« 『Ange-Mensonge 天使―嘘』 (守中章子/角川書店) | Main | 『アンヌのいた部屋』 (小林久美子/北冬舎) »

映画 「ミッドサマー」

*ネタバレします。

 

 

映画 「ミッドサマー」

 

 

 ダニーは妹からの気になるメールが不安で両親に電話してみる。大学生の彼女は家から離れて暮らしている。妹も両親とも連絡がつかず、恋人のクリスチャンに電話して会いたいと伝えた。彼に依存しすぎてる、よくないって自分でも思いながら。

 妹たちは、自殺していた知らせが入る。家族を亡くして悲痛な叫びをあげるダニー。

 

 夏休み、ダニーはクリスチャンと友人たちがスウェーデン旅行を計画していることを知った。なんで教えてくれないの?とクリスチャンを問いただすダニー。しかしまともに話し合うことは出来なくて。

 ともあれ、スウェーデンへの旅ははじまった。ペレという友人の故郷の村で、夏至祭、ことに90年に一度の大祭が始まる。文化人類学の論文を書こうとしているジョシュ。クリスティンもまた同じテーマで書こうとしていた。(ダニーは心理学専攻)

 

 人里離れた小さな共同体はカルト的な雰囲気。近くに到着するなり葉っぱやお茶でトリップして一服。人々は白い服、花飾りを身に着けている。村独特の祭りのやり方に戸惑いながら、ダニーたちは彼らと行動を共にする。

 

 そんなこんなで、白夜の閉ざされた村。広々とした広場に緑はうつくしく色鮮やかな花飾りにあふれ、共同生活をする建物には稚拙な、だが迫力ある絵が描かれている。村人は歌い、微笑み、ダニーたちを歓迎するといってくれる。ここではみんなが、家族だと。

 

 なんだかツイッターの私のTLでは始まる随分前から大人気って感じで、なんだかすごい、すごいすごい、みたいな期待を煽られていた。アリ・アスター監督、前作の「ヘディレタリー 継承」もなんか凄いと評判だったなあと、この前見ておいた。衝撃はあった~。けど、ホラー、っていうか、ホラー? ホラーって、何だろう。と、よくわからなくなる感じ。

 今作も、監督来日したりして、いろいろ宣伝で、ホラーというより恋愛映画だよ、みたいな発言をちらっとは見ていた。そしてファン(?)たちは、監督はそういうけど信じないぞ、みたいな感じだったと思う。やっぱホラー? けど、これ、ホラーって感じはあんまりしなかった。やはり衝撃シーンはあったけれども、あんまり怖いっってわけでもなかったかなあ。なんかもっと怖くなるのかなとドキドキしちゃったけど、あれっ、終わっちゃった、って感じ。

 ホラーって、何だろうというのが私がホラー苦手、と自分で思い込んでいるので、避けてきたからよくわかんないんだろうな。けど私が苦手なのって、やっぱり日本のホラー、心霊系って感じかなあと思った。グロテスクな死体とか内臓出ちゃうとかはわりと大丈夫。痛そうなのは痛そうでツライけど、怯えるってことではないかなあ。

 それに、「ハンニバル」大好きなので。今作で出てきた遺体の装飾っぷり、あのくらいだったら全然大丈夫、ハンニバルのほうがもっと凄いよねえと思った。というか、ハンニバル、テレビドラマでよくあれやってたな、と、今更ながら思ったわ。

 

 ダニーが最初からとても不安定な女の子で。恋人に依存してよくないって自己分析できてもどうにもできないとか。クリスチャンも友達にはもう一年前から別れたいとかこぼしてたらしいとか、家族を亡くしたダニーなのに、恋人関係も不安定で。クリスチャンもでもまあ学生くんで、若いもんなー。ダニーが重荷ってなっちゃうのも仕方ない気はする。

 ダニーが、彼に嫌われたくなくて、なんとか彼らの空気よもうとして、気の進まないトリップとかもやるとか、機嫌損ねたくなくて自分を押し殺すみたいなのとか、あーいたたまれない気持ち~というのもすごくわかる。

 

