『館山』 (三平忠宏/ながらみ書房)
『館山』 (三平忠宏/ながらみ書房)
第二歌集なのかな?
2020年1月刊。題字は奥様の書だそうで、それも美しいです。
館山って、どこなのか、私は出かけたことのない場所で、この歌集を読むことで、その歴史や景色の一端を知ることができたような気がします。
「帰郷」という一連に始まり、作者のさっくりとした半生を知る思いです。すらりすらりと歌に人生を凝縮していくことができるのが深いなあと思いました。
あとがきによると歴史ガイドや戦争遺跡ガイドなどもされていたようで、その地の歴史、戦争の跡が多く歌になって収められている一冊でした。私は知らない事ばかりだったので、面白く読みました。故郷でこうしてまた学び、あいしてゆく作者の姿勢もすごいです。
いくつか、いいなと思った歌。
街中の景色も人も変はりけり四十四年ぶりの館山 (p10)
四十四年という歳月を経ての帰郷の感慨はどれほどだろうかと想像します。作者の深い深い想いが、すっとした一首になっていて重すぎなくていいと思った。
黒船に備へ築きし砲台は土塁をわづかに残しゐるのみ (p19)
黒船に備えるって~。幕末か。その遠い昔の歴史が、今もわずかな土塁のみとはいえ残っていて、そこではるばるとした思いをはせる感じが壮大で、けれど時の流れのほのかな寂しさもあって、好きでした。
背の丈が皆に抜けゐし若き日は神輿担ぐも楽しまざりけり (p30)
作者は背の高い人なのですね。神輿の重みが人よりぐっと強くかかったのかなあと思って、楽しくなかったという歌ですが、読んでちょっと笑ってしまう。祭りのあとの肩はつらかったんだろうなあ。
寒晴れの朝にひときは神々し雪を冠れる伊豆大島は (p143)
伊豆大島がどう見えるのか、私にはわからないんだけれども、これは冷たく冴えた朝の気配、青空、雪、と景色が広がる感じがしてとても綺麗に読めました。
収まりしわれの蔵書は古書店に仰ぐやうなる姿となりぬ (p161)
書斎を作ったりそこから去ったりで、とにかくたっぷりの本をお持ちのようで。本の引っ越しすっごい大変だよねという実感が私にもあり、けれど私の規模とはけた違いなんだろうなあというのがすごくわかる一連の歌がありました。狭い古書店に天上まで届くような本棚があり、ずっしりとそこに積み上げられた本たち。その景色が自宅の書庫に、という圧巻の様子がわかります。本好きには夢の書庫ですね。
出向地にたづさへ行きし文机が戻り来にけり十五年経て (p165)
これは文机という古風な道具がしみじみ、いいなと思った。そこでたくさんの本を読み、書き物をしたりお茶を飲んだりもしたのだろうと思う。愛用の相棒がおさまって、落ち着く気分を感じました。
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