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『念力ろまん』(笹公人/書肆侃侃房)


『念力ろまん』(笹公人/書肆侃侃房)


笹公人四冊目の歌集。2015年5月刊。
笹さんは歌集だけじゃなくていろんな本も出されてるので、あとがきによると
この前に『遊星ハグルマ装置』(朱川湊人共著)にも多数歌を収録してるそうです。

Eテレの「念力家族」すっごい面白かったよねえ。あれ始まったの2年前ってことか。
月日の経つのがはやすぎると感じるお年頃だぜ私。。。

笹さんの短歌は、自分が短歌を読み始めてすぐにファンになったもので、すごく
面白おかしい感じの中にはっとする美しさがあって。抒情というものかと後から
わかった。ぱっと見のとっつきやすさ、サブカル的だったりオカルト的な素材の
親しみと、それが短歌であるという面白さが、いつもいつも、ずーっと凄くて、
ずーっとファンでいさせてくれる歌人だなあと思う。

この歌集は、開いてみてまず、字がでっかい、ってびっくりする^^
一頁一首。大体二行になってる。これはあれだ、トリックの上田教授の『なぜ
ベストを尽くさないのか』を連想^^ いやまあ違いますけど。

この本で、この表紙の絵の怪しいんだかでもなんだかとっても綺麗だし、
ページを開くとインパクトあるし。さすがだなあと思う。念力~~。好き。
大林監督が帯書いてるのもさすがです。


いくつか好きな歌。


  またふられしフーテンの寅に安堵する日本人は童貞贔屓 (p18)

寅さんの映画ももう作れなくなっちゃってそれでも永遠に人気作品なんだろうなあ。
いつものパターンな感じに安堵する、その安堵を「童貞贔屓」って言いきってる。
そうかも~って納得させられるなあ。寅さんて結局地に足のついた大人には
なりきれない存在で、そういう永遠の男子、って感じ、それ永遠に童貞、日本人
好きなんだろうなあと思ってしまう。まあ、漂泊の旅人への憧れってみんなある
と思うけど。外国だと行きて帰りし物語、帰ってきてめでたしめでたしになる、
かなあ。


  9の字に机ならべていたりけり夜の校庭はせいしゅんの底 (p22)

これも、好き。ミステリー現象みたいにちょっと騒がれたこともあったような
気がする、校庭に机を並べていたり。その、夜の校庭でそんなことしちゃう
生徒たちって、でも楽しくて、でも苦しくて、「せいしゅんの底」という感じは
伝わってくるなあ。


  雨ふれば人魚が駄菓子をくれた日を語りてくれしパナマ帽の祖父 (p38)

これは帯にあって、あっかっこいいと私もすごく思った歌。パナマ帽、いい。
雨、人魚という繋がり。駄菓子をくれた思い出、は、法螺話かもしれないし、
人魚に例えた、大人の女性に憧れた幼い日のちょっと艶っぽい出来事かもしれない。
なんにせよ素晴らしい雰囲気のある歌で、さすがかっこいい。
ちょっとだけ思うのは、「語りてくれし」がなんか調べがぎくしゃくする気が
して、いいな好きだなと思うと同時に何度読みかえしてもうーんなんか、ここ、
もうちょっとなんとか。と、思う。けど、改作案が浮かぶでもなく。ん~。


  にんげんのともだちもっと増やしなと妖怪がくれた人間ウォッチ (p68)

流行りもの取り入れて笹さんの歌に仕上げてるの、ほんとさすが。一気に切ない
ほろ苦い気分にさせてくれる。


  本尊なき御堂のごとき淋しさに耐えられるのか四月のアルタ (p81)

これも時事ネタ。30年続いていた笑っていいともが3月で終わったんだよね。
新宿の駅前の、アルタでお昼の生放送。初めてアルタを見た時にはここでやってる
のか~~って眺め見上げたよ。「本尊なき御堂」というのはついに終わるのか
っていう気分を言い得ている感じがする。
これ、いずれ笑っていいともとかタモリが生放送であそこでやってたとか知らない
わからない時がくると思うけど、この歌はどう読まれるだろう。ほろりとくる
淋しさ、という感覚だけは伝わるように、私は思うけど、どうなんだろうなあ。


    さびしんぼう
  ひとがひとを恋うるさびしさ 鍵盤に涙の粒はぽろぽろ落ちて (p94)

映画「さびしんぼう」に寄せて。人がさびしい時、人を恋うているのだ、という
把握が、改めてはっときた一首。


  夕焼けに伸びゆくメトロン星人の影に塗られて言いしさよなら (p123)

夕暮れの別れのシーン。メトロン星人の影がさす異化と、ノスタルジー。
って私はメトロン星人について何も知らないんですが。ウルトラマンに出てくる
宇宙怪人かなみたいな感じ。ぐぐってなるほどとちょっと思うものの、でも、
こういうのがダイレクトじゃなくても伝わってくる感じって、いいなあと思う。


  いつのまにか消えたナメクジ 玄関まで「伯方の塩」を持ってきたのに (p150)
  なめくじのテレポーテーション数えつつこの遊星の冬を耐えおり (p151)

なめくじには塩をかける。わかる~っていうのは世代なんだろうか。どのくらいの
共通認識なんだろう。ともあれ、そこに持ってきた塩が「伯方の塩」っていうのも、
わかる~ってなんか、何がどうわかるのかきちんと言おうと思うとめちゃめちゃ
大変だな。うーん。なんかこう、ちょっといいお塩なんだよね。でも凄くオシャレ
とか凄く高級品てわけじゃなくて、普通にスーパーで売ってるし日常使いしてる
家庭なんだろうと思う。でもなめくじにかけるにはちょっとだけ、ちょっとだけ
躊躇しちゃうかもしれない感じ。もったいない。でも、その塩もってきたのに
ナメクジはいなくなってる。「持ってきたのに」と、あれっと拍子抜けする感じ、
すごい、これも、なんか何がどうわかるとは言いづらいけど、わかるーって思う。
そして次の歌は「なめくじのテレポーテーション」とくるのがすごい。SF世界に
なってしまう。遊星、って普通にこの地球だろうと思うんだけど、ここが、別世界
になる感じが好き。冬だし。冬って、なんか、核の冬とか、こう、荒涼とした
気分になる。面白かった。


  シャンプーの容器の底に黴見えて盲愛に似た夏が終りぬ (p162)

ちょっとぬるっと黴がきてしまうシャンプー容器の底。夏の盲愛ではなくて
盲愛に似た夏、とくるのがいいなって思いました。でも夏も、愛も、過ぎて
しまった直後だと、なんだか嫌なものなのか。美化されるには時間が必要かなあ。

さくっと読んでしまう歌集だけれども、やっぱり浪漫で素敵でした。

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