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映画 「アド・アストラ」

*ネタバレしてます。

 

 

映画 「アド・アストラ」

 

 

 「アド・アストラ」ラテン語で星の彼方へ、という意味ってネットで読んだ。


 近未来。ブラッド・ピットが演じるロイは宇宙開発に携わる少佐。宇宙開発、軍が仕切ってるみたいですね。常に冷静で繰り返される心理状態テストみたいなのはさくっとクリア。宇宙ステーション、あれは成層圏くらいにあるってことなのか。外での作業中にトラブルが起きて、地上に落下、となっても、冷静。落下しながら現状報告、パラシュートを開いて、そのパラシュートが破片で破れつつも、地上に生還。


 軍に呼び出されたロイは、リマ計画について聞かれる。かつて地球外生命体を探すために旅立った宇宙船。その船長はロイの父だった。16年前から消息不明の父が、太陽系の端で生きているかもしれない。
 サージ、という大規模な電波嵐(だっけか。なんか、電気的衝撃らしい)が引き起こされた原因は、そのリマ計画の船が海王星だか冥王星だか、そこで反物質をつかっているせい、らしい。ロイに、まだ無事な火星基地へ行って、父へメッセージを送って欲しいという。
 ロイは信じられない思いながらも、イエスというしかない。極秘任務として月へ、それから火星へと、旅立つ。

 

 

 ブラッド・ピット最高の演技! とか絶賛されてるらしい。確かに、とてもよかった。
 これ、どーんと派手にするんなら、というか、非常に抑えられてるけど、地球滅亡の危機を救うことを託された男の話なんだよなあ。こんな物静かな、地球の危機を救う話、なかなかない。サージ、っていう電気的危機、は、かなりヤバイみたい、なんだけどその辺の描写はごくわずかで。宇宙、太陽系の果てまで旅する物語だけれども、徹底的にただロイ一人の物語として描かれている。

 

 ロイのモノローグいっぱい。一人になりたい男。一度は結婚したけれどうまくいかなかった男。常に冷静で、危険の多い宇宙探査のために身を捧げます、といいながら、つまり父の背中を追って孤独に浸る男。感情がない、という感じ。共感もしない、だから危機的状況になっても冷静でいられる。他人の命、自分の命すら、大事にしていないから怖くない。ただ状況に対処するだけ。

 

 途中、救難信号出してる船に助けにいく、とかで、結局ロイが行くんだけど、その、返事のない不穏な宇宙船の中、血とかあったりして、なかなかのホラー感。で、突然、生物実験のチンパンジーかな? が、凶暴化して襲ってきたりして。エイリアンがシャーって出てくるのかとドキドキのところで、しかしやっぱ怪物化した動物とか、こわ~~~。
 そんで一緒に行った人はヘルメット壊れて。ダクトテープでふさいで直してたぞ。やっぱり万能、近未来にも必需品ダクトテープなのか! って思っちゃった。

 

 いろいろと、なんとなく、エイリアン とか、火星の人 とか2001年とかもかなあ、宇宙の映画をちょっと連想しながら見ていた。

 

 ロイが、優秀な男でありながら、登場の時からすっかり何もかもに疲れた男、という感じでなあ。プラピ、こんな疲れ切った中年をやるんだあと思った。
 それにしても、それが、ほんとうにとってもよかった。
 ヒーロー的アクションするでもなく。淡々と黙々と状況に対処。心理テストのために今の自分を語るけれども、大丈夫だ、というようなことばかり。

 

 火星の地下基地について、父へのメッセージを読み上げる。メッセージ、軍から用意されたものを読むしかない。けれど返事はかえってこない。多分星の動きで、届く周期みたいなのがあるんですね。もう一度、ということになって。
 ロイは、用意された文章ではなく、自分のほんとの言葉で喋る。それが初めての、ロイの心からの言葉。父と白黒ミュージカル映画を見たよね、数学を教えてもらったこと忘れていない、父に誇りに思ってもらえるような職業についたよ、会いたい、というようなことを。
 ことさらな大げささはなくて、深く耐えながらのロイの言葉。わずかに潤んだ瞳。抑えた演技ぐっとくる。

 

 そして、火星の基地の長官の女性もまた、リマ計画で両親を亡くした人だった。ロイに、隠されていた通信記録を見せる。太陽系の果てまできて、船員が反乱起こしたのを、ロイの父が粛清したっぽい。
 ロイの父は、地球外生命体を見つける、という妄執に囚われているのだ。

 

 ロイもなんか暴走しちゃって、地球に帰れって命令されてるのに、核兵器持って危機の排除に向かう船に無理矢理乗り込む。で、その勢いで乗組員皆殺しっすよー。マジか。
 なんか、えええええ??? って思っちゃう。害するつもりはない、っていっても乗り込まれた方は困るし~。司令部も始末しろみたいなこと言うし~~~。だからってそこで殺し合いになっちゃう???

 

 まあ、そんなこんなで、冥王星だか海王星だかに向かってロイ一人で旅立ちます。わりとさっくり目的の船を見つけて、父は本当に生きていた。

 

 父も、結局乗組員皆殺しにしてるんだなあ。地球外生命体を見つけなくては。失敗できない、とか。狂気に陥ってる。一緒に帰ろう、というロイ。
 一度は一緒に船の外に出るのに、そこで父は暴れて宇宙の彼方へ……。マジかー。

 

 お父さんの妄執に取りつかれた、けれどもなんだかやっぱり物静かな佇まいはとてもよくって。ロイ、そっくりじゃん。
 こんなところまで一人で追ってきた息子に、父は、一緒にやろう、って誘う。地球外生命体を見つけに、俺とお前ならやれる、ってさ。狂気。おとーさんの山師っぷり、狂気だろうと思って私泣いちゃう。ロイはこんな父、もう駄目だってわかってるだろうに、一緒に帰ろうって言うんだよなあ。


 父と息子の物語なんだなあ。父の妄執が、思いがけず地球の危機を招き。それを止める役、であり、もう一度会いたい、で、息子ははるばる宇宙をかけていくんだなあ。なんつーはるばる、壮大な、親子物語なんだ……。

 

 もうほんと、人類、宇宙にいくの向いてないし。地球で生きるのも向いてないって感じ。人類、行き詰まってるんじゃなか……。辛い。

 

