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『炎の色』 (ピエール・ルメートル/早川書房)

*ネタバレしてます。


『炎の色』 (ピエール・ルメートル/早川書房)


 『天国でまた会おう』に続く第二部。三部作構想だそうで、次のはまだ出てない、かな。この本は2018年11月刊行。

 舞台は1927-1929年、1933年の二部構成。天国の後7年ほどすぎて、エドゥアールのあの父の葬儀のシーンから。姉、マドレーヌの息子、ポールが7歳になっている。マルセル・ペルクールの柩が屋敷を出てゆく、その時に、ポールは3階の窓から身を投げた。

 前作から時間過ぎているし、エドゥアールのこととかは本当に一瞬名前が出る程度。主役はマドレーヌ。強い意志を持つ大金持ちのお嬢様であった彼女が、大事な息子が車椅子生活になる苦しみを抱え泣き続け、信頼を裏切られ、庶民の暮らしに身を落とし、陥れた奴らに復讐していくという物語だった。
 前半ではただただ翻弄されるマドレーヌという感じだったのが、後半には時に悩み迷いつつも復讐計画を練り上げてやり遂げていく根性に感動する。戯画的ではあるけど、登場人物みんな生々しくて、あ~も~~~お前ら~~~ってハラハラわくわくしながた読んで、そこそこ分厚い一冊だけど一気読みしてしまった。

 厳格パパがさあ、娘を心配してこの男なら年上だけど実直さの面で安心だろうと再婚話をもちかけた銀行の管理職のギュスターヴ・ジュベールが、一度マドレーヌと共に銀行を手に入れられるかも、って思ったあとに破談にされてじわじわと裏切っていくの、そんなの酷い!と思うけど、うーん。マドレーヌのほうも結構酷い、って感じもあって、なかなかすごいうまい複雑さ。侍女のレオンス、美人でしたたかで、一瞬、マドレーヌとラブに? と思わせておいて違ったーとかも、まさに作者の思うつぼにはまってしまって読み進めるのほんと面白かった。

 ポールくんが何故飛び降りちゃったのか。なかなかわからなかったのだけれども、家庭教師でジャーナリスト志望のマドレーヌのツバメだった男が、実はショタコンでポールを密かに襲ってたのね……。酷い。アンドレ、お前、マドレーヌとか他の女とかともたっぷりやってたじゃん!! 自分の本当の欲望を隠して隠してそんな酷い事して。痛快な皮肉正論みたいなコラムを書いて人気ものになっていって。お前こそ死ね、と思いながら読んだ。復讐されてよかった。

 ポールが、心塞ぎ、苦しんでいたのを救ったのは、看護に雇われた、フランス語わかんないままどんどん世界を明るくしちゃうヴラディ。オペラのレコード。
 イタリアのオペラ歌手、ソランジュ・ガリナート。彼女の歌に魅せられたポールはオペラに夢中になり、生きる希望を得た。その歌、音楽の美しさが、小説だから当然言葉だけで描写されていくわけだけども、なんかすっごくよくって、うつくしくてわくわくできて、音楽をこんなに言葉だけで表現できるのかあ、と読んでてうっとりした。素敵だ。彼女の歌を聴きたいってすっごく思う。ナチス台頭してきている頃のドイツでひらくコンサート、その駆け引きと迫力。すごいかっこよかった。
 
 ポールが段々成長してきて、性の目覚め? と、マドレーヌが母としてどうすべきか悩んだりしていると、実は広告戦略に興味があるんだ、って、なんか美容クリームみたいなのを作って売って儲けるぞ、って商売始めたりするのすごい展開だし。なんだそれ。
 でもちゃんとなんとかうまいこと、マドレーヌに協力しているデュプレさんがおぜん立てしてくれるのねー。

 デュプレさん。前作ではプラデル中尉の部下としてなんかいいように使われてた人か、と、私はあんまりちゃんと覚えてないけど、その彼が今度は主要人物になってる、控え目な、善人ではなく悪人でもなく、という複雑さがよかったなあ。マドレーヌとの付き合い、生涯ともにすることになって、でも、ずっとお互いをさん付けで呼び合いました、っていうその感じ、すごくよかった。

 マドレーヌの復讐は、銀行屋実業家や政治家相手だったりするので、経済問題とか政治情勢みたいな、当時のフランスの歴史背景みたいなこと、実際の事件のモデルがあったりするようで、フランスのこともっと知っていたらもっと深く、うんうんわかる、あれね、みたいに楽しみ倍増したりするのかもしれない。わからなくても十分面白いけど。

 そして時代は第二次世界大戦へ、というエピローグ。ポールも戦争へ行き、みたいなことらしく、そういうその後が本当に少しだけあっさりさらっと書かれているのも余韻が深い。大河ドラマみたいにたっぷりのボリューム読んで大満足って感じ。面白かった。

 次作は1940年代らしい。エドゥアールたちを手伝ってた小さな女の子ルイーズが主人公になるらしいとのことで、読みたいな~待ち遠しい。楽しみ。

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