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『しんくわ』(しんくわ/書肆侃侃房)


『しんくわ』(しんくわ/書肆侃侃房)

しんくわ第一歌集。

といっていいのだろうか。俳句やエッセイも入ってる。歌文集?
本当なら10年以上前にしんくわさんの第一歌集は出ているはずだった。
2004年、歌葉新人賞受賞「卓球短歌カットマン」。
そして受賞者は歌集を出せるのだった。
なのに~応募しておきながら~受賞しておきながら~、歌集を出さなかった。
しんくわ。
ずるいぞ。

しんくわさんには数回お会いしたり見かけたりしたことがある。歌葉の頃から
見ていたし(私も応募はしてたけど全くダメだった)題詠マラソンに私も参加
していた。しんくわさんは岡山かー、というのを知って、四国松山にいた私は
結構近いとこにいるんだなと思っていた。
でも全てこちらの一方的勝手な思いで、しんくわさんに私が認識されているのか
どうか定かではない。しんくわさんの実際実生活だとかはまるで知らない。
しんくわさんがついに歌集を出したのかあ。
と、この本を手にしたときにはまたしても勝手にしみじみと感慨にふけった。
私としては自分が短歌に親しみ始めてからずっと長年知ってた人、見てきた人が
ついに歌集を出したのかあ、と一方的に思ったのだった。

そんなこんなで、作者しんくわをうっすら少しだけ知っていて、でも実際には
全然知らなくて、改めて一冊の分量読んでみて、とても面白かった。
愛されキャラでいいなあと思う。ずるいぞ~とやっぱり思う。
そんな勝手な言いがかりの感想を書く。
(念のため書いておくけど私がここでいう「しんくわ」は作者名記号としての
「しんくわ」であって現実生身のしんくわさんのことはおいといて、な話です。
繰り返すけどそもそも実際よく知らないわけですし)

タイトルからして凄いですね。しんくわの『しんくわ』。名前まんまタイトルって。
まあ、打ち合わせのノリで『陳Q』にならなくてよかったね。

最初に「卓球短歌カットマン」。
これは歌葉で受賞した時に読んで、くーーっ岡村靖幸使いやがって~~ズルいっ
あーでもすごいわかる。いい。面白い。と思ったのでした。
男子の歌だねえ。いまいち冴えない。モテない。卓球部だった男子。友達と
だらっとしたりはしゃいだりしている、していた、男子の歌。
30首の連作のうち、「だ」とか「だった」で終わっている歌が多いなと目に
つく。そのぶっきらぼうな口調の感じ、リズムがまた、男子だなーという気が
する。
改めて読みかえせば、そんなにモロに岡村ちゃんを使ってるわけではないか。

  あの子は僕がロングドライブを決めたとき 必ず見てない 誓ってもいい
  射精と同じだ レベルEの緊張感にため息をつく少年十四歳

くらいかな。でもなんだろう。生徒会長とか部活の感じとか、なんかそういうの
最初見た時には強烈に岡村ちゃんな世界~と思ったのだった。私が岡村ちゃん
大好きすぎて過剰反応したのかなあ。

  我々は並んで帰る (エロ本の立ち読みであれ五人並んでだ)

という歌で連作は終る。くそ可愛いダメ男子生徒の姿が青春してる。なんだか
時にきゅんとする抒情もある。支持を集めてしまった、受賞してしまったの、
そうなんだろうなあと納得できる一連である。

ペンギンー題詠マラソン2003より

題詠マラソンには私も二回か三回参加した。公募した100の題を1番から順に
読んで行って、それぞれのペースで完走をめざす。あっという間に駆け抜ける
人もいれば、途中で止まったり時間切れで完走できなかったり。しんくわさんが
どのくらいかけてやったのか覚えていないが、題詠マラソンなのに、ペンギンの
連作になっているのが凄い。
ズルいぞ。ペンギン可愛いもんね。。。「ン」の音が跳ねるのが可愛い。
多分、題を読み込むという枷からの発想の飛躍と、ペンギンモチーフの可愛さが
歌の面白さを増している。結構抒情的。結構物語が繋がる。21首入っているが、
どれも一首としても素敵だなあと思えて、すごい。悔しい。

  脱ぎました銀行強盗用マスクいくらなんでもペンギンは嫌
  きらきらと光る凶器を魚だと言い張ってます。覆面ペンギン

ほとんど全部好きだなあ。

その他動物―題詠マラソン2004より

こっちはペンギンほどのまとまりではないけれど。何が題なのかわからない。
それだけ一首成立させているんだな。でもやっぱペンギンシリーズの方が好き。

それ以降は特に出典というか初出とかないのでわからないけれども、短歌を
書いたり俳句を書いたりエッセイ書いたりしてるんだなあしんくわさん。と、
またしても勝手にしみじみと感慨にふける。ぺんぎんぱんつの紙、という
ネットプリントを田丸まひるさんとのユニット+ゲストで出し続けているので
そこがしんくわさんの主な発表、活動、の、場、ということなのだろうか。

俳句は、うーん。俳句わからないからなあ私。うーん。付箋はって好きな俳句、
ってあげるほど好きなのはなかった。なるほど、らしい、感じするなあと思った
けど私が好きって選ぶのはなかった。

エッセイがとてもいいなあと思う。ゆるっとだるっとなんでもないことみたいな
文章だけれども、ちゃんと面白くて凄い。結構美しい詩的世界を作り上げている
のが凄い。三国志のカード対戦だったりパンツいっちょで暴走する若者の前に
立つ、丸腰、みたいな、なんかダメだなあってことがこんな文章になってるの、
なんでだろう。すごい。
不意に万葉集読みだしてみたり、山上憶良への共感なのかなんなのか、嫁に
つくらされているのかと言い出してみたり。
やはり実はしんくわ真面目か。短歌好きなのか。真面目か!?


  かばんの中に君の身体をたたむようにだからといって殺さぬように(p33)
  ほろ酔いで初秋の雲を見ていると、梨が食べたくなってしまうよ(p65)
  ラーメン道、夢は破れて山河あり、からの石の隙間に蛇あり にょろん(p66)
  難しい漢字のように降る雪のように忘れるようにしまおう(p71)

いくつか、好きな歌。
結局結構私はこういう優しいうつくしいほろんとした感じが好きになってしまう
のだなあ。「にょろん」はズルいな。可愛いだろ。

「難しい漢字のように降る雪のように忘れるようにしまおう」これはもう。
とんだシャイボーイめ。結局仕舞いこんで大事にしてんじゃん。何がどうかは
わからないけれども、自分でも忘れたいくらい切なく大切なものでしょう。
好きだなあ。

とても面白く読ませてもらいました。今になって、今だからこそ、この本が出て
手にすることができてよかったです。ありがとうございます。
書け~とか出せ~とか、たぶんものすごおおお~~く大変でがんばったので
あろう田丸まひるさん、ほんとにありがとうございます。

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