 監督は、みんながざわざわした気持ちになってくれるといいなとか言ってたけど、ほんと、恐怖というより、どうしていいのかわからない気持ちになる。

 家族を亡くし、恋人は誕生日を忘れちゃうような不実。ペレは、そこにつけこんで、いやまあつけこんでっていうか、彼はちゃんときみを守ってくれるの? とか、親身になって、僕も孤児だった、ここはみんなが家族なんだ、と、ダニーに優しく近づく。

 この村は、素晴らしい所なのでは? という気持ちになってくる。みんなが助け合って生きてる。誰の子であってもみんなが育てる。みんなが一緒になって歌い、祈り、食事をして眠って家族になって暮らす。

 

 72歳になったら、儀式として飛び降りて自殺するサイクル、っていう文化なんだよ……。夏至祭の時の決まりかな。これは毎年、というか72歳になる老人がいたらその年にやる儀式ってことなのかなあ。90年に一度の大祭っていうのは、生贄捧げるってことかな。

 けど、もだもだと年老いていくよりすっぱり72歳で死んで命を渡す、みたいな宗教、宗教かなあ、信念、生活は、なんか、いいような気がする……。自分で飛び降りするのはこわそうだけど。お茶か麻薬で麻痺しちゃったりするのかなあ。そういうものだと信じて生きていけてれば大丈夫なのかなあ。

 

 彼らは外に出ていく時期もあるわけだけど、外に出て洗脳がとけるっていうかこの村に疑問を持って出て行ったっきりになったりしないのだろうか。やっぱここがいいわーってなるのかなあ。出ていくほどには、また外から引き入れてバランスとれるんだろうか。

 

 外の血を時々入れる、みたいに行ってたから、なんかこう、夢物語的にセックスだけとって殺すとかもあるのかなあ。まあいちいちは殺さないのかな。90年に一度の時じゃなければ。

 ダニーは女王になって、そして多分あの村でペレと仲良く暮らしていく、めでたしめでたし、という感じかなあ。外にもう彼女を引き戻すものはないもの。彼女が生きやすいのはあの村の中だろうなって。よかったねしあわせになれるよきっと。と思ってしまうのは、見てて私も一緒に狂ってしまってるのかなあ。なんか、あの思想に馴染める気がしてしまった。

 いや、けど、あんな共同体、みんなと一緒って耐え難いよな……。

 

 セックスもさー。あんなみんなに見守られて声かけて促されてやって、クリスチャンよくやれたなあ。あれもなんかドラッグ作用とかなのか。裸で走り回って逃げ回るクリスチャン。俳優さんもタイヘンだ。笑っちゃった。

 

 あの村の世界が、ヘンで狂ってると思うけど、なんかいいんじゃないこれはこれで。という気持ちになってしまう。死体を飾り立てるのも見てて私は平気だったし。というかてっきりあのパイの具としてみんなで食べてたのかなあと思ってた。食べてたのかもしれないけど、あからさまなその示唆はなかった気がする。あくまで生贄かなあ。

 

 ダニーはあの村で、あのみんなと家族になれることで、やっと一緒に泣いて寄り添って支えてくれる人を得る。クリスチャンなんかいらない、という選択、するねえ。と、納得してしまった。

 花に埋もれた白夜の祝祭。悪夢のような。けれど救いのような。結構ほんとに若者たちの青春恋愛映画かなあ。ホラーではない気がする。ん~私がホラーのことをわからない……。カルトで、グロテスクさもいっぱいあったけど、眩しく明るくて、色鮮やかな花いっぱいで。ダニーにとっては救いだった、と、言える。

 

 よくこんな、別世界作り上げたなあ。なんだかあの村の世界はそのままでいい気がする。いい気がしてしまうのがこわいような。面白かった、でもないしー。つまんないわけでもないなあ。

 

 あ。年を取って自殺する老人の男の方、ビョルン・アンドレセンなんだって。「ベニスに死す」のあの美少年が。すてきに枯れた老人に~。そっかーと思って眺めてしまった。永遠の美少年がフィルムに生きているのもいいし、年をとるってのもいいな。いいものを見た気分。いい映画、かもしれない。

 なんにせよ、当分きれいなお花、白い服、花冠なんかを見るたびに、ミッドサマー……と心の中でつぶやくことになります……。

 

|

« 『Ange-Mensonge 天使―嘘』 (守中章子/角川書店) | Main | 『アンヌのいた部屋』 (小林久美子/北冬舎) »

映画・テレビ」カテゴリの記事