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『コリーニ事件』(フェルディナンド・フォン・シーラッハ/東京創元社)

 

*ネタバレします。


『コリーニ事件』(フェルディナンド・フォン・シーラッハ/東京創元社)


 ファブリツィオ・コリーニは記者のふりをして男を訪ねた。快適なホテルのスイートルーム。ニ十分後、男は死んだ。コリーニは血のついた足跡を残しながらロビーへ降りて、警察を呼んでくれと頼んだ。

 先日映画を見てすごく面白かったので、本も読む。
 これ、翻訳出た時に、すごく評判良くて面白いらしいとはずっと思っていたものの、なんとなく小難しいんじゃないかなと思って手を出してなかった。ドイツの現役弁護士の書いた小説、初の長編ってふれこみで。
 でもすごく読みやすかった。そっけないほどのクールな文体。翻訳が上手いんだろうか。でも多分原文もこういう雰囲気なのかなあと思う。

 基本的にお話は映画と同じ。けど、映画よりずっとさっぱりしてる。ライネンくんは女の子と出会ってないしイタリアにも行ってない。イタリアから証人呼んでないし、父や友達とチームでがんばったぞって感じでもない。黙々と淡々と記録を読み込んで調査をものにしている。移民の子ってわけでもなく、父よりもハンス・マイヤーに懐いて世話になってたけど、原作での父は蒸発して疎遠になってるわけじゃない。敵対することになる教授が抜け道作った法の成立に関わったのでもなかった。
 
 コリーニの過去においても、映画みたいに父が目の前で殺されたのではなかった。姉がレイプされ家が燃やされてた。どっちが酷いでもなくなんにせよとてつもなく酷い。少年のコリーニくんに降りかかった途方もない暴力だった。直接自分が殴られたわけではなくても、本当に本当に、酷い傷を残しただろう。それが、戦争で、戦争行為として罪の度合いが云々であったとしても。許せるわけない。
 それでも、私的報復の人殺しは人殺し。殺人は犯罪。辛い……。

 とてもわかりやすく読めたのは映画を見てるせいかなあ。けど、多分本を先に読んでいても全然小難しくはなかったと思う。
 映画化は、いろいろとドラマチックにアレンジしていたんだなとよくわかって、読んでみてよかった。映画化だから、今日的な要素も入れながらって感じなんだと思う。原作の基本を忠実に、けれどドラマチックな盛り上げとか見せ場とか。すごく、私はうまくてよかったと思った。
 これ本国で出たのは2011年か2012年くらいかな。この小説きっかけで政府にナチの過去再検討委員会ができたとかなんとか。時効を認める法の再検討とかしたのかしら。ドイツ、ナチスの負の遺産は巨大すぎるよね……。

 「訳者あとがき」で、モデルとなる人物がいたと知る。そして作者の祖父はナチスの高官だったそうで。私、勝手に作者はライネンくん的な立場かと思ってたけど、ヨハナ・マイヤーの側だったのかと知って、またいっそう、どっと重く感じた。
 作者の学校の同級生にはそういう、ナチ政治下のあれこれの人物の孫たちがいたそうで、そうかーそりゃそうか……と……。
 勿論、子孫に祖父たちがしたことの責任があるわけじゃない。おじいちゃんになった彼らは、ハンス・マイヤーのようにいいおじいちゃんだったかもしれない。孫が知るのはそういう姿で、けれど、その祖父が「誰」だったのか知る時がくる。そして。

 そして、けれど、どうにもどうしようもない。自分はじぶんとして生きるしかない。
 そしてこういう作品を書いたりしたんだなあ。いやまあ、わからないですけれども。
 ……面白かった。

 

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