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『迂回路』 (桜木由香/明眸社)

 『迂回路』 (桜木由香/明眸社)


2018年12月15日刊。
2011年から2018年までの作品の中から387首を選んだとのこと。

 表紙の青いオブジェは何だろうと思ったら、あとがきを読んでわかった。聖書を読む講座の仲間の方が製作したものだそうで。なるほど言われてみれば群舞の抽象のように見える。
 信仰を持ち、仲間を得ている日々。聖書の世界や、読んでいる本や、歴史への思いなども歌われていて、私にはちょっと難しい歌集だった。自分が見ているものとはかなり違う世界だなあと思う。なので、作者が描いている一つ一つを教わるように感じて不思議で面白かった。
 そればかりではなくて、共感できたり、景色がよく見える歌もあり、多彩な色を感じる歌集でした。


 いくつか、好きな歌。


  人間といふ誤植をゆるす地上にて正月なればあはれ華やぐ (p79 ルビ「人間 ひと」)

 人間が地上の誤植、という把握にぐっときました。お正月の華やぎの中でそう思うってすごい。いつか校正されて訂正されるのだろうか。どんな風に? 華やかなのにこわい歌。


  電線にならぶ雀はつゆぞらの心拍数を数へゐるらし (p105)

 雀がちゅんちゅんいってるのかなと思う。曇天の中、その囀りが空の心拍数を数えるようだ、ということでいいのかな。可愛い情景だけど「心拍数」という言葉がちょっとこわい感じ。好き。


  いつの日か遺跡とならんスカイツリー船べりたたく川なみの音 (p107)

 まだまだ真新しくそびえたつスカイツリーをいつか遺跡になる、と、すでに廃墟と二重うつしに見ている。江戸、と見ている一連の中で、過去と未来とを今、想念しているはるばるとした時間の感覚が面白かった。


  梅雨寒や本のにほひのしてありき我家はいまもここに在ります (p127)

 我家の匂いは本の匂いなんだなあというのがとてもいい。羨ましくなった。


  ゆふぐれのそらに鮮らしき富士のやまわが水準器たひらかとなる (p144)

 夕暮れの中に富士山がシルエットとなって見えているところだと思う。夕暮れというさみしさの中、あの綺麗な山の姿を見て、ふと、心やすらかになる、という情景だと思う。「わが水準器」という表現が素敵だなあと惹かれた。


  がうがうとわたしを轢いてゆくがいい春らんまんの夜の列車は (p167)

 夜桜の中を走っていく列車、と思った。「わたしを轢いてゆくがいい」というのは物騒で、でも春爛漫の中にいるとそういう気持ちになるのかもしれないと、わからないけれど納得する気もする。投げやりのようで、力強くもある歌で魅力的。春の中に消えてゆきたいという思いかなあ。消えてゆきたいというよりはバッと弾けてしまいたいような感じかな。惹かれる歌だった。

 もっと私がいろいろ知っててわかってたらいいのになあ。もっと読めるだろうに。少しずつでも見たり聞いたり勉強したりし続けていかねばと思った。


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