« 映画「ブレードランナー 2049」 | Main | 映画「マイティ・ソー バトルロイヤル」 »

『わたくしが樹木であれば』(岡崎裕美子/青磁社)


『わたくしが樹木であれば』(岡崎裕美子/青磁社)


「待望の第二歌集」と帯にあるのが誇張なしの一冊。待望されまくってたでしょう。


  したあとの朝日はだるい自転車に撤去予告の赤紙は揺れ 『発芽』


この歌がとても有名で、即物的でそっけなく、すごい色気纏った歌をよむ人。
私が最初に知ったのもたぶんこの歌だったし、若くて才気あってこわい、って
思ってました。実際お目にかかれば人当りもよく怖くないんだけど、でも、
こわいなあってずっと思ってます。歌をよめてしまう人なんだよなあ。

この第二歌集はブルー。でもその奥に鮮やかなピンクが見えて、表紙を脱がせて
みればそれはあまりにも鮮やかな目に痛いほどのピンクで、こういう本なのかと
納得させられてしまう。

一冊を読んで感じるのはもう若いばかりではない大人の女性の姿。父を亡くす時、
母とのしずかな対峙、対峙というか、複雑な向き合い。仕事との距離。子どもを
産んでないこと、夫や恋人がいて、かといって満たされるのはほんのひと時、
という感じ。
読みながら自分自身を思って物凄くぐっさりもくるし、まるで夢物語、ドラマの
ようでひきこまれもする。とにかく読んでいて揺さぶられる感情が物凄くて、
何回もページを閉じて今日はここまで……と一旦この歌集の中から離れなくては
いけなかった。
一冊になる迫力って凄いな。

付箋をつけていくとすごく数が多くて困る。一首一首読みあいながら、うん、
わかる、いや、そんな、無理、とかうわごといいたい感じです。うわごとしか
言えない感じ。
そして愛の歌は勝手に推しにあてはめてもえる、とか読み換えてまた悶える。

好きな歌いくつか。


  いま産めば父を産むかも ひそやかに検査薬浸す六月の朝 (p51)


  誰の子を産んでも吾の子であれば雨はするどく降り続けたり  (p52)


  誰の猫でもない猫を遊びたり帰り道わからなくなるまで  (p53)


  鋭さにまかせて今日はひたすらに振り落とすのみ私のナイフ  (p54)


  手渡せぬ命を我は持つゆえにただ茫々と花を浴びたり  (p68)


  やるならば俺の知らない奴にしてと言われるふいに布団の中で  (p79)


  触りたい?と手を差し出せば触りたい、と手を伸ばしくる朝の部屋でも  (p91)


  ほんとうに出て行くときもこのようにただ背を向けて寝ているか夫よ  (p125)


  横にいるあなたの点滅たしかめるさっき魚を殺めた指で  (p157)


  おばさんでごめんねというほんとうはごめんとかないむしろ敬え  (p189)


  太腿も腕も絡めて眠りたり目覚めたら楡になりますように  (p192)


いくらでも物語を語り続けられそうで延々なんだかんだ言いたいような、でも
もうこれらの一首で全てじゃん無理、って言葉を失う。凄くて読むの、大変です。
  


|

« 映画「ブレードランナー 2049」 | Main | 映画「マイティ・ソー バトルロイヤル」 »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事