しく嫌な人はいない。好きな人は夕顔の
ようだ。ってわけじゃないかなあ。「いふ人」は、言う人、なのか、ん~。
好きという人、というのは好意的な人のように思う。「夕顔の白さ」は美しい
比喩だと思うけれど、白さ、だからなあ。ちょっと幽玄めいてくる。明るく
楽しく見るのではなく、ほのかな闇と淡い白さとして好意的な相手をとらえる
感じかと思って、惹かれた。


  幾つかの袋のどれかに横たはつてゐる筈なのだ可愛い耳して (p12)

これはこの次の歌から察すると多分どうやら妻の携帯を探している場面。先に
この歌を読むので、「可愛い耳」をした何か、小さな生き物が袋に入ってるように
思えて、なんだかわからないけれども可愛いものを探している歌として、とても
可愛い一首と思う。日々の暮らしの中のなんでもないことがこうしてさらっと
可愛い歌になってるのを読むと、ふふって思った瞬間をわけてもらった気がして
ちょっと嬉しい。


  ものの見事に裏切られてはかくし持つ刃を握るとぞ薔薇は陰険 (p44)

これも正直わかんないんだけど、とてもかっこいいと思って付箋した歌。
かっこいい。歌集タイトルにしてる「暮れてゆくバッハ」の中の一首。劇的な
歌に思うけれども。裏切り、刃、薔薇、陰険。ドラマチックな道具立てで
何か昏い思いがあるひとときのことかなあ。


  たつた今わがかたはらにうづくまりゐたる羊が啼いて去りゆく (p80)

  てんてんとてんてんてんと川岸をころがりてゆく思考の兎 (p100)

アクロスティックで作られた別別の一連の中から。羊ちゃんと兎ちゃんだ、
と思って。作者の思考が生き物となって自分から離れていってしまう感じ。
でもそれを平然と眺めている感じがあって、余裕を感じる。
可愛くてかっこいいの。

  あなたの若い写真を見つつ思ふのはたとへばヴィヨンの形見の歌だ (p113)

松本健一さんを悼む歌の一連。悼む思いの流れが歌になっていて伝わってくる。
他にも訃報に接しての歌もあって、作者はこうして多くの仲間を、友を、見送り
続けている。とても切なくなる。しっとり沁みる歌です。

  今年またレモンの花がわれわれの噂をきいて(だらう)笑いた (p151、ルビ「笑ひら」)

われわれというのは、家族、妻と作者かな。レモンの花が咲いた、という春の
訪れがいかにも爽やかで、笑うように咲いていて、でもそこに「噂」という
ちょっと不穏な気配を混ぜている。そういう加減がな~。うまい。こわい。


詞書があるのも多く、それがまた俳句だったりもして、これ全部きちんと読もう
としても私には。。。無理で。。。とへこたれそうなんだけども、まあでも、
別にいっか、とさらさら読んでうっとりして、絵も字も素敵だな~って眺めて、
まあそれでいっか、と思う。
言葉の豊かさうつくしさ、呼吸するようなリズム、調べを感じるだけでいいよね。
歌だけでなくて文章のリズムも素敵で、ほんと憧れる。盛り沢山にいろいろ
入っていて有難い一冊です。


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『念力ろまん』(笹公人/書肆侃侃房)


『念力ろまん』(笹公人/書肆侃侃房)


笹公人四冊目の歌集。2015年5月刊。
笹さんは歌集だけじゃなくていろんな本も出されてるので、あとがきによると
この前に『遊星ハグルマ装置』(朱川湊人共著)にも多数歌を収録してるそうです。

Eテレの「念力家族」すっごい面白かったよねえ。あれ始まったの2年前ってことか。
月日の経つのがはやすぎると感じるお年頃だぜ私。。。

笹さんの短歌は、自分が短歌を読み始めてすぐにファンになったもので、すごく
面白おかしい感じの中にはっとする美しさがあって。抒情というものかと後から
わかった。ぱっと見のとっつきやすさ、サブカル的だったりオカルト的な素材の
親しみと、それが短歌であるという面白さが、いつもいつも、ずーっと凄くて、
ずーっとファンでいさせてくれる歌人だなあと思う。