 それでも、ロイはなんとか、地球へ帰ろうとする。いつも一人で、孤独でいたかった男が、家に帰りたい、地球へ、帰りたいと心から思えるようになったのね。
 父の懸命な探査、集めた貴重なデータ。生命体は見つからなかった。地球で生命は孤独、ひとりぼっち、ということで。その孤独に、耐えられなかった、の? 地球から遠く離れていくことに。宇宙の中で地球だけしかないということに、人は耐えられないのか……。

 

 だからこそ、地球が愛しくなるのか……。ロイは地球を目指して、地球に帰り着いて。助けにくる人影を見て涙をにじませる。一人でいたかった男が、もう一度、人間らしさを取り戻す物語だった。
 この、帰り着いて涙を浮かべるブラピは映画の中で一番の綺麗な顔でハンサムになってた。厭世的で疲れ切った男としてずーっとさえない顔してたのになあ。さすがだ。

 

 と、かなり淡々と重く暗いトーンでぐっときてよかったんだけれども、なんかちょいちょい、それでいいんですか??? という気にもなって。
 結構人間の扱いがぞんざいというか。月面で略奪? だかなんだかで、襲われた時にもやられた人おっことしていくし。宇宙で人死んだら宇宙葬~で捨てていくし。まあ死体置いとく余裕はないってことかなあ。宇宙って過酷……。

 

 あと、リマ計画の船から自分がのってきた船に戻るのが、外壁とってシールドにして小石ベルト地帯に飛び込んで行く感じとか、それは??? どういう推進力?? つか石に当たった時点で方向変わってしまうのでは?? よくわからなかった……。主人公様だからいいのか??
 ロイの勝手な独断、横暴、で、人が死ぬはめになったり、というか殺したりしてるのに。地球に戻ってラストには別れた妻とまた会おうとしてたりして、ロイおとがめなしですか?? 一応地球救った感じになったからオッケーなのかな? それともそれなりに刑期かなんかお勤めした後の、再会シーンだったのかなあ。わかんないけど。わからない。うーん。まあいいか……。

 

 宇宙軍もなあ。あの辺にいるよ、ってわかってるなら捜索隊出さないのか?? 今度の障害が起きるまでそこにいるってわからなかったのかな。んー。地球から離れすぎることに人間は耐えられないって感じだから行かなかったのか。んーー。
 つくづく、「火星の人」のワトニーくんは凄い。偉い。超人。

 

 ブラピの声を堪能、抑えた演技のうまさを堪能。宇宙規模とはいえ結局クラシカルな父と息子の物語を堪能。渋い良作でした。

 

 

 

 

 

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『なめらかな世界と、その敵』 (伴名練/早川書房)

*ネタバレしてます。

 『なめらかな世界と、その敵』 (伴名練/早川書房)

 短編集。知らない作家さんでしたが、早川のツイッターでの煽りに煽った宣伝に釣られて電書買って読みました。

 「なめらかな世界と、その敵」
 「ゼロ年代の臨界点」
 「美亜羽へ贈る拳銃」
 「ホーリーアイアンメイデン」
 「シンギュラリティ・ソヴィエト」
 「ひかりより速く、ゆるやかに」

 一つ一つゆっくり読みました。宣伝にあおられまくって買うことにしたものの、多分あんまり私の個人的好みではない、だろう、と思って。けどなんかこの勢いにのらなくちゃ、という気持ち。読んで、やっぱり、正直私の好みの世界ではなく、なるほど、と思う。
 けど、物語一つ一つ、その世界の仕組みというか、SF? ここはそういう世界、というのを、読みながら不思議でわからん、って所からしゅっとピントが合う感じに、思考させられるのがとても面白かった。
 そしてそれはとても清らかで、切実な願いと美しさに満ちた物語で、とっても綺麗だった。

 なめらかな世界と、 は、並行世界の話か。並行世界が当たり前に生きている中で、世界が一つになっちゃった友達がいて、その友達を選ぶ、という感じ。
 ゼロ年代 は、if な歴史っつーか。架空のSF史、かなあ。明治時代くらいからの、女学生が日本のSFをひらいた、みたいな所からの話。

 美亜羽 は、偽装結婚? 脳に機械を埋め込んで理想的人格を、みたいな、だっけ。ちょっとよくわからない。『クロストーク』を連想したりしたっけ。ミアハ、ってまたこれ伊藤計劃か、と思ってうんざりしたんだっけ。まあ、うーん。伊藤計劃の作品自体は好きなんだけど、その後とかその周りとかその神格化みたいなのが私はついていけなくて、わりと読むの受け入れられなかったのかな。わからん。

 ホーリーアイアンメイデン は、古風なお手紙文体。人の心を平和、というか無気力にしちゃうんだろうなあ、特別な力を持つ姉と、ただ一人その力から逃れる妹。第二次世界大戦中みたいな感じの世界か。徐々に明かされていく妹のこころ、たくらみが面白かった。

 ソヴィエト は、AIがめちゃめちゃ発達したソ連、アメリカみたいな世界。月へ行ったアメリカ、一方ソ連は電脳世界を制した、みたいな感じか。騙しあいが面白かった。

 ひかりより速く は、新幹線で修学旅行に出かけたクラスメイトたち、と、行かなかったために残された僕と友達の姉。新幹線が止まってしまった謎。止まっているのではなく、その中では時間が極端に遅くなっていて、新幹線の中の一秒が外では300日くらいかかる、みたいな感じ。どうにかその中の友達を救いたい、と思って僕、頑張る。

 全体的に、なんとなーく、百合、というか、特別な女の子の世界のためにがんばる僕、という印象がする。このところ、なんとなーく、百合!百合でしょ百合!百合は素晴らしい!みたいに、ジャンル総出で新たな読者へ広がれみたいな宣伝してるのが、どーも私にはのりきれず。それは個人的好みで、私は百合にはあんまりはもえないので、あ、そうですかかんばってね、という風にひいてしまうからなー。(かといってBL!BLでしょほらほら!って宣伝されたとしても、あ、いえ、ってひいてしまうとは思うんだ。まあほんとは別に何でもよくて、面白い小説、の中に、自分が好きーってなれるキャラがいるかどうか、で、私はまあ基本的に色気あるいい男大好き、ってことだ)

