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映画 「罪の声」


*ネタバレします。


映画 「罪の声」


 平成が終わる頃。大日新聞の記者である阿久津は過去の未解決事件を振り返る特集記事を、あまりやる気はないままに担当することになった。ギンガ・萬堂事件。警察マスコミを翻弄した、ふざけているかのような多くの脅迫状やお菓子に毒というセンセーショナルさの劇場型犯罪だった。

 父の跡を継いでテーラーをしている曽根。たまたま見つけた古い箱から、何やら英語での書き物の手帳と、カセットテープを見つける。1984年、とあるそのテープ。再生してみると幼い自分の声が歌っている。不意に、別の録音が始まり、それは、自分が文章を読み上げている声だった。自分が何を読んでいるのかもわからない幼い声。未解決事件で、脅迫の金を持ってこさせる指示のための声だった。


 これ、どのくらい本当の事?? と思ってしまうくらい、なんだかドキュメンタリーなのかなと錯覚しそうなくらい、じっくり丁寧に事件を追っての謎解き映画だった。
 グリコ・森永事件が元ネタだよね。私はリアルタイムの事件報道とかの記憶一応ある。35年前くらい? 考えてみれば、前世紀の事件だし、令和の今となっては二つ前の時代の出来事、なんだよなあ。フィクションで映画にもなるか。

 脅迫状替わりの子どもの声の指示。その時使われた、わけもわかってないであろう子どもの、その後の人生はどうだったのだろう。その切り口がすごく新鮮、といっていいのかどうか、ほんと、あ……と思った。子どもの声あったよな。その子、が、大人になって、自分がかかわったことに気が付いてしまったら、というのは……。

 曽根さんは、テープを見つけるまで記憶にもなかったくらい、5歳の頃の出来事で、何も知らず、事件に悩まされることなく大人になった。妻子がいて、跡を継いだ自分の店があって。父はなくなっていて、母も癌だけど、けれど、平凡な幸せのある人生。だからこそ、幼い自分の声があの大事件に関わっていたことに、言いようのない不安がつのり、苦しむのもわかる気がする。

 テープを聞かなかったことにもできず。父の兄、おじさんが事件にかかわっていたのではないかと、跡をたどっていく。

 阿久津は、記者としてのやる気はないものの、上司の熱意に押されて、事件を追ううちに、時間がたったからこそ、今だから言うけど、という証言者を辿って、ついに曽根と出会うことになる。

 話しの展開も、キャストも、どっかんと派手なことはなくて、じっくりこつこつ積み上げていく、だからこそリアリティを感じる。小栗旬と星野源ってゆー、派手に人気の俳優二人主演にすえながら、外連味なく、それぞれ普通に生きて仕事して、という人物像なのがすごいよかった。

 
 身代金とか、脅迫して金を奪う目的は表面的なことで、本当は株価操作、空売りでもうけをだす作戦だったのではないか、とか。全共闘世代が、金持ちや権力に対する社会正義のつもりで仕掛けた犯罪なんじゃないか、とか。
 犯人は寄せ集めグループだったからだんだんグダグダになって、ヤクザも絡んでて物騒になり、とか。
 そうだったのかもな~~~~、なんて思ってしまう。

 子どもの声。曽根さんは幼過ぎて事件とのかかわりを知らぬまま大人になれたけど。もっと大きかった、中学生の女の子、その弟、っていう、二人の人生、運命が、あまりにも過酷に描かれていて、とても辛かった……。
 大人の勝手な行為で、安易な発想で、子どもならわかりにくいしいいだろう、なんてことで、巻き込まれてめちゃめちゃになった人生。
 これはフィクションだ、と思ってこんなことない、って思うけど、こんなことだったりするかもしれなくて、暗澹たる気持ちになった。
 この作品は、一応、弟くんがほんとに取り返しつかなくなる前に、間に合ったけれど。でものぞみちゃんはころされていて。あまりにもひどいじゃないかー。何がなんでも子どもは守ってやれよ……。

 で、生き残ってる犯人、黒幕的なのは曽根さんのおじさん、で、英国にいるわけだ。全共闘世代。実は曽根さんの母が、我が子に読ませて録音したのだった、というのも。全共闘世代……。社会や権力への反発、自分たちなりの正義、の実行のつもりの犯罪。革命めざすのも過激な思想も、まあ、うーん、まあ、思想は自由だけど。犯罪を起こすとか、ましてや無関係な一般人を、まるっきり罪があるわけのない子どもを、巻き込むなんてあんまりだ。
 あ、いやまあ、フィクションで。犯人がこうだったってわけじゃないけど。

 しかし大人はやはり、全力で子どもを守ってくれと、つくづく思った……。

 実際、グリコ森永事件の犯人ってどうなってるんだろうなあ。告白手記だとか残したりしないのかなあ。

 事件をエンタメとして消費しない。でも真実が知りたい。どうなんだ。どうなんだ、という、悩み、ゆらぎのある、エンタメ作品だった。

 ちょうど三島由紀夫の死から50年、だとかで、先日も全共闘と対話する三島って映像見た所だ。当時暴れてた若者たち、な。あれは何だったのか、まだ生きた証言とれるうちに総括とかする時期なのかなあ。わからないけど……。
 物語としてエンタメとして消費しない。でも、どんな物語に突き動かされていたのか、知りたい気がする。でも。うーん。
 わからない……。

 見に行くかどうかちょっと迷ってたけど、見に行ってよかった。小栗旬も星野源も、すっごい、いいなあと思った。こういう地味で、重い、派手な面白みのない役でもちゃんとできる、魅せる俳優だなあ。これからもご活躍してください。見たいね。

 

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