« 『リトルガールズ』(錦見映理子/筑摩書房) | Main | 映画 特捜部Q 三本立て »

映画 「ゴッズ・オウン・カントリー」

*ネタバレ、結末まで触れています。


映画 「ゴッズ・オウン・カントリー」


17日(月)に、シネマート新宿へ見に行きました。のむコレという企画、か。レインボーリールでやってたと思うけどその時には行けず。評判良くて気になってたのでがんばってチケットとった。実はブルーレイを買っていた。英語わかんないけど眺めるだけでも、って思って、でもな~とまだ見ないでいたので、日本語字幕で見られたの有難かった。

2017年、製作国イギリス。
 ヨークシャーの牧場。家族で、というか一人息子ジョニーが頑張ってなんとかしている牧場。父はしばらく前に倒れた? 卒中かなんか? で、体の自由がきかない。祖母が家事をこなす。
 クソみたいな所だ、と、この暮らしにうんざりしているジョニーは、夜は酒を飲み、飲み過ぎて吐いて憂さ晴らし。辛うじて牛や羊の世話をしている。
 羊の出産シーズンのために、人を雇った。ひとりだけ応募してきたのはルーマニア人のゲオルゲ。牧場の仕事には慣れているという彼に、最初は侮蔑的に接していたジョニー。だが、一緒に働き、彼に反撃されたりもして、打ち解けていく。

 始まりが嘔吐シーン。その後も、泥まみれの牛とかぬかるんだ牧場とか。牛を売りにいって、どうでもいい相手とただの性欲処理のセックス。多分幼馴染かなんかの女の子は大学行ってるってことだから、ジョニーもまだ多分二十歳前後って感じだよな。ジョニーの鬱屈、嫌だこんなところ厭だ最低だ最悪だクソが、っていうのががっつり伝わってくる。こんな暮らし、嫌だ。
 でも父はもう体の動きが不自由。祖母はもちろん老人。嫌々でも牧場の仕事を自分がなんとかやるしかない。出産間近な牛に声をかける感じはけっこう優しかったりして、ジョニー、いい子なんだよね、という感じもちゃんと伝わる。
 セリフは少なくて、でもすごく描写は丁寧だなあと思った。人となりというか、暮らしとかそこで生きてる感じとか、すっごく伝わる。
 
 そこにやってきたゲオルゲ。ジョニーが迎えに行くんだけど、お前パキか? ってなことを言う。あ~「ボヘミアン・ラプソディ」でも出てきてたセリフ~。移民差別感情みたいなの、あるんだよなあ。今も。良識ある公の場みたいな感じでは言わないだろうけど、そういうこと言っちゃう感じの、ジョニー。ジプシーかよ、とか。そういう風に呼ぶな、とゲオルゲはきっぱり拒否する、その言い方も、ゲオルゲがまっとうな人物って感じがする。チョコレート菓子をこっそり頂戴して食べたりするのも可愛げを感じる~。
 ゲオルゲは母が英語の教師ですってことで、彼の喋る英語が一番わかる気がした。いや私英語わかんないんだけど。ジョニーの喋り方とかはほんとだるそうだったりもごもごだったり、多分なまりとか? 英語のそういう感じわかんないけど、私には全然聞こえない。ゲオルゲくんが喋ってるのはたまにわかる。多分学習しましたって感じだから、なのだろう。

 で、羊の出産のためにしばらく丘の小屋みたいなところに二人で泊まり込みに出かけるのね。寝袋とカップ麺みたいなの持って。小屋といってもかなり崩れかけだったりして、寒そう。そして、またゲオルゲをからかうようなことを言うジョニーを突き飛ばし押し倒し、二度とそんな口をきくな!みたいに怒るゲオルゲ。ジョニーくんてば弱い~。喧嘩とかまともに出来るタイプじゃないんだね~。ヘタレ馬鹿息子~~。
 そして、それきっかけ? その前から気になってる感じ? 何も言わずに欲望ぶつけるだけの勢い、強引さで、やる。ジョニーがキスをしたがらないのがきゅんとくるよな~。ジョニー、適当にやったりしてても初心な感じがして、心配になっちゃう。

 お互い意地っ張りつつも、穏やかに抱き合うようになる。この、それまでは泥とかぐちゃぐちゃで、汚い辛いって画面が、二人が向き合うようになると、とても優しい綺麗なトーンに変るの。ああ~恋か恋だね好きになっちゃったんだね、って、すっごいわかる。
 二人で仕事すれば楽しい。二人でならやる気出る。ジョニーが生き生きしてくるのがわかる。

 羊の出産とか、あれはリアルに撮ってるんでしょうか。生々しい。それを助けながら、ゲオルゲは弱った赤ちゃん羊を助かるかも、と大事に温めたりする。その一方、完全に死んた赤ちゃん羊は、足先を切り落とし、皮をはぐ。その皮を守ってきた赤ちゃん羊にかぶせて、母羊のところへやる。おかーさん、匂いとかで誤魔化される感じ? なんか、そういう、牧場の仕事のリアルっていうのか、優しいけど甘くない感じとか、凄い。
 そりゃそうなんだけど。牛や羊の肉を食べる。赤ちゃん羊は可愛いけれど、ずっとずっと抱いて育てるわけにはいかないし、死んだ命を蘇らせることは出来ない。淡々とそういうことをやれるゲオルグと、まだそこまで出来ないジョニーと。

 手伝いに雇った期間は一週間かな。しかし父が発作を起こして倒れてしまう。命はとりとめたものの、事態はさらに深刻。ゲオルグは父が戻るまで残ろうか、と、二人で過ごす。
一緒に飲みに行って、ジョニーはもっと長く残らないか?と話をもちかける。