 で、別にこれも、ほらほら百合でしょ、って言われてるわけじゃないんだけれども、清らかに特別な素晴らしい女の子の世界、という風に描かれているなーと感じられて。その切なさがよい、と思えてキャラが好きってなると最高なんだろうなと思う。
 ひとつひとつの世界の作り上げ方面白いと思ったし、それが見えてくる文章の描き方もよかった。
 面白く読んだ。けど、やっぱり宣伝で煽られまくってるほどには私は良いと思えなくて、まーやっぱ好みではないです、ということで。自分の好みは自分がわかってるとおりだなーとやっぱり思ったところでした。SFに詳しくもないしSFファンですっていえるほどでもないので良い読者ではないですし。

 読みの幅を広げられない自分が不幸、かなあ。
 けど、今更広げようとしなくてもなあ、とも思ったり。ん~。
 それなりにこれからも、ちょっとでも面白そうと思ったら読みましょう。もっと好きになるのに出会うかもしれないし。好きはこのくらい、で、終りかもだけどもまあいっか。

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『死者の国』(ジャン=クリストフ・グランジェ/ハヤカワポケットミステリ)

 9/14、15は、ハリコン21に行ってきました。マッツ・ミケルセンと写真!サイン! と、大興奮でその後、ぐったり。マッツ最高かっこよくて優しくてあったくて、幸せいっぱいもらいました。最高おぶ最高だったので、その後のぐったりもマジぐったり~。そんな中、がっつり本も読みました。

*ネタバレしています。

『死者の国』(ジャン=クリストフ・グランジェ/ハヤカワポケットミステリ)


 ステファン・コルソはパリ警視庁犯罪捜査部第一課長。口を耳まで裂かれ、咽喉には石を詰め込まれ、自らの下着で縛られて窒息するよう仕向けられたストリッパーの殺人事件を捜査することになった。
 最初は他のチームが捜査していたが手掛かりが見つからない。改めてコルソに回ってきた事件を解決すべく、コルソのチームが細々と調べるうちに、次の死体が出てしまう。手口は同じ。調べを進め、殺された彼女たちの異様な性癖、極端なマゾヒズムや死体愛好がわかる。
 そして、秘密の恋人が実は共通の男だったことも。フィリップ・ソビエスキという、画家は、かつて婦女暴行、殺人で刑務所にいる間に、学び、絵の才能を見出されて、出所を嘆願されるまでになり、出所後はリベラルを気取る上流階級にもてはやされる画家として知られていた。
 コルソはソビエスキを追い、犯人と確信して突っ走る。状況証拠から捕まえたものの、裁判は簡単にはいかなかった。

 そんなこんなで、まず本が分厚い。ポケミス、二段組なのに765ページだった。重いぜ。レンガ本だぜ……。
 『クリムゾン・リバー』の作者、というので名前は憶えてる。映画も見た、し、本も読んだ、と思うけど今はっきりは憶えてないかなあ。ともあれ、がっつり面白いだろうという期待はあって、分厚さにも負けず読み始めると、エロスとグロ、というか、全編かなりの、暴力的セックスに満ちている作品だった。面白い。

 そもそもコルソが、なんだかあぶなっかしい。ちょっとすかっとするか、みたいなノリで麻薬捜査に飛び入り参加して捜査の挙句犯人を殺すことになったり。妻と離婚でもめている、息子が大事で親権をとりたい、何故なら妻はついていけないほどに過激なSM志向があり、自分を切り裂く等要求が増すばかりで危ない。彼自身の欲望も、聖女処女を穢したいという妄想じゃないと快感がないみたいな歪んだ方向なのが悩みだったり、育ちが辛くて、親は不明、ティーンのころに麻薬に染まり、売人に性奴隷にされて地下に監禁されていた所を、警察のカトリーヌ・ボンパールに救い出されたことが今、警察になっているきっかけ、という。過酷だな~。と思っていたら、終盤、コルソのその生まれ育ちも、重要な伏線だったのねというものだった。

 わりとささっとソビエスキが怪しい、と目星がついて、コルソの暴走気味な捜査と優秀なチーム、というかバルバラね、彼女の活躍で逮捕には至るんだけれども、決定的な証拠がない。コルソはあちこち飛び回り、今度こそ、って追い詰めるけど、やっぱりソビエスキのほうが上手な感じ。ソビエスキに、クローディアという凄腕の弁護士がつくし。

 クローディアが、ソビエスキは罠にはめられているのだ。真犯人は別にいる。と、最初っからコルソを煽る。
 私も読みながら、コルソの捜査とか思い込みがなんだか危なっかしいし、これは、なんか、すごく間違えたことをしてるんじゃないのー?? 隠されているのは何? 真犯人は?? ともどかしく違和感もちながらぐいぐい読まされた。分厚さにも負けない面白さだった。

 結局真犯人はクローディアだった。ソビエスキが若い頃、あちこちで強姦してたの、その時に生まれた子どもがいて、実は最初の被害者のストリッパー二人、イギリスで殺された麻薬売人、クローディア自身もその被害者の子供だったの。クローディアは、おぞましい強姦によって生まれた自分自身を呪い、父を呪い、父の血を呪って、抹殺し根絶やしにしなくてはならないと考えたのだった。
 最後の最後、クローディアが、自分も自分で縛るという他殺めいた自殺をして、自分たちの棺の隣にコルソの棺も並べていて。手紙にすべて打ち明けていた。
 コルソもまた、ソビエスキの強姦によって生まれた子どもなのだと。
 クローディアの手紙を読みながら、私、コルソはこの手紙を読み終わって、もしかしたら息子も道連れに自殺しちゃったらどうしよう、と、最悪の想像して震えながら読んだ……。

 クローディアの狂信の呪いに、私がかかっていた。
 コルソは、かからなかった。息子のタデは素晴らしい天使のように愛すべき息子で、自分はそのために生きるのだ、と、歩き出す。クローディアたちが待っている<死者の国>に、行くとしてももっと先だ、と。
 それが本当に救いなのかどうか。あまりにもずっしり分厚くこの小説を読んだ私には、やっぱりコルソはあぶなっかしく見えるし、息子くん、ほんとちゃんとまともに育ってくれよ頼む、と、祈るしかない。
 
