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『オワーズから始まった。』(白井健康/書肆侃侃房)

『オワーズから始まった。』(白井健康/書肆侃侃房)

白井健康第一歌集。ってことでいいのかな。詩も二つ入ってる。

オワーズって? と思ったら、加藤治郎さんが解説に書いていてくれた。
フランスのオワーズ地方。O型口蹄疫ウイルスが最初に発生が確認された場所
だそうです。

帯文に「派遣獣医師としての口蹄疫防疫作業のドキュメント」とあるように、
三部構成のこの歌集のⅠは、口蹄疫という事態において詠まれた歌、詩である。
「たましいひとつ」の一連。他、命を奪うしかない作業に従事する事実の重みが
深い迫力として迫ってきた。私などはニュースでちらっと見たことがある、と
いう、知らない世界の現場の実感が伝わってくる。時間を経て歌にすることで
何かバランスをとろうとしているように思った。

  六百頭の牛を殺めた親指の仄かな怠さ一日を終える(p24)
  わかばいろそらいろつちいろうしのいろ髪切虫の複眼のなか(p27)

世界と牛と自分をも見ている、生き物だけどなんだか無機質なような髪切虫の
複眼を通して描く一首の距離の置き方がいいと思った。


  夏はすでにひかりのなかに椅子を置くふたりの椅子をひとつの場所へ(p48)

明るい夏の日差しが見える歌。たぶんかなり爽やかな朝のようなイメージ。
「すでに」と決まっている感覚がいい。


  コーンスープと水平線が平行であること生きていることみたいに(p83)

これはある時不意に気づいたというか思ったというか、そういう実感だと思う。
どこかの何かの水平線。と、自分の持つコーンスープの器の中のスープの平行線、
の平行、が、生きている事みたい、と思う、全然理不尽な不意の実感なのだと
思った。


  散ってしまったことを後悔するよりも咲かせたことを後悔してる(p118)

恋が破れた歌かと思う。別れよりももうその恋全部を後悔してる、という感じ
かなあ。この丸ごと全部つらい感じがすごく伝わってくると思う。


  なんべんも色鉛筆をならびかえ森をさまようおんなを探す(p143)

この歌集の中ではかなり即物的に「おんな」って言われるんだなあと思う。んで
セックスしたりしてもあんまり「おんな」がわからなくて探しきれてないの
かな。色鉛筆が森になってくイメージで、深い森で、でもつるっとカラフルな
イメージが重なって、「おんな」をつかまえきれない感じがする。
別世界を見せてもらったような歌集でした。

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