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映画 「運び屋」

*ネタバレしてます。


映画 「運び屋」


 アールは、デイリリーという花の農場を持つ老人。品評会で高く評価され、軽口やお洒落ないでたちで人々の人気者だった。だが仕事に熱中していて家族を顧みることがなく、娘の結婚式にさえ出席しない。やがて、時代の波に乗り遅れたようで家も農場も手放さざるをえないことになり、孫娘の結婚前パーティに顔を出すと家族からは非難されるばかり。
 そこで、慎重に運転できるなら、いい話があると持ちかけられる。運転するだけでいい。荷物のことは聞くな。簡単な仕事で得た大金で、アールは少しずつ失ったものを取り返そうとする。

 クリント・イーストウッドの監督、主演作品。自身での監督主演は久しぶりだとか。すっかり巨匠監督であり、もちろんかつてスーパークールな俳優であったイーストウッド。
 とても渋い悲劇のじーさんの役なのかと思っていたら、アールは、飄々とした退役軍人、口からでまかせが上手い、女にチャラチャラ、運転しながらラジオに合わせて歌い、うまいポークサンドが食べたいからと寄り道してぱくぱく食べる、肝っ玉じーさんの役だった。お、こんなキャラクターなのか、と、びっくりしつつ楽しく見入る。

 アールは朝鮮戦争に行ったという退役軍人。90歳近くの老人ながら、いやだからこそ? 度胸ある。自分が悪事に手を貸しているとわかっていても、それより金が必要だ、ということばかりしか考えない。車を買い替え、家を取り戻し、退役軍人会の会館? が火事で閉鎖の危機となれば寄付をする。孫娘の学費を多分援助した。悪事で贅沢、というよりは、切実な金の使い方のように見える。だけど、それは、悪事を働いて得ていい金じゃない。
 描き方のバランスかなあ。見せる所とさっくり切ってる所との余白は、観客の私としては、アールの行動を察して、良いように解釈してしまう。酷い事してるわけじゃないよ。車出してるだけだ。運んでるだけだ。
 けれどその荷物はコカイン。しかもかつてないほど大量で、マフィアからわざわざ、いい仕事してくれてありがとうとばかりに招待されてもてなされるほどの働き。そのコカインのせいでどれほどの汚い金が動き、身を破滅させる中毒者がでることになるのか。それは一切描かれないけれど。

 妻が、元妻が、癌で死ぬという時にやっと、アールは家族のいる家に行く。妻は今もほんとうはアールを愛していて、会えてうれしいと言い、側にいるのにお金なんていらないのよ、と、優しく言う。許して、逝く。

 大量の荷物を動かす運び屋がいる、というのは麻薬取締局に目を付けられていて、けれどまさかそんな老人とは思われてなかった。それでも、ついに追いつめられて、アールは逮捕される。
 「何もかも間違っていた」
 家族といるより、外でちやほやされて評価を受けるほうが重要だと思っていた、そんな人生も、運び屋を繰り返したことも。裁判でアールは、自ら有罪、と全てを受け入れる。

 じーさん、ほんと、あなたいい人だけどほんと、間違ってるよ。ダメ人間だよ。
 運び屋繰り返すうちに、マフィアの下っ端くんたちと仲良くなったり、マフィアの右腕に説教してみたり、捜査官と何気なく素知らぬ風でカフェで会話する時に、家族が大事なんだ、一番なんだ、ってしゃべってみたり。
 愛されるよねえこのじーさんは、って感じがすごかった。チャーミングじーさんだよ。家族としては外面ばかりよくて、と、大変だったのだと思うけど。ちょっとした知り合いになるには最高のじーさんだよねえ。
 イーストウッド、すごい。今、実際に88歳くらい? この役は自分の存在も重ねてる感じが、してしまう。娘役の人、実際の娘なんだって。イーストウッド、離婚再婚とかなんか、子どもも沢山いるみたい。で、こういう、家族が一番大事だった、という役、映画、やるんだなあ。

 ブラッドリー・クーパーが捜査官役で出ていて、すっごくかっこよかった~!大仰さが全然ない、凄腕でしぶとくうまくがっつり仕事するぞ、というまっとうな有能さを感じさせる。普通の感じなのに素敵でよかったなあ。
 ローレンス・フィッシュバーンも少し出てた。上司といえばフィッシュバーンって感じ~。あとアンディ・ガルシアも出てたらしい。マフィアのボスか、と後から確認。いいボスって感じだったよね。マフィアだけど。そして部下に裏切られて撃ち殺されてた。人情あるボスはいらない、って感じの、これも時代の変化なのかみたいなのも、いい。

 いい映画を見た。イーストウッド、ほんと巨匠だ。納得しました。

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