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『死者の国』(ジャン=クリストフ・グランジェ/ハヤカワポケットミステリ)

 9/14、15は、ハリコン21に行ってきました。マッツ・ミケルセンと写真!サイン! と、大興奮でその後、ぐったり。マッツ最高かっこよくて優しくてあったくて、幸せいっぱいもらいました。最高おぶ最高だったので、その後のぐったりもマジぐったり~。そんな中、がっつり本も読みました。

*ネタバレしています。

『死者の国』(ジャン=クリストフ・グランジェ/ハヤカワポケットミステリ)


 ステファン・コルソはパリ警視庁犯罪捜査部第一課長。口を耳まで裂かれ、咽喉には石を詰め込まれ、自らの下着で縛られて窒息するよう仕向けられたストリッパーの殺人事件を捜査することになった。
 最初は他のチームが捜査していたが手掛かりが見つからない。改めてコルソに回ってきた事件を解決すべく、コルソのチームが細々と調べるうちに、次の死体が出てしまう。手口は同じ。調べを進め、殺された彼女たちの異様な性癖、極端なマゾヒズムや死体愛好がわかる。
 そして、秘密の恋人が実は共通の男だったことも。フィリップ・ソビエスキという、画家は、かつて婦女暴行、殺人で刑務所にいる間に、学び、絵の才能を見出されて、出所を嘆願されるまでになり、出所後はリベラルを気取る上流階級にもてはやされる画家として知られていた。
 コルソはソビエスキを追い、犯人と確信して突っ走る。状況証拠から捕まえたものの、裁判は簡単にはいかなかった。

 そんなこんなで、まず本が分厚い。ポケミス、二段組なのに765ページだった。重いぜ。レンガ本だぜ……。
 『クリムゾン・リバー』の作者、というので名前は憶えてる。映画も見た、し、本も読んだ、と思うけど今はっきりは憶えてないかなあ。ともあれ、がっつり面白いだろうという期待はあって、分厚さにも負けず読み始めると、エロスとグロ、というか、全編かなりの、暴力的セックスに満ちている作品だった。面白い。

 そもそもコルソが、なんだかあぶなっかしい。ちょっとすかっとするか、みたいなノリで麻薬捜査に飛び入り参加して捜査の挙句犯人を殺すことになったり。妻と離婚でもめている、息子が大事で親権をとりたい、何故なら妻はついていけないほどに過激なSM志向があり、自分を切り裂く等要求が増すばかりで危ない。彼自身の欲望も、聖女処女を穢したいという妄想じゃないと快感がないみたいな歪んだ方向なのが悩みだったり、育ちが辛くて、親は不明、ティーンのころに麻薬に染まり、売人に性奴隷にされて地下に監禁されていた所を、警察のカトリーヌ・ボンパールに救い出されたことが今、警察になっているきっかけ、という。過酷だな~。と思っていたら、終盤、コルソのその生まれ育ちも、重要な伏線だったのねというものだった。

 わりとささっとソビエスキが怪しい、と目星がついて、コルソの暴走気味な捜査と優秀なチーム、というかバルバラね、彼女の活躍で逮捕には至るんだけれども、決定的な証拠がない。コルソはあちこち飛び回り、今度こそ、って追い詰めるけど、やっぱりソビエスキのほうが上手な感じ。ソビエスキに、クローディアという凄腕の弁護士がつくし。

 クローディアが、ソビエスキは罠にはめられているのだ。真犯人は別にいる。と、最初っからコルソを煽る。
 私も読みながら、コルソの捜査とか思い込みがなんだか危なっかしいし、これは、なんか、すごく間違えたことをしてるんじゃないのー?? 隠されているのは何? 真犯人は?? ともどかしく違和感もちながらぐいぐい読まされた。分厚さにも負けない面白さだった。

 結局真犯人はクローディアだった。ソビエスキが若い頃、あちこちで強姦してたの、その時に生まれた子どもがいて、実は最初の被害者のストリッパー二人、イギリスで殺された麻薬売人、クローディア自身もその被害者の子供だったの。クローディアは、おぞましい強姦によって生まれた自分自身を呪い、父を呪い、父の血を呪って、抹殺し根絶やしにしなくてはならないと考えたのだった。
 最後の最後、クローディアが、自分も自分で縛るという他殺めいた自殺をして、自分たちの棺の隣にコルソの棺も並べていて。手紙にすべて打ち明けていた。
 コルソもまた、ソビエスキの強姦によって生まれた子どもなのだと。
 クローディアの手紙を読みながら、私、コルソはこの手紙を読み終わって、もしかしたら息子も道連れに自殺しちゃったらどうしよう、と、最悪の想像して震えながら読んだ……。

 クローディアの狂信の呪いに、私がかかっていた。
 コルソは、かからなかった。息子のタデは素晴らしい天使のように愛すべき息子で、自分はそのために生きるのだ、と、歩き出す。クローディアたちが待っている<死者の国>に、行くとしてももっと先だ、と。
 それが本当に救いなのかどうか。あまりにもずっしり分厚くこの小説を読んだ私には、やっぱりコルソはあぶなっかしく見えるし、息子くん、ほんとちゃんとまともに育ってくれよ頼む、と、祈るしかない。
 
 自らの血を呪うことが生きがいになり報復のためだけにやりぬいたクローディアはいあかにも優秀な弁護士であってもやはり狂気に陥っていて。ソビエスキの血の因果がどんだけ強烈なのかと、暗澹たる気持ち。こんな、親のせいで子どもはダメで生きる資格がない、みたいな話、ひどすぎる。それでもコルソが生きる道へ進んだのが、よかったのかなあ。
 ずっしりずっしり重い、物理的本としても話としても、重い小説だった。血と死と異様なセックスいっぱい。よくもこんなに書き上げたなあ。読み応えずっしり。満喫しました。

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