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『富士見』(結城文/飯塚書店)


『富士見』(結城文/飯塚書店)


2017年11月刊。第八歌集。

短歌の器、というものを思う。この歌集も基本的には作者の等身大に近い
日常の暮らしが歌われているのだと思う。
ちょっと説明的にすぎないかなあと思ったりもするけれども、こうして
歌集として読んでいくと、やっぱり小さなことの、ありふれたことの、
ひとつひとつが奇跡の瞬間と思ったりする。
生きてる中で見出したささやかな大切な瞬間が完成することができるのが
短歌という器の、様々なポテンシャルのひとつの在り方であるのだろうな。


いくつか、惹かれた歌。


  もう空を見ようとしない母とをり花首深く垂るるガーベラ (p14)

老いや死と共にある中の一首。これは、老いてあまり元気もなくなった母に、
いい天気だよ晴れて気持ちいいね、みたいなことを話しかけたのではないか。
でも、もう、空を見ようとしないんだな。その光景がとてもよく見える感じ
と、しおれかけてゆくガーベラが首を垂れている様という重ね合わせが
よく伝わってくる一首だと思った。


  はろばろと北よりわたり来し鳥の数を増やしつつ雪吊りの庭 (p37)

「六義園」というタイトルのある一連。ぐぐってみたら東京、駒込にある
公園なんですね。そこの、冬がやってくる頃のことか。「鳥の数を増やし
つつ」という表現になんかとても惹かれてしまった。端的な描写なのだと
思う。「雪吊り」というのもいい感じなのかなあ。わかんないけど私は
とても完成されたバランスに思った。


  お祭りに特価販売のペット・ボトル青蛙ひとつ貼りつきてをり (p53)

これも小さな発見を丁寧に描写した歌だと思う。あ、蛙がペット・ボトルに
くっついてる、と、作者が目を止めたその情景、心の動きがとてもくっきり
伝わってくる。そっかあ蛙がそんなところにいたんだねと、ふふって思った。


  わたくしの今日をそこにおく赤あかと夕日の海に向きゐるベンチ (p57)

  ゆるやかに飛行機雲は崩れゆきわれは以前と違ふ道ゆく (p99)

  散るものの散りつくしたるわが窓に明日ととのふる闇の寄りくる (p127)

夕日の中に。飛行機雲に。窓に。なんでもないものの中にふと違う何かを
感じ取り表現してる歌だと思う。「わたくしの今日をそこにおく」、
「以前と違ふ道ゆく」、「明日ととのふる闇」という表現がいいなあと
思って目にとまった。


  わが街にも英会話学校とパチンコ店駅前にありて明るく灯す (p152)

あるよねー。駅前に、パチンコ店。英会話教室。その光景、あるあると思い、
でもそれってあんまりうつくしい風景ではないのだと思うのだけれども、
そこを、ともあれ明かりである、としたのは強いなと思った。


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