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『リトルガールズ』(錦見映理子/筑摩書房)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『リトルガールズ』(錦見映理子/筑摩書房)


 第34回太宰治賞受賞作、とのことで。受賞決まった時に出てたムックでも読んだのですが、単行本出たので感想メモ。

 大崎雅子は中学の家庭科の教師。今は非常勤。55歳の今、もう誰に何を遠慮するでもなく一人暮らしで、好きな服、綺麗なピンク色の服ばかりを着ている。仕事はきちんとやっているのだから、生徒たちにピンクババアだとか酷いあだ名で呼ばれていても気にしない。ある日やってきた産休中の教師の代理でやってきた、美術の猿渡という男にモデルになってくれ、と頼み込まれる。何をバカなことを、とムッとしてとりあわない雅子を諦めない猿渡に、少しだけならいいか、と、つい、気持ちを乱されて雅子は変わる。

 中学生の女の子、桃香や小夜とか、友達たちの世界と、桃香の母、父とか。中学が舞台の中心だけど、そこにいる様々な登場人物の季節が描かれている。

 説明は難しいなあ。主人公、というか、メインは大崎先生と猿渡の美術モデルになるかどうか、と、桃香と小夜の友達以上、思春期~みたいな感じかな。桃香の家庭の複雑な、でもシンプルな、好きな人が好き、みたいな所とか。
 多分世間体がとか、なんとなくぼんやりとある世の中の普通とか、先生とは、子どもとは親とはこうあるべき、みたいな形とは違う、本当にそれぞれの登場人物たち一人一人が、ああこういう風にこのひと時、生きているんだなあと感じられる。
 殺人事件が起きるとか地球が滅亡するとかいうことはない、普通の日常が、ちょっとだけ非日常になる、いやこんなのないよ、って感じと、でもなんかあるなあわかるなあって思う感じ、両方思って面白かった。

 場面はあちこちうつるし、それぞれの人物によっていって短い断片が積み上げられていくんだけれども、すごく読み易くて面白くて、すーっと一気読みしちゃった。全然混乱せずに読ませられるのすごい。

 私が一番共感というか、近しく思って好きなのはやっぱり大崎先生だなあ。好きな服着ていこう、っていうのすごくいい。
 ちょっと違うけれど、私、今年から髪を染めるのをやめて、すっかり真っ白な前髪とか丸出しにしてる。グレイヘアが注目~みたいなことあるみたいだけれども、なんかその、オシャレ的な意味あいではなくて、本当に、染めてる髪が伸びて白いのがすぐ目立つという、別に誰も私の髪なんて見てないし気にしないだろうけど自分にとっては、あーもう、って気になってしまうのが心底めんどくさくなって、もうどんなに老けて見られてもいいや、染めるのやめる、って決めたのでした。大袈裟に言えば若々しくあらねば、という価値観からの解放~。やめたらすごく気持ちが楽になって、よかった。

 年をとってよかった、好きな服着て好きな家具や小物に囲まれて生きる、という大崎先生の自由が描かれてるのがすごくいいな~。で、他人に迷惑かけるわけじゃないし、と、つつましく謙虚な風でありながら、大崎先生の内心が、結構ばんばん毒づくというか、あんたちゃんとしなさいよ、でもまあふーん勝手にすれば、みたいにさっくりざっくりしてるのが面白かった。ねちっこくない性格の悪さみたいなのが魅力的で、大崎先生の内心の描写の口調っていうのかなあ、文章、すごい好き。

 もう一人の中心人物、桃香。友達たちが好きな人で盛り上がったりするのにいまいちついていけない。まだ恋を知らない、とかいうとロマンチックにすぎるけど、そういうまだもうちょっと、いろいろわかんない、と思っている女の子。先輩に告白されて、拒否も出来ない。といっても気が弱いとか情に厚いとかでもなく、は? 意味わかんない、みたいな感じのリアル。小夜というクラスメイトに好かれちゃう。桃香も小夜のことが気になってて、絵のモデルになってもらったりする。初恋なのか、なんなのか。思春期ならではーってことなのか。初恋って恋って。何? という、もわもわと曖昧な切なさ。抱きしめたりキスしたり、全然落ち着きなく突拍子もない行動しちゃったりプールに飛び込んじゃったり。この全然意味わかんないって感じ面白かった。ダメでしょ、プールに飛び込んじゃ。大会に大迷惑だったんだろうなあ大変だ~、と思いつつ、なんかもうそうしちゃうしかなかったのかそうかそうか、と、二人可愛いなあと思った。
 ムックの時とちゃんと読み比べたわけじゃないけれど、小夜と桃香の関係の感じが丁寧に書き直されてるのかな。他にもなおされているんだろうけど、私が一番感じたのはそれかなあ。んー。読み比べてないけど、印象。
 小夜ちゃん~もうちょっと待ってあげてよ~と思うけど、小夜ちゃんも同い年なのだった。子どもだなあ。だけどほんっとキラキラしてるよなあ。未来ある子供たちよ、と、眩しい気持ちになって読みました。

 大崎先生は、猿渡先生にもその彼女にも、モデルになってくれ、あなたこそミューズ、って扱いになってモテモテに。全然すらりとしてなんかない、顔も全然美人じゃない、けれど大迫力の女神のように作品に作られる。そんな奇跡すごい素敵。こんなに自由になれたらいいなあ。

 この学校、この小説の世界、みんなそこに生きている人だから当たり前みたいに描かれてるけれども、すっごいハイソな世界だなあってのも面白かった。それが、いろいろ大変だったり切なかったり辛かったりがあっても、うっすらと余裕ある世界な感じがして、ゆったり読めたのかも。中学校が舞台の中心ってなると、なんだか息苦しくなりそうなのに、学校だけではない所、もっと外が、もっと別の、世界があるというのが見えてよかったな。ストレスが少なかった。

 全てが、めでたしめでたしと解決しました、ってわけではないよねえ? と思うけれども、いろいろあったしこれからもいろいろあるかもだけれど、なんか、いいじゃん。美味しいお茶とケーキがあるし。ほっとして緑はきらきらしていて、って、気持ちいい終りだった。あんまりいつもなら自分は読まないかなあという感じの小説だけど、ちゃんと読んでみてよかった。自由になりたいな~、なんとかちょっとずつ、なれるかも、って思えた。


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