 自らの血を呪うことが生きがいになり報復のためだけにやりぬいたクローディアはいあかにも優秀な弁護士であってもやはり狂気に陥っていて。ソビエスキの血の因果がどんだけ強烈なのかと、暗澹たる気持ち。こんな、親のせいで子どもはダメで生きる資格がない、みたいな話、ひどすぎる。それでもコルソが生きる道へ進んだのが、よかったのかなあ。
 ずっしりずっしり重い、物理的本としても話としても、重い小説だった。血と死と異様なセックスいっぱい。よくもこんなに書き上げたなあ。読み応えずっしり。満喫しました。

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『詐欺師をはめろ』(デイヴィッド・ハワード/早川書房)

*ネタバレしています。

『詐欺師をはめろ』(デイヴィッド・ハワード/早川書房)

世界一チャーミングな犯罪者vs. FBI

 実録、なのでネタバレどーこーってものではないのだけれども。1976年に始まる、FBIがまださほど詐欺事件や潜入捜査に慣れてない頃。まだ若い捜査官が、最初はまあやってみるか、くらいの感じから世界一の詐欺師のもとに弟子入りして一年ほども行動を共にし、友情を築き、そして逮捕にいたる物語。

 はじめに実際の彼らの写真がある。世界一チャーミングな詐欺師キッツァーはほんとハンサム。これで口が超絶上手いとか記憶力抜群とか、もうこれは映画になるしかないねと思う。東京で遊んだ時の、捜査官のブレナンとウェディックと三人で撮った写真、三人のバランスが~。ブレナンはやや太め、真ん中のキッツァーは小柄、ウェディックは細身長身、と、スタイルの違いも絵になる。3人で旅しまくって楽しく過ごした時間っていうのは、格別だったんだろうなあ。若い二人の正体を知らないキッツァーとしては後継者育てちゃうようなつもりだったのかなあ。捜査官たちはヒヤヒヤドキドキしながらもキッツァーの勢いや魅力や天才性カリスマ性に惹かれてしまったりもして。犯罪者と捜査官。特別な関係だよなー。

 本書での人物たちの発言は裁判記録やキッツァーが後に講習、講演したものの書き起こし記録からだそうで、細かい状況や推移がしっかりよくわかる。実録、だけど、多分著者もキッツァーにほれ込んだんだろうなあと思う、人物がとてもとても魅力的で面白かった。
 しかし詐欺の手口の話も丁寧に描かれていて、ん、んー、わかる、ような気がする。と、これは私が何かと無知なせいだと思うけど、銀行の証券がとか融資が担保が、とか、自分にとってなじみななさすぎてぴんとこない。それでも丁寧に書かれているので、一応、なんとなくそういうものかーという気にはなる。わかんないけど。
 
 ホワイトカラー犯罪って結局「信用」という見えないものを売買してるわけだ。ほんとは現金積むのが正解なところを、実際社会って金額が大きくなればなるほど現金積んだりするわけなくて銀行にあるよー小切手だよーみたいなことで、「信用」をやりとりするんだなあ。その証明は銀行からの紙一枚だったりするわけ。うーむ。
 経済とか保険とか銀行業とかに精通すればするほど、そのすり抜け方、渡り歩き方で儲ける。キッツァーが実際どのくらいの詐欺を働いたのか、正確には把握されなかったとか、数百億ドルかもとか、もうそれは、経済活動なのでは。個人がどうこうっていうレベルじゃない感じ~。すごいわからない。自分からは遠すぎる金額で全然わからない。

 物語として面白く読むのは読んじゃうんだけれども、実際あった犯罪で、マフィア絡みの方はともかく、もうちょっと普通に融資を得て人生かけようとしてた人とか、保険かけてるつもりだったのに支払いがされないとか、被害にあって人生狂って困った人もたくさんいたわけで。どうしたって犯罪、ダメ、絶対……。

 そして、潜入捜査の手法とかバックアップとか、そもそも詐欺事件への取り組みとかが、FBIの中でそんなに確立してなかったころなんですね。ウェディックとブレナンは潜入捜査の訓練受けてない。最初はちょっとした情報提供によって、結構大物詐欺師に接近できるかも? という感じで、数回会ってみるか? って始めたことが、どんどん長く深く続く捜査になっていく。
 小型録音機、っつても今見るとでかいよね、ってやつで録音したり、キッツァーの気まぐれで国境超えるとなると、相手側の国に連邦捜査官がひそかに行きますみたいなことで外交問題かもとか書類仕事山ほど、とか、右往左往がすごい大変そう。
 この事件によって、捜査方法とか権限とか道具とかが進化していったんだなあというのもすっごく面白かった。
 ドラマの「ホワイトカラー」が大好きなんだけど、その前時代って感じも超ときめいた。こんなそんながあって、あんなドラマ生まれたりもするのね。

 捜査官たちにも家族があるとか、仕事なんだから休みもとるとか、そういうのも面白かった。ですよね。仕事だもの。生活があるリアルもよかったなあ。

 ついに、潜入捜査を終わりにして、逮捕に。キッツァーを逮捕したとき、捜査官二人のことを何も言われないうちから、あの若者二人は関係ないから、っていうのドラマチックすぎるリアル。自分たちが捜査官なんだ、って打ち明ける二人の重い気持ちもぐっとくる。
 刑務所で酷い扱いで怪我したりやつれちゃうキッツァーには胸が痛むし、司法取引に応じて、ついにはまっとうにFBI協力者になったのにはほっとした。読んでやっぱり私もキッツァーのこと好きになってしまう。捜査官二人もよかった。人物たち、魅力的なんだよな~。

 うしろにあったちょっとした解説によると、ワーナーブラザーズが映画化権を獲得してて、「ロバート・ダウニー・jrのプロデュースと出演が取り沙汰されている」とのこと。ほんとかな~実現するかな~早く実現してほしいな~~。キッツァーを脳内でダウニーにして読んだよね。すっごいぴったりすぎるでしょ。目に浮かぶ。一冊は結構なボリュームなので、うまく映画化してほしいなあ。ぜひ見たい。期待しないで楽しみに待っておこう。

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映画 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

