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映画 「ホテル・ムンバイ」

*ネタバレしてます。


映画 「ホテル・ムンバイ」


 2008年。インド、ムンバイでの同時多発テロ事件。まだ子どもみたいな、少年、青年たちが、マシンガンや手榴弾など武装して、駅や繁華街で人々を殺していく。高級ホテルとして外国人客も多いダージマハル・ホテルもその標的となった。
 多くの宿泊客。従業員。テロリストの問答無用無差別の殺戮の中で、懸命に生き残る。

 実際の事件なんですよね。あんまりちゃんと記憶してない。11年前か。同時多発テロ、って、アメリカで9.11があったのが2001年か。テロの恐怖って、ほんと、現場の悲惨さが……。
 この映画の中では、犯人側、実行犯の青年たちはたぶん狂信的に洗脳されてるような感じ、というか、イスラム以外は人じゃないと信じ込まされている、信じている、彼らにとって聖戦っていうのは本気なんだろうけれども、けれど、街で、ホテルで、無差別に殺していく人々は、敵じゃないだろ、と、苦しくて悲しくて怖くてたまらなかった。

 ホテルの従業員たちにも家族がいる。今なら裏口からひそかに脱出できる。という時に、逃げるのは何も恥じゃない、いいんだ、って、料理長が促してあげるのよかった。かっこいいよ料理長。
 そして残った従業員たちは必死に、お客様を安全に誘導し、落ち着かせて静かに助けを待つ。
 怖い、ということでパニックになりかけそうな客とか、ほんと、ハラハラする~~~。

 ドキュメンタリーではなく映画なので。かっこよくヒーローが描かれる、というほどでもないんだよなあ。みんな一人一人がヒーローである、とも言えるけど、そしてそれぞれ本当に立派な人も必死の行動も描かれていたけど、殊更な劇的さというわけではなく。スーパーヒーローはいない。誰もがただの一般人、という感じが、すごく苦しかった。

 レストランで働くアルジュンが一応主人公かな。彼に始まり、彼が家族のもとへ帰れたことで終わる。かっこよかった。合わない靴とか、大事なターバン、ターバンじゃなかった、何か、あのー頭巻いてるやつのことを丁寧に話したり、けど人の命かかってるときには躊躇なく外して傷をおさえて、とか。彼の誠実さみたいなのがじんわりとよかった。
 やっと、脱出できて、原付でほわーっと家族の所へ帰って。小さい娘に沐浴させてる妻の姿見て、ちょっとはにかむようにしてたのが素敵で。家族を見つめる。大声あげて駆け寄ったりしないんだなあ。しみじみと嬉しくて、生き延びたって思えたんだろうし、大事件の非日常から、自分の暮らし、自分の日常に戻って、ちょっと気恥ずかしい、みたいな感じがすごく、よかった。

 アーミー・ハマーが人質になるアメリカ人、で出てて、さっすがビューティフルで見惚れた。すっごく金持ち? マハラジャとかいう感じ? のインド人の妻ザーラの、愛する夫デヴィッド。金持ちのアメリカ人やイギリス人は人質にしろ、ってテロリストの方針。
 赤ちゃんがいて、ナニーの女性がいて、って、まあ、金持ちですなーという感じなんだけど、赤ちゃんを守る、という一心で行動する。
 アミハマちゃんが演じてるといえど、ただのアメリカ人なので、テロリストをやっつけたりはしない。できない。銃を持ちざくざく人を殺してる相手に、丸腰で出来る事なんてほとんどない。捕まるし殺されてしまった;; ショック。とはいえなんとか反撃するとか命からがらとかで生き延びるのではと思ってたの。
 テロリスト、ほんと、自分の命も最初から捨てる気だから、人殺すのもためらわないんだよなあ。
 唯一ためらったのが、妻、母であるザーラが銃をつきつけられて思わずイスラムの祈りを口にしたとき。
 イスラムでなければ人じゃない、という彼らにとって、アッラーの名を唱えて祈る彼女は人、なんだな。そしてやっぱり、人殺しは嫌なんだ。辛い……。

 あと人質の中のロシアン・マフィアっつーか、元特殊部隊だったとかいう、下品な、けどザーラを助けてくれたおっさんがいて。彼もかっこよかった。けど。けど、普通というか、映画的には彼が目覚ましい活躍をして人質を助けるとかになってもいいのに、彼も抵抗は示したけど、結局は殺されてしまう。
 銃をためらいなく撃つ相手に、丸腰、無理……;;

 赤ちゃんが泣いちゃう、気づかれる、殺される、というハラハラがありつつも、赤ちゃんが無事逃れられて、ほんとよかった。
 ザーラも脱出できた。ほっとした~。

 大勢が、あまりにもあっけなく殺されていった。助かった人もたくさんいて、よかった。
 本当に本当に、彼ら一人一人がヒーロー。だけど、どうしようもなく苦しい。テロリストたちの被害者は、ただたまたまそこにいただけの、普通の人たち。たとえ金持ちだったとしても、それは敵で殺していいわけない。無関係、みんな、ただの人なのに。

 実行犯たちを、多分訓練し、多分洗脳し、信仰の狂気にかりたてた、ほんとの悪人、親玉みたいなやつが、ずっと電話で指示したり、悲鳴が聞きたいから電話を切るなといったりしてて、電話の向こうの声に、お前が~~~悪い奴――っと怒りがわくのに、そいつはまだ捕まっていないという。事実の、重み。苦しみ。
 悪が制裁されてすっきりおしまい、ではない……。

 実行犯たち、家族にお金がいくから、っていうことも動機の一つだったみたいで、その親玉が家族にお金出すっていってたらしいけど。騙されてるのでは。家族、お金もらったりしてないのでは。青年たちは単に使い捨てされたのでは。ほんと、苦しい。
 テロリストは悪。だけど、あの青年たちが、単純に悪いって言いきれない。いや、すごく、めっちゃめちゃ人を殺してて、悪いのは決まってるんだけど。悪、って、一体……。
 
 ずっしり重く苦しい、見ごたえたっぷりの映画でした。

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