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『LESS レス』 (アンドリュー・ショーン・グリア/早川書房)

*ネタバレしてます。

 

『LESS レス』 (アンドリュー・ショーン・グリア/早川書房)

 

 

 アーサー・レスはまもなく50歳の誕生日を迎えるあまり売れてない作家。フレディという若い恋人がいた。真剣な付き合いというにはふらふらとした、けれど9年続いた恋人。付き合い始めた時には25だったフレディは30半ばとなり、レスの他の男と結婚するという。お別れのキスから数か月後、結婚式の招待状が届く。レスは、その招待を断るべく、海外でいくつかの仕事をしていく、ほぼ世界一周をするような旅程を立てた。

 西海岸からニューヨークへ、それからメキシコ、イタリア、ベルリン、パリ、モロッコ、インド、京都。などなど。旅先でいくつかの出会いがあり、誕生日を迎える。フレディの結婚式やその後の新婚旅行については考えないつもりが、つい、フレディとの思い出を考えてしまったりもする。いったん断られた小説を改めて書き直す。そして、ついに旅は終わる。

 

 年を取っていくゲイ。というのがテーマであるのか。まあ、殊更にゲイだからというわけでもなく、これって、恋と人生。人類の普遍的テーマだなあ。作者本人がモデルというわけでもないのだろうけれども、まあ、作中でレスが改めて書き直した小説が、この小説に近いものになったんだろうなあと思う。

 

 この小説には語り手がいて、アーサーの旅の様子を描写していく。三人称的な視点、というか、なんだけど、たまに、語り手本人の語りが入ってきて、だんだん、あれ、この語り手は誰だ、と思う。そして終盤には、あー。ああ~。ってなる。レスの旅は必要だったのだろうけれども、何度かレスとフレディのことを聞かれ、結婚式のことがちらっと話題になり。だけど、レスにはわかっていなくて。旅の途中だから。

 

 怪我をしたレスの様子を見にきた、誰か。おっ、と思ったらそれはまだ違う人で。本当に最後の最後にわかる。なんだよ~~~フレディくんの結婚はたった一日で終了、フレディ、本当に別れてしまうまで気づけなかったんだね、自分の相手はレスなんだって。語り手はフレディくんだったのー。ああ~そっか~。

 

 この本の最後は、うちに帰ってきたレスに、フレディくんが呼びかけるところで終わってる。

 

 

 「 いま、あなたが視界に入ってくる、懐かしいアーサー、愛しい恋人、あなたがポーチにいるシルエットを見上げているのが見える。私は何を求めているか? 人々が求める道を選び、安易な抜け道を選んだあとで──あなたは私を見て、驚いて目を丸くする──すべてを手にしながら拒否しておいて、私は人生から何を求めるのか? 

 私は言う。「レス!」 」 (p319

 

 

 これで終わり。とても美しいね。好き。ここで終わってるのだけど、こうしてレスの旅をずうっと語っているわけで、レスはすっかり旅の話を聞かせて、フレディは聞いて、って、また二人いっしょになったんだなあって思う。

 

 同性愛が忌み嫌われていた時代とか結婚なんてありえなかった時代から、今、この小説は現代なのだろうけど、それはつまり同性でも結婚はありで、かといってやっぱり恋は恋、長く続いてうまくいくとは限らないし。レスが出会った友人たちもいろいろで、その場限りの関係もあれば、20年ずっとうまくやってきていても別れることになったり、ほんと、人生いろいろ。恋を、愛を、迷い悩み続けるのは、いろんな程度の差はあれ、人類普遍のものなんだねえと思う。恋をするのもしないのも、そこに同性愛かどうかってことはたいした差があるものではない、か。

 

 一時、エイズ蔓延でバタバタとゲイたちが死んで、その頃には年老いたゲイなんていなかった、みたいなシニカルさがさらっと描かれたりもあったけど。それはそんなことないだろうとはいえ、ゲイヒストリーがあるなーと思う。

 ゲイ文学が、生きるか死ぬかの苦悩みたいなものだった頃とは違って、今作はさらりと軽い。

語り手くんの曖昧さもあって、読みながらなんかするするいかないひっかかりがあったり、そもそもアーサー・レスが、ちょっとドジっ子ちゃんで、なんだかなあ、何やってんのアーサー。という気持ちになったりするんだけどね。本人無自覚だけど、年の割にはちゃんとかっこいい部類なんだろうねえとか思うけど。

 フレディの語りかあ、と思うと、なんかもうそれもアーサー可愛いとかいう感じの惚気もちょっと入ってるのかなって、読み終わると思う。なんだよ。愛しさいっぱいの小説だったんじゃないか。

 

 本の、本文の上の余白部分に、章題が印刷されている。「レス・アット・ファースト」「レス・メキシカン」「レス・フレンチ」などなどなど。訳者あとがきによると、レスは勿論名前で、でも、少ない、的な感じで、どの国にいってもフレンチっぽさには欠けるだとか、こう、らしくないというか、みたいなことでもあるらしい。どの国にいってもそこに馴染めないような。なるほど。

 

 でもページ見開きの、左のページ上に「レス」右のページ上に「アット・ファースト」とかこう、横書きに書かれてるんだけど、左ページ上にはずうっと「レス」と書かれ続けていて、読み終わってみると、あ~~~~なんかもうフレディが、レスの旅の話を聞きながら、ずっと「レス、レス」って愛しさこめて呼び続けているようなものだなっ惚気か! って思ってしまう。愛しいが溢れている。

 

 途中はなんだかふらふら、淡々と、しょぼしょぼの気分になって読んでいたんだけれども、読み終わってみると、なんだよーっもーーーーーっお幸せに! ってなるよ。50歳にして、失恋や再会、再開かあ。若さゆえの激しさはなく、けれど本当に素敵なラブストーリーでした。人生いろいろだね。よかったです。

 

 

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