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映画「ムーンライト」

*ネタバレ、結末まで触れています

映画「ムーンライト」


昨日、3日に見にいった。

アカデミー賞の作品賞受賞。「ラ・ラ・ランド」とどっちになるか、と注目の的
だった中、発表時最初はララランド、かと思いきや。間違いだった! という
騒動が注目度さらにアップさせて、日本公開早まったという映画。アカデミーの
時、私は見られないからTwitterのツイートを眺めていたんだけど、何が起こった
んだか、すごくびっくりしたざわざわが面白かった。
ともあれその騒ぎあってもなくても、受賞してもしなくても見ようと思っていた。
それでも、受賞は本当に素晴らしくよかったなあと思う。
監督や脚本の人の半生をこめたような作品であるようだし、黒人の物語で、
ゲイの物語で、ことさらな大袈裟な歴史的出来事でもないこういう一人の物語が
評価されてよかったなあと思う。
ド迫力とか夢のようなとか、楽しくしあわせだったり恐ろしい悲劇や史実や、
どっかーんとした映画も最高なら、こう、わたしやあなた、隣の誰か、そういう
ちいさなひと時を描くのも映画。あらゆる多様性が世界にはあることを、
知りたい。知って欲しいと思う。

さて。

明るい真昼間。ドラッグを売る男たち。おそらく貧しい黒人たちの住む地域の
中でも、ことさら治安が悪いらしい街角に、いじめから逃げてひとりの男の子が
駆けこむ。それを見かけたフアンは、男の子を連れて帰る。
ほどんど口をきかない少年。フアンの妻、妻かな、彼女、か、の、テレサが食事を
出してようやく名前を聞き出すことができた。

シャロン。みんなにはリトルと呼ばれている。

翌朝、フアンは母親の所へシャロンを送る。母親もまたドラッグをやる。
居場所のないシャロンは時々フアンの家へ助けを求めるようになった。

という始まりで、リトルくんはいじめにあってるし母親は一応の心配はしてるし
面倒みてはいるようなんだけど、いまいちあぶなっかしい。愛情ある家庭とは
言えない。フアンに泳ぎを教えてもらったり話を聞いたり、だんだん懐いていく
んだけれども、母親にドラッグ売ってるのはフアンなんだよな。
どうしようもない。

ケヴィンという友達がいて、いじめにあって逃げるばかりのリトルに、もっと
タフになれよ、って取っ組み合いしたりして、唯一、仲良しっていう感じ。
リトルくんの周りは絶望的なようでもあり、でも、フアンやテレサと出会う
ことができたり、たった一人でも友達がいて、真っ暗ってわけでもない。

そしてシャロン自身に自覚はないのに、なんだかオカマっぽい、みたいなことを
母親に気持ち悪いというように言われる。
いじめやののしりとしてのファグ、って酷い言葉投げつけられて、わからなくても
傷ついてしまうリトル。
フアンが、まともに受け止めてくれて、他人に人生を決めつけさせるなと
教えてくれたのはよかった。

黒人の子が月の夜にはブルーに見えるよ、という話を教えてくれたのもフアン。
といって、だからどう、ってことが何かはっきり語られるわけではない。
この映画全編にわたって、月夜の青とか、うつくしいブルーのただよう画面
づくりで、そこに沈むような黒人の少年、青年である彼らの姿が本当に綺麗。
その中でひかる目がまた、とても、綺麗。
3人の俳優がそれぞれに、子ども、少年、青年と演じているんだけれども、
同じ目を持つキャスティングをしたよ、ということらしく、ほんと、ポスター
でも三人で一つの顔になっている通り、成長していって見た目が変わっても、
しっかりひとりのシャロンという男の子だった。うつむきがちだったり、
無口で周りに壁を作っている感じだったり、でも目がうるんではにかんだり。
シャロンが生きていると思った。

