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短歌入門書を三冊

 ちょっと思い立って短歌入門の本を三冊読みました。

 

『今はじめる人のための短歌入門』 岡井隆(角川ソフィア文庫)2011年文庫化、元は1988年刊。

『今日から始める短歌入門』 池田はるみ 編・著(家の光協会)2003年刊

『ここからはじめる短歌入門』 坂井修一(角川選書)2010年刊

 

 読み終わってみると、刊行年がざっくり10年ごとで、なんとなーく、時代、社会の変化を感じられたきがする。この三冊を選んだのは単純に「短歌入門」キーワードで検索してぱっと目についたもので、読み比べて時代の変化を感じようとしてたわけじゃないけど、結果的に。短歌入門、なので、短歌を作ることについての本。基本的な所は同じなわけ。けれど、自分の身の回りのこと、社会のことを歌う、という時にみえる感覚って、そりゃあ時代によって違うかーと思った。

 

 岡井隆のは、私が短歌を始めた頃に買って読んで、その後も読んで、多分再読3回目かな。あんまりはっきり覚えてはない。読み返しても忘れてることの方が多くて、やっぱ大変なこと書いているなあ。短歌難しいですよねえ。岡井隆すてきーって萌え萌えになりながら読みました。とっても柔らかな文体で優しく語るように丁寧に書いてあるけれども、まあ自分で考えなさいよ、とふいっと突き放して微笑んでるようです。素敵。かっこいい。

すいません短歌全然わかりませんっ。てなりながら満喫しました。私はねえ、ほんとにねえ、短歌の勉強やってなくて、ちゃんと近代すらおさえてなくて、なんも知らないまんまぼんやりと、短歌作ってもう十年以上だな……。すみません。けど、ゆっくり読み、かつゆっくり作り、とやってくもので、一生かけるものです、ということだから。ゆっくり、やらせていただきます……。

 

 池田はるみ 編・著のは、他に佐々木史子、関谷啓子 と、三人で分担して書かれています。岡井隆のあとによむと、なんて親切に短歌へのハードル下げて誘ってくれるんだ~優しい~~優しさが沁みる~~~という気持ちになりました。NHK学園の短歌講座の講師でもあるみなさんなんですね。短歌は簡単ですよ、さあどんどん作ってみましょう、っていうお誘い。でも勿論、ちゃんと丁寧に、実例いっぱいで短歌の基礎を書いていってくれてて、これすごいわかりやすくていい本だなあって思った。読んでみてよかった。

 短歌、続けていくと難しいたいへんってなるのはいわずもがななので、ほんっとのほんとの初心者、ちょっと作ってみたいって入り口の所としては、この気安さは有難い。巻末に動詞活用だとか旧仮名新仮名だとかの表もついてて、とても実用的~。面白かったです。

 

 坂井修一のは、これもまた読み物的である。岡井隆のと同じく、角川の「短歌」に連載だったのですね。短歌を作って作り続けて生きてていく、みたいなところまで描いていってくれてます。面白かった。

 「熟年の恋」という所で、岡井隆の歌ひいて、褒めて、岡井隆に会ったとき聞いてみた話とか書いてあって、なーんこれ自慢じゃね~? 岡井隆とこんな話したんだよ~いいでしょ~って書いてあるーーっと思って嫉妬した私(笑) いいな~。

 技法について書かれていることもわかりやすく丁寧に解説されてて面白かった。最近の人の歌とかいうのがほんとに最近の感じがして、あ、そっか10年前っていったら私、一応は短歌を始めていて、短歌の人々のことをすこーしは知るようになりかけていて、で、なんか近い気がするんだな。とはいえ10年も前、でもある。

 この本の中での、この頃の若い人は、って感じの所からもう10年過ぎているんだね。

 

 東日本大震災があったのが2011年。そして今、新型コロナでこの、緊急事態宣言発令のさなか。10年前にも、社会の貧困、暗鬱たるものはあったけれども、それからまたもう、すごく、多分今のこの2020年からあと、すごく社会は変わるだろう。この事態がいつ終わるのかわからないし、終わらないかなあとも思うし。明日どうなってるのかもわかんない。

 短歌にまた違う流れがくるだろう。まだ、わからないけど。2030年には、あの頃、みたいに俯瞰的な見え方ができているのかなあ。

 その頃ちゃんと社会が機能していれば。私は生きていてそういうなんだかんだを、見たり読んだりできるんだろうか。私も何か歌を作れているんだろうか。

 わっかんないな~~~~。

 

 でも短歌作りたいな。作っていたいなと思った。

 私、あんまり短歌好きな人間ではなくてダメダメでなーって思うんだけど、今、この三冊読んでみてよかった。短歌を作っている人であれたらいいなと思った。がんばらないけどがんばろー。

 

 

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『声に出して読みたい日本語』 (齋藤孝/草思社)

『声に出して読みたい日本語』 (齋藤孝/草思社)

 

 2001年刊。声に出して読みたいやつ、すごーく流行りましたよね。これが最初ってことです、よね?

