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映画 「グリーンブック」

*ネタバレしてます。


映画 「グリーンブック」 


 今年のアカデミー賞では全5部門でノミネートされ、作品賞のほか脚本賞、助演男優賞を受賞した、というので、ますます期待高まって見に行きました。

 トニーはナイトクラブでトラブル解決などをしているイタリア系。愛する妻、子どもたち、ファミリーに囲まれる賑やかな毎日。ナイトクラブが改装でしばらく閉店になるので、仕事がなくなり、困る事態に。そこで紹介があったのが、どこかのドクターが運転手を探しているという話。面接があると教わった住所はカーネギーホール。その上に住むドクター・ドン・シャーリー。心理学だかいくつかの博士号を持つ彼は医者ではなく音楽家。黒人ピアニストだった。北部では大人気の彼だが、南部へツアーに出るために、運転手が必要だという。できれば、トラブル処理能力にたけた男が、欲しい。一度は断ったトニーだが、ふっかけた賃上げのを飲んでの申し出の電話で、妻に了承されてしまった。


 グリーンブック、というのは、南部で黒人が泊まれる宿のガイドブックのこと。
 日本での公開が毎度の事遅いわけで、作品賞とったあとに、実話を基にしたとかいいつつ嘘だらけできれいごとの映画だ、みたいな賛否両論の否のほうの記事をちょっと読んだりもしてしまって、ちょっと複雑かなあと思いながら見に行った。
 実話ベースっていったって、映画は映画なんだからフィクションとして私は見るし、そもそもアメリカの、黒人差別のあれこれをちゃんと認識できてはいない。この映画の中でも、多分なんかいろいろ暗喩的に示されていたのであろう差別の根深さみたいな所がちゃんとわかってはいないと思うし、難しい。1960年代のアメリカの、黒人差別問題の映画をいくつかは見てるけど、わかってないと思うし。わからないけど、けど。

 実際見てみて、ほんとうにすごく気持ちよくいい話で、いい作品だなあと思った。話の運びも上手い。役者も上手い。みんなうまい。みんなうまくて、まあな~このすごくウェルメイドな感じが、ん~ちょっと、という所にもなるかなあという気はした。けどなー。うーん。難しい。


 ドクターは繊細で優雅でインテリで、自分にできる精一杯を常に緊張の中で行っているようで、その孤独がひしひしと伝わってきた。マハーシャラ・アリ、スタイルよくて姿勢よくて佇まいが美しくて、ピアノ弾く手、指、とても綺麗で、すごいよかった。
 南部に行くと扱いが酷くて、それでもステージでは盛大な笑顔をみせてみんなに感謝を述べる。いつもはまるっきりクールで、あまり表情は見せない。だからことさらな、ステージでの笑顔のサービスが辛いものに私には見えた。ステージを見た観客は素晴らしい演奏に満足し、有名なピアニストの演奏を聞いたことに満足し。だけど彼が黒人であること、地域で黒人が差別されていることは当たり前と思って気に留めない。黒人と白人は違う、一緒にはいない、というのがあまりにも当たり前な様子が辛い。

 トニーも最初は、黒人嫌いというか、気持ち悪いというかなんかそういう差別感情を持っていて、差別感情持ってるのが当然と思っていた。妻は気にしないようなんだけど。
 トニーの周りには両方の人がいた。黒人だからって差別はしない。黒人を当然差別するやつも。トニーが貧しくて裏社会だって黒人歌手だって知ってるって、ドクターがお城に暮らしてるじゃないかって喧嘩したりするのも、痛いシーンだった。

 人種差別が何もかもの原因でそれさけなければ、ってわけでもなくて、それ以外にも問題はあるし、不幸の種は誰だって抱えている。けど、人種差別って個人の手におえるものじゃなくて深く深く酷い。
 あとたぶん、ドクターはゲイみたい? 男と遊ぼうとしてて警察に捕まったりしてたっぽい。二重に苦しいよなあと、ほんと、めちゃめちゃ苦しい中で、鬼のような自制心で孤独な戦いを続けてきたんだと思った。
 旅の最後の公演の前、トリオのメンバーの一人が、ドクターが何故南部へツアーにきたかという話をした。かつて招かれた黒人歌手がステージから引きずり降ろされて袋叩きにされたことがあると。ドクターがツアーを行うのはお金のためじゃなくて勇気を示しすという彼だけにできる戦いであり感動なんだ。

 トニーが二か月離れることになる妻に、電話は高いんだから手紙を書いてよ、と念押しされていたので、ちょくちょく手紙を書く。ドクターが、子どもの作文みたいなトニーの手紙を、最高にロマンチックな手紙になるよう助言しまくっていく。そういう交流とか。喋り方のレッスンとか。
 白人を黒人が教育してあげるというのも、ちょっとひねりのある感じだったのかな。

 そして、最後の公演の前に、招かれたアーティストなのに、白人と同じレストランに入ることが出来ないと言われるドクター。いいさ、と、これまでなら我慢強く受け流してきた彼が、ここで食事出来ないなら演奏しない、と宣言する。
 それをなんとかするか、しないか。トニーのいうことを聞く、っていったのは、トニーを試すような気持ちだったのかなあ。それとも単にもう疲れちゃったってことだったのか。
そこで、トニーは、一度は説得しようとしてたけど、やっぱりいいさ、って二人して出ていっちゃう。近くの酒場でピアノを弾き、即興ジャズもやって。
 本当はクラシックの教育を受けていて、でも黒人はクラシック界でピアニストにはなれないだかなんか、で、ポピュラーミュージックの演奏もしてる、というドクター。
 クラシックなんていっぱい弾くやつはいるんだから、あんたの音楽はあんただけなんだから、ってなことを言われてたけれど。ドクターの弾くショパンはドクターだけのもの、という、その感じもすっごくよかった。
 音楽のシーンはさすがとっても素敵だったよ~。すごい。

 雪道に苦労しながら、そしてついにはドクターが運転交代して、クリスマスにうちへ帰ることに間に合ったトニー。賑やかで温かい家庭。
 一方、豪華なお城のようなドクターの部屋は孤独で、静か。あまりにも静か。
 ねえ、絶対トニーんちのクリスマスに行くでしょう? 行くよね?? 行ってくれお願い、と思っていたら、ちゃんと、最後には、シャンパン片手にトニーの家へ行ったよ~~読た~~~。寂しかったら自分から手をうたなくちゃ、って、トニーに言われたこと、ちゃんと守ったよねええ。
 妻、ドロレスは、ドクターにようこそ、ってハグしながら、素敵な手紙にしてくれてありがとうみたいなこと囁いて、ふふってなって、終り。
 ほんと上品に、優しく、くすって笑っちゃうこともいっぱいに面白く、まるで正反対みたいだった二人の男の旅と友情っていう中に深い問題も潜ませて、うまい映画だなあって思った。

 ウィゴ・モーテンセンもほんっとうまくて、すごい。作品の度にいつも別人~~て思う。今作ではだいぶ太っての役作りですね。ちょっとヤバいことも知ってる、世渡り上手いんだけどちょっとダメな、けど善良さのある、当たり前の男っていう感じ、すごく素敵だった。かっこいいなあ。見に行って満足。眼福映画でした。

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