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『水晶宮綺譚』 (紀野恵/砂子屋書房)

 

『水晶宮綺譚』 (紀野恵/砂子屋書房)

 

 19898月刊。

 これと言って何の説明もない。ウィキを見ると第4歌集、なのかなあ。「序」があって、エピグラフ? 英文があり訳があり、だけどこれ何かの引用ではなく、これそのものも紀野恵が書いているのか。「フムフムランド桂冠詩人キノメグミ」とあります。フムフムランドの桂冠詩人が編んだ水晶宮という世界、って想定の歌集、かな。

 

 クリスタルパレスという優雅な世界。故郷はうつくしく歌われ、暮らしはあり、けれど超然としていて、そこにいない、遠い、感じ。

 王宮は、長安のような。古都の香り。西洋的享楽もある。時空が自在~。その広がりの壮大さに圧倒されます。

 

 レイアウト短歌があって、ちょっとびっくりでした。文字が大きかったり改行とか、改行どころではなくぐにゃーーーーっと広がったり斜めに雪崩れていたり。こういうの一度はやってみるもんなんだろうなあ。

 

 マインドパレス、という言葉に馴染みを持ってはや幾年ですが。「シャーロック」だとかハンニバル・レクター博士だとかで有名ですね。この歌集を読んで改めて、あ~紀野さんもマインドパレス持っていそうな気がすると思った。キノメグミの中にはキノメグミだけの別世界がある。歌という形で披露してくれるんだなあと。眩しいです。

 

 

 いくつか、好きな歌。

 

  愛さるるよりもやさしく棄てらるる夏帽子かな、花を飾れる  (p15

 

 るる が繰り返されてるるるる~という気持ちになる。そりゃあ帽子を捨てる方が容易いのでは。と、思うけど、棄てられる夏帽子の方が良いもののような気がしてしまう。読みに迷うんだけどなんだか、花を飾って結句、で、なんだかよかったな、という気持ちになる。「夏帽子」という言葉の力かなあ。不思議。

 

  あそびするわれをあはれみたまへかしかなしみたまへ妬がりたまへ (p20

 

 憐みや悲しみを誘うようでいて、終わりには妬むのでしょうね、と急に高みにいってしまった。素敵です。遊びをせんとや生まれけむ、ですねえ。

 

  せいせいと青める岸やこちらから裏切つてみよみよと鳴く鳥  (p47

 

 これも、こちらの方が強いという感じが潔い。「みよみよ」が呼びかけと鳥の鳴き声とにうまくつながっていて好き。「せいせい」「みよみよ」繰り返しも調子よくて好きです。

 

  ゆふがたのふぢいろ波にあらはれてうすく染まつていく骨になる  (p67

 

 夕方の藤色/ で切れで読んだ。水辺の骸骨のイメージ、暮れてゆく空の色に染まっていく幻想、とても美しい。

 

  ゆめのよやまことならねば告げにけり告げにけり汝れこそは半身  (p87

 

 夢だから本当ではないから告げられる、あなたがわたしの半身なのだという切実な思いが溢れていると思う。きれい。「告げにけり」のたたみかけるリフレインが切ない。

 

  波立たぬみづうみはないのだよそのうへ明けぬ夜はないのだよ。嘘。 (p125      

 

 破調というか句またがりがひどく、すごく読みづらくて、最後に「嘘」とひっくり返されるので、そのためのぎくしゃくさなのかと思う。って読んでいいのかなあ。「嘘」が何がどこからどこまでと、わからない気がする。湖は凪ぎ、夜は明けない、ってことか。そこまではともかくなにがしかの嘘をつくよ、ってことか。読めない、と思いつつ、優しいようで残酷な気配があって、好きな歌です。

 

 かっこいい本でした。

 

 

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