*ネタバレしています。


映画 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」


 1969年、ハリウッド。リック・ダルトンはかつてテレビスターとして主役をはっていたが、今は落ち目。若手の人気俳優にやられる悪役として単発ゲスト扱いの仕事をしている。映画俳優に転身しようとしていたがうまくいかなかった。
 スタントマンとして長年相棒のように一緒にいるクリフ。仕事はほとんどなく、リックの運転手や雑用をこなしている。リックを励まし、支えながら自分はトレーラーハウス暮らし。犬と仲良し。
 リックの隣の家に、ロマン・ポランスキーが引っ越してきていた。その妻、若き新鋭女優シャロン・テートも。
 街にはヒッピーがうろつき、ハリウッドが変化しつつある時。
 全盛期の夢の中に取り残されているようなリックとクリフ。それでも彼らはなんとかこの街で生き抜いていく。

 8/30公開で見たい映画多すぎ問題だったのだけど、やっとこれで私の中では一段落。公開前から、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの共演ってんですごく宣伝されてたし、タランティーノ監督だし、どんな二人の共演なわけ?? と、すごく楽しみに待ってた。
 二人は、冴えない中年として、かつての栄光から遠くなった今をあがいたり諦めたりやっぱりあがいたりして一心同体になってる相棒だった。
 リックの方が精神的に弱いというかぐずぐずにアルコールに溺れたりしてて、泣いちゃうぞ、ってクリフの肩に顔埋めたりしちゃうんだ。しっかりしろよ、ってクリフはいつもリックを励ます。運転手になったり、倒れたテレビアンテナ直しといて、って便利屋みたいに頼まれることにも慣れてる風なクリフ。安定した人格かなあと思うけど、喧嘩早いとこもあるんだよなあ。ブルース・リーとやりあったり。

 ヒッピームーブメントみたいなのがいまいち私はわかってないんだけれども、ヤバイ集団という感じは、やっぱこの事件のせいか? まあそうでなくても、フリーセックスみたいなのとか、ドラッグとかやばそうな感じはすごくあるけれども。
 クリフがヒッチハイク探してる女の子を拾って送っていって、そこでまともな大人っぽいふるまいするのを若者たちが嫌悪の目で見る、とかの感じ、すごいひりひりする。
 けど逆にクリフにボコボコにされちゃったりするのな。
 クリフと絡むヒッピーの女の子やってる子がすごくきれいで表情豊かでよかったなあ。

 リックが必死で演技がんばったり、最初は馬鹿にしてたイタリア映画で金稼ぎにいったり、ついでに女優と結婚したり。リック・ダルトンは架空の人物だっけ? と疑問に思っちゃうほど、キャラクタとしてというか、生きて、そんな男がいたのかもという感じがすごい良くって。さっすがディカプリオ、上手いですし。
 そんな風に生きてる彼、彼ら。そしてシャロン。そういう日常、もちろん俳優たちなのでちょっと特殊な、でも彼らにはそうであるところの日常が、切なくもキラキラとたっぷり描かれていた。
 監督が、この時のハリウッドという夢の世界を、物凄く大好きで憧れていて、原点にしているんだろうなあというのがずっしり伝わってくる。

 リックに、10歳くらいの子役の女の子が、今まで生きてきた中で最高の演技だった、って耳打ちするシーン。予告で見た時には、そんなちびっこの生きてきた中でなんて、クソが、って感じかと思ってたんだけど、あれは結構、よし俺様はリック・ダルトンがよくやったぞ、と、女の子にも褒められ自分でも自分を褒める、的な あいむふぁっきんりっくだるとん、だったなあと思う。
 あの前に、女の子が意識高い俳優としてクールな様とそこで読んでる本に絡めて自分が悲しくなる感じのやりとりがあって。セリフ忘れちゃったりの後で、自分を奮い立たせての演技シーンだった。ディカプリオの、おっさんになってからのああいう迫力というかテンションの突き抜け方すっごいよね。好き。

 でかい高級車の運転するクリフことブラピ。薄汚れたしょぼめの車運転するクリフことブラピ。屋根でアンテナ修理の時上半身裸サービスくれるブラピ。犬をしっかりしつけていて、ドッグフードをなんだかまずそうに、でもぺろっと味見したりして出すクリフことブラピ。喧嘩強いクリフことブラピ。トリップして押し入ってきたヒッピーの若者たちを返り討ちにしちゃうクリフことブラピ。いろんなブラピ、かっこよくてだるそうで、けど可愛くもあり、渋い大人の男でもあるブラピ。夢のようなブラピも詰まっていた。ほんっとあのだるそう~なへらっとした感じ最高だよねー。

 そう。ヒッピーたちが押し入ってきちゃうのが、ポランスキー邸じゃなくて、リックんちだった。びっくり。
 なんとなく、シャロン・テート事件、有名監督の妻であり妊婦である若い女優がカルト集団に殺されたというのは知っていて。で、シャロンが可愛くきれいに素敵に、嬉しそうに、妻として女優として、暮らしているのを見てはハラハラして、いつくる? いつ殺されてしまうことに?? と思っていたんだけれども、最後まで、彼女は殺されなくて。
 ああ、これは夢の映画なんだなってすごく納得した。

 映画は夢を見せてくれる。
 もしもあんな不幸な事件が起きなければ。シャロンが無事に生きて、わけのわからないひっぴー集団をお隣さんが撃退、なんと火炎放射器で丸焼きにしちゃったりしたりもして、死ぬのは犯人の方、ってことだったら。
 この、若者たちをボコボコにやっちまうのはさすがタランティーノ監督~て感じで酷いバイオレンスだったけど、まあ、今回そういうのはそこだけだったな。
 そしてつまり、シャロンという被害者を被害者にしなかったという、夢の映画だったんだなあ。

 もしも。もしも。もしかして。あんな悲惨な事件がなかったら。そんな風な願いのある映画だった。
 リックは悲惨に落ち目になっていくばかりじゃなくて、今度はポランスキー監督作品に出るかも。スタントマンが必要になるかもしれなくて、クリフは怪我から早々に回復してまた一緒に仕事をするかも。
 夢の世界がまだまだ続くかも。

 切ないなあ。
 人も街も変化する。子どものころ憧れた世界は大人になってみれば全然違う見え方になるかも。それでも、あの頃の夢をこうして映画の中に閉じ込めて作り上げることもできるんだなあ。

