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『サイモンvs人類平等化計画』(ベッキー・アルバータリ/岩波書店)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『サイモンvs人類平等化計画』(ベッキー・アルバータリ/岩波書店)


 サイモンはごく普通の高校生。16歳だっけ、17かな。友達のニック、リアとつるんでる。アビーという転校生とも仲良くなってる4人グループ。他にもランチの時同じテーブルになる仲間もいる。
 ある日とんでもないヘマをやらかしてしまった。図書館のパソコンでメールチェックしたあと、ログアウトしてなかったのだ。マーティンはそのメールを見てしまったという。それはお互い匿名でやりとりしてる、ブルーとのメール。ブルーに恋し始めているサイモン。サイモンとブルーはゲイという秘密を共有しているのが、マーティンにバレた。そして、アビーと仲良くなりたいから協力してくれないか、と。それって脅迫されてるんだよな? サイモンは仕方なくマーティンをアビーたちとの遊びに誘うようになる。

 2017年刊。
 これ、映画になってて、その映画「Love, Simon」が今年アメリカ公開になってて、とても評判よさそう。すごく見たい。と思ってた所、この原作がちゃんと翻訳されていることを知って読んでみた。
 
 タイトルの「人類平等化計画」というのは、サイモンが、なんでゲイばっかカミングアウトするかどうか悩まなきゃいけないわけ? 異性愛の人もみんな、自分のセクシャリティ平等に宣言するとかならいいのにね、みたいに言ってた感じ。そうだよな~。ゲイだ、と自覚して、それから、カミングアウトするかどうか、って、またもう一段悩まなくちゃいけないの、たいへん。カミングアウトするかどうかって悩みなくなるといいのに。

 で。これ、も~~~~すっごい!胸きゅん青春物語!
 友達グループが、恋をする年齢になってきてちょっとバランス壊れそうとか、新たな人間関係とか、学校という場とか。
 家族。友達。恋。そんなこんなの青春はそこにゲイであることの悩みが+されてもやっぱ普遍的なんだなあと思う。それでも、やはり今、2017年だとかだからこその描かれ方で、ずっとサイモンのモノローグなんだけど、その喋るような口調の感じとか、タンブラーとかテキストのやりとりとか、ハリーポッターは全員必修みたいな感じとか、ゲイであることそのものは別に珍しくもないけど、でもやっぱ実際カミングアウトってなるとそれぞれ個人としては大問題なわけで、とか。すごく今なんだなあと思う。
 そして今、であってもやっぱり、ゲイ差別というか、からかうバカはいるし、そう、やんわりとした脅迫に使っちゃうマーティンとかなー。ゲイだからっていうか、恋愛ネタって感じくらいに思ってたのかマーティン、って感じだけど、でもやっぱり、勿論まだ完全にフラットなわけにはいかないんだよなあ。

 カミングアウトをするか、しないか。それは極めて個人的な問題で、マーティンがしたことは絶対に酷い悪い最悪なこと。学校裏掲示板的、なんだろうね、タンブラーへ勝手な暴露書き込みして。妹がそれを見て教えてくれるとか、そのせいで、サイモンは家族や友達にもう自分から言うしかないってことに追い込まれる。マーティンがしたことを勿論許せない。でもマーティンにも極悪人ってことじゃなくてやっぱ若くて自分の恋の問題でヤケにもなって、兄がゲイだってことで家族の中でもまあたぶんいろいろあって、な、なんだかんだの面白くないムカつく秘密バラしちゃえ、っていう、その、その、そうしちゃった感じっていうのはわかるんだよなあ。でもそんなの、わかるよって許せることじゃない。
 幸い、サイモンはラブラブを手に入れて両親や兄弟や友達には恵まれてて。いつか、遠いいつかにはマーティンを許せるのかもしれない。

 カミングアウトを受けた両親というものの描写も、なるほど今ってこういう感じ、か。こういう感じが理想というか、望ましいというか、こういう感じならあり、ってことかなあと思いながら読んだ。
 サイモンの家族はかなり仲良し。両親も姉、妹とも。家族だけでのくだらない遊びに一緒に夢中になったりする。でも姉は大学生で家を出てる。両親は子どもたちの成長を喜び見守り、親しみやすい良い親であろうとしている。カミングアウト前には、父親はゲイ絡みでジョークを言ったりしてて。それは悪気ないつもりのもので、サイモンも殊更ひどくそれで傷ついてるわけではないけれども、カミングアウト受けて、父は、悪かったって謝罪する。
物凄く完璧な幸せな家庭というわけではないにせよ、ごくありきたりに、こういうおうち、こういう家族、こういう子どもたち、いそうな感じがするなあという世界なんだよね。
 そういう、ドラマとしては平凡なような、普通っぽさ、の中で、でもとても丁寧に、真摯に、よりよくあるといいなと思える理想が描かれていると思った。

 ブルーとのメールのやりとりの中で、サイモンがどんどんブルーに夢中になって恋しちゃって、もしかしてブルーはカルなんじゃないかなとかドキドキしていくのにつれて読んでるこっちもすっごいドキドキが高まっていく。ああ~~恋~~。恋だねえ。いいねえ。
 ブルーが誰なのか、というのはかなり引っ張られる。私はわかんなかったなあ。ランチ友達でサッカーやってるブラムくんね。途中では全然ひっかからないキャラだったよ。そういう、ブルーは誰か、というちょっとミステリ要素っていう雰囲気も楽しかった。
 そして、無事お互い顔を合わせて。キスをして。ってゆ~~~~おしまいのほうの~~~胸きゅんときめき~~~すっごく可愛くてよかった。幸せになってくれ。10代バカップル誕生素晴らしいよ。
 
 ヤングアダルト分類なので、実際10代の子がこういう本を読んでときめいたり考えたりできるといいよねえ。映画も見たいなあ。日本にも来ないかなあ。見せてくれ~。
 アメリカの高校生たちってこんななのか? というのを読むのも楽しかった。基本的にはコメディというか、サイモンはあんまり悲観的じゃなくて、ちゃんと楽しむしちゃんといい子だし適度にダメっぽかったりもして。すごく好きになれた。いいもの読みました。

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