« 『アンヌのいた部屋』 (小林久美子/北冬舎) | Main | 『館山』 (三平忠宏/ながらみ書房) »

映画 「スウィング・キッズ」

*ネタバレします。

  昨日、1日に見に行きました。

 

映画 「スウィング・キッズ」

 

 

 舞台は1951年。朝鮮戦争は激化。アメリカと中国の代理戦争のようになっている。捕虜収容所では、囚われて集められた兵士たちが、北と南、どちらへ帰属するかのひそかな対立があった。また、捕虜の扱いが良いと対外的にアピールするために、新任の所長は、兵士たちの娯楽を勧めさせる。

 ジャクソンという黒人の下士官。一人講堂でビアノを弾き、タップダンスのリズムを刻む彼の姿を、もっとも厄介な囚人とみなされているロ・ギスは覗き見た。

かつてはブロードウェイスターだったらしいジャクソン。ダンスチームを作ったらどうだ、と所長から話が持ちかけられる。自由の踊りを踊る反動分子は面白いだろうという気まぐれな思い付き。

 まったくやる気のないジャクソンだったが、オーディションを開催。見込みあるものなんていないと思っていたが、伝統芸能を演じていた元役者ビョンサム、中国人で太っているのに栄養失調、心臓に持病を抱えるものの抜群の動きで独自の踊りを踊れるシャオパン、兵士相手に踊り歌う娼婦のようにして潜り込んできた、4か国語話せるヤン・パンネが通訳として、さらにダンサーとしてチームをつくる。反発していたロ・ギスだが、誰よりもダンスはうまかった。ジャクソンのステップに負けず嫌いに挑んでいく。

 寄せ集めチームが、トラブルを乗り越えながらダンスでここからの脱出を夢見て踊り出す。

 

 

 そんなこんなで、戦時下の収容所という舞台の中、ダンスバトルかーみたいな現代的要素たっぷりで、ドタバタコミカル風味も交えて、どんどんみんながダンスに夢中になっていくさまが描かれる。コミカルである、けれども、その背後にある重すぎるほど重い、辛い現状も容赦なく描かれる。

 ダンスを通じてバラバラだったみんなの心が一つに、っていう青春ムービーっぽさ、まあ、ほんとに若いのはロ・ギスとかパンネちゃんくらいかもだけど、それでも青春ムービーっぽさはあって、胸きゅんだったりもする。私個人的にはその胸キュンはいらないぜ、とは思ったものの、若者にはときめきも大事かねえ。

 けれどそこは収容所。思想の対立。兵士と捕虜。それぞれが抱える背景はずっしり重い。

 

 通訳できる、という彼女が四か国語をこなすのは、戦争や占領下だったことのせい。すごく頭いい子なんだろう。まともな時代にちゃんと教育受けてたらどんなに優秀だったのかと思う。言葉を覚える、使えるっていうことの有利さをつかみ活用して生き抜くしたたかさ。妹や弟たちがいて、多分親はいなくて、彼女が保護者になってる。

 生き別れになった妻を心底愛して探してて、ダンスで有名になったら行方がわかるかもしれないという希望を持ってるビョンサム。中国人の彼は京劇役者だったりしたのかなあ。演じる、踊ることの圧倒的オリジナリティがある。楽しくさせてくれるけど、楽しくさせてくれることが、切ないよ。

 ロ・ギスは、人民の英雄とあがめられる兄がいて、その弟として一目置かれてて、けど、後にわかったけど、演劇学校かなんか? で、首席卒業とかで、もともと表現とかダンスとかすっごい才能ある子だったのね。戦いに行くような子じゃなかったのに。

 

 ロ・ギスの幼馴染、学校も一緒だった友達が、片手片足失った姿で、収容所にはいってくる。収容所でそれなりに穏やかに暮らしつつあった仲間に過激な激を飛ばし、内部抗争がひどくなっていく。

 ロ・ギスはタップダンスに夢中になってきてて、でも仲間と一緒にひそかな殺戮行為に加担する。それでも、ダンス対決した米兵を殺すふりで見逃したり。

 

 戦いの中にる。分断の渦中にある。資本主義、共産主義。憎みあう思想。けれどそのイデオロギーって、人が作り上げたもので、本当なら人が幸せに暮らすために、生きるために、社会をつくっていくものだったのでは。なのに、戦う理由になって、戦う必要なんて考えられない、ただ憎しみの連鎖になって。

 ロ・ギスは踊りたい。けれど仲間と共にいるしかない。

 

 ロ・ギスの兄も囚われて、収容所にやってくる。すごい巨漢。背も高く力も強く。誰よりも敵を殺してきた男。仲間からは英雄で、敵からしたら化け物。そんな兄は、実はちょっと頭がよわいみたい。兄弟で喋る時には、ロ・ギスのほうがお兄ちゃんみたい。仲良し兄弟で、ニワトリの真似~とか豚の鳴き声~だとか、無邪気にふざけあったりできる。けど、兄は、殺人の技術は抜群。ためらいなく人を殺せる。これもとてつもなく悲しい。兄を殺人マシンに仕立て上げた戦争……。

