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『あけぼの杉の竝木を過ぎて』(石井辰彦/書肆山田)


『あけぼの杉の竝木を過ぎて』(石井辰彦/書肆山田)


 2020年5月刊行。2015年くらいから去年までくらいの期間に作られた歌から、かな。

 石井辰彦の歌はまず見た目からして明らかに石井辰彦の歌、というインパクトが強い。
 ルビがいっぱいある。しかも独特なつけかたでいっぱいある。
 レイアウトも計算されている。上と下とそろった四角に歌が並んでいたり、ダッシュ―や空白を使って整えていたり。旧仮名だし正字だし。漢字が多くて紙面が黒いよ。固い。圧倒的に男の歌だ。
 
 何より言葉ってこんなにもあるんだと圧倒される。華麗。豪奢。私が連想するのは三島由紀夫。日本語で絢爛たるゴシックの城を構築しているみたい。イメージする雰囲気は19世紀。ギリシア神話。いやでも私がなんもわかってない無知無教養なので全然ダメなこと書いてる気がする。私、石井さんの歌見る時いつも読めねーよーーーという嘆きから入るしかないです。

 だが好き。それが好き。こんな華麗な詩の世界を繰り広げて見せてくれるのは石井辰彦しかいないと思う。全く良い読者でなくて申し訳ないけれど、石井辰彦の歌を見るのが好きです。

 幸いなことに読む短歌でしばらくご一緒させていただいて、歌つくってよんでしていました。作ってきた歌、連作のコピーを配られて朗読を聞いて、その初見でなんか感想を言うの。ぐはーと思いながら短時間のうちにいくつか辞書ひいて朗読ききながら振り仮名書いて、かっこいいです~とかアホな感想言ったりしてました。これは何ですか? と聞いたり。つくづく、贅沢な時間だった。
 そんなこんなの時間は今はもう私にはなくなりましたが、改めて歌集を読んで。うう、言えるのはやっぱり、かっこいいです~、とか、そういう……私に語彙がなくて申し訳ない、です。

 引用して書き写すのもなんか違うというか難しいのだけど。紙の本で印刷された活字を見て一連の物語を見るのが良いと思うので。
 でもなんとか、無理矢理ながらいくつか好きな歌。漢字が出ないのがあるかも。

 

  慘いほど淸んだ眼をした警官は犬 若くして死に取り憑かれ (p26)

 ルビ「慘 むご」「淸 す」 美しい青年に違いない。これはかなりもえる一首です。死の影を帯びているような若者、その澄んだ目を見て、なお、「犬」と呼ぶ。惨いのはその若者を見ている方なんだ。お互いに酷い事しあってほしい。ドラマチックです。


  風に舞ふ羽根のやうだと言はば言え。男心はその實、重い (p68)

 ルビ「實 ジツ」 上句の俗っぽさで軽いって煙に巻こうとしているみたい。男心の重さ、をさらっと言っているようで、ほんとうはじっとり重いんだろうと感じる。重いのだろう。生きてるうちにいろんな重さをどんどん帯びて、ほんとはすごく重いんだろう。


  詩を愛し詩に愛される。さういつた若者だつた、曾て私も (p75)

 ルビ「曾 かつ」「私 わたし」 ひどく無防備に率直な言葉の一首で、それがむしろ胸をつかれる。過去形なのが切ない。今は違う、のは、愛される方なのかと思う。詩を愛してるのは変わりないのではないか。でも愛されていると無邪気に信じられる若者ではもうない、という独り言。


  その罪は赦される──。我が悲哀に滿ちた心を盗んだ罪は (p79)

 ルビ「悲哀 かなしび」 恋人を許すよ、といってると想像します。これもひどくシンプルな歌。上記3首は「死ににゆく旅」の一連から。珍しくというかなんというか、かなり作者の実感のようなものがストレートに表されたりしているのかもしれない、と思いながら読んだ。と思わされていて惑わされているのかもしれないけど、でも、そう読んだ。面白く読みました。


  人閒もまた獸、獸は嚙みあひて──。空には(一條の)夜這星 (p99)

 ルビ「人閒 ひと」「獸 けもの」「一條 ひとすぢ」「夜這星 よばひぼし」 わりとダイレクトにえろい詩だと思ってもえました。かっこいい。噛むって独占欲らしいよ。勝手に私の推しカプを妄想して噛みしめました。


  君に似た花だ──、と言つて心友が、手折る。薄紫の菫を (p117)

 ルビ「心友 シンイウ」「手折 たを」「菫 すみれ」 これもめっちゃもえました。ヤバイ。菫の花をくれる友よ……(*ノωノ)


  驟然と吹雪く心の夕まぐれ。愛は(畢竟)殺意を孕む (p131)

 ルビ「驟然 シウゼン」「吹雪 ふぶ」(漢字が出せなかった。雪はちょっと違う字です)「畢竟 ヒツキヤウ」 これもめちゃめちゃかっこいい。愛は殺意を孕むという断言にうっとりです。吹雪の冷たさの中で厳しく愛と殺意を抱いている姿を思います。かっこいい。

 全然読めてないとは思いつつ、ページをめくるごとに、かっこよさを感じて好き。壮大で世界の広さだけじゃなく時の深さも感じる。短歌ってこうでもあるんだなあと、いいなあと、言葉って凄いなあと、思わせてくれる。私ももっと言葉をつかえるように頑張ろう……。

 

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