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映画「パターソン」


*ネタバレ、結末まで触れています。


映画「パターソン」


4日(水曜日)に見に行ってきた。


バス運転手のパターソン。住んでいる街の名前もパターソン。
仲睦まじい妻と犬との暮らし。朝、6時すぎに目をさまし、妻にキスして
一人シリアルを食べて出勤。決まったルートの運転。帰宅して夕食を食べて
犬の散歩の途中にバーで一杯やる。大体同じ毎日の中、パターソンは一人、
秘密のノートに詩を書き綴る。


監督、ジム・ジャームッシュ。名前は知ってるものの、特にファンでもなく、
多分意識して見たこともなく。なんか、オシャレ映画っぽい? というイメージ。
でもちょっとなんかちゃんと見てみたくなったなあ。
今回は主演のアダム・ドライバー目当てで見に行こうと思った。

パターソンの一週間。ということで、毎日は大体同じ。パターソンは穏やかな
性格みたいで、ごく当たり前な地道な生活をささやかに楽しみながら生きている。
軍服姿の写真があるのが映ってたの、あれはパターソンくんなのだろうか。
はっきり見えなかったけどたぶん、そうなんだと思うけど。
軍隊経験あるってことなのかなあ。バーで、失恋のヤケのあげく銃を持ってきた
男、顔見知り、友達っていうほどでもないか、の男の銃を取り上げたりしたのは
そういうことなのかなあ。でも、まあ、それもことさらな感じでは全然ない。

妻が双子の子どもがいる夢を見たの、といって、その後も何度か双子モチーフ
が出てきたり。秘密の、ノートとかパイとか出てきたり。滝とか。
何度か繰り返される小さなモチーフは、ちょっと不思議な気配がする。
韻を踏むとか、そういうことなのかな。この映画全体が詩のようだもんね。

妻、ローラとの暮らしは、らぶらぶ仲良しで、ローラはパターソンの詩は凄い
んだから発表したほうがいい、ってすすめたりする。ローラはちょっとだけ
困ったちゃんというか、やりたいことがいくつもあるとか思いつきをどんどん
始めちゃうとかで、エネルギッシュ。でもまあ家のカーテンや壁にペイント
しまくったり、市場でカップケーキ売って人気出たらカップケーキ屋さんを
やりたいわ、とか、ネットでみつけたギターに一目ぼれして、歌手になるの、
とか、まあ、可愛いといえば可愛い範囲、というか。夫からしたらちょっと
困るけど、反社会的で問題っていうようなことではないし、そうやって
楽しそうに笑う彼女が好きだし、という感じ。
思いつき料理が実は不味いんだな~とか、それでも文句言わず食べるとか、
ほんともう、らぶらぶ夫婦でいいな~って思う。
ローラは圧倒的に絶対的にパターソンにたいして肯定的なんだよね。
自分のやりたいことを楽しみながら、パターソンのことすごく褒め称える。
褒め称えるというか、ん~と、なんていうか。パターソンがうちに帰って
あの妻がいるって思うとしあわせなんだろうなあ、って思う、そういう、肯定と
承認の天使みたいな存在。

マーヴィンという、フレンチブルドック? かなんかの、犬を飼っている。
これたぶん、結婚前からローラが飼ってる犬だったのかなあ。それか、ローラが
犬好きで飼ったのかなあ、という感じがする。ローラとパターソンがキスして
たりするとちょっと吠えたりするのね。パターソンくんがいつも散歩につれて
いくんだけど、ちゃんということきかない感じ。でもバーの外ではおとなしく
待ってる感じ。
いい顔してるし、居眠りしてたりちょっと吠えたり唸ったり、ポストを傾かせ
てる犯人はお前かよ、とか、ほんと名演のわんこで、すごくいい~。

終盤、パターソンの詩をかきとめている大事なノートを、夫婦が留守の間に
嚙みまくってボロボロの破片にしてしまう。
詩を失わせてしまう。
まー、ワンちゃんにはよくあるいたずらって感じなんだけれども、とてつもない
喪失。
それでも、お前が嫌いだ、ってぼそっと言いつつも、ローラがガレージに閉じ
込めたマーヴィンを出してやったりもするんだよねえ。
パターソンくん、ほんと、いいやつ。

バスが電気系統の故障だとかで途中立ち往生してしまったり。
スマホを持ってないパターソンくんに子どもが貸してくれたりする。

ローラが張り切ってたっぷりのカップケーキ作って、売れてよかった!とか。
まだ子どもな女の子、10歳くらいっていう子が街角に一人でいたので、
ちょっと大丈夫かな?って声かけたら詩を書く女の子で、聞かせてくれた詩が
とても素敵だった、とか。

描かれている出来事、毎日の暮らしは、現実の日常生活で起こっても不思議では
ないくらいのちょっとしたこと。パターソンの反応とかも普通な感じ。そういう
現実なリアリティの世界でありながら、全体はふわっとしてて夢の世界のよう
だった。すごい。
この中で愛されてる詩とか詩人とか私は知らなかったんだけど、なんか、すごく、
ものすごくいいものに感じられて。詩っていいなあって思えた。

パターソンが書き綴る詩も、そんなに修辞に凝るって感じではなくて、散文詩って
感じのようなんだけれども。アダム・ドライバーの朗読の声の心地よさとか
すごくよくって、世界が詩的だなあって感じられる。
パターソンが見て、感じて、書き綴る、この毎日、この世界はポエティック。
この、ちゃんと暮らしていながら夢の中にいるみたいな、ひょっとしてほんの
少ししたら、悪夢になってしまうのかも、という、この世界のバランスが
とてもとても素敵だった。

ノートをめちゃめちゃにされたパターソンが一人で散歩に出て、観光客なのか
日本人と出会う。その男もまた詩が好きで、詩人で、彼を会話して、新しい
ノートをもらって、パターソンにまた詩がもたらされる。この男もまた天使
めいているんだよねえ。

こんなに普通に生活してる感じのただの男であるパターソン。でも詩人である
パターソン。アダム・ドライバーほんとすごくよかった。ちょっとぼーっと
してるのも、ささやかなことでほんの少し笑ったり心配したり、そのさり気ない
のもすごく伝わってくるの、凄い。

私は詩人というわけではなく程遠く、でもちょっとだけ一応短歌やってて、歌人
な感じの人とか少しは知っていて、それで余計思い入れ持てたのかもしれない。
なんか地味で退屈みたいな評判もあったけれども、私にとってはとっても好きに
なれた映画で。見にいってよかった。

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