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『無伴奏』 (岡田幸生/ずっと三時)

『無伴奏』 (岡田幸生/ずっと三時)


 私家版、というやつかな。
 1996年の句集『無伴奏』に、さらに拾遺をつけての2015年刊の一冊。360句。

 句集ですが、随句、というもののようです。「序 北田傀子」を読むと、ひらめきの韻律の句で、17音とか季語にこだわらないって感じかなあと思う。山頭火、放哉という感じか、と、思うけど、多分私はあんまりわかってなくて、なんとなくなるほど、と思う。

 文庫サイズで手に馴染む本で、淡々と並ぶ句は一見やさしい。ひらめき、ね、と思う。難しい言葉はあまりない。
 けれど、俳句の17音では読めないし、季節ごとに並んでいるけどどれが季語で、というのを気にするでもない感じ。すいすいさくさく読めるけれども、読めているのかどうか、自分で不安になる~。
 ひらめき、ね。
 考えるな、感じろ、みたいな?
 
 確かに詩だ、という気はする。この言葉選び、言葉の感触は凄い。ような気がする。気がするって弱気になっちゃう、読めてない気がする自分が~情けないやね。
 でもこうだーっと読み込むと、「――だ」という言いきりの句が鼻についたりして、私としてはあんまり好きだ素敵だとはならなかった。いやこの語尾の畳みかけの並びなんかもあえて、と楽しむべきなのだろうか。うーん。

 凄く、見る、見ている、作者の視線のあり方を感じた。見てる。対象というか、目の前にあるものというか。女とかを。見てる。視線のじっ、とした感じを思った。ちょっと怖いようなくらいに思った。見るって怖い。そしてこうして作品として投げ出されているの怖いなあ。
 かなり長く手近に置いていて、何度もパラパラした本だった。読んでも読んでも私には読めないのでは、と、不安になったなー。ポストカードに一句ずつ、みたいな感じで読みたいかもしれない。


 いくつか、好きなもの。

  春の陽を吸って吐いた

 「吐いた」という結句に惹かれる。春の陽、というあかるい柔らかいやさしい風情の中の吐く、という強さ。別に息を吸ってはいて~って思えば何でもない事なんだけれども、「吐いた」というのはもっと強く嘔吐のイメージを私は持つ。春は好きな季節なんだけどね。吐く、ってのもわかる。ような気がする。

  そんな声で黒猫をふりむかせた

 どんな声ですか、とそそられる句です。黒猫を振り向かせるんだものね。セクシーに決まってる。と、私は思うの。読む人それぞれの推しの声を思い浮かべるよね。たまらん。「そんな声」という思わせぶりと、「黒猫」の鮮やかさが効いてると思う。凄くいい。セクシー。

  笑顔を残してあなたがいない

 あなたがいないのにあなたの笑顔はあるんだねえ。切ない。

  春の時計の何時でもない

 時計であれば、それは、何時かを指してはいるでしょう、と思うけれども、春の時計だから、指している時が溶けてゆくようなぬるさというか眠たさというか、なのか。もっと概念的に春という茫洋とした時間の塊みたいなものなのかなあ。何時でもないという自由さのような感じが心地よい。春だし。

  みぞれのぬれたところが蜜だよ

 この句は夏の句の並びの中にあったので、かき氷の感じか、と思う。「ぬれたところが蜜だよ」ってめっちゃえろす~~と思ってもえてしまった。

  誕生日の切符も自動改札に飲まれる

 誕生日の日付が記されている切符は自分には特別なものだけれども、自動改札には勿論当然全く何一つ特別ではない、という。ほんの一瞬の微かな、あ……という感慨。切符ってもう最近あまり手にしないけれども(スイカとかパスモ使うのがほとんど)地方とか旅とか、何かしらやはり切符を持つことはあって、自分の何かしらちょっとした特別が、あっけなくそっけなく、何でもなくなる、この、社会に生きている感じを思いました。

  あまいもので癒えるほどの愁いだったか

 そうだったんだな、って。可愛い。甘いもの、いいよね。あまいもので癒えるほどの愁いでいいよね。「愁いだったか」と自問している、自分で腑に落ちないけど甘いものおいしくてよかった、みたいな憮然とした感じがとても可愛い句。

  雪ひらがなでふってきた

 雪の振り方がひらがな、っていう表現、とても好きだった。

  指で食べて指で洗った

 これもさー、私はめちゃめちゃえろす~~~もえもえ~~と思って読んでしまった。「指」というものの持つ力でしょうか。私の問題か。けど、荒々しいような繊細なような、この指の、食べる、そして洗う、という、何を、とは書かれていなくて読者に委ねられているわけで、それならば私はエロシーンとして読みます好きです。

  窓あけはなって木犀の雨

 木犀の香りとか風ではなくて「雨」であるところに惹かれました。金木犀であってほしい。濡れたオレンジ色を思った。

 好き勝手読んで、というか、読めなくてごめんなのですが、面白かったです。

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