 リックが出演してるドラマや映画が、なんかいかにもな大仰さとかかっこつけまくりとか、すごく懐かし面白そうですごくよかったし~。
 「俺のFBI見るか?」ってクリフとリック一緒にテレビ見てるのとか、素敵幸せ楽しそうですーっごい、いい。
 なんだかだらだらと長いなあ、とちょっと途中思わなくもなかったけど、見終わってみると、ああ、なんだかだらだらと長い日常をこそ、撮る映画だったんだ、あったかもしれない日常を。救われるかもしれない日常を、と思って、すごくよかったなと思う。
 タランティーノ監督、映画大好きだよねえ。愛があるってすごくいい。私も映画大好きだな。

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映画 「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」

*ネタバレしています。


映画 「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」


 1990年ころの朝鮮半島。北が核兵器開発を進めているのではないかとの疑惑を確かめる潜入のため、パクは軍から離れ、一度は自己破産するまでの転落の暮らしを経て、事業家としての顔を作る。商売人として北とのつなぎをつけ、入り込んで核開発施設へ近づくこと。
 北は外貨を欲している。資本主義経済に明るいリ所長との会見にこぎつけ、共同事業を持ちかける。少しずつ信頼を勝ち得たパクは、ついに金正日に面会できるまでになった。
 しかし、南での大統領選挙の情勢で、政権が覆るかもしれない不安がある。保身を図る上司たちは、北に働きかけて軍事的緊張を高めるような工作を仕掛ける。自分が南北融和を願って働いてきたはずなのに、不審に襲われるパク。悩み、上司に背いてでも、南北のために働くことを選ぶ。

 スパイもの、ということになるのかなあ。実際の工作員、コードネームは黒金星ってかっこいい~。けれども、銃を持つことはあっても、実際それでドンパチやるようなものではなくて、あくまでひそかに、慎重に、相手の懐深くに入り込んで情報を探る、じっとり重い、痺れる緊迫感いっぱいの映画だった。渋い。
 
 90年代の半島情勢ねえ。なんとなくはニュースなんかで知ってる感じはあるけれども、実際どうなのかとかわからないし知らない。これは、まあ、実在の黒金星、ということだけれども、映画は映画、フィクション、ということ。
 振り回される現場の人間同士、ということなのか、リ所長と二人で、南の仕掛けにのってはいけない、と金正日に訴えるシーンのひりひりした緊張感ったらもおお。しぬ。独裁者に意見することの凄味って、まーたぶんわかんないけどしぬよねえ。
 無事、生き延びたけれども。むしろ南からバラされて逃げる羽目になるとか、現場の使い捨てされちゃう工作員タイヘンすぎる。

 大統領選挙に北が絡むとか、南からの思惑で動かされるとか、まあ、ええとまあフィクションなのでしょうけれども、なんか、凄い。どうなのこれ。すごい。

 そんなこんなの、スパイものながら、リ所長とパクさんとの、友情、友情っていうかなあ、信頼、あんなぎりぎりの命がけの場に臨むほどの信頼を築く物語でもありました。信じてしまうんだ、って感じのリ所長可愛かった。贈り物をしあって、そして10年後、再会して示しあう、何そのおっさんたちの熱い絆―っ。とてもよかったです。ぐっときた。つられて涙ぐんでしまった。

 しかし、あんな、工作員がーってニュースが流れたりしたあとにも、ほんとに事業続いたんだ? とか、リ所長ほんとに殺されなかったんだ、すごいよかったね、とか。多分ちょろまかしした課長たちは殺されたのか、とか、なんかそんなこんなの裏側が、不思議でびっくりしたりもした。
 わからない……。政治。スパイの世界……。

 偉そうでクール意地悪の公安だか軍部だかの、課長をやってたのがチェ・ジフンですね。神と共に のヘウォンメクだね? さすがのスタイルの良さ~で、軍服がお似合いでしたし、悪い役の感じもかっこよかった。
 パクさんを演じてたのがファン・ジョンミンね。なんとなく、眼鏡コートくたびれたカバンのリーマンスタイルな感じが、孤高のグルメの松重さんぽい、と思ったりした。
 韓国俳優さんたち、覚えられないし名前も覚えられないし、誰だっけとわからなくなるんだけど。それでも見てるとぐいぐいひきこまれて、凄い。面白かったなあ。見逃さなくてよかった。満足。

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映画 「トールキン 旅のはじまり」

*ネタバレしています。


映画 「トールキン 旅のはじまり」


 トールキンは幼い頃に父を亡くし、母と弟と貧しい暮らしをしていた。夜には母親が読み聞かせを熱演しながらしてくれるのが兄弟の楽しみ。だがその母も突然亡くなってしまう。
 神父の助けを得て、成績優秀な兄弟は裕福な家に住まわせてもらい、一流の学校に通うようになる。その家にはエディスという女の子も世話になっており、彼女は夫人のそばでピアノを弾いたり、細々とした用を手伝ったりしていた。
 トールキンは最初こそいじめにあいかけるが、彼の優秀への嫉妬だ、と、いさめる友人がいて、四人のグループで深い友情を築く。
 エディスとの恋。だがまだ大人ではない彼らに自由はなかった。

 オックスフォードへの進学。しかし成績がかんばしくなく、酔っ払ってふざけたことの処分もあいまって奨学金を打ち切られることになる。学費を用意できない彼には退学も同然の処分だった。
 だが、酔った挙句に、自分が作り出した言語でわめいているのを聞いた教授が翌日話しかけてきた。言語学の教授の下で学びたい、と食い下がって、トールキンはそこでの奨学金を頼み、本当に学びたかったのはこっちだとわかる。
 そして、戦争が始まる。第一次世界大戦。戦場で行方知れずの友を探すトールキン。泥にまみれ、体はふらふら。忠実な従者に助けられて、生き延びる。
 気が付くと病院で、エディスがずっと看病してくれていた。
 やがて、大学の教授となり、エディスと結婚して子どももできた。トールキンは長い物語を書き始める。冒険、愛、魔法も出てくる、そして何より、友情の、仲間の物語を。


