『焦土の鷲』 (五條瑛/徳間文庫)
*ネタバレしています。
『焦土の鷲』 (五條瑛/徳間文庫)
2018年12月刊。文庫書下ろし。
敗戦時の日本。敗戦濃厚な中、密かに命じられた書類を届ける男。元は歌舞伎役者だった彼がようやく引き上げて帰国すると、歌舞伎座が空襲に焼け落ちていた。だが、一座に復帰し、にいさんにいさんと慕う香也と共に、GHQの曖昧な規制をなんとかくぐり抜け、芝居を続けなくてはならない思いはゆるぎなかった。
戦犯として捕らえられている者へ、ひっそり面会し、秘密任務を与える日系アメリカ人のリオン。GHQとて日本を根こそぎひっくり返したいわけではない。日本が上手く復興するほうが利益になる。日本社会の混乱や、共産化を防ぐ任務をやり遂げる有能で強い意志のある日本人が必要だった。
てことで、日本国内におけるアメリカの命をうけつつ日本を守る極秘スパイみたいな所の物語。そこに戦後期の歌舞伎とか芝居、映画って文化面絡んでの物語。ソ連からの共産化の動きを密かに阻止、みたいなスパイ合戦的な所と、軍人だったものの歌舞伎役者として生きる辰三郎と香也ら一般人の生きざまみたいな所とが描かれている。
天皇体勢を守らねば。という歴史的な所はわかってる。んでも知識人とか演劇界隈の共産主義傾向みたいなのもあるよなあって思う。思想、主義的なものと、でも結局末端の庶民は苦しいみたいなのと、原爆被害にもあった、そういうのがエンタメ作品として描かれていて、さすがうまい。面白かった。
個人的好みとしては、もっと~ねちねちじっくり描いて欲しいと思うど、文庫本一冊、ってことだとこのくらいの塩梅にしないとって感じかなあ。死を運命づけられた香也くんがあまりにも天使で、わかってたけど最後、まさに天使のように宮本の告解受けてく感じとかちょっとうるっとくる。
けど、単に天使じゃなくて、今後の禍根をたつかのように、宮本に死が降りかかる感じ、さすが~。残酷な天使って感じ、よかった。
本筋としては、歌舞伎を守るとか天皇制維持のためにとかのスパイ合戦。んでも最初と最後の、敗戦ぎりぎりの辰三郎が行った極秘任務、関東軍の隠し金を隠し通す、みたいなのって、これは~、革命シリーズの方で、なんかそういう感じじゃなかったっけ、と思う。アジアの虎とかなんかそういう、えっと。もう記憶曖昧だけど。ちょっと、そうだっけかな~と思ってときめいた。ま、そこはなんかともかく、ひっそり謎の任務があったりしたんだなくらいでいいか。でもまた革命シリーズ読み直したくなるよねえ。
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