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『わが唯一の望み』 (徳高博子/角川書店)

『わが唯一の望み』 (徳高博子/角川書店)


 2018年3月20日刊。第四歌集。

 一読、花なら薔薇、旅はヴェネツィア、クリムトの絵、キリスト教との関わり。西洋風だなあという印象がいっそう強いように思いました。あとがきによるとタイトルの「わが唯一の望み」は、フランスにある6枚つづりのタピストリーの一枚のタイトルだそうです。「貴婦人と一角獣」、2013年か、日本にきて話題、だったのを覚えている。見にはいかなかったかなあ。作者の解釈では唯一の望みとは神の祝福と恵を受ける事なのではないか、というような。
 そういう願いを持った歌集ということなのだろう。

 日常の中で、旅の中で、様々な物事に、人に、出会い、見ている視線の伝わってくる歌で、作者の世界をページをめくるごとに一緒に見せてもらうような感じがした。祈り、願いの思いも伝わってくる。
 言葉が端正で、押しつけがましさがなくて、心地よく読ませてもらった。


 いくつか、好きな歌。

  油絵を背景から描く画家逝きて真中に白き虚遺されつ (p23)

 こんな風に目の当たりにする死の在り様があるのか、と、その絵の真ん中の空白がまざまざと見える気がした。主題として描かれるはずのものは何だったのだろう。静物なのか人物なのか。わからないけれども、残された空白は絵の描き手の死そのもになったんだなあという驚きがあった。


  はつはるの白き光につつまるる薔薇なることのえいゑんの檻 (p32)

 光に包まれて咲いている薔薇を永遠の檻、とする捉え方が素敵。薔薇として在ることは他の花ではないという、それは薔薇という檻に閉じ込められているという、耽美だなあ。この世に何かとして在るってことはその檻にはまっているってことですね。


  図書室では私語を慎めとこゑのする徐徐にちかづく其の声の闇 (p103)
  凶暴さを匿ししづかな図書館のちみまうりやうよねむりつづけよ (p103)

 この二首が並んでいるページ、妙に迫力があって惹かれました。図書室って私には良いイメージの場所なんだけれども、静かにしていなくちゃだめ、叱られる、という恐怖があるのか。キングの小説で読んだことあるような気がする、と連想してみたりして。闇とか魑魅魍魎とかのこわさがいい。


  聖人像は鳥に説教する姿聖人は聖人として立ち尽すのみ (p142)

 像なので、動かないものなのだけれど。鳥に延々と説教し続け立ち尽くし、その尊いような、不毛なような。聖人像を「立ち尽くすのみ」とした結句になんだかとても惹かれた。


  ひたすらに花を散らせし鳥群の去りてしづけき春雨の径 (p163)

 鳥が桜を花びらではなく花ごと散らしているのを見たことがあると思う。その情景を思った。花も鳥も雨もうつくしく、ただただ春の只中にいる感じがとても綺麗な歌で、好き。

 本の表紙が、タピストリーの絵柄で鮮やかな赤があり、タイトルや著者名は金、表紙のベースはグレイ?緑?落ち着いたもので、手にした時から、綺麗な本だなあと思って。読んでみても歌も綺麗で、よかった。キリスト教に関するようなこととか、絵のことも、私の教養が足りなさ過ぎてあまり読めてなくて申し訳ない。その一端に触れることができて、よかった。


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