『白猫倶楽部』(紀野恵/書肆侃侃房)
『白猫倶楽部』(紀野恵/書肆侃侃房)
2017年7月刊行。現代歌人シリーズ16。
紀野さんの、第何歌集なんだろう。数えないけど。
まずタイトルからして惹かれた。猫~。猫の歌いっぱいなのかなあとわくわく。
猫の歌もたくさんありましたが、当然そればかりというわけではないですよね。
紀野さんの歌、読めない。。。と、私が勝手に身構えてしまうんだけれども、
読んでみれば殊更に難解なわけではなく。
といっても、私がさらっとざっくりとしか眺められずに全然読めてないのかも、
と思ってしまう。。。なんていうか、紀野恵、レジェンドすぎて無理、って
私が勝手に思ってしまうんだなあ。でもまあちゃんと読めなくても仕方ない。
まあいっか。
と、うっ、と随所で圧倒されながらもさくさくと読んでみた。
壮大だったり歴史の時空がほいほい出てくるようだったり、いや、えーと。
文学だったり。多分私が全然、背後のものを読み取れてないんだろうなーと。
うっ。
でもまあいっか、と、とにかく読んでみた。
読めばやっぱりぐわっと世界が広い壮大さを感じる。調べのうつくしさを感じる。
圧倒的な美。ほわっと軽やかなおかしみも感じる。自在だなあと思う。
歌をつくろうということに作者は無理を全然してないんじゃないかなあと思う。
なんで、こんなに圧倒的にうつくしくて、なのにさらさらと歌えるのかなあ。
「水の変容」の中、詩のような? ところがあったり。んん~。読めない。
水とひかりのイメージ。かなあ。
いくつか、すきな歌。
複合の鍵(きい)を押す我が(はたりはたり)ひとのかたちに戻るゆふぐれ
p37
「詩・唐・王維」ってあるからなんか下敷きにしてるのがあるのか。私には
わからないのですが。。。鍵に「きい」のルビ。(はたりはたり)はそのまま。
「ひとのかたちに戻るゆふぐれ」というのがぐっときた。
響もして過ぐる夕立しろねこの脈とわが脈まじはつてゐる p49
「響もす」って「どよもす」だよね。昔昔小説で読んだことある単語だけど、
絶対自分じゃ使えない日本語。。。と思って印象に残ってるんだけど、こう歌に
使われたりするんですね。と、ぐっときた。
急な夕立の音に驚きじっとともに耳をすましているような、しろねこと作者の
姿を思う。猫といっしょに暮らしてるっていいなあ。
銀河はいちまいの布穿たれし穴が星ぞと思へば軽しも p51
白い花降らせてみよう誰も居ぬ前庭に地に地球のうへに p70
こう、やすやすと、視界が宇宙規模になるのがほんともう凄い。なんで。
大滝さんもこんな感じあるなあと思うんだけど、やすやすと宇宙規模の把握が
ある感じを持てる女神な感じがある歌人って。なんでかなあ。宇宙ーって思う
のに軽やかでもちろん美しくて好きな歌。
あひて別れ別れてはあひ水を綯(な)ひつひには君と滝を得(え)去らぬ p93
これ、とても、とてもとても好き。うつくしい。濃密な相聞と思う。好き。好き~。
雪降らば雪の重みに月照らば光撓ませいささ群竹 p107
物凄く美しい。これぞ短歌って感じがする。完璧な美。うっとり。。。
この星を出づる術なく我が居りし紫禁城さへ夕焼けてをる p114
人民になるといふのは白菜を籠に抱へて歩めばよいか? p118
ふつうとは違ふ誰でもさう思う天になつたり人になつたり p119
「皇帝と猫」という一連の中から。ラストエンペラーモチーフですか。
皇帝の気持ちになって詠えるかーと、思う。すごい。そしてやっぱりそういう
視点で詠むか??? と、なんか不思議な気持ちになる一連で好きだった。
白猫が半眼をつむる 淡雪が中天流る 早や春が来る p126
とことことわたしの猫があんぜんに歩いて暮らす まあよいでせう p128
猫のかわいさを思う。愛しさを思う。猫の姿が見える。春が来ることを思う。
二首目、ほんとうにふんわりとやさしい歌でとても好きです。猫も、わたしも、
あなたも、せかいも、あんぜんに歩いて暮らしていけたらいいのに。あんぜんに
歩いて暮らせたら、だいたいまあよいよね。
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