んでさー、この、だからって求婚したわけじゃないぞとかでもずっと残るってことはわかってるのか、家族に話せるのか? とか、うまくいかない長続きしないよもう辛い思いをするのは嫌だとか、二人の会話が、ね。ああ、現代なんだ。同性愛や同性婚、今でも差別されたり嫌悪されたりはあるけれども、それがありえないとか絶対許されないとかではない。結婚というか、二人でずっと、というのも、あり、になっている今の世の中なんだって、すごい。

でもそこでジョニーは真面目に考えたりするのが面倒になっちゃうタイプなのかまた酔った勢いなのかなんか、酒場のトイレでつい、他の男とやっちゃう。ゲオルゲにバレる。バレたことに気付かないジョニー、アホか~~。
 ゲオルゲは出ていく。
 しょげかえるジョニー。

 そして悩んで、ジョニーはゲオルゲを迎えにいく。祖母や父にも話して、ちゃんと戻ってくるから、といって。父もさー、祖母も、別にすごく理解があるってわけじゃないけれども、ここに彼が必要だとか、ジョニーが彼といると楽しそうだ、とか、そういうことわかるんだよね。彼といるのがジョニーの幸せなのか、と。だから、止めない。

 この、このね~~堅物そうな父や祖母も、同性愛ってありなんだ、という認識持ってる世界なんだよね。現代だ。
 切実なこと言えば、父はもう車椅子じゃないと動けないし祖母は老いていくばかりだし、もう一人男手が増えるかも、しかも牧場の仕事をよくわかってる、という、これって願ってもないチャンスって感じ。実利~~~って思ったけど、けど、なんかこう、この家の苦しみ、絶望的な状況に、希望を見出せるかも、というゲオルゲの存在って、救いなんだ。それしかないという感じの救い。神よ、という気持ちになった……。

 ゲオルゲが働いてる農場、かなりでっかい。あそこは企業って感じなんだろうな。そこに行ったはいいものの、全然うまく喋れないし、怒ってるゲオルゲにちゃんと謝るとかもしない、不器用くんジョニー。もおお~~~もどかしいったら。
 あげくに、逆キレ気味に、「やり直そうとしてんだよ」わかってくれよって涙目になっちゃうの。可愛い~~。馬鹿息子~~。一緒にいたい、って素直に言ったのはよかった;;
 あんなんで許しちゃうゲオルゲ優しい;;
 ゲオルゲとしても、故郷の国は死んでるとか言ってたし、どこかへ行きたいという気持ちは強かったんだろうと思う。牧場の仕事は好きみたいだし、ジョニーはアホだけどいい子で可愛いって好きなのはほんとだろうし、も~優しい。
 お互いの都合も合致する。
 んでも何よりも、二人で一緒にいたい、という、シンプルな思いなんだよねえ。すごいよかった;;

 ちょっと「スター・ウォーズ」を思い出した。ルークがさ、田舎の星でおじさん手伝って農業、だっけなんかこう、家の仕事手伝えってなってて。でもある日レイア姫のメッセージを受け取って宇宙へ飛び出して大冒険! あれは田舎でくさってる若者みんなの希望で夢でわくわくものなんだけど。もちろん夢なので。どんなにうんざりするような場所でも、離れるわけにいかない事情ってものがあったりするわけで。
ジョニーはうんざりしつつも、やっぱ牧場をやっていくことそのものは、やらなきゃな、って思ってたんだろう。母は多分小さい頃に出て行った。多分あまり恵まれてない中で育ってきたんだろう。おばあちゃんいい人そうだったけど、大変だったろうし。堅物でぶっきらぼうそうな父は多分仕事ばかりしてて子どもを優しく教育とかはしてない。でもそんな父にも優しくできる子なんだよ。
 そして、ゲオルグと一緒になら、仕事やるのイヤじゃない、楽しい、くらいになっていく。
 一緒にいたい、一緒にいて楽しい、一緒に生きていきたい。単純な、でもそれって愛だ。シンプルで強い愛だなあ。

 遠くへ、遠い宇宙へ、別の世界の夢へ、旅立つことは凄いけど、自分のいる場所、足元、家、そこで生きていくのも凄いこと。そこで、一緒にいたい思う相手と生きること。きらきらしたロマンチックではないけれど、とてもとても優しい夢で希望だった。
 お父さんの状態もいいわけでもないし、おばあちゃんは遠からず逝くだろう。問題解決めでたしめでたしってわけじゃないけど、とても優しくて救いのある映画だった。帰りのバスで二人して居眠りしてた顔のなんてうつくしくて優しかったことか。

 ゲオルゲがきたときに宿泊させてたトレーラーハウスはラストでは売ったのか廃棄だかわかんないけど運ばれていってた。多分時々短期の手伝いの人を雇って、その仮住まいのためのものだったんだろうなと思う。でも、これからはジョニーとゲオルゲの二人でやってく。ゲオルゲは一緒に家に住む。そういうことなんだろうなと思う。

 今をうつしたゲイムービーなんだよね。好きな人と一緒にいる、それを選べる世界になって、よかった。世界は少しずつよくなってきていると思う。思いたい。信じたい。よくなっていくように、優しくなれるように、生きていけるように。どんな命も尊かった。見に行けてよかった。

|

« 『リトルガールズ』(錦見映理子/筑摩書房) | Main | 映画 特捜部Q 三本立て »

映画・テレビ」カテゴリの記事