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映画 「ファントム・スレッド」

*ネタバレ、結末まで触れています。


映画 「ファントム・スレッド」


昨日、30日(水)見に行ってきた。近くでやってなくてちょっと遠出。


アカデミー賞でノミネートも沢山、衣装デザイン賞受賞、ですね。ダニエル・デイ=ルイスがこれで引退という話もあり、話題作、だと思うのになんであんまりやってないの。
監督、ポール・トーマス・アンダーソン。お名前は知ってる、と、思うけど多分見てない。

 1950年代、ロンドン。美しいドレスを作ることに完璧さを求めるレイノルズ・ウッドコック。彼の仕事場。家。彼を仕事に集中させるため、周りを仕切る姉、シリル。全てがレイノルズの求めるままに静謐に美しく整えられている。
 レイノルズはドレスを作るインスピレーションにミューズを必要とするらしい。だが独身主義者。モデルが彼の愛を求め彼を煩わせるようになり彼が飽きると捨てられる。ファッション界の巨匠って感じかな。
 そんなレイノルズが別荘へ出かける途中、寄ったレストラン。ウェイトレスをしているアルマと出会う。アルマを気に入り、ドレスを作り、彼女を迎え入れるレイノルズ。彼女の存在が、静かなレイノルズの暮らしをかき乱していく。

 さすが、次々作られていくドレスや、キャストの衣装も舞台も、素晴らしく美しい。美しい映画なんだろうなあと期待した以上に素晴らしい。そして不穏。
 レイノルズの朝の身支度から始まるのね。もうほんと、ダニエル・デイ=ルイスを愛でる映画。セクシー。彼のストイックさ。神経質そうな、気難しい、支配欲。危うい。静かな朝食のシーン、そこをかき乱すミューズとなる女。アルマの前の彼女も、甘いペストリーを進めて機嫌を損ねるし、アルマが来た当初も、トーストにバターを塗る音とか、なんか、何かとガチャガチャうるさくて、レイノルズの機嫌を損ねる。
 彼は要求の多い男。怒鳴り散らすというよりうんざりと無関心と不機嫌というやり方で人を従わせようと、人が従って当然と思っている男。すごい、嫌だ。それでも、美のカリスマなんだよなあ。貴族や王族も顧客に抱える。美しいドレスを作る。それは単に衣装ではなく彼の作品。彼のアート。ドレス職人であり芸術家であるレイノルズ。
 アルマは、始まりこそシンデレラストーリーに浮かれていたが、次第に彼のドレスを着るだけの人形でいることに我慢できなくなる。ここで、これまでの女は捨てられる一方だったのだろうけれども、アルマはしたたかだった。毒キノコをレイノルズの飲み物に入れちゃう。

 マジかー! で、殺す、ではないんだよね。なんか、なんか、何これ。
 そのタイミングが、ベルギーの王女の結婚式ドレスを仕上げる前日くらいで、倒れたレイノルズのせいでドレスにはダメージ。縫子さんたち徹夜で一部やり直しすることになる。なんでこんな大事な時に実行するのアルマ!?酷い!
 静かに規則正しい暮らししてたらしいレイノルズは病気でダメージうけまくり。へろへろ。医者は断るけどアルマが側にいてくれることに感じ入ったのか、翌朝結婚申し込む。
 レイノルズ~!その女はやめておけ!きみの判断は今正常ではないのだよ!と映画に向かって突っ込みたかった。
 まあ、新婚当初はラブラブだったけれども、またアルマの存在はレイノルズの暮らしの不協和音。アルマの求めには応じられないレイノルズ。
 で。そんで、早速倦怠期かもう駄目かって所で、またアルマはレイノルズに毒キノコを料理して出す。レイノルズが嫌いなバターたっぷりで作ったキノコオムレツ。それを、それを、それをわかっていながら、食べる、レイノルズ。
 死ぬかも。死なないわ。
 そんな、二人。

 アルマが医者にちょっと回想風に語ってる感じで、あれ、でも、多分最後はまたお腹壊してるだけで死んでない、んだろう、たぶん、死んでないよね? 
 そしてレイノルズも、彼女の存在が仕事にも人生にも害悪、って思いながら、あのオムレツ食べるんだなあ。
静かで自分の思い通りの生活を、かき乱すアルマ。静かで、自分の思い通りの生活はもう死んでるようなものだ、って感じか。アルマの不快さに、魅せられていく。こわい。

こういう風な愛の姿の映画だとは思ってなかった。こわい。すごい。いやあ。すごく嫌だけれども、そこへ行くのか、というのを茫然と見送った感じ。美しく完璧な世界の不協和音を堪能。当然のように高慢な姿も、かき乱され衰えていく姿も、苦悩も嫌悪も愛も、いろんなダニエル・デイ=ルイスを見られて最高だった。見に行けてよかった。


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