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映画 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

*ネタバレしています。


映画 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」


 1969年、ハリウッド。リック・ダルトンはかつてテレビスターとして主役をはっていたが、今は落ち目。若手の人気俳優にやられる悪役として単発ゲスト扱いの仕事をしている。映画俳優に転身しようとしていたがうまくいかなかった。
 スタントマンとして長年相棒のように一緒にいるクリフ。仕事はほとんどなく、リックの運転手や雑用をこなしている。リックを励まし、支えながら自分はトレーラーハウス暮らし。犬と仲良し。
 リックの隣の家に、ロマン・ポランスキーが引っ越してきていた。その妻、若き新鋭女優シャロン・テートも。
 街にはヒッピーがうろつき、ハリウッドが変化しつつある時。
 全盛期の夢の中に取り残されているようなリックとクリフ。それでも彼らはなんとかこの街で生き抜いていく。

 8/30公開で見たい映画多すぎ問題だったのだけど、やっとこれで私の中では一段落。公開前から、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの共演ってんですごく宣伝されてたし、タランティーノ監督だし、どんな二人の共演なわけ?? と、すごく楽しみに待ってた。
 二人は、冴えない中年として、かつての栄光から遠くなった今をあがいたり諦めたりやっぱりあがいたりして一心同体になってる相棒だった。
 リックの方が精神的に弱いというかぐずぐずにアルコールに溺れたりしてて、泣いちゃうぞ、ってクリフの肩に顔埋めたりしちゃうんだ。しっかりしろよ、ってクリフはいつもリックを励ます。運転手になったり、倒れたテレビアンテナ直しといて、って便利屋みたいに頼まれることにも慣れてる風なクリフ。安定した人格かなあと思うけど、喧嘩早いとこもあるんだよなあ。ブルース・リーとやりあったり。

 ヒッピームーブメントみたいなのがいまいち私はわかってないんだけれども、ヤバイ集団という感じは、やっぱこの事件のせいか? まあそうでなくても、フリーセックスみたいなのとか、ドラッグとかやばそうな感じはすごくあるけれども。
 クリフがヒッチハイク探してる女の子を拾って送っていって、そこでまともな大人っぽいふるまいするのを若者たちが嫌悪の目で見る、とかの感じ、すごいひりひりする。
 けど逆にクリフにボコボコにされちゃったりするのな。
 クリフと絡むヒッピーの女の子やってる子がすごくきれいで表情豊かでよかったなあ。

 リックが必死で演技がんばったり、最初は馬鹿にしてたイタリア映画で金稼ぎにいったり、ついでに女優と結婚したり。リック・ダルトンは架空の人物だっけ? と疑問に思っちゃうほど、キャラクタとしてというか、生きて、そんな男がいたのかもという感じがすごい良くって。さっすがディカプリオ、上手いですし。
 そんな風に生きてる彼、彼ら。そしてシャロン。そういう日常、もちろん俳優たちなのでちょっと特殊な、でも彼らにはそうであるところの日常が、切なくもキラキラとたっぷり描かれていた。
 監督が、この時のハリウッドという夢の世界を、物凄く大好きで憧れていて、原点にしているんだろうなあというのがずっしり伝わってくる。

 リックに、10歳くらいの子役の女の子が、今まで生きてきた中で最高の演技だった、って耳打ちするシーン。予告で見た時には、そんなちびっこの生きてきた中でなんて、クソが、って感じかと思ってたんだけど、あれは結構、よし俺様はリック・ダルトンがよくやったぞ、と、女の子にも褒められ自分でも自分を褒める、的な あいむふぁっきんりっくだるとん、だったなあと思う。
 あの前に、女の子が意識高い俳優としてクールな様とそこで読んでる本に絡めて自分が悲しくなる感じのやりとりがあって。セリフ忘れちゃったりの後で、自分を奮い立たせての演技シーンだった。ディカプリオの、おっさんになってからのああいう迫力というかテンションの突き抜け方すっごいよね。好き。

 でかい高級車の運転するクリフことブラピ。薄汚れたしょぼめの車運転するクリフことブラピ。屋根でアンテナ修理の時上半身裸サービスくれるブラピ。犬をしっかりしつけていて、ドッグフードをなんだかまずそうに、でもぺろっと味見したりして出すクリフことブラピ。喧嘩強いクリフことブラピ。トリップして押し入ってきたヒッピーの若者たちを返り討ちにしちゃうクリフことブラピ。いろんなブラピ、かっこよくてだるそうで、けど可愛くもあり、渋い大人の男でもあるブラピ。夢のようなブラピも詰まっていた。ほんっとあのだるそう~なへらっとした感じ最高だよねー。

 そう。ヒッピーたちが押し入ってきちゃうのが、ポランスキー邸じゃなくて、リックんちだった。びっくり。
 なんとなく、シャロン・テート事件、有名監督の妻であり妊婦である若い女優がカルト集団に殺されたというのは知っていて。で、シャロンが可愛くきれいに素敵に、嬉しそうに、妻として女優として、暮らしているのを見てはハラハラして、いつくる? いつ殺されてしまうことに?? と思っていたんだけれども、最後まで、彼女は殺されなくて。
 ああ、これは夢の映画なんだなってすごく納得した。

 映画は夢を見せてくれる。
 もしもあんな不幸な事件が起きなければ。シャロンが無事に生きて、わけのわからないひっぴー集団をお隣さんが撃退、なんと火炎放射器で丸焼きにしちゃったりしたりもして、死ぬのは犯人の方、ってことだったら。
 この、若者たちをボコボコにやっちまうのはさすがタランティーノ監督~て感じで酷いバイオレンスだったけど、まあ、今回そういうのはそこだけだったな。
 そしてつまり、シャロンという被害者を被害者にしなかったという、夢の映画だったんだなあ。

 もしも。もしも。もしかして。あんな悲惨な事件がなかったら。そんな風な願いのある映画だった。
 リックは悲惨に落ち目になっていくばかりじゃなくて、今度はポランスキー監督作品に出るかも。スタントマンが必要になるかもしれなくて、クリフは怪我から早々に回復してまた一緒に仕事をするかも。
 夢の世界がまだまだ続くかも。

 切ないなあ。
 人も街も変化する。子どものころ憧れた世界は大人になってみれば全然違う見え方になるかも。それでも、あの頃の夢をこうして映画の中に閉じ込めて作り上げることもできるんだなあ。

 リックが出演してるドラマや映画が、なんかいかにもな大仰さとかかっこつけまくりとか、すごく懐かし面白そうですごくよかったし~。
 「俺のFBI見るか?」ってクリフとリック一緒にテレビ見てるのとか、素敵幸せ楽しそうですーっごい、いい。
 なんだかだらだらと長いなあ、とちょっと途中思わなくもなかったけど、見終わってみると、ああ、なんだかだらだらと長い日常をこそ、撮る映画だったんだ、あったかもしれない日常を。救われるかもしれない日常を、と思って、すごくよかったなと思う。
 タランティーノ監督、映画大好きだよねえ。愛があるってすごくいい。私も映画大好きだな。

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