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映画「獣は月夜に夢を見る」

*ネタバレ、結末まで触れています。


映画「獣は月夜に夢を見る」


20日に見に行った。

北欧、海辺の町。マリーは病気の母と、父と三人でつつましく暮らしていた。
魚をさばき、加工する仕事につく。新入りの彼女をからかう同僚たち。だが
出入り業者のダニエルと視線を交わし合う。
母を診てくれる医者にマリーもまた検査を受けている。父は何も教えてくれない。
だが、母の病気や遠巻きにする町の人の密かな悪意嫌悪を感じる中で、過去に
何か恐ろしいことがあったことを探り出すマリー。そして、マリー自身の身体にも
異変が起こり始めた。

デンマーク、フランス合作とのこと。舞台はデンマークと思っていいのかな。
19歳という設定のマリーが、ほっそりとしたクールビューティで、まさに
その思春期の少女って感じで、危うくて綺麗で素晴らしかった。
北欧らしいというかデンマークらしいというか、っていうほどそんなに知ってる
でも詳しいでもないけれど、セリフも説明も少なくて、誰も表情を大きく変える
でもなくて、視線を交わすとか、ほんのわずかに微笑するとか、じっと目を
見つめるとか、なんかこう、ほんの少しの変化なのにひしっと空気が変わって
伝わってくる感じがすごく素敵。

始まりの、海辺の町、風、曇り空。滲んだような映像の冷たい空気の感触から
して素晴らしく綺麗な映像世界。
仕事場とか町の人たちのもっさりした感じと、マリー一家のすっと綺麗な感じの
違いが、異質さを現している。
マリーたち、というか、病気で車椅子生活、自分で動くのもままならず食事も
娘に食べさせてもらうしかない母が、怖れられているのは何故なのか。
その辺の恐怖の見せ方もとても美しい。

これって端的に言うと狼男みたいなこと、かなあ。
獣になる。獣毛が生えて骨格も変わる。人を襲う。でもたぶんめったやたらに
襲うというよりは自分に害をなすもの、と、みなしたものを襲った、という
ことなんだろう。
そんな獣に変わる母を、父は愛して守っている。薬で大人しくさせている?
だけど娘にもその血は伝わっていて、大人になり始めた今、娘も獣に変わる
日がくる。
攻撃してくる町の人を殺し、町から出て行く娘を、父は止めることができない。
マリーにも恋人ができた。
ダニエルは多分善良な若者で、マリーを愛して、きっと父のように、マリーを
守って二人でひっそり生きていくんだろう。
獣になる宿命のマリーの、美しさ、怯え、獣となって人を殺す恐怖、全部綺麗
だった。

父を演じているのはラース・ミケルセン。お兄ちゃん目当てで見に行ったの。
実に、実に優しい目をして、悲しい目をして、じっと愛する妻や娘を見つめる、
見つめるしかない不器用な普通の父親だった。素晴らしい。
妻が暴走して医者を殺した時には仕方なく埋めちゃう。たぶん過去にもこうして
妻の凶行を隠して守ったのだろう。
どうしてやることもできない。一種超人である妻や娘に対して無力なんだよ、
父よ。無力さが切ない。

理屈とか何がどうとか明確にわからないんだけれども、マリーの変化、この時を
切り取った美しい作品でした。好きだ。

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