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『風のあこがれ』 (大谷真紀子/北冬舎)

 『風のあこがれ』 (大谷真紀子/北冬舎)


 2018年5月刊。第三歌集だそうです。
 2001年から2017年までという長い期間にわたる歌を477首収めたもの。家族の歌やあちこちへの旅行詠のような歌など、折々の変化を思う。時に挽歌も。歌ですべてがわかるものではないが、その背後に広がる深い思いを十分に感じることができて、自然に歌に、作者に、寄り添う気持ちになりながら読んだ。長く歌を続けるというのはこういうことなんだなと思う。単なる思い出話より優しく深く情景が一行に結晶しているようだった。私はあんまりちゃんと読んで受け取れない読者だと思うけど、あたたかい一冊を手にした気がする。


 いくつか、好きな歌。


  ありったけの力をこめてようやくにこじ開けにけり魔女の抽斗 (p24)

 なんだか固くなっちゃって開けられない抽斗だったんだなあ。それを魔女の抽斗、と表現しているのが面白くて印象に残る。そこにはどんな秘密がしまわれているんだろうか。抽斗がなかなか開けられなかったよ、ということが別世界へ通じるような出来事になる感覚が素敵です。


  この国を出でしことなき私にフランスの香りふり撒きに来よ (p37)

 近藤芳美のこと? 違うかな。遠く憧れの存在、というものがすごく素敵に華やかにあって、あ~なんだかそういう感じ!っていうのがすごくわかる気がする。ちょっとした鬱屈と、でもすなおな憧れの気持ち。フランスって響きはやっぱりいつも夢みたいな感じがするよなあ。


  家猫に留守居をさせてふらふらと梅雨の晴れ間を何処ともなし (p96)

 「夢見る猫」というタイトルがあり。猫かわいいよね猫。猫を飼っていて、猫に留守番をさせて、といっても猫は人間がいないならいないで、ただ気ままに寝たり遊んだりしてるだけだろうなと思うんだけど。梅雨の晴れ間、気持ちよくってあてのないお散歩をして。うちには猫がいる。最高だな~!


  古椅子に言葉のように置かれいし綿毛タンポポ恥ずかしげなり (p114)

 言葉のように、と例えているのが素敵だ。綿毛のたんぽぽを古い椅子にそっと置いた人がいるんだな。置いた人も見つけた作者もちょっとふふって微笑んでる感じがして読んだ私もふふってなりました。


  向日葵のぱんと咲きたる笑い声ふとく捩じれて天にも届け (p130)

 ぱん!って咲いてるという鮮やかさが夏の空の色、向日葵の黄色とくっきり見えてくるような歌で印象的。強くてさわやかな歌でいいなあと思った。


  カップ持つしばしをちょいと一字あけ のような倉敷天領の町 (p159)

 カップっていうのはコーヒーカップマグカップのようなことでしょうか。この歌の調子だとお酒、って思うのは私が酒好きだからでしょうか。ともあれ、ちょっと一息、が「一字あけ」って感じなの、わかる~と思います。「倉敷天領の町」というきっぱりした結句で、倉敷、いいところだろうなあって思えます。
 確かな重みのある歌集読めて面白かった^^


  

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