 流行ってるなあというのは知ってたものの、実際ちゃんと手にしたことがなかった。

 

 自分の息子に、小学校の授業に、使えるようにと漢字にはルビつきで、名文というこだわりではなく、声に出して調子よく、子どもが面白がれるように選んだテキストだそうです。

 日本語、とはいえ、漢詩などもたくさん。読み下し文ってことはつまり日本語か。般若心経もあるし早口言葉や春の七草もある。俳句、和歌短歌、歌舞伎、落語。テキストがあって、簡単な解説、古文には口語要約もついてる。すごーく幅広く、親切設計だなあと感動的でした。これは受けるわけだ。

 実際朗読、暗唱して心地よいものだし、意味内容を理解しなくてもいいし、という優しさ。解説があるからなんとなくざっくりとは分かった気になれる。なるほど~。

 

 で、シリーズで続刊も出たようだし、二匹目のドジョウ狙いも山ほど出てましたね。ちょっと把握しきれない。

 声に出して体でわかる言葉のリズムというのがあって、声に出してなんか楽しい。お勉強ではなく、単純にそういう音声の楽しさを一人朗読するのもいいな。手に取って見てよかったです。

 

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『水晶宮綺譚』 (紀野恵/砂子屋書房)

 

『水晶宮綺譚』 (紀野恵/砂子屋書房)

 

 19898月刊。

 これと言って何の説明もない。ウィキを見ると第4歌集、なのかなあ。「序」があって、エピグラフ? 英文があり訳があり、だけどこれ何かの引用ではなく、これそのものも紀野恵が書いているのか。「フムフムランド桂冠詩人キノメグミ」とあります。フムフムランドの桂冠詩人が編んだ水晶宮という世界、って想定の歌集、かな。

 

 クリスタルパレスという優雅な世界。故郷はうつくしく歌われ、暮らしはあり、けれど超然としていて、そこにいない、遠い、感じ。

 王宮は、長安のような。古都の香り。西洋的享楽もある。時空が自在~。その広がりの壮大さに圧倒されます。

 

 レイアウト短歌があって、ちょっとびっくりでした。文字が大きかったり改行とか、改行どころではなくぐにゃーーーーっと広がったり斜めに雪崩れていたり。こういうの一度はやってみるもんなんだろうなあ。

 

 マインドパレス、という言葉に馴染みを持ってはや幾年ですが。「シャーロック」だとかハンニバル・レクター博士だとかで有名ですね。この歌集を読んで改めて、あ~紀野さんもマインドパレス持っていそうな気がすると思った。キノメグミの中にはキノメグミだけの別世界がある。歌という形で披露してくれるんだなあと。眩しいです。

 

 

 いくつか、好きな歌。

 

  愛さるるよりもやさしく棄てらるる夏帽子かな、花を飾れる  (p15

 

 るる が繰り返されてるるるる~という気持ちになる。そりゃあ帽子を捨てる方が容易いのでは。と、思うけど、棄てられる夏帽子の方が良いもののような気がしてしまう。読みに迷うんだけどなんだか、花を飾って結句、で、なんだかよかったな、という気持ちになる。「夏帽子」という言葉の力かなあ。不思議。

 

  あそびするわれをあはれみたまへかしかなしみたまへ妬がりたまへ (p20

 

 憐みや悲しみを誘うようでいて、終わりには妬むのでしょうね、と急に高みにいってしまった。素敵です。遊びをせんとや生まれけむ、ですねえ。

 

  せいせいと青める岸やこちらから裏切つてみよみよと鳴く鳥  (p47

 

 これも、こちらの方が強いという感じが潔い。「みよみよ」が呼びかけと鳥の鳴き声とにうまくつながっていて好き。「せいせい」「みよみよ」繰り返しも調子よくて好きです。

 

  ゆふがたのふぢいろ波にあらはれてうすく染まつていく骨になる  (p67

 

 夕方の藤色/ で切れで読んだ。水辺の骸骨のイメージ、暮れてゆく空の色に染まっていく幻想、とても美しい。

 

  ゆめのよやまことならねば告げにけり告げにけり汝れこそは半身  (p87

 

 夢だから本当ではないから告げられる、あなたがわたしの半身なのだという切実な思いが溢れていると思う。きれい。「告げにけり」のたたみかけるリフレインが切ない。

 

  波立たぬみづうみはないのだよそのうへ明けぬ夜はないのだよ。嘘。 (p125      

 

 破調というか句またがりがひどく、すごく読みづらくて、最後に「嘘」とひっくり返されるので、そのためのぎくしゃくさなのかと思う。って読んでいいのかなあ。「嘘」が何がどこからどこまでと、わからない気がする。湖は凪ぎ、夜は明けない、ってことか。そこまではともかくなにがしかの嘘をつくよ、ってことか。読めない、と思いつつ、優しいようで残酷な気配があって、好きな歌です。

 

 かっこいい本でした。

 

 

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『サイレンズ・イン・ザ・ストリート』 (エイドリアン・マッキンティ/ハヤカワ文庫)

*ネタバレします。

 

 

『サイレンズ・イン・ザ・ストリート』 (エイドリアン・マッキンティ/ハヤカワ文庫)

 

 

 警察小説第二弾。ショーン・ダフィ刑事シリーズ。ってシリーズ名でいいのかな?

