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『リヴァーサイド』 (飯田彩乃/本阿弥書店)

『リヴァーサイド』 (飯田彩乃/本阿弥書店)


2018年9月9日刊。(あ、重陽の節句だ) 第一歌集。

2010年から2017年の間に作った歌から328首収録とのこと。

 きれいな淡い水色が幾重にも重なって、☆が散っていて、やわらかい表紙で文字もうつくしくて、こういう第一歌集を出されたのだなあ素敵だなあと手にしてまず思いました。ページの数字が真ん中のほうにあるのね。かわいい。

 一読、何度も呼びかける「よ」がある感じがするとか、何かをとりあげて、作者なりの定義というか、名付けといか、うーんと、こう、作者の視線、作者の思いで、新たに歌に生まれ変わらせているような感じがするなあと思った。異化。詩を作っているんだなと、すごく羨ましく思った。この歌集にあるのは作者が歌でつくりだした世界だ。

 まー正直いって、私の個人的好みとしては、あんま合わないなーとか好きではないかな~というものもあるのだけれども、それはまあ単に好みの問題なので。どの歌もすごいのは言うまでもない。そして時々、ああああああ~~~もえる~~~って、勝手にこっちの思い込みで私の勝手な妄想しちゃったりするのもあって、めちゃめちゃ楽しんで読みました。

 生活のリアルというわけでもない、ような、いやでもすごく密着してるリアルでもあるような、簡単に単純には表現されていない、歌としてのテクニックの上手さとかすごくて、そんな中からほんのり感じ取る生きる生々しさがあって、それも美しいなと思う。
 働いている事、恋のこと、結婚、子どもを授かる、育てる。生身の作者と=なわけではないとはいえ、そういう作者像が見えて、しみじみしたりする。いろんな方向から楽しんで読める歌集ですごく面白かったです。


 いくつか、好きな歌。


  真向ひて頬とほほ寄せあふときになにか刺し違へてゐるやうな (p22)
  花であるきみはすぐさま俯いてうつむくときの花のよこがほ (p23)

 この二首すごいもえころげてしまった。緊張感と、最高の美しさをたたえてる歌だと思う。背後にいくらでもドラマを読み込めるような気がする。好きです。


  左右の耳はことなる音を拾ひつつどこに立つても風の途中だ (p33) (ルビ「左右 さう」)

 この歌を読むと自分が風の只中に立っている気がする。言ってしまえば人生みたいな。生きている途中、風に吹かれて立っているような気がする。どんな風が吹いている中なのかは読み手が今どう生きている途中なのか、ということで感じる風なんだと思う。きっぱりとした言い切りがかっこいいです。


  夜と呼ぶ水槽にいまわれらゐて唇はつけたりつけなかつたり (p49)

 この「われら」の密やかなむつみあいがとっても素敵でもえた。夜、水、閉ざされた空間のイメージ、そして唇。きゃ~ってなる~。


  夕立よ 美しいものことごとくこの世のそとに溢れてしまふ (p68)

 「夕立よ」と呼びかけて一呼吸。それから美しいものすべてが溢れるイメージ。すごく壮大であり、かつ繊細であり、沁みる歌だと思った。


  喫茶店の床にごろりと寝転んだ犬のかたちに呼吸はふくらむ (p80) (ルビ「呼吸 いき」)

 犬も連れてきていいよ、というカフェ、喫茶店といってるからちょっとクラシカルなのかもしれない。床に寝ている犬を見ていて、呼吸して動く体のふくらみを呼吸そのもの中心に見ている、という感じ。ほわーとその犬を私も見ている感じになれる歌で、犬よ、生き物よ、呼吸するものよ、という感じ。面白かった。


  窓ガラスみな外されたビルに開く眼窩にも似た暗がりのこと (p125)

 廃墟となっているビル、解体間近なのだろうか。窓ガラスがなくなったその暗がりを「眼窩」と表現しているのにすごく惹かれた。


  足のうらを剥がし剥がしてゆくことを歩くと呼べり生きると呼べり (p133)

 生きるの、辛いね疲れるねしんどいなもういやだへとへと。という実感がすごく伝わってくる一首。それでも歩いているのだ。すごい。ぐっとくる歌。


  真夜中から抱き上げるこの両腕が子の輪郭を太らせてゆく (p177)

 場面としては赤ん坊に夜中授乳する所だろう。多分眠くて疲れてへろへろで、それでも自分の両腕がこの子を守り育てる実感であり覚悟なんだろうと思う。子の重みが伝わってくると思った。


  振ることを覚えてからは何度でもあらゆる別れを告げる手のひら (p190)

 これは子どもがバイバイと手を振ることを覚えたということだと思う。でもそれを見て思う「あらゆる別れ」は子どものこれからであり作者のこれまでとこれからであり、この歌を読んだ私の「あらゆる別れ」として描かれていると思う。毎日小さな別れがあって、多分時には大きな別れがあって、人は手を振るんだろうなあと、はるばる思った。
 すごく豊かな歌集でした。読んでよかった。


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