« 『館山』 (三平忠宏/ながらみ書房) | Main | 映画 「初恋」 »

『ロボットと帝国』上下 (アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫)

*ネタバレします。

 

 

『ロボットと帝国』上下 (アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫)

 

 

 グレディアは星空を見上げて、ふと、かつて自分が生まれ若い頃をすごした星、ソラリアはどの星だろうと考えた。しかし、目に見えるわけはなかった。雲も出ている。ソラリアを出てオーロラに暮らして二百年。自分はもうオーロラ人のはずだ。

 いつもそばに控えているヒューマノイドロボットのダニール・オリヴォーとロボット、ジスカルド・レベントロフに、懐かしい名前、イライジャ・ベイリと口にされて驚く。短命な地球人である彼が亡くなってもう160年も過ぎた。

 自分の血筋にあたるというマンダマスとの面会。敵対するアマディロ博士との対面。グレディアはベイリの子孫からの依頼を受けて、はるか昔に去ったソラリアへ再び旅立つことになった。

 もともと人口の少なかったソラリアから、完全に、人間が消えたというのだ。

 

 ロボットシリーズは読んできてて、あとこれだけになったなーと思ってしばらく手を出してなかったんだけど、やっと、読みました。

 翻訳刊行は1988年。本国では1985年か。私が読んだ文庫は1998年の。

 

 もうベイリがいない時代になってるってつまんないんじゃないかなあと思ってたけれど、ベイリは160年前に亡くなったとはいえ、グレディアの心に、ダニールの心にも、彼の印象は強く残っていて、何度か回想シーンというか思い出シーンもあって、けっこうしっかり出番ある~。

 最初っから、ダニールは、ベイリとの記憶をなくしたくはありません、というシーンがあったりしてもえる。二人は友達。精巧なヒューマノイドタイプとはいえ、ロボットのダニールに、けれど深い強い友情愛情、心というほかない感情の流れがあるんだよなーって、また読めてしあわせでした。可愛い。

 

 今回は、事件捜査みたいなことではないんだけれども、宇宙規模、人類の未来への変化みたいな壮大な話になっていって凄い。

 ソラリアから消えた人間はどうなったのかとか、ロボットなのに人間を攻撃することができてしまう、見た目もヒューマノイドな監督ロボットとか、その辺の謎は、わからなかったんだけど。

 

 グレディアはスペーサーでありながら、地球へまでも旅して地上で生きるようになりそうだし。地球を滅ぼそうとしたアマディロ博士たちの陰謀とか結局はとめられなかった、けど、それでいいのか? 地球がいつか人の住めない星になって、地球から人類がセツラー、移植者として銀河へ広がっていくことの方が、人類全体の未来には良い事なのだ、と、ジスカルドは判断したわけだけど。それで、いいのか。いいという確信はなくて、ジスカルドは機能停止してしまった。

 

 人間に危害を与えてはならない。絶対的な第一条。だけど、その前に、個人の人間そのものよりも、人類、という規模での安全、幸福を優先するという第零項を自主的にインプットしたダニール。

 それもイライジャ・ベイリの最期をみとった時の影響で。ベイリが最期まで心配して、最期に側にいたのはダニールだとか最高にもえるやばい。すごい。とても美しいシーンだった……。泣くわ。

 

 

  ベイリは口をつぐんだが、ダニールは辛抱強く待っていた。

  ベイリの目が開いて、ダニールを見つめた、ちょっと眉をよせて。

 「まだここにいるのか? もう帰る時間だ。きみに話したいことは話した」

 「帰りたくありません、パートナー・イライジャ」

 「帰らねばならない。おれはもうこれ以上死を引きのばせない。疲れた――ひどく疲れた。死にたい。その時がきたよ」

  「生きておられるあいだ、ここにとどまることはなりませんか?」

  「だめだ。きみが見ている前で死んだら、きみに有害な影響を与えるだろう。せっかく言ってきかせたのに。さあ、行け。これは――命令だ。きみがロボットだと言いはるなら、それでもいい、ただしその場合、きみはおれの命令に従わなければならない。きみは、いかように力をつくそうとおれの命を救うことはできない、したがって第二条に優先するものはなにもない。行け!」