 私はファンタジーにあまり親しみもってこなかったし、『ホビット』や『指輪物語』も読んでこなかった。映画を見てから知って、読みましたけど。面白かった。
 そしてトールキンについても、その作者としてとか、自分でオリジナルの言語作って世界観作り上げたらしいとかそんな感じのことしかイメージなかったです。
 ほぼ、孤児でありながら、機会を得て、学び、成長していったんだなあっていうの、この映画の通りなのかどうかはわかんないですが、まあ、ざっくりとは多分正確でしょうから、そういう育ち、半生で、凄い作家になったんだなあと、面白かった。
 弟くんと仲悪いわけじゃないんだろうけど、ほとんど触れてなかったなあ。恋と友情の方に焦点あててのことだからなのか? 
 やはり何より、学校時代が素敵だった~。あ~~英国男子~~って感じ。反発からの友情。そしてお茶を飲もうよ、という仲良くなっていく感じ。お気に入りの店があって、町一番の紅茶だ、とか、子どもたちが~~生意気言って~~。
 でもエリート教育の感じってこうなんだろうなあって雰囲気がすごく、うう、英国男子様、もえる。子役くんたちもすごくよかったし、育ってからのニコラス・ホルトも可愛かった。みんな若きジェントルマン、だけど生意気盛り、勉強もするアホ男子な感じも最高。
 
 仲間で絆深め合おうぜ~ってクラブ作ったり、目的は世界を変えること! とか勢いあるのも、あーっ10代! ってキラキラしてる~。
 
 しかし戦争が起きる。
 若き彼らは戦場へ行き、泥の中を這うように進む。
 戦場でさまようシーンと、回想的なその前の時と、ポリフォニックに描かれていて。でも戦場のシーン、生々しくどろどろで、それはそれでリアルかと思ってたけど、なんか、友達探すとかフラフラしまくりで、戦闘中にそんな自分勝手なことしてていいの?? と不思議だったけれど、あれ、幻想というか病気、熱で気を失ってる中での妄想というかなんだなあ。悪魔のような鬼のような影とか火を吐くドラゴンとか幻視しちゃうの。
 後の、トールキンが書くことになる世界がオーバーラップしている。

 トールキンの半生、伝記的ではあるものの、物語を重ねていて、ファンタジックでもある映画だった。
 
 オックスフォード退学になりかけたりしたの、古典では成績が悪かったそーで、けど言語学の世界こそがトールキンにとっては興味あるし才能もあるってことだったんだろう。ああいうトップクラスな世界だと、学ぶにも向き不向きっていうのが致命的になっちゃうのかなあ。まあ特に奨学金をもらって、となると厳しいんだろうな。
 でもほんとにやりたいことはこっちだった、って言語学の教授のクラスに行けるようになった時の生き生き嬉しそうな感じ、すごくよかったねって思う。

 バーミンガムとか戦争だとかで、ピーキー・美ブラインダーズも連想しちゃったけど。戦争で人生に、心に、大きな傷を負う、大事な人をなくす、というのは本当に残酷なことで。失った人、その才能は取り返しがつかない。生き延びたほうはそれを背負っていくんだなあ。

 世界を変えよう!っていう若き日の勢いの目標。トールキンは物語の中に世界を作って、そして、愛と友情が勝つと、書き記した。
 あの、戦場でずっと付き添ってくれた従者、彼が、フロドの従者のサムなんだろうか。トールキン、ちゃんとたくさんみんなに愛されてるように描かれていて、よかった。亡くなった友人の残した詩を、出版するように尽力するのもよかった。
 美しい映画でした。

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映画 「やっぱり契約破棄していいですか」

*ネタバレしています。


昨日、映画の日なので2本見に行った、二本目。

映画 「やっぱり契約破棄していいですか」

 橋から飛び込み自殺をしようとしている青年。なかなか飛び降りられずにいるところに、声をかけた老人。自殺をとめるでもなく、ただ手伝ってほしかったら連絡を、と名刺を渡して去る。やがてついに決心して飛び降りたものの、ちょうどその下を通りかかったクルーズ船に着地してしまい、ちょっとした骨折程度ですんでしまった青年。ウィリアム。
 何度も未遂も含めて10回自殺しようとして助かってしまうウィリアム。作家目指して原稿を送るも、返却されてばかり。プールの監視員の仕事もクビになったところで、コートのポケットからあの時の名刺が出てきて、見ると、暗殺者の肩書。連絡して、自分を殺すよう依頼する。
 だが、一週間以内に殺されるはずのところ、原稿に興味を示してくれた編集者と会うことに。エミリーという若い女性編集者は、手首に傷はあるし両親を亡くしている。共感し、人生捨てたもんじゃないと思い始めたウィリアムは殺害の取り消しを頼むが、殺し屋もまた、殺しのノルマ達成に切羽詰まっていて、あと一人殺さなくては引退させられてしまう瀬戸際だった。

 イギリスらしいブラックコメディって感じかな~。90分、さくっと仕上がったすごく上手い映画だった。楽しい。
 ぽいぽい人は死ぬし結構残酷、ぐっちゃ~ってなったりもするんだけど、まあ、まあまあそれは私は大丈夫。それよりクスって笑えるのいっぱいで、二本目に見たのがこっちでよかったってすごく満足して映画館を出ることができた。

 アイナリン・バーナードがウィリアムで、死ねない自殺者のおかしさ繊細さすごくよかった。
 殺し屋の方は、淡々とした一見まったく普通にいいおじいちゃん。妻は手芸、刺繍クッションのコンテストに燃えている。そして引退したら一緒に世界一周クルーズ旅行をしましょう、と楽しみにしている。仲良し老夫婦。殺し屋であることは生きがい。妻もそれは了解。
 で、暗殺者組合? にはノルマがあって、そのノルマ達成できないんじゃ引退してもらうしかないね、もうあんたもいい年だ、とかボスに言われてるの。
 引退記念に素敵な置時計をくれようとしたり。

 自殺志願者と殺し屋、というちょうどいい組み合わせ。しかし人生次の瞬間には何が起こるかわからないという映画。
 何もかもわかってる妻が実は一番凄いな~とか、機転きく彼女すごいな~とか。なんか丸め込まれて、でもお互い納得でうまく収まる、と思った所で、ラスト、車にひかれそうだった子どもを助けて身代わりに跳ね飛ばされるウィリアム。
 彼女に涙ながらにすがられて、見ていた人たちからは立派な行いに拍手が起きて、救急車のサイレンが。暗殺頼んだ時に、英雄的死のオプションとして憧れた状況。料金が高すぎて諦めたはずの状況。ついに彼は、死んでしまう?? かどうかははっきりとは描かれなくて、まあ、せっかく生きることに前向きになったここで死んだーというブラックさでもあるし、やっぱり救急車がちゃんと間に合って助かった、って想像してもいいような。
 