 

 ジャクソンもまた、黒人として白人にさげすまれている。一応軍隊の建前としては、差別なんてしないってことなんだろうけれども。ジャクソン、沖縄で任務についてたことがあるそうで、日本人の妻がいる、とか。それもまた差別のネタにされるのなー。

 オキナワとか聞くとぎゅっと辛くなっちゃうし。

 ジャクソン、最初は東洋人にはダンス無理だ、とやる気も何もなかったのに、みんなに教えること、みんながついてきて踊れるようになってそしてチームになっていくことに誇りを持って行くようになったんだ。

 演じている人、「ブロードウェイミュージカルの最優秀ダンサーに授与される「アステア賞」の受賞者であるジャレッド・グライムスがジャクソン役を演じる。」って、本物~~~プロ~~~! ほんっとに、めっちゃめちゃうまくてかっこよくって、うっわーこれは、ロ・ギスはじめみんな、見た人を夢中にさせるわ、という納得感が凄い。ダンスシーン、どれも最高だった。

 

 そのジャクソンに負けない、ロ・ギスのダンスも最高だった。なんか、KPOPの人らしく、私はわからないんだけど、多分、人気の人、なんだよね。けど、ほんっと、彼はめちゃめちゃ踊れるっていう、ジャクソンさんに負けてないのがすっごいし。主人公としてゆれたり意地になったり、無邪気に少年っぽかったり、すっごくよかった。主人公だった。

 

 Bowieの曲が使われるらしいってことでいつ、何がどんな風に? と思ってたら、ロ・ゴスと通訳ちゃんと、それぞれに心の叫びをダンスで表現!ってシーンだった。モダンラブ。ダンスも最高だし曲もあいまって泣いた。なんで、こんなに踊れるのに、こんなにダンスに夢中になって楽しいのに! 自由に踊れないの;;

  

 

 刑務所内での抗争あれこれより、所長を殺してしまえ、と、ロ・ギスは命じられる。クリスマスイベントで、ダンスステージに立て、そして油断してる所長を殺せ、と。

 ロ・ギスは覚悟を決めて、ステージが終わったらみんなすぐにこの場を離れろ、といってステージに立つ。

 みんなの演技は最高! バンドマンたちもノリノリ!

 このバンドマンたちもさー、囚人なのね。彼らも戦いの前には音楽が好きで演奏して、ってプロみたいな人達なんだろう。演奏も最高で楽しくて、素晴らしいステージだった~!

 

 そして一人ステージに残ったロ・ギスが、銃をとりに行こうとしたとき、お兄ちゃんがきて、弟を守ろうとするんだよねー。殺しをやるのは自分の役割、って感じで。

 銃撃戦の阿鼻叫喚、そしてジャクソンが止めるのにもかまわず、スウィング・キッズだちは撃ち殺される。一人、ロ・ギスは、あの、かつてダンス対決した、かつて殺すふりで見逃した米兵に、殺される、寸前で、足を撃たれる。

 足を。タップダンスのリズムを刻む足を。それはほとんど殺されたようなもの。

 

 それでも、それでも、生きてさえいれば。と思えるのかどうか、本当にわからなくて、呆然として、泣いた。

 映画のラストは、現代。かつての収容所は記念碑的場所として、観光ツアーに組み込まれている。そこにきた、老人。最初、足元と杖しか映らなくて、もしかしてロ・ギス? と思っちゃったけど、ジャクソンさんだね……。思い出の場所。ステージの床。そこに手を差し伸べて、回想。ジャクソンにチームに入るかどうか勝負したロ・ゴスとのダンス対決。二人で、二人だからこその、最高のダンス。タップのリズム。勢い。強さ。それは命だった。のぞき見した子どもも夢中になっちゃう。

 エンドロールには、スウィング・キッズたちが、練習重ねてるような、日々のスナップ写真。重い、辛い、必死の日々の中、それでもだからこそ、ダンス凄い! 楽しい! って夢中になっちゃったんだろうなあって。

 劇場が明るくなっても呆然とした気持ちだった。マスクが涙でびしょぬれだった。

 

 これは別にドキュメンタリーとか実話ベースとかいうのではない、エンタメ映画だと思う。もしかしてありえたかもしれない夢物語。ダンスいっぱいで楽しくて、かっこよくって音楽最高で。ごまかさない映画だった。苦しさも。悲劇も。楽しさも優しさも。強さも。愛と平和。どの登場人物もすっごく魅力的だった。誰もが、生きてた。ちびっこも。兵士も。裏切り者さえも。みんな人生を持ってた。

 タップダンス、すっごいね。かっこいいね。最高のきらめきを見ました。

|

« 『アンヌのいた部屋』 (小林久美子/北冬舎) | Main | 『館山』 (三平忠宏/ながらみ書房) »

映画・テレビ」カテゴリの記事