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『暮れてゆくバッハ』(岡井隆/書肆侃侃房)

『暮れてゆくバッハ』(岡井隆/書肆侃侃房)


岡井隆のこれは歌集、だけど詩、散文、水彩画等入ってる文集、かなあ。2015年7月刊。

2014年の秋ごろから2015年の半ばまでの作品。初出は未来が多いけれども、
未発表のものも入っている。
2014年の終り頃、手術をしていて、その体験時の歌、文章がある。簡単な手術
ですよ、と言われるものだったようだけど、実際2週間ほどでほぼ癒えたという
ことらしいけれども、まあ、大変ですよね。亡き弟との対話の文章はすごく、
素敵です。
水彩画と歌はノートからそのままの印刷だそうで。2015年の1月2月頃か。
岡井さんの文字、好きなんだよね~。絵も素敵。こういうの出してみようかなと
いうのは、やっぱり子規さんのこと好きだからという感じなのかなあと想像する。

歌は、もう、日常全て、生きて呼吸するように歌が出来ているんじゃないかと
いう感じなので、なんかこう好きな一首とか私選べない。。。もう丸ごと愛してる
としか言いようがない。丸ごとうつくしい。何言おうとしても私のうすっぺらな
言葉じゃ全然遙かに無理って気がする。好きなんだもん。


とはいえまあ、いくつか引いてみる。


  いやッといふ人は居ないが好きといふ人は夕顔の白さで並ぶ (p9)

ちょっと何のことかはわからない。激しく嫌な人はいない。好きな人は夕顔の
ようだ。ってわけじゃないかなあ。「いふ人」は、言う人、なのか、ん~。
好きという人、というのは好意的な人のように思う。「夕顔の白さ」は美しい
比喩だと思うけれど、白さ、だからなあ。ちょっと幽玄めいてくる。明るく
楽しく見るのではなく、ほのかな闇と淡い白さとして好意的な相手をとらえる
感じかと思って、惹かれた。


  幾つかの袋のどれかに横たはつてゐる筈なのだ可愛い耳して (p12)

これはこの次の歌から察すると多分どうやら妻の携帯を探している場面。先に
この歌を読むので、「可愛い耳」をした何か、小さな生き物が袋に入ってるように
思えて、なんだかわからないけれども可愛いものを探している歌として、とても
可愛い一首と思う。日々の暮らしの中のなんでもないことがこうしてさらっと
可愛い歌になってるのを読むと、ふふって思った瞬間をわけてもらった気がして
ちょっと嬉しい。


  ものの見事に裏切られてはかくし持つ刃を握るとぞ薔薇は陰険 (p44)

これも正直わかんないんだけど、とてもかっこいいと思って付箋した歌。
かっこいい。歌集タイトルにしてる「暮れてゆくバッハ」の中の一首。劇的な
歌に思うけれども。裏切り、刃、薔薇、陰険。ドラマチックな道具立てで
何か昏い思いがあるひとときのことかなあ。


  たつた今わがかたはらにうづくまりゐたる羊が啼いて去りゆく (p80)

  てんてんとてんてんてんと川岸をころがりてゆく思考の兎 (p100)

アクロスティックで作られた別別の一連の中から。羊ちゃんと兎ちゃんだ、
と思って。作者の思考が生き物となって自分から離れていってしまう感じ。
でもそれを平然と眺めている感じがあって、余裕を感じる。
可愛くてかっこいいの。

  あなたの若い写真を見つつ思ふのはたとへばヴィヨンの形見の歌だ (p113)

松本健一さんを悼む歌の一連。悼む思いの流れが歌になっていて伝わってくる。
他にも訃報に接しての歌もあって、作者はこうして多くの仲間を、友を、見送り
続けている。とても切なくなる。しっとり沁みる歌です。

  今年またレモンの花がわれわれの噂をきいて(だらう)笑いた (p151、ルビ「笑ひら」)

われわれというのは、家族、妻と作者かな。レモンの花が咲いた、という春の
訪れがいかにも爽やかで、笑うように咲いていて、でもそこに「噂」という
ちょっと不穏な気配を混ぜている。そういう加減がな~。うまい。こわい。


詞書があるのも多く、それがまた俳句だったりもして、これ全部きちんと読もう
としても私には。。。無理で。。。とへこたれそうなんだけども、まあでも、
別にいっか、とさらさら読んでうっとりして、絵も字も素敵だな~って眺めて、
まあそれでいっか、と思う。
言葉の豊かさうつくしさ、呼吸するようなリズム、調べを感じるだけでいいよね。
歌だけでなくて文章のリズムも素敵で、ほんと憧れる。盛り沢山にいろいろ
入っていて有難い一冊です。


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