 妻が刺繍してたクッションとか、念のための包丁とか。自殺のための関係のはずが次の作品のアイデアになったりとか。
 小道具というか、話の見せ方、効果、伏線とか、そういうのすごくうまくて、可笑しい面白い。大作じゃなくてちょっとヘンな小さな世界の話、すごくいいバランス。登場人物みんないいキャラだな~って思った。つまりとても好き。うまいなあ、好きだなあって思えるのはしあわせだな~。見に行ってよかった。


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映画 「ブルー・ダイヤモンド」

*ネタバレしています。


昨日、映画の日なので2本見に行きました。一つ目。

映画 「ブルー・ダイヤモンド」

 アメリカ人、ルーカス・ヒルはロシアへ商談に飛ぶ。希少で高価なブルー・ダイヤモンドを売るらしい。相手はマフィアらしい。多分マネーロンダリング。ヒルは宝石商なのかな。
 ダイヤモンドを持つピョートルという相棒が、待ち合わせのはずのホテルから姿を消している。彼の伝言を追ってさらに地方へ。しかしそのホテルにもピョートルはいなかった。
 連絡を待つしかないヒル。近くのカフェをやっているカティアと親しくなる。
 マフィアとなんとか話をつけ、見本のダイヤは見つけて渡した。しかし、高品質の偽造ダイヤを売りつけるよう当局の組織?にはめられて、カティアも巻き込まれて、ヒルは追い詰められていく。

 キアヌ・リーブス主演! 予告の感じだと、ロシアマフィアとトラブルになった男が、凍てつく大地でなんとかドンパチやって切り抜けていく、っていう話かと思って、かっこよさそう~と期待しちゃった。
 しかし。銃撃ドンパチやるジョン・ウィック的な爽快さはほとんどなくて、なんか、トラブルに陥ってどうにもならなくて最後にライフル一つでせめて敵を数名は倒した、けど、自分も撃たれて終わり。……(゜o゜) え。終わり。

 ロシアでハードボイルドなかっこよさげな雰囲気はたっぷりで、まあ、かっこよかったけど。実はロシア語わかるんだせっていうキアヌかっこよかったけど。
 まあ、超人的に強いわけでもない、すごく有能ってわけでもない、ちょっとダークな取引請け負うよ~という宝石売人のMrヒルとしては、そういうものなのかねえと思うしかないか。撃たれて終わり。マフィアとやりあって逃げられるわけないという。

 で、本当は、旅先のロシア美女、積極的にせまられてしまう俺、みたいなクラシカルな男のロマンみたいな映画だったのかなあ。カティアと最初こそはジェントルに、いやちょっと今すぐ寝るとかはね、苦笑、まんざらでもない、っていう所から、長年連れ添った仲良し、だけどお互い無関心でいるのが長続きの秘訣みたいな妻とスカイプ(?)したりしたあとに、やっぱりせっかくなので据え膳は食いましょう、ってやりにいっちゃうMrヒル。

 ま。まあ、まあまあ、まあいっか。そういうのもいいものですね。と、思ったものの、旅先での一夜の遊びじゃなくなって、何回も何回も、何回もやるのね。
 ヒルさんさあ、あんた今ダイヤモンドなくて非常にまずいことになってんじゃないの? 女とやってる場合か? お兄ちゃんとなんとなく仲良くなって仲間と熊ハンティングに行ってる場合か?? もっかいカティアを呼び出すことになったのはともかく、妻のように抱いて、って言われて、妻の名前呼びながらやるとか、そういうプレイを見せられてもさー。えええ?? と困惑。
 ヒルさんは51歳らしいですが。絶倫でもいいですけど~。ほんとマジそんなことやってる場合か??

 で、カティアもさ~。ゆきずりの男ってわかりきってるのに、浮かれてだか調子乗ってだか、商談の場にキメキメにお着換えして乗り込んじゃって、マフィアに兄弟の証にお互いの女にしゃぶらせようぜ、ってなって、やるはめになって、傷ついてしまうと。ヤバイ男だってわかるでしょーーー。呼ばれてもないのに行っちゃってもーー。みんな馬鹿なのか……。

 マフィアくんもさ~、偽物鑑定のためにつれてった奴がちょっともたもたしたからって、ヒルを信じるよ兄弟、とかいってんじゃねーよ。あの場で鑑定して偽物ってわかれば、ちゃんとすぐ始末つけられただろうに。

 ヒルに協力求めた、なんか、何? なんの組織かよくわからなかった。警察ってわけじゃないんだっけ。偽物売りつけて金引き出してマフィア弱体化? 取引の証拠つかむとかなのかな?? ニセモノダイヤをヒルにうりつけさせようとしてどうなったのかがいまいちよくわからなかったです……。私がもの知らずで理解力がなかったのか。

 で、も~さっさとしっぽ巻いて帰国しちゃえばいいのに、ヒルさんはカティアの所へ戻ります。ピョートルの隠れ家がわかった、とかって兄弟だか従弟だったからの連絡が入って。で、またとりあえずやるのね。なんなんだ。体の相性が最高にいい、とかってことなのか。そんなことやってる場合か??? と、ほんと見てて困惑する。うーん。キアヌはベッドシーンより銃を持ってるシーンのほうがセクシーでそそるのになあ。わかってないなあ。

 そんなこんなで、なんか何も解決しないというか、解決しようがないというかで。ピョートルは死体になってるし、ヒルさんもただ死ぬのねえ。
 かっこよさげな雰囲気はとってもあったけれども、全員無能か……。感想としてはただただ、愚か者ばっかだったなってこと。もうちょっとかっこいいのを見たかった……。映画作ってる途中でなんか破綻しちゃったのかなあ。バランスもテンポも悪すぎるだろ。キアヌ、しっかり脚本読んで仕事選んでね……。まあいっか。ジョン・ウィック3に期待だ。

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