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映画「否定と肯定」


*ネタバレ、結末まで触れています。


映画「否定と肯定」


13日(水)に見てきました。


デボラ・E・リップシュタットは歴史学者。自著の中で、デイヴィッド・アーヴィング
というイギリスの歴史学者がヒトラーを擁護しホロコーストはなかったと言って
いることを非難した。
アーヴィングにイギリスで名誉棄損の訴えを起こされたデボラは、裁判をする決意
をした。ホロコースト否定論者との示談に応じるわけにはいかない。

ということで、アメリカからイギリスでの裁判にやってきたデボラが、何かと
様子の違う英国の裁判、弁護士たちの弁護方針などにも立ち向かう映画。
彼女もユダヤ人である。ホロコースト否定論とかネオナチの台頭とか、この映画の
舞台は1994年から2000年くらい。実話ベースとのことなんだけど、私は覚えて
なかった。ネオナチとか問題になってた頃があるなあとうっすらとは思うものの、
知らなかった。

アンドリュー・スコットが弁護士を演じていて、クールなインテリ眼鏡でまたもう
すごく素敵だった~。
英国の裁判の様子とかなんか複雑そうだった。弁護士一人じゃなくて、調べる
専門みたいな人と、実際法廷で弁論述べる人と別々にいるのね。
裁判は陪審員を入れるかどうか事前に合意とって選べるのかあ。
法廷劇らしいなと思ってて、イメージとしてはアメリカの、陪審員に激しく
情感訴えて味方につけて、っていう弁護士の熱演みたいなのを思っていたけれど、
だいぶ違った。

うんざりするほど時間かかってるし物凄い地道な下調べめっちゃしてるんだなあ。
アーヴィングの日記、20年分も、あれ全部読んだのか。著作も。ちょっとした
講演なんかの資料も全部。全部。凄い精査したんだろうなあっていうのが、
伝わってきて、愚かな間違いに絶対負けないっていう弁護士団の意地を見た。
でも、仕事ですから、って、クールなんだよな~。かっこいい。映画でもその
作業現場が映し出されるわけじゃないけど、膨大な積み重ねやってきたんだろうと
わかるので、若手の子たちも実に頼もしく見える。

ホロコーストを問う裁判で、ホロコーストの生き残りである証人をたてよう、
自分も証言したい、というデボラに、アンソニーたちはいつもNOを言う。
感情的になっては相手のつまらない揚げ足とりに巻き込まれるだけ。何より
サバイバーである人を侮辱しあげつらうような言葉を浴びせるに決まってる
アーヴィングと対峙させるべきではない、というきっぱりとした姿勢が素晴らしい。

アーヴィングというおっさんが実にナチュラルに差別主義者で、まったく無自覚に
見える感じで人種差別女性差別発言をまき散らす。インタビューに答えて、
そのアホ臭い答えに記者がドン引きしてるのに平然としてる。図太いやつ、
という以上に、こいつホントに思考のアップデートがゼロなのかという感じ。
だからって許されるもんじゃないんだよ。悪気はないよ、ちょっとしたジョーク
だろ?っていうその、当たり前なつもりの軽いジョークが、人種を、女性を、
笑いものにし虐げてきた歴史を強調し強化していく。
それはもうやめろ。
と、この映画の時点、2000年でも認識されてるのに。
今現在の日本でもまだまだ依然としてあるよね。じじい市長が不適切な発言やら
行為やらしでかしたりしてるよね。セクハラパワハラ差別発言は本人はちょっとした
ジョークのつもりで言うんだよね。周囲にドン引きされてることに無自覚に。
ああいうのさあ、本当に無自覚なわけ? 許されると思ってるわけ???

本人が、本気で悪意ないつもりでヒトラー信奉しているのなら罪に問えるのか
どうか、という疑問が裁判長から出たりして。

思想信条の自由というのは確かに誰もが持ちうる権利。
でも、嘘やでっちあげを主張するのはダメ。自分の意見への説明責任を果たさない
のはダメ。
デボラたちが勝利をおさめたけれども、アーヴィングの考えを変えることは
できないんだよね。裁判に負けたのに、負けたと認めないままな感じ。
この裁判そのものは20年ほど昔の出来事だけれども、今現在の問題として
見応えのある映画だった。


最初は弁護士団の方針にや英国スタイルともいうべき遠回りな感じに納得できない
という風だったデボラが、少しずつ理解しあっていく様も見事でした。
クールだけど、熱い。とてもかっこよかった。

私は英語にまったく詳しくなくてわからないんだけれども、それぞれの個性、
役者のキャラづくりとして、多分喋り方とかニュアンスをすごくくっきりさせて
いたのではないかなあ。みんなの喋る様がすごくよくってうっとり聞きほれた。

現実から遠くない、手堅い作品だと思うけど、ちゃんと面白くて、見てよかった。
そしてすごく、今、現在社会についても、考えさせられた。なんも変わってない
ようで暗澹たる気分にもなったけど、でもよい方に変わってきてることもある、
あるはずだ。世界がよりよくなると、よりよくしていこうと、強く思った。


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