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『熊と踊れ』上下(アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ/早川書房)

*ネタバレしてます。


『熊と踊れ』上下(アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ/早川書房)


レオ、フェリックス、ヴィンセントは兄弟。父はイヴァン。母は子どもの頃に
家を出て行った。
ヤスペルは兄弟の幼馴染。
アンネリーはレオの恋人。シングルマザー。子どもと今は離れているが、いつか
一緒に暮らしたいと思っている。
彼らは、スウェーデンで前代未聞の銀行強盗をした。


兄弟の今と、子ども時代とが描かれる。大人になって、生真面目に働きながら、
こつこつと準備を整えて綿密な計画を練り、次々と銀行を襲う。
誰も傷つけたりしないように。とはいえ銃を撃つことにためらいはない。
軍の武器保管庫からたっぷり銃を盗むことから始まって、兄弟たちの結束は固く、
警察に尻尾をつかまれることのないまま銀行強盗を続けていく。
順調に犯行を重ね、金はもう十分だ、今度は余った銃を警察へ買い取らせると
いうあたりから、計画は狂い始める。
いや、本当は最初から狂っていた。
実際に傷付けることはなかったとしても、銀行強盗に遭遇した人々のパニックは
予想できるものではなかった。
兄弟の信頼も狂い始め、小さな暴走が始まる。

兄弟の子どもの頃の、圧倒的暴力的父との思い出がとても息苦しかった。
熊と踊れ、というのは息子に喧嘩のやり方を教える親父が言う言葉。
この父の圧迫感から逃れようとする三兄妹。
逃れたはずなのに、どうしてもこだわりが残っているレオ。

もう終わりにしよう、もう十分だというフェリックスとヴィンセント。ヤスペル
の暴走が無理だという彼らのように、レオもあの時やめることができていれば。
でもなー。
できなかったんだよなー。
できなくなっているんだよなあ。

軍人ギャング、と呼ばれた彼らを追う警察側のヨン・ブロンクス。一匹狼って
感じで、実は兄が犯罪者で刑務所にいて。って、こっちも随分訳ありなキャラ。
ジャック・カーリィだっけ、『百番目の男』とかカーソン刑事を連想するけど、
カーソンくんよりもっとシリアスに孤独な感じの刑事だった。

結局兄弟は離れ、あんなに憎んでいたはずの父イヴァンを巻き込んでの強盗は
失敗に終わって彼らは捕まる。
どうしようもなく破滅に突き進んでいくレオの孤独が切なかった。

そして、あとがき等を読んで、えっ、著者の一人は三兄弟と兄弟なの?
実は四兄弟で、うすうす強盗やってる兄弟のことを知りながら参加してなかった、
という、その一人がこう、共同で小説を書いたってことなのか。
凄いな。

実話ベースらしいとは見てたけど、実際兄弟が著者だって知らなかった。
まあもちろん小説にしてる時点で完全なノンフィクションってわけじゃなく
エンタテイメントにしてるのだけど、でもまあ、事実も多いみたいで。
どこがどうとかはいいけど、けど、けど、そうなのか、と、びっくりする。

銀行強盗やるぞ!ってところはわくわくするしかっこいい。子ども時代はぎゅんと
心痛くなる。そして破滅へむかうどうしようもなさは、本当に辛い。
一つの作品の中にみっしりつまってて、とても面白かったです。


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