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映画 「Girl ガール」

*ネタバレしてます。


映画 「Girl ガール」

 昨日10日(水曜日)に見てきた。

 ララは16歳。バレリーナを目指す少女。トランスジェンダー。肉体的には男性だが、カウンセリングや医者の助けを借りて、ホルモン治療やいずれは手術するよう準備している。
 父と、6歳になる弟と暮らす。名門バレエ学校に編入を認められ、レッスンに必死でついていく。トゥシューズの中の足には血が滲み、股間はテープで固定して隠し、学校が終わるまでは水もろくにのまずに、ひたむきにレッスン、学校生活を送る。
 ようやくホルモン治療の薬を飲み始めたが、女性としての二次性徴を起こすはずの薬の効き目が思うようになく、ララの焦燥感はつのる。クラスの女子たちの意地悪にあったり。
 そして思いつめたララは、自分で決断を下す。


 バレエの世界って、過酷。バレエ学校のシーンがたくさんあって、大変そうすぎる、と辛くなる。けれど踊る彼女たちの姿は素晴らしく美しい。その足の、体の、悲鳴を飲み込んで優雅に、激しく、飛んで、回って、爪先立って背筋を伸ばす。ただでさえ、学校のみんなが本当はライバルなんでしょう。仲良くもする、けど、嫉妬も当然。ましてララは、転校生で、そして、違う、から。

 女子更衣室を使うんだけども、その事で女子たちに戸惑いがあるんだろうなあっていうのも、それはそうか、とも思う。けれど、ララは女の子なんだから、と、見てる観客としては思う。ララの努力が認められて、発表会みたいなものかなんかで、役を得るのを、多分嫉妬される。誕生日会ではしゃぐ女子グループの中で、ちょっとした意地悪、けれどとてつもなく残酷に、ララ、あなただって私達の裸を見るじゃない、あなたも見せてよ、と詰め寄られる。女の子同士だったらいいでしょ? 女の子扱いしてほしいんでしょ? と。勢いに負けてララは体を見せる。けれど、それがどんなに辛く傷つくことなのか、何も言わなくても彼女の姿から物凄く伝わってきた。

 カメラは近すぎるほどの距離で、踊る彼女たちの姿にせまる。水着の女の子たちの体にせまる。自室で、トイレで、鏡に向かうララの体にせまる。
 肉体はうつくしい。肉体は残酷……。

 ララは言葉少なく。控えめに微笑みを見せる。父は、ララの気持ちになんとかできる限りより沿って、彼女の希望を叶えてやりたいと頑張っている。一緒に医者の話を聞き、ララの願いを第一に考えている。引っ越しをして学校を変わった。それってはっきり言われてなかったけど、多分ララにとって辛い何か、いじめとか? 何かあって生活を変えたって感じなんだろうなあと思う。ララに幸せに生きて欲しい。父の願いはそれが一番。母のことは何もなかった。離婚なのか死別なのかわからないけれど。父に恋人ができれもいい、って思ってるみたいなんだけれども。ララはやっぱり、自分のことでいっぱいいっぱいになっちゃう。

 いつも、迷惑をかけないようにとか、話しても仕方ないという風に、自分の中に悩みも苦しみも抱え込んで、父には「大丈夫」としか言わない。医者やカウンセラーにも言わない。
 ララ自身にも、どうしたらいいのか、なんていったらいいのか、言葉にならないんじゃないかなあと思う。彼女だって、父や医師が、彼女の健康や希望や幸せを最大限大事にしようとしてくれていることはわかっているんだよね。だから「大丈夫」っていう。学校とか友達とかは難しいけど、家族とか、近しい人はみんなララを大事にしてくれている。わかっているのに、それでも、ララのどうしようもない気持ちは、落ち着かない。
 思春期だものなあ。
 ただでさえ不安定で苦しくてわけものなくイライラもするし泣いたりもしてしまう。人の思いやりに素直になれなかったり。
 体と心の不釣り合い。不安定。それは誰にもあることで、けれどララにとっての違和感や苦しみは深く。
 痛みって、ひとそれぞれだから。トランスジェンダーだから普通より酷い、って簡単に言えることではないと思う。ララの苦しみも痛みも彼女のもの。彼女の悩みに、落ち着いて、我慢して、時間をかけて、というのは正論なのだけれども。それで待つことができるかどうかも、また、簡単なことではないよねえ。

 ララは、救急車を呼んだあと、自分でペニスをハサミで切る。死にたいわけじゃない。ただこの間違った体をなんとかしたいだけ。ペニスなんかいらない。男じゃない。自分じゃない。自分の体なのに自分じゃない。
 見ながら痛そうすぎて、心も痛くなりすぎて、本当に辛かった。

 ラストシーンでは、少し時間がたっているのだろう。セミロングの髪になった彼女がしっかり顔をあげ、靴音を響かせながら歩いていた。彼女は生きていく。

 まだ6歳の弟くんの面倒をみたりして、仲良しなんだけど、弟くんもそれなりに、多分転校したところでなじめなかったりでぐずってて。辛いねえ。ララにちゃんと学校へいくように言われて、嫌だ嫌だで、ララじゃなくて本名? 男の子の名前で呼んだりして、一気に空気が冷えたり。弟くん、天使みたいに可愛くてなー。そのぐずって意地悪なこといっちゃったり、けど仲直りして。すごく細やかなところをすっと見せてくる。
 同じアパートに住む男の子のことがちょっと気になって、部屋を訪ねてみて、フェラしてみたり。あれは、恋、というか、興味? ほかの男の子のあれはどうなるんだ、って感じかー。そしてやっぱり、こんなの嫌、違う、って感じかなあ。そんな混乱の様子も、見ていてとても辛い。
 トランスジェンダーだからということと、思春期の女の子、ということが重なり合って複雑。

 バレエをやるって、それだけでもう過酷な世界って感じだし。
 ホルモン治療がうまくいって、手術がうまくいったとしても、うーん。女の子ならなんでもいいわけじゃないし、女の子になれば万事解決ってことでもないよねえ。
 けれど、ララにとっては、自分だと思えない体をなんとかすることができない限り、スタートラインに立てない、ってことなんだろう。多分。
 手術しなくても、見た感じララは女の子だし。手術なしでも女の子の自分として、やっていける場合もあるかもしれない。
 けど、ララにとっては、体を変えることでしか、生きることを始められないくらいなんだろうなあ。
 バレエダンサーだもの。体、己の体、人の体、その美しさ、動き、何度も何度も鏡の前にたって、自分を、他人を見て。他人から見られて、見せて、いく体。その体が自分じゃないっていう感じ。どれほどの深い悩みだろう。言い表わせないものを、ララの全身から感じた。

 主演のビクトール・ポルスターって、現役バレエダンサーらしい。映画初出演で主演なのねえ。ほんとうに綺麗で、ダンスシーンもとってもとってもよくて。ララだーと思う。よくぞこういう人が現れて演じてくれた。映画の中で永遠になってくれた。とてもとてもよかった。綺麗な映画だった。

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