この歌集は、開いてみてまず、字がでっかい、ってびっくりする^^
一頁一首。大体二行になってる。これはあれだ、トリックの上田教授の『なぜ
ベストを尽くさないのか』を連想^^ いやまあ違いますけど。

この本で、この表紙の絵の怪しいんだかでもなんだかとっても綺麗だし、
ページを開くとインパクトあるし。さすがだなあと思う。念力~~。好き。
大林監督が帯書いてるのもさすがです。


いくつか好きな歌。


  またふられしフーテンの寅に安堵する日本人は童貞贔屓 (p18)

寅さんの映画ももう作れなくなっちゃってそれでも永遠に人気作品なんだろうなあ。
いつものパターンな感じに安堵する、その安堵を「童貞贔屓」って言いきってる。
そうかも~って納得させられるなあ。寅さんて結局地に足のついた大人には
なりきれない存在で、そういう永遠の男子、って感じ、それ永遠に童貞、日本人
好きなんだろうなあと思ってしまう。まあ、漂泊の旅人への憧れってみんなある
と思うけど。外国だと行きて帰りし物語、帰ってきてめでたしめでたしになる、
かなあ。


  9の字に机ならべていたりけり夜の校庭はせいしゅんの底 (p22)

これも、好き。ミステリー現象みたいにちょっと騒がれたこともあったような
気がする、校庭に机を並べていたり。その、夜の校庭でそんなことしちゃう
生徒たちって、でも楽しくて、でも苦しくて、「せいしゅんの底」という感じは
伝わってくるなあ。


  雨ふれば人魚が駄菓子をくれた日を語りてくれしパナマ帽の祖父 (p38)

これは帯にあって、あっかっこいいと私もすごく思った歌。パナマ帽、いい。
雨、人魚という繋がり。駄菓子をくれた思い出、は、法螺話かもしれないし、
人魚に例えた、大人の女性に憧れた幼い日のちょっと艶っぽい出来事かもしれない。
なんにせよ素晴らしい雰囲気のある歌で、さすがかっこいい。
ちょっとだけ思うのは、「語りてくれし」がなんか調べがぎくしゃくする気が
して、いいな好きだなと思うと同時に何度読みかえしてもうーんなんか、ここ、
もうちょっとなんとか。と、思う。けど、改作案が浮かぶでもなく。ん~。


  にんげんのともだちもっと増やしなと妖怪がくれた人間ウォッチ (p68)

流行りもの取り入れて笹さんの歌に仕上げてるの、ほんとさすが。一気に切ない
ほろ苦い気分にさせてくれる。


  本尊なき御堂のごとき淋しさに耐えられるのか四月のアルタ (p81)

これも時事ネタ。30年続いていた笑っていいともが3月で終わったんだよね。
新宿の駅前の、アルタでお昼の生放送。初めてアルタを見た時にはここでやってる
のか~~って眺め見上げたよ。「本尊なき御堂」というのはついに終わるのか
っていう気分を言い得ている感じがする。
これ、いずれ笑っていいともとかタモリが生放送であそこでやってたとか知らない
わからない時がくると思うけど、この歌はどう読まれるだろう。ほろりとくる
淋しさ、という感覚だけは伝わるように、私は思うけど、どうなんだろうなあ。


    さびしんぼう
  ひとがひとを恋うるさびしさ 鍵盤に涙の粒はぽろぽろ落ちて (p94)

映画「さびしんぼう」に寄せて。人がさびしい時、人を恋うているのだ、という
把握が、改めてはっときた一首。


  夕焼けに伸びゆくメトロン星人の影に塗られて言いしさよなら (p123)

夕暮れの別れのシーン。メトロン星人の影がさす異化と、ノスタルジー。
って私はメトロン星人について何も知らないんですが。ウルトラマンに出てくる
宇宙怪人かなみたいな感じ。ぐぐってなるほどとちょっと思うものの、でも、
こういうのがダイレクトじゃなくても伝わってくる感じって、いいなあと思う。


  いつのまにか消えたナメクジ 玄関まで「伯方の塩」を持ってきたのに (p150)
  なめくじのテレポーテーション数えつつこの遊星の冬を耐えおり (p151)