 最初の所に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の引用があった。マーティとか、デロリアンとか、インスパイアですよってこと? テイストは全然違うけどまあ。デロリアンって実際の車なのか。そっかー。そしてジョン・デロリアンって人は実在で。去年映画が公開されてるのね。そのうち見たいな。

 

 

 ショーンは警部補に昇進している。かといって現場で駆けずり回ることに変わりはなく、工場の外のゴミ捨て場で見つかった血痕をたどってゴミのコンテナを漁る。そしてスーツケースに詰められていた、首、手足の切り落とされた男の死体を見つける。

 

 てことで今作でも北アイルランドって世界が物凄くないですか。この街の警察過酷すぎじゃないっすか。背景にはフォークランド紛争勃発があったり。1982年か。そんでイギリスがそっちに手がかかりアイルランドは手薄になりますとかなんとか。世界史……。フォークランド紛争って名前くらいは知ってるけど、そのものについては知らないし、その動きで周辺にあれこれ影響がでるとか、まあそりゃ出るよねえとは思うけど、そっかーと改めて思った。私は世界の事を何も知らない……。

 

 けれどそんこんなの社会の不安定はありつつ、ショーンたちは事件の捜査を地味に続けていく。被害者の身元をさぐる。スーツケースの持ち主を探る。

 ほんとに地味に手探りで、捜査が進まなくて、事件のファイルはやがて未決の場所に積まれるまま、って感じになっていくのも面白かった。捜査の停滞みたいなのをすごく感じる。こういうストーリーのテンポも面白かった。

 

 合間に、ショーンの住んでる所での黒人差別みたいなトラブルがあったり。前作で、付き合うことになったのかなって女医とは、彼女が海を渡っていって切れたのかなとか、それも仕方ないなとか、別にまた女とさっくりやってみるとか、上司がなんか家庭トラブルで家から追い出されてるみたいだけどよくわからないとか。なんだかんだあるの、事件は~話が進んでない~と思うんだけれども、ショーンに同化していく気分になって、うんざりクサクサしていくの。無駄ではないと思う。けど今、私のこの現実、新型コロナで世界崩壊しそうなのかもっていう憂鬱気分も相まって、深くため息をつくしかない気持ちが高まる。楽しい読書ではないな~。けど、なんか好きだなあ。

 

 スーツケースを追って、夫をIRAに殺されたエマにたどり着く。関係はなさそうな事件だが、エマの義理兄にあたる、そのあたりの地主マッカルパイン卿にいろいろと裏があるとわかってくる。

 エマとショーンは次第に仲良しになり。マッカルパイン卿ともちょっと打ち解けたりもした。死体で発見されたオロークは実はアメリカの情報調査員だったりしたのがわかり。謎のメッセージ、情報提供するいかにも偽名のアリス・スミスって女がいたり。

ショーンはいったん打ち切り、もう関わるなと言われた事件なのに、休暇使って手掛かりを追ってアメリカに渡ったり。またひどい目にあって、けど助かってアイルランドに帰ってこられたけど、マッカルパイン卿とジョン・デロリアンにつながりがあることがわかり。エマと仲良しするつもりが、偶然にもオロークの遺体が暫く保存されていたのであろう冷凍庫で証拠を見つけてしまい。

 マッカルパイン卿に撃ち殺されそうになるショーン。またひどい目にあってるよ。大変。この辺りで警察なんて誰も頼らない。それより地主の命令に従っちゃう近所の人々とかこわすぎる。これ作中年代1982年頃でしょ。中世じゃないだろ。けど、そんなことに、なっちゃうのー。こわい。けど、なんか、ローカル的には、なんか、そうなのかもって思っちゃうの怖い。

 追い詰められ、巻き添えでエマは死亡。まあ、エマも少しはオローク死亡、隠蔽に加担はしていたとはいえ。酷い。

 

 ショーンは生き残った。助けが間に合ったんだよー。よかったよー。だけど、ボロボロだし、規律命令違反の数々の責任を問われて、降格処分に。刑事ですらなくなって、ただのヒラ警官になってしまった。ショーンが掴んだ事件の真相は隠蔽され、適当なつじつま合わせの話になってしまう。

 警察なんか辞めてやる! ってなってたショーンだけど、それでも最後はまだ警察で下っ端の仕事をしていた。ショーンのこと、どうやら何かどこか、上層部? 情報部? どこかが目をかけているらしいだとかなんとかの気配。どうなるのこれから。次も早く読みたい。

 

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