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『アネモネ・雨滴』 (森島章人/短歌研究社)

『アネモネ・雨滴』 (森島章人/短歌研究社)


 2017年9月26日印刷発行。第二歌集。

 私はこの作者のことは何も知らなくて、けれどもとても美しい歌集だという気配に惹かれて手に入れました。

 歌は概念的なものが多く、「少年」のイメージが美しい。耽美、という言葉を久しぶりに実感する思いがした。
 歌の背景に作者像というのはあまり浮かばないのだけれども、猫が好きで猫といて、そして猫が亡くなったんだなというのは現実なのであろうと思う。猫。私も猫が大好きで、嗚呼、と思う。猫、至高の生き物だものね。

 1999年から2014年までの歌から三百三十首を収録した、とあとがきにある。期間は長いけれども随分厳選してなのか、歌数は多くない。その余裕というか、余白にうっとりひきこまれて読む、綺麗な本だった。本のサイズはふつうよりちょっと大きい中に、一ページ二首というのが典雅である。その歌のゆったりとしたうつくしさも感じる。

どの歌も完成度は最高で、好きな歌、として付箋つけるのは難しいというか、選べないほどどれも素敵だ……ってなってしまう。うーん。どうなのか。選べない。猫の歌は、好きだから好きっていいたくなるけど、猫好きだから、わかる~って気がするけどわかってない気もするし、そしてやっぱりうちの猫、というものだと思うので、猫の歌はこの人のものだなあと思ってしまう。猫はよいものですから。

 「少年」という言葉の、概念の、持ち方が、この作者と私は違うんだろうなあという気もした。少年、ことに美少年だろうなって思うのすごくすごく素敵なんだけれども、でも私の思う所とは多分違うんだろうなと思った。すごくすごく素敵だけど私もただならぬ思い入れみたいなのがあるんだなあと、改めて自分のことを思ったりしました。少年、いいよね少年。いいよね、すごくいいよね、と思う歌が並ぶのだけれども、なんか、選べない。難しかった。


 それでもいくつか、好きな歌。


  くちびるは何と婚姻交すべきなべての言葉少年拒む (p17)

  呼び声に振り向けるとき少年の姿はなやし桜狩らるる (p21)

 絶対美少年じゃんとしか思えない。桜に攫われる系の少年の儚さ、美しさ、エロス。言葉を拒み、姿を消してしまう存在、というか、存在の儚さとしての少年だなあ。


  誰にも似ない少年が来る銃よりも偽薔薇の死をたづさへて来る (p118)

  金輪際椿に触れぬ触れさせぬ ゐるはずのない神を殺しに (p119)

  声もらすのにふさはしき口 千年をもてあそばるる少年、弥勒よ (p120)

 上三首はうまく意味がとれないと思いつつ、すごく惹かれる言葉たちで付箋をつけた。銃、薔薇、しかも偽薔薇っていう重たさがいい。次は椿。赤い椿だと思う。早春の冷たい、緑の葉はあれどもまだ寒々しい景色の中の鮮やかな椿の赤を思う。そして「ゐるはずのない神」を殺すという、この過剰さがいい。好き。やられる。
 弥勒菩薩の半跏思惟椎像を思い浮かべるわけですが。あのほっそりした指とか柔らかなはかなげな姿とか。それを少年と見立てて千年もてあそばれるという、声もらすっていう、あああ~なんて、エロス、ごめんなさいって思いながらもえころげてしまいました。なんという耽美。


  さてここにきみの片腕ひつそりと置かれし外は白き淡雪 (p153)

 川端康成の『片腕』を連想。あったよね? 男が若い娘の片腕をかりて一緒に寝たりするあれ。ひっそりとした片腕。白い淡雪。清楚な静謐な中にエロス。フェティッシュでとてもよい。


  骨傷む傘の柄握りしめきみは昨日の雨の中から来たのか (p161 ルビ「傷 いた」、「昨日 きのふ」)

 歪んだ傘を握りしめて、そんな傘だから多分雨に濡れて、きみはいる。「骨傷む」は傘のことだけれどもきみのことだよね。雨がやんだばかりできみはまだ濡れている感じ、と私は一読イメージしたけれども、「昨日の雨」をどうとるか。ほんとはもう雨はやんでいて、傷んだ傘はたたんで携えているってことか、な。んー。ともあれなんだかとても痛々しいきみがいて、そのきみはきっと美少年で、そのきみを前にして作中主体は何にもできずにいる感じが、とても、ドキドキします。好き。


  遠くからやつてくるものあなたへとページをひらく あなたをひらく (p183)

 これもちゃんと読めない感じがする。遠くからやってくるもの、が、あなたにページを開いて見せて、そのものが、それからあなたをひらく、というふうに互いにひらきあってる感じと思っていいのかなあ。わからない。単純に見れば「もの」は本で、過去なり場所なりどこかを描く物語なり思想なりの本、で、それを読んだあなたの世界がひらかれるような、感じ、と、んーと、理屈になるかなあ。本のようなものをイメージし、けれどそれはものじゃなくて人の喩かな。ひらきあう、この、歌集そのものであり、本の世界、書き手と読者、みたいにも言えるかも。わかんないけど、この互いをひらいてみせる感じがとってもエロスでいいと思って惹かれた。本のイメージも好きで。この歌集の最後の一首です。

 全然私が読めてなくてダメだな。とてもうつくしいと思ったんだけれど、私がついていけてないんだろう。でも読んでよかったです。

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