なめくじには塩をかける。わかる~っていうのは世代なんだろうか。どのくらいの
共通認識なんだろう。ともあれ、そこに持ってきた塩が「伯方の塩」っていうのも、
わかる~ってなんか、何がどうわかるのかきちんと言おうと思うとめちゃめちゃ
大変だな。うーん。なんかこう、ちょっといいお塩なんだよね。でも凄くオシャレ
とか凄く高級品てわけじゃなくて、普通にスーパーで売ってるし日常使いしてる
家庭なんだろうと思う。でもなめくじにかけるにはちょっとだけ、ちょっとだけ
躊躇しちゃうかもしれない感じ。もったいない。でも、その塩もってきたのに
ナメクジはいなくなってる。「持ってきたのに」と、あれっと拍子抜けする感じ、
すごい、これも、なんか何がどうわかるとは言いづらいけど、わかるーって思う。
そして次の歌は「なめくじのテレポーテーション」とくるのがすごい。SF世界に
なってしまう。遊星、って普通にこの地球だろうと思うんだけど、ここが、別世界
になる感じが好き。冬だし。冬って、なんか、核の冬とか、こう、荒涼とした
気分になる。面白かった。


  シャンプーの容器の底に黴見えて盲愛に似た夏が終りぬ (p162)

ちょっとぬるっと黴がきてしまうシャンプー容器の底。夏の盲愛ではなくて
盲愛に似た夏、とくるのがいいなって思いました。でも夏も、愛も、過ぎて
しまった直後だと、なんだか嫌なものなのか。美化されるには時間が必要かなあ。

さくっと読んでしまう歌集だけれども、やっぱり浪漫で素敵でした。

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『喧嘩(すてごろ)』(黒川博行/角川書店)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『喧嘩(すてごろ)』(黒川博行/角川書店)


西山という代議士の私設秘書をしているという長原から二宮は相談事を持ち掛け
られた。たまたま再会した同級生つながりだ。西山事務所に火炎瓶が投げ込まれる
という騒ぎがあった。警察沙汰にはしていない。密かに繋がりのある麒林会との
揉め事だという。二宮が普段請け負うサバキとは勝手が違うが、ヤクザと折り合い
つける仕事ではある。ろくな収入のない二宮はともかくも引き受けた。


てことで、またしてもトラブルが手に負えなくなりそうな所で二宮くんは桑原に
話をふる。前作『破門』で、組から破門されている桑原は一応は今はカタギで
それでも強面、イケイケの度胸は全く変わらない。
話が、最初の単純な揉め事の手打ちのための仲介じゃすまない裏があるとわかって
きて、桑原さんがまたぐいぐいどんどんイケイケで、金ふんだくってやるって
なって、また刺されたりもあって、さすが面白いっ。

前作から半年後くらいの時間かな。二宮くんとの付き合いは5年になる、って
ことらしい。作中時間はそんなもんかあ。二宮くんはこの話終りの時点で40の
誕生日を迎えるところ。桑原さんは41歳らしい。
年やから、といいつつ、バリバリぐいぐい、凄い行動力で話も一気に読めて
すごく面白かった。
政治家やら秘書やら、やってることがえげつないっつーか、利権利権、ごり押し
の秘密の金設けまくりで、こわいわ~。まあもちろんこれは小説ですが。

このシリーズは主役側二人も全く正義の味方みたいなことじゃなくて、ヒドイし
桑原はヤクザでなんだかんだ二宮くんもクズでな~。それがさらに汚いとこから
なんとか金を引っ張り出す。読んでると桑原さんかっこいいわ~二宮くん可愛い~
結局なんだかんだ二人で組んでいっしょ設けたろ、ってのが楽しいんだろーっと
面白いけどねえ。こんなん絶対無理な世界だわ。

で、二蝶会は頭の代替わりになるとのことで。桑原さんの復帰となりそうな終り。
疫病神の復活、ってことで、またシリーズ、新作は出るんだろうなあ。
前、破門になった時にはどうなるんだ、って心配したけど。まあ元気そうで
なにより。二宮くんと桑原さんの会話やっぱめっちゃ面白い。どこまで続くのか、
また新作を楽しみにしよう。

