『いとしい一日』(喜多昭夫/私家版)
『いとしい一日』(喜多昭夫/私家版)
2017年11月刊。
個人的な歌集なのかな。著者のあとがきや略歴の類もついてないので
どういうものなのかはわかりません。
自転車の写真の表紙とか自転車の写真のトレーシングペパー?な遊び紙とか、
章の見出しのデザインに凝ったりしててきれいな本だなあ。
「アキオ 17歳 1980」という所から始まって大学生時代のこと、今、
という流れがあって、この一冊で作者像がわかる、かと、思いきや、実は
あんまりわかんないなあと。青春時代って結構普遍的なものだな。
相聞の歌が多い。
歌人が出てくる歌が多い。
これは、どういうのなのかなあ。知ってる人同士という感じのもの、と、
いう気がして、いやあ私全然知らないからな、と思って、どう読んだら
いいかと戸惑った。まあ結局別に気にしないで読むしかない。
2017年の夏のことの歌もあったりして、おっ歌集作るのすごい早いのかな、
と。というか、んーー? 歌集というのかなんていうのか、んん~。
私家版、というか、でも、まあそっか基本的に歌集は自費出版が多いわけ
で、それって同人だよなーと思うと、あ、先週入稿したっていってた本が
ちゃんともうこのイベントに間に合ってるわすごい、みたいなこともありか、
と思ってみたりだった。
いくつか、いいなあと思った歌。
君を待つ部室にきょうも死にきれぬ螢光灯がまたたいている (p14)
青春短歌という感じ。回想にせよなんにせよ青春の頃を歌うとき、
どうしようもなく甘い自己陶酔が滲むものだと思う。「死にきれぬ螢光灯」
という表現がいい。あ~~~ってなります。
遠くから来しともし火をてのひらは囲みて終わらせ方を知らない (p31)
この歌は一連の中、高校の卒業式のあとの歌なので、青春の終わらせ方と
いうようなことかなと想像する。火をてのひらで囲むイメージが好き。
終わらせなくてもいいというか、終わらせ方はわかんないんじゃないかなと
思うようになってる私のお年頃。
急に髪切ってどうするつもりでもない君が「髪、切ったよ」と言う (p50)
この~甘酸っぱい~若者たちよ、という感じ。どうしたんだよ何なんだよ
どうでもないことだよ、けど、こう歌になっちゃう感じ、わかる気がする。
君も僕もどうしようもなく、若者じゃなくてもこういう瞬間っていいですねえ。
てのひらに溢れて英字ビスケット Kから順に殺されました (p106)
英字ビスケットは今もあるものだけど、なんとなくノスタルジック。私が
思うにKといったら漱石の『こころ』のKだよね、ってことで、なんか、わかる、
と、勝手に思ってしまった歌。英字ビスケット食べたくなる。
そこにある梨とガラスと人の影 それらがみんないとしい一日 (p151)
指そえて黄いろいボタンを縫いつけるだれのためでもなく夜のため (p159畢)
タイトルにしてる歌。と終りの歌。
すんなりと静かな感じ、やさしさがあって素直にいいなと思えた歌。静かで
少し寂しくて、でも悲しいとかではないひんやりとした感触があっていい。
青春かよーという感じはしんくわっぽくも感じたりしつつ、すいすい結構
面白く読みました。やっぱり普遍的なようであっても、でもやっぱり一人
一人の歌なんだなと思う。私には読み取れないことが大いにあって、でも
心地よく読み終えた感じはあって、よかった。
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