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『僕が殺した人と僕を殺した人』(東山彰良/文藝春秋)

*ネタバレ、結末まで触れています。


『僕が殺した人と僕を殺した人』(東山彰良/文藝春秋)


 2017年刊。

 1984年。わたしたちは13歳だった。
 過去と、今、2015年ふたつの時間。台湾での少年時代と、少年を7人殺した連続殺人事件。
 犯人は。あの頃は。今、わたしは。

 ツイッターで、これは素晴らしいメリバBL小説!という紹介ツイートが流れてきて、記事はバレがこわくて読まなかったけれども、なんだか興味をとってもそそられる~と思って読んでみました。東山彰良、初めて読む。

 サックマン、と呼ばれる、少年を狙った連続殺人犯の、8番目の犠牲者になりかけたデューイ・コナーはたまたま近くにいた警官に助けられ、犯人は捕まるとあっさり犯行を自白した。2015年。
 1984年。兄が事故というか事件で亡くなってしまい、精神のバランスが壊れてしまった母を、父はしばらくアメリカへ連れて行ってみることにした。ユンは、近所のアホンさんのうちへ預けられることになった。アホンさんの牛麺屋をよく手伝いにいっていた。その家のアガンとは友達。その頃、ご近所づきあいとはそういう、みんなが助け合う大きな家族のようなものだった。

 少年時代の主人公はユン。というか、全体通して主に、ユンの物語かなあ。少年時代の、友達。仲間。喧嘩して競い合って、バカげた遊びに熱中して、大人に叱られる悪い事もして。親がいなくなり、不安で、でもアガンやジェイとつるんで最高の夏休みを過ごした時間。

 途中まで、少年殺害の犯人はジェイだろうと思わされる。それが違った、とわかった瞬間の鮮やかにああ騙されていた、という快感凄かった。
 人形劇を子どもを誘う手口の一つとして使っていたり、二人きりでビデオを見ていた時、唐突にユンにキスをしたりするジェイ。少年愛というか同性愛の傾向? というミスリード。それが、実は犯人はユンの方で、国際弁護士となっているジェイが、アガンに頼まれたこともあってユンのもとを訪ね、弁護してやろうとする。
 かつて、ジェイを殴る義父を3人で殺そうという計画をたてた仲間だった。毒蛇を使って、事故にみせかけて。だが、思いがけず毒蛇はアガンの父、ホアンを死なせてしまう。計画は狂い、3人の仲も壊れる。

 その時、その頃、何があったのか。現在の時間から振り返るように小出しにいろんな展開がにおわされて、そして過去を読む。すごくひきが上手くて面白くて、一気読みしてしまった。少年たちよ……。
 まだ子ども扱いされる。けれどもう子供ではない。大人の支配下にいなくてはならないことにどうしようもなく怒り渦巻き、なんとかしようとする考えはあまりにも視野が狭く愚かだ。でも、大事な友達のため。大事な自分たちのため。計画は現実へとうつされる。
 ユンは、だが、仲間割れの報いで酷い怪我を負って二年、意識不明の状態だったようだ。

 大人になったジェイは、弁護士となり、パートナーも得ている。同性愛者であることの苦悩は乗り越えて、よきパートナーを得て、そう、今、時代としても、同性愛者であることは、まだ勿論平等ってわけではないが、30年前に比べればずっとマシになっている。何よりジェイはもう大人になっている。

 ユンは。
 意識不明で寝たきりになった2年のせいなのか。激しい損傷で脳のダメージが暴力的な方向へ振れ切ったのか。ユンが何故その犯行に踏み切ったのかは、本当にはわからない。
 ジェイに憧れていたらしいユン。ジェイとの不意のキスが嫌だったのかそうではなかったのか。あの頃、の自分たちである、12歳13歳あたりの少年たちを攫って殺す。それは、あの頃の何か、あの頃の自分、あの頃の世界を取り戻したかったのか。あの頃、で、時間が止まったまま、なのか。ユンが漫画を描こうとしていた、ヒーローたち、悪役たち。それが全てユンの中の人格として犯行し続けたのか。
 ユンとジェイ。二人が初めてあった少年だったころ。始まりを思い出し語り直す物語。


 メリバ、の意味が私、ちゃんとわかっているわけではないのです。メリーバッドエンド。末永く幸せに暮らしましためでたしめでたし、という風なハッピーエンドではなくて不幸な、悲しいエンディングだけれども、その二人にとっては幸せだから、メリー、というか、世界に二人だけの二人にとっては幸せみたいなエンディング、って感じかなあ、と、思ってる。
 ユンは少年を殺し続けた最悪の人間だ。
 でも、ジェイと、ユンと、アガンと。少年のころ、確かに仲間だったことを、この物語は描く。もしもユンが怪我をすることなく普通に成長して大人になっていれば。もしもジェイの義父殺害計画がただの空想の計画のままだったら。もしも不慮の事故でアガンの父が亡くなったりしなければ。同性愛者であることがあれほどの嫌悪や憎悪の対象でなかったら。もしも。もしも。もしも。もうどうしようもないもしもの話をいくら思っても仕方ない。
 ユンは死刑にならなくてはならない。
 ジェイには今は理解ある大事なパートナーがいる。
 もしも。
 ユンとジェイが互いの初恋を初恋として育てられていたら。
 ありえなかった世界。でも、最後に二人はたっぷり語り合ったのだろう。その、物語。

 子ども時代と、最悪の現在と。何より子ども時代のやるせなさ切なさ、でも貧しくて不安だけど最高に眩しい夏休みの事と。とてもとてもよかった。『スタンド・バイ・ミー』的な世界であり。もっともっと物狂おしい世界であり。
すごく面白かった。よかった。読んでよかった。よかったです。


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