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『すこし痛みますよ』 (アダム・ケイ/羊土社)


*ネタバレします。ネタバレっていうか。お終いの方まで触れます。


『すこし痛みますよ』 (アダム・ケイ/羊土社)

 ジュニアドクターの赤裸々すぎる日記


 大学で6年学んだあと、さらに病棟で6年経験を積んで、ドクターになる。そういう、イギリスの医療サービス、NHS。
 ジュニアドクターになった作者の日記をまとめた一冊。作者は医者として6年勤務。今は脚本家でありコメディアンでもあるそうだ。さすが、皮肉、ユーモアいっぱいの一冊。けれど、笑っちゃったりしながらあまりにも医者、タイヘンすぎじゃないかと涙ぐんでしまう。

 ベン・ウィショー主演でドラマ化、というニュースを見て、翻訳が出てるのを知って読んでみました。

 新任で初めて自分の医療処置で人を助けられた! と喜んでも上司はそっけないとか、友人に無茶ぶりな相談をされてしまうとか、こんな患者がいてびっくりすぎるとか、ドタバタコメディになるのかなあ。

 残業しまくり、休日にも病院からの呼び出しは容赦ない。自分の結婚式であろうとも、丸一日の休暇なんてほとんど奇跡。それなのに給料は病院のパーキングメーターの稼ぎに劣る、とか。
 医者は激務。特に研修医だとかは金もないとか。それはどこも同じようなものなのか。日本でも大変そうだものね……。

 イギリスは、医療無料なんだねえ。ゆりかごから墓場まで、って、世界史で聞いたことあるフレーズだ。そうかそうか。
 NHSに拍手を、って、コビッド19の中でやってたのも見た。
 この作品は2004年から2010年の日記。今このコロナ禍の世界でドラマ化されるとなんかまた、違う風にもなるのかなあ。

 産科を選んだ作者。出産って、順調にいけば病気じゃないとはいえ、印象的に書かれてることはいろいろ、ほんといろいろあって、本当に命がけで命を産み出すんだなあ。
 一人の医師にのしかかる責任が、母と赤ちゃんとの分だし、さらに同時に何人もの緊急事態とかあったりもして、タイヘンすぎる。人手不足。金もなく。自分の時間なんてない。それでも、責任と、患者のありがとうと支えに頑張っている。

 頑張ってることに甘えちゃダメなんだよねえ。医者だって人間。沢山学んで経験を積んでいくとはいえ、ただの一人の人間。組織が機能するようにしないと、人の頑張りに頼るとか無理すぎる。そして働きにはちゃんとした報酬を。

 激務が続く中、それでもキャリアを重ねて、もうじきジュニアドクターから次のステップへ、という時に、作者は医者をやめた。ある妊婦の帝王切開手術。後輩の執刀を見守るだけだったはずなのに、事前の診療ミスがあり、死産であり子宮からの出血は止まらず。コンサルタントを呼び出し、大量出血、子宮摘出でようやく終わったこと。それはつまり、もう取り返しがつかないこと。泣きつづけたこと。

 泣いてしまった。
 医者だから。命と向き合う仕事だから。助けられることもあるし、ダメなこともある。医者であっても、一人の人間。心が折れることもある。ユーモアとシニカルさで軽やかに書かれた日記。面白可笑しいことも感謝されることもある。でも本当に切実に、ドクター大変で、頼むなんとか彼らの働きを、もっとまともに休んだり稼いだりできるようにしてくれと思った。医者であっても、心も体も、ケアしなくちゃダメだよ。日本でもさー。

 今本当に、医療従事者とか、エッセンシャルワーカーとか、介護とか、人の生活に欠かせなくて大変な仕事をしている人に、心から感謝するしかない。大変な思いと労力に、せめてまともな報酬ある世界であってくれと思う。
 すべての仕事、働く人に心から感謝します。社会なんだから、組織つくってる人間社会なんだから、個人のやりがい搾取とかじゃなくて、社会的に機能していくべきなのでは。個人の頑張りに頼る、使い捨てるみたいな無理な組織は、何とかしてほしい。医療従事者だって聖人君子の自己犠牲しなくていいようになっていて欲しい。
 
 今読めてよかった。
 そしてウィショーくんがやるっていうのすごく見たい~~。ドラマどっか配信にくるかなあ。見たい~~~。いつできるのかな。どんなドラマになるのかな。でもどうか無事に。安全に。みんなが健やかに、生きような。

 

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