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映画 「燃ゆる女の肖像」


*ネタバレします。


映画 「燃ゆる女の肖像」


 少女たちに絵を教えているらしい、女性の先生。彼女が昔、描いた絵について、生徒に尋ねられる。スカートが燃えている女性の姿を夕闇の草原の中に描いたもの。タイトルは「燃ゆる女の肖像」、と先生は答えて。回想が始まる。

 海を小舟で渡る島。そこにある館に、画家であるマリアンヌは、娘の肖像画を描くために呼ばれた。
 結婚話があり、その相手に送るための肖像画。だが、お嬢様は乗り気ではなく、前に呼ばれた画家の前には一度も顔を見せなかったという。そこで母親は、マリアンヌは散歩相手としてやってきたのだ、娘には内緒で絵を描くようにと頼む。
 散歩をし、会話をするようになり、マリアンヌとエロイーズは親しくなっていく。


 「2019年・第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィアパルム賞を受賞したラブストーリー」だそうで、見たくて待ってました。
 さすが画家の物語。絵で、画面で、二人の姿、視線だけで豊かに物語ってくる。言葉にならない。言葉はいらない。
 
 最初はマリアンヌの視点で。冒頭、マリアンヌ、船で海を渡ってくるとき、荷物が海に落ちてしまったら、迷わず自分が海に飛び込んでいくんだよ。すごい。舞台は18世紀らしい。わっさわっさの重いドレスを着てるのに。
 画家で、荷物は大事なキャンバスだったんだなとわかる。いきなり、マリアンヌの行動的な感じが見せられる。

 館について、でもなかなか誰も何も説明がなくて、暗いしガランとしてるし、ちょっとホラーめいて怖い。でも、それはそういうもの、という風に、マリアンヌは勝手に台所でパン食べたりしててたくましいわ~。
 そんなこんなで見ててわりとすぐにマリアンヌのことを好きになりました。

 お嬢様は、ちょっと前まで修道院にいたそうで。姉が多分自殺。で、結婚話が回ってきて呼び戻された感じ。気難しいお嬢様かと思うけど、自由が欲しいよねえと、お嬢様のことも好きになる。
 初めて散歩に行くとき、マントを被ったお嬢様がずんずん先に行って、歩くうちにマントのフードが落ちて、金髪が現れて。振り返った時のブルーグリーン、グレイ、みたいな瞳が鮮やかできれいで、ぱっとひかり輝くみたいだった。ああ。これは好きになるわ。

 この時代、女性に自由な時間はほとんどない。結婚せず、父の跡を継ぐ、と画家になったマリアンヌにはまだ比較的自由はあるけど、お嬢様であるエロイーズは結婚に縛られていくしかない。メイドのソフィは、望まぬ妊娠をしていて、ひそかにおろすしかない。母親が不在にする5日間、三人で自由を楽しむのが切なく美しく愛しかった。堕胎しなくちゃという苦しさがあって、それでも三人一緒に、そういうもの、としてなんとかしようとするの。身分も何もなく、あの時間ただ三人は仲間だったなあ。

 本を読んで、ギリシャ神話かな、オルフェウスが黄泉の国から妻を連れ戻そうとして、でもあともう少しの所で心配になって振り返ってしまったので、妻は冥府に引き戻されてしまった、という話を、三人それぞれに、なんでよ、ひどい、とか、でも妻が呼んだのかもよとか、心配で振り返ったんだもの、愛だ、とか、わいわい言ってるの。
 愛。
 恋を知らなかったエロイーズが、モデルになって見つめあって、マリアンヌと初めてのキスをして。と。も~~~~~。ときめきで息が苦しくてドキドキで一瞬も目が離せずに見た。

 画家とモデルで見つめあうの、たまんないよねえ。好き。
 最初、お嬢様に内緒で描いた絵と、実際にうちとけてモデルになって描き上げた絵と、全然違うの。当然最初のも上手い絵なんだけど、エロイーズと並んでみると、エロイーズそのもの、という生き生きと雄弁な後からの肖像画の素晴らしさがほんっと、よくわかる。

 肖像画が完成して。エロイーズもこの絵は気に入って。けれど、この絵が完成したらあなたは人のものになってしまう、と言ってしまったマリアンヌに、エロイーズは怒る。
 わかってたことなのに。どうしようもないのに。
 絶望的な思いと、だからこそ燃え上がる恋と。何もかもが美しかった。悲しかった。

 恋だった。
 
 恋だよねえ。「君の名前で僕を呼んで」を連想した。ラストシーンがね、オーケストラを聞きに来ている劇場で、マリアンヌはエロイーズに気づいて遠い席を見つめてるんだけど、エロイーズは気が付かないで、じっと音楽に聞き入っている。音楽をききながら、胸の内を思いがめぐっていっぱいになっているのがわかる。涙が浮かぶ。その、言葉のないエロイーズを映し続けて、終わるの。

 あの音楽、マリアンヌが音程とれないチェンバロかなんかでエロイーズに聞かせた好きな曲です、ってやつ、かな。多分。並んで音楽、あの時なんじゃないかな、エロイーズが初めてあなたにキスしたいと思った時、って。ベッドでいちゃついてたときに教えてくれなかったと思うんだけど。
 
 意外とお嬢様がたくましくて、恋しちゃってからはマリアンヌのほうが心ボロボロってなるのがまた可愛くて。
 
 夜のお祭り? のシーン、最初、んーーーってハミングがこわくて、歌になり始める前がこわくて、おお? なんかこわい? ミッドサマー? とか思っちゃった。歌になるときれいで夢のよう。
 そんな中、エロイーズのドレスの裾に焚火の火がついちゃって。冒頭で見た、ドレスが燃えかかっている姿の絵のシーンだね。綺麗だった。

 母親が帰ってきて、もう絵が出来ているからマリアンヌは用済みで。そっけなく別れなくてはいけなくて。
 「振り返ってよ」とエロイーズが言うの、あれはオルフェウスの話の時に、妻のほうが声をかけたのかも、という、あれ。母のお土産ってことなのか、真っ白なドレス、花嫁衣裳なんだろう。それを身に着けて。そのエロイーズの姿、マリアンヌは何度か夜の幻想で見てるんだよなあ。
 結婚は、冥府へ連れていかれることなのか……。
 そんな風に、映画がすすむにつれて、嗚呼、あれは。と振り返る気持ちになるの、回想からその後、みたいな構造にすんなり同化できて参った。

 絵だった。映画だった。ひらすら見続けて、悲しくて美しくてうっとりした。
 
 恋だった。

 素晴らしかった。

 

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