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『瀬戸際レモン』(蒼井杏/書肆侃侃房)


『瀬戸際レモン』(蒼井杏/書肆侃侃房)

蒼井杏第一歌集。2016年6月刊。

ですます口調というのか、丁寧語というか、そっと書いて置いたみたいな歌が
多いなあという印象の残った歌集です。
世界に居場所がなくてごめんなさいここはどこですかここにいてもいいですかと
小さくなったりしてるんじゃないかなあという姿を思った。
いいよいいよ、別に大丈夫だよ、と、私が思うのは全く無関係で無神経なこと
なんだけど、大丈夫なんだよとこの歌集の中の子に伝えたくなる。

  わたくしを全消去する はい/いいえ 夢の中までカーソルまみれ (p16)
  なにをしてもおこられるときわたくしは夢の中でもプリンをこぼす (p37)
  目のふちにびっしり鳥のとまる夢わたし行けないあらゆるいけない (p47)
  申し訳ございませんと繰り返す夢を見た日の、はやいなあ、雲 (p54)
  (なんでわたしこんなところにいるんだろ)って夢からはやく覚めたらいいのに (p89)

夢の歌。物凄い悪夢というわけではないけれども、じんわりと窒息しそうで、
夢から覚めたいという願いは、夢の中だけじゃなくて起きてても、で、ちゃんと
時々空も見上げるといいねと思う。

  このひとはもういないのだと思いつつあとがき読めば縦書きは、雨。 (p27)
  あたしもうだめかも なんて かめパンの首・尾・手・足 じゅんばんにもぐ (p34)
  夏草に影を落としてぼうと立つ指切りしたのにね ゆび きり (p41)
  百円のレインコートをもとどおりたためるつもりでいたのでしたよ (p45)
  ほらできない ご自愛だとか じゃがいもがうっすらみどりになってゆきます (p50)

どうしようもなくやるせなくさびしくちょっとうつむいている感じの歌。
かめパン、亀の形のパンですね。その細部をもぎとって、食べる。ちょっとずつ
損なわれ傷つけられもうだめかもしれない「あたし」がかめパンなんだよねえ。


  拝啓のつづきをひねもす考えて潮騒になる窓辺のラジオ (p19)

春の海ひねもすのたりのたりかな(蕪村)っていうのを連想するので、平和な
気分を味わいつつでも手紙に何をどう書けばいいのか思いつくことができない感じ。
実際に海辺にいるわけではないのだろうと思うんだけど、明るい海辺の窓際という
感じがする。好きだなあと思った歌。


  ともかくも今の幸せ享受するレジ袋代五円を払って (p66)

レジ袋代五円を払って享受できる幸せ、かなあ。たぶんとてもささやかな幸せ。
スーパーで買えるくらいの小さなこと。でも大事なこと。今生きてくってこれ
くらいかなという実感を思う。


  そうですね ちょうどことりの首ほどの苺をまみずであらうくるくる (p82)
  そうでした 秘すれば花で物干しに首のないシャツきちんとならべて (p84)

苺が小鳥の首になる。洗濯物のシャツは首なし。なんでもないことが喩によって
不気味な気配を帯びるのが素敵でした。


  ものさしを落としてしまってフロアーにさかさの数字がはねたのでした (p96)
  それはそれはよかったでした夕刊をつばさのようにばさばさたたむ (p111)
  スポンジにふくませたみず はなびらの切手をまっすぐはるのでしたよ (p128)


この歌集の中で特徴的に感じた、丁寧語がなんだかヘンに使われて印象に残る感んじ。
ふわりとやさしい手応えを感じるんだけど、その中に小石がひっかかるような。

落っことしたものさしが跳ねたのを「さかさの数字」と捉えたり、多分いいニュース
を読んた夕刊を「よかったでした」とちょっと突き放す感じ、ことさら慎重に
切手をまっすぐ貼ろうとしたこと。

ほんとうに、この歌集の中に描かれる、なんでもないことがなんだか大変になる
感覚が、かなり辛い、だけど辛くて当たり前、みたいなのが、よく伝わってきた。
私はもうこういう感じでずっといるのは通り過ぎたと思うけど、どうかなあ。
自らのことを考えてしまう歌集でした。

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