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『混乱のひかり』 (加藤治郎/短歌研究社)


『混乱のひかり』 (加藤治郎/短歌研究社)

 第十一歌集。

 55歳(2015年1月)から59歳(2019年6月)までの476首を収めた、とのこと。白くて、黒いタイトルがシンプルで美しい大きくて重い(物理)歌集です。

 作者の暮らしが見えるような、けれど詩である浮遊感に漂っている感じがきれいだった。
 帯に、「今度は、「普通の歌集」を作ろうと思った」とあり、前のはレイアウトに凝りまくったやつなんですよね……すみません読めず。で、今度の「普通の歌集」は私にも読みやすく、といっても多分私は歌集全然読めてないんだろうねえ、多分全然いい読者ではないですよねえと思いながら、自分なりにすいすいと読んだ。
 歌、作者、の安定を思う。私なんかが言うまでもなく歌を作ることはとても上手い。なので読んでツライことはなく、差し出された世界をなるほどと安心して味わえる。

 たくさんの社会詠、時事詠。その手触りの生々しさを、私は記憶力なくてわからなくなっているけれども、歌にしているって、歌集にまとまって読むって、大事なのかな。

 時々のオノマトペとか記号だとか入るのも控えめな感じ。詞書で物語的に情景が浮かび進むのも読みやすかった。親切な歌集をどうもありがとうございます。

 いくつか、好きだった歌。

  シャッターは灰色の舌、野良犬のどこにもいない三十一番街  (p15)
  錆と葉のからむ廃園(もうだれも監視していない)さらさらと消ゆ (p17)

 「冬の遊園」という一連から。閉鎖された遊園地、という舞台。「シャッターは灰色の舌」という言い切りがかっこいい。野良犬がいない、といわれることで野良犬を幻視させる手法も決まってる。
 廃園。というのが、単に遊園地の感じではなくて、天国めいた楽園が荒れ果ててしまったようなイメージを持つ。そこに入る「監視」という言葉の強さとバランスがかっこいいと思った。けど結句「さらさらと消ゆ」はいかがなものか、って気がする。

  早々の小さな文字を便箋に飾るおそらく庭に立つ人  (p26)

 「恋」という一連。先生という人物。誰なのか何なのか私にはうまくつかめなかったのだけれども、この一首にはなんだかとっても惹かれた。手紙の終りとしての「早々」なんだな、と、あとで思った。一読めは、「くさぐさ」って呼んじゃった馬鹿ですみません、なんだけど、下句の「庭」にひかれたんだと思う。草花の話を書いてるのかと思った。「おそらく庭に立つ人」というその人の表し方も素敵だと思う。

  (お)気持ちはだれにでもある夏雲の影が道路をよぎるときのま (p63) 

 気持ちは誰にでもあるよ、夏のひかりと影のつかのま。の歌、だけれども「(お)」がつくと、これはネットで見かける、「お気持ち」といって女性や弱い気持ちを言う相手をからかう、蔑む言い方、ってことだろうと思う。()に入れることによるささやかな抵抗だろうか。こういう言葉をさらっと歌に作れる、時事性っていうか、社会詠っていうか。うまいと思う。

  幾本も錆びた線路が横たわる俺の居場所はおれの体だ (p99)

 これ三句切れでいったん場面が変わると読むか、全部一息に読むか私にはちゃんとわからないんだけれども。錆びた線路が続く乾いた茶色みたいな景色が「居場所」で「おれの体」という把握が面白かった。荒涼とした感じ。言い切ってるのもかっこよかった。

  そっちに行けば苺畑が見えてくる永遠病のぼくたちのため (p141)

 「苺畑」と「永遠病」って、なんだか、うわあって思う。「ぼくたち」だし。甘酸っぱい。ロマンチック。80年代90年代初めって感じ、と、思うのは私がそういう時を懐かしい時って思って持っているからかなあ。ともあれ、この言葉の並びはすごいなあって思った。

  炎天の博物館の階段を上がるわれらは骨をうごかして (p147)

 外は炎天、だからなおさら博物館の中はひんやりと乾いている、その冷たい空気感を思った。その階段を上がる、「骨」というワードが博物館にすごく似合っている。骨を動かして動く、歩く、のはごく当たり前のことなのに、この場とこの時の感じとして、急に骨が意識されるの、なんとなくわかる気がした。

  そしてp173~「混乱のひかり」。 平成元年から平成三十一年、今年2019年までの一年一首ずつの短歌による個人年表。
 これは短歌研究での企画なんですよね、確か。多分。こうして個人の振り返りを歌にして綴ることができるって凄い。そして読んで面白かった。そんな毎年のこといろいろ覚えてるものなのか。いろいろ資料あたって思い出したりしたのか。すごいなあ。詞書と短歌でちゃんとわかるの、すごい。そして平成の前からずっと歌人だったのかーと思った。凄いなあ。


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