『IQ』(ジョー・イデ/ハヤカワ文庫)
*ネタバレ、結末まで触れています。
『IQ』(ジョー・イデ/ハヤカワ文庫)
最初はツイッターで流れてきた紹介で、相棒ものが好きな方、疫病神シリーズとか、と、いくつか挙げられていた中で疫病神シリーズがあって、そういう感じ? と興味をそそられてしまいました。で、他にもさらに評判よさそうで、読んでみよう~と。
アイゼイア・クインターベイ。通称「IQ」という、名前がタイトルなのかとまず納得。ふざけた呼び名だぜ、みたいな。まだ若い私立探偵。2013年の舞台で20代終りくらいなのかな。ロサンゼルスの黒人社会。ラッパーとかなんだかんだいろいろ。
プロローグとして、少女誘拐の常習犯の男、それをたまたま見かけたアイゼイアが助ける、という派手めなオープニングがあって、あ~なんかこういう感じ、映画だな。映画化されるかなされるといいな見たいなと思う。
で、本筋の事件は、超売れっ子大物ラッパー、だった、カル・ライトが命を狙われているらしい。きっと犯人は元妻だ。なんとかしてくれ、という依頼。
ドッドソンは、レコード関係の実業家、かな。なんかよくわからない胡散臭さ。アイゼイアとは高校生の頃に知り合った。かつてはルームシェアをしていた。ドッドソンは知り合った時から下っ端の薬の売人でいろいろヤバいことにアイゼイアを誘い込んでいった。
アイゼイアは、兄と暮らしていたのだけれど、たった一人の家族、大好きな兄マーカスが交通事故で目の前で死亡。それから、まだ高校生のアイゼイアはなんとか一人で生きていかざるをえない、と思いこむ。
時間軸として2013年の今、と、2005年の過去とがある。街の人々のためにタダ同然で便利屋的な探偵をやってるアイゼイア。まだ高校生のアイゼイア。天才少年。
無茶苦茶になってる大物ラッパーカルを狙っているのは誰か。雇われた殺し屋、巨大な犬を使うその男をどう追いつめるか。アイゼイアの天才性、推理。過去の出来事と、いろいろと複雑でよくわからないまま読み進めていって、結末できれいにまとまって感動した。
ロサンゼルスのシャーロックホームズ、みたいな宣伝文句も見かけた気がするけど、そういう、小さなことから推理を積み重ねて真相にたどり着くみたいな所かなあ。化け物みたいな巨大な犬が出てきたりするから? 私は別にそんなシャーロックホームズっぽいって感じは思わなかったけれども。
何より、青春小説じゃん、と、読み終わった時には感動した。ドッドソンは実に困ったやつで、悪いんだけど、子どもの頃犬に襲われたトラウマがあって、今も犬が怖くてないちゃうとか、ちょろちょろ金目当てだけみたいにしてるけど本当の根っからの悪人ではないという、魅力。
兄を失って、ほとんど狂気の域で思いつめているアイゼイアと、てきとーにふらふらしてるだけな感じのドッドソン。そんな10代の少年たちの泥棒稼業が、ついには取り返しのつかない事態を引き起こしてしまう。
泥棒だけではすまなくなったドッドソンが薬の売人の上の方から金を奪おうとして、人が死ぬ事態になって。子どもも犠牲になった。
アイゼイアとドッドソンで、少しの間はなんだか上手く暮らしていけそうだったんだよね。ドッドソンは部屋をきちんと綺麗に使って掃除をして、素晴らしく料理の才能があってアイゼイアにガンボというご飯作ってふるまったりする。
ガンボって私は知らなかったんだけれども、アメリカ南部の料理みたい。ピリ辛スープ的な感じで、ライスにかけて食べる感じ? レシピぐぐったらいろいろあった。多分家庭料理とか郷土料理みたい。ともあれ、ドッドソンはそれをちゃんと丁寧に作って、揚げたオクラをそえて、というのすごくおいしそうでよかったなあ。最初の時、アイゼイアは兄を亡くしたショックの中、味はわからない、って感じだったりして、それがまた切ない。二回目食べさせてあげる時にはうまい、って言ったけど、でも、最初の時のことを覚えてないみたいなのがドッドソンはショック、みたいな。
ドッドソンは昔付き合った相手に料理習ったってことで、テレビで料理の鉄人を見るのが大好きだったり。すごく魅力あるキャラだった。アイゼイアももちろん、ナイーヴな天才で。このコンビの魅力っていうのがまず大成功だと思う。すごく好きになった。
どっちかというと私は、カルの事件より、過去の二人の出会いとか最悪に転がっていってしまうとかの方を熱心に読んだ。こんなことやってられない、って感じでアイゼイアはドッドソンとは距離置いて、高校中退しちゃって、いろんなバイトしまくって知識技術を増やしていって、大人になってこんな風なのかあとわかる。
ドッドソンの方がまだあんまりわからないかな。ちょっとは語られてたけど、基本アイゼイア主人公なので。でもいっぺんに何もかもって書かれても読む方も困る。次作もあるみたいだからシリーズになっていってくれるといいなあ。で、ドッドソンのことももっといろいろ描かれるといいな。
ドッドソンは自分が引き起こしたことのとばっちりで関係ない人が死ぬことになって子供が犠牲になって、ってことをまるで気にしてないように忘れてるかのようにしてるのに、最後の最後、その巻き添えで怪我した子、フラーコが、もうじき18歳になるから、ということで、グループホームを出なくちゃいけなくて、その彼の暮らしを支えたいってアイゼイアがお金必要ってことでこのカルの事件を引き受けたのがそもそもなんだけど。ドッドソンが、ほんとはフラーコのこと忘れてなんかなくて、彼のために資金ためて増やして、ってやってきてて、それを、アイゼイアにさり気なく差し出すんだよ。
泣かされた。
全体的にぶっきらぼうな文体で、そっけなくて、私はとても好きな文だった。それで、ほんと、この締め方には参った。
アイゼイアは本当に兄、マーカスが大好きで、彼を目の前で失って、傷付いたなんてもんじゃなくて、どうしようもなくて。めちゃくちゃだった時期の最後に、フラーコのために何か、助けられないか、としたことで、自分自身も意図せず癒していったんだよなあ。苦しくて苦しくてどうしようもなくて、酷いことして酷いことになって。フラーコにとってもとてつもなく酷い事なんだけど。それでも生きる。うっかりすればあまりにも陳腐なお淚頂戴になることだけど、それをこんな風に読ませる作品凄い。とても深く私には刺さってきた。読んでよかった。
エピローグでは、アイゼイアが一時マーカスをひき逃げした車として探そうとしていた車が廃車になって置かれてるのに気が付いた所で終わってた。これ、アイゼイアはまた犯人探ししちゃうのか、この廃車のようにただ葬るしかないという感じなのか、ちょっと、わからない。次作あるらしい。続きなのかなあ? 読みたい~~翻訳早く欲しい~。お願いしますお待ちしてます。
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