  ベイリの指が弱々しく指し示し、そして彼は言った。「さようなら、フレンド・ダニール」

  ダニールはゆっくり背を向けて、ベイリの命令に従ったが、これほど従いがたいことはかつてなかった。「さようなら、パートナー――」彼は口をつぐみ、かすれた声で言った。

  「さようなら、フレンド・イライジャ」 

                   (『ロボットと帝国』上/348349

 

 

 イライジャがさー、人間の命を何よりも守る使命を持つロボットのダニールに、自分の死が悪い影響を与えるだろうって心配してるのも最高だし、人間の寿命ってものを知識としては持ってても、その死を受け入れがたく、悲しむことに不慣れなダニールが可愛すぎる。そして最後には互いに「フレンド」と呼び合ったんだね;; ダニールが、友情をちゃんと自覚したんだなあ、そしていつまでも記憶してるんだなあって、感動……。

 

 話しは、人の心っていうか感情を読み取って、影響を与えて少し操ることができるジスカルドを巡る戦いになっていく。超能力者ってことだもんなあ。

 それでも、非暴力の世界なので、わりとみんな丁寧な言葉で喋ってて可愛いなって思う。

 

 グレディアはベイリの子孫のキャプテンと仲良くなっていき、そして長寿のあまり退屈しかないスペーサーとしてではなく、ベイリ・ワールドや地球で演説をぶって、スペーサーと地球人、セツラーとの平和の懸け橋になりたいって感じの使命に目覚めていく。

 ジスカルドの後押しはあったようだけれども、グレディア、スペーサーにしては感情豊かすぎるタイプの女性だったからなあ。

 

 

 地球滅亡計画とか、超能力の伝授とか、壮大だな~荒唐無稽だな~って感じなんだけど、礼儀正しく穏やかに、けれど結局感情の生き物なのかって感じにもなったり、ロボットが神になっていく感じだなあって思って、面白かった。

 

 地球滅亡の危機のぎりぎりのところで、ジスカルドの決断で人類の方向が決まったわけ、だな? 人類は地球を離れていくしかないってことかなー。

 ジスカルドは機能停止してしまった。ダニールに感情が読めるプログラムを残して。ダニール一人が、人類の未来の秘密を背負っていくのね。

 

 

  そしてジスカルドは沈黙した。二度とふたたび話すことも、動くこともなかった。

  ダニールは立ち上がった。

  彼はひとりぼっちになった――その肩に、銀河系を背負って。

                    (『ロボットと帝国』下/331

 

 

 凄い、痺れる終わり方。ダニールの孤独……。

 けれどダニールの記憶には、ベイリのことも、ジスカルドのこともクリアに残っていくんだろう。ダニール、神になるの?

 今作は、ロボットシリーズと、銀河帝国興亡史をつなぐもの、だそう。でも私、銀河帝国興亡史ってゆーのを読んでない。どうしようかなー読むべきかなー。面白そうな気がするというか、どうなってんの。地球人とスペーサーのバトルとかになってんの? 地球人が銀河に広がっていって大冒険とかしてんの? うーん。いつか、たぶん、読んでみようかなあ。そのうちのお楽しみだ。

 

 ソラリアって、そういえば、ロボットに囲まれていて、人間同士の接触はなくて、人と会うのは恐怖、とか、スペーサーはそもそも地球を、地球人を、古臭い世界と見下していて病原菌をいっぱい持ってるから怖いって感じだったな。シリーズのこれまでをちゃんと全部覚えてるわけじゃないけど。

 今、新型コロナウィルスで大騒ぎ、パニックになりそうな現状の中で読むと、なんか、すごく、身に沁みる……。病気は、ないほうが良いな~。

 そして私にもダニールみたいなロボットが欲しいよ。

 

|

« 『館山』 (三平忠宏/ながらみ書房) | Main | 映画 「初恋」 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事