少年期、シャロンはやはりまだ学校でいじめにあう。
ドレッドヘアにしててやたらとシャロンに絡む同級生がいるんだよ。あいつめ。
ケヴィンはモテモテらしく女の子といちゃつきすぎて学校に怒られたりしてる。
それでも、シャロンはケヴィンが気になるという思いを少し自覚してきて。
ケヴィンもある夜、海辺で、シャロンにキスをする。
あれはなあ。いい雰囲気になっちゃったから、という若さゆえの勢いで
手でやっちゃってたけど、ケヴィンの気持ち的にはどーだったのかなあ。
あの切ない雰囲気~~~。もちろんシャロンのことは好きなんだろうけれど、
まあ、ゲイではないというか。ケヴィン、まあまだ少年期だし。性別気にしない
タイプって感じなのかなあ。

そして、そんな風に二人の距離が近づいたのに、学校で、誰か殴ろうぜ、みたいな
勢いに流されて、ケヴィンはシャロンを殴ることになる。
どうしようもなく二人ともが辛かった。

我慢の限界をこえたシャロンはドレッドヘアやろーの同級生を椅子でぶちのめす。
一発逮捕になってしまう。
辛い。
酷いいじめにあっていたシャロンは被害者なのに、強烈すぎた反撃で捕まって
しまったのはシャロンの方で。

そして青年期。ブラック。
最初これがシャロンなのかな??? と迷ってしまうほどに、筋肉つきまくり、
金歯して麻薬売人の元締めっぽいのをしてる青年になっててびっくり。
金のネックレスはともかく、金歯はなんでなんだよ。ダイヤのピアスとか、
なんか、フアンみたいになろうとしているのか、という感じのシャロン。
もう弱々しくいじめにあっていた頃のシャロンではない。

ある夜電話がかかってくる。ケヴィンだった。
ケヴィンも刑務所へ入っていた。だがそこで割り当てられた調理の仕事が面白く
なり、今は料理を仕事にしているという。
ケヴィンのいる店へ行くシャロン。
ジュークボックスのある小さなダイナー。シェフのおすすめを食べさせてやるよ、
と、再会を懐かしむケヴィン。

と、この3部はさあ、マッチョな見た目になっているのにやっぱりシャロンは
シャロンで、ケヴィンへの思いをひっそり大事に心の中にしまっていたんだなあ。
かといってそれでどうこうしようって思ってなかったのに、ケヴィンの方から
連絡がくるんだよー。ああ~~。
そして、ケヴィンは、実は子どもがいる、けどもう離婚してるとかわかって。
刑務所入ったけども更生して、安い仕事でも真面目に働き始めている。
シャロンは、刑務所で売人の仕事にツテを得て、そのまま売人の道にはまっている。
母親は、ドラッグの更生施設に入ってるのかなあ。ともあれ、今は反省して
いるらしい母親との和解はなってるみたいだった。
そして。
でも。
結局貧しい前歴のある黒人の辿る道ってこんなもんか、って所を淡々と描きながら
ケヴィンとの再会で、ケヴィンについに胸の内をひらくことができて。
他人と触れ合ったのはあの一度きりだ、という告白をするシャロンの緊張と
切なさに胸が苦しかった。
ケヴィンが、なんて、答えるのっ。
と、最高にぎゅーっとなったところで暗転して、でも、裸で寄り添ってる二人の
姿があって。あああああ;;
ケヴィンはシャロンをちゃんと受け止めたのだろうと信じるよ。
二人で末永く幸せに、なんてなるかどうかはわからない。それでも、ケヴィンの
更生した姿に触発されてシャロンもまっとうな仕事をみつけるかもしれない。
二人で生きる道を探すかもしれない。
何も答えが示されたわけじゃないけれども、これはハッピーエンドへのひかりが
ある映画だったと思う。

月の夜。海辺。小さな男の子が、生きている物語。

この映画が作品賞をとったこと。監督からのメッセージ。
それこそが、この映画の答えになるのかと思う。生きていく希望はあるということ。
酷いことがいっぱいあって何もかも最悪だって思っても、出会いやめぐりあわせで、
変わることもある。希望はある。ひかりはある。
月のひかりはある。ブルーは、うつくしいよ。

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