« 『花高野』(道浦母都子/角川書店) | Main | 『眉月』(月子/風媒社) »

『湖水の声』(藤田冴/ながらみ書房)


『湖水の声』(藤田冴/ながらみ書房)


2017年10月刊。第四歌集。

「わたし」が丁寧に歌われている。そして家族の事。姑の介護や身近に
不意に起こる死など。こういう、死との近さが私自身も全く他人事ではなく
感じられるので、こういう丁寧な歌の数々に頷きながら読みました。
とはいえ、実際自分はわからないことも多いし、それにやっぱりどんな
共感があったとしても、人の思い、人の経験は極めて個人的で千差万別。
それぞれの人にそれぞれの歌があるんだなあと、ここしばらく歌集読んで
改めて思う。

いくつか好きな歌。


  新しき手帳がしづけき量感を醸しぬ記念日書き入るるたび (p36)

ちょうど今まだ1月ですし。私も手帳使いますが、こうして手帳を自分のもの
にしていくんだなという実感があった。「しづけき量感を醸しぬ」という
表現が面白い。


  銀色のブレスレット欲し過ちはわたくしですと挙手をするため (p37)

いくつか、「欲し」っていう歌があったなあ。この歌、過ちを自ら挙手する
ために、というのが謎めいていて、でもそのために「銀色のブレスレット」
というのは、お守りのようでもありなんか納得するふさわしさを感じた。


  キッチンはしづかなうつつわたくしにうす焼き卵二枚焼かせる (p57)

多分あんまり楽しく料理している場面ではないなということだけはわかる
気がする一首。日常的に料理作る立場の人なんだよねとわかる。ほんとうに
さりげないなんでもない歌だけど、これなんだか惹かれる。「うす焼き卵」
というのがいいのかなあ。色鮮やかで、でも脆くて危うくて。こういう歌を
見ると具体が大事、ということを改めて感じます。


  ……ですねえ、諾ふやうなふりをしてあなたはもとも冥き目をする (p66)

初句が印象的。諾う返事をする人の「ふり」を見抜いて、冥い目であること
も見抜いて、作者は歌にしたんだなあ。実際なのかどういう場面なのかは
わからないんだけれども、その、ですねえ、という感じが伝わってくる。


  攻撃型認知もあると聞かされて守備なき吾は吸呑み洗ふ (p83)

  ブラウスは明かき花柄きのふより少しく綺麗な姑でゐるやう (p89)

年をとっていくってどうしようもないことで、それがどうなるかというのは
なってみないとわからないことで。「守備」って、ないよなあとかわからない
よなあと、思う。
そんな中でも髪を整えるとか、ブラウスに明るい花柄をとか、そういう
心配りがあるのが、シンプルながら尊い優しさだなあと思う。


  迎え火も送り火もなく屋上の人工芝を踏みて集へり (p103)

何もなく、人工芝、という状況ながら、悼む思いというのはやっぱり変わらず
にあるんだな。迎え火も送り火もあったほうがいいだろうし、人工芝より
もっと優しい自然の中のほうが心休まるだろうし、でも、それでも人の
営みも思いもいろいろに形を変えながら同じようにあるし続くし、という
ことを思った。事実の描写のみだけど深いところに思いが届く歌。


  洋梨を剥くのは愉しラ・フランスとふ名まへ出でこぬ人と対きあひ (p120)

  つゆ草の露に触れをり寛容なわたしの貌も少し見せねば (p134)

ラ・フランスという名前の響きはうつくしくて楽しい。露草の滴はとても
清らかに思える。そういうささやかなものに癒されるリアルを感じる。
生きていくって大変だよねえ。


|

« 『花高野』(道浦母都子/角川書店) | Main | 『眉月』(月子/風媒社) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事