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映画「スポットライト 世紀のスクープ」

*ネタバレ、結末まで触れています。


映画「スポットライト 世紀のスクープ」


16日に見てきた。

ボストングローブに新しい編集長がきた。彼は、神父による子どもへの性的虐待
事件を報じた短い記事の続報を追うよう、スポットライトチームに指示する。
最初はさほど気のりしない、スクープを追うはずの精鋭チームだったが、取材を
進めるうちに、単なる一人の問題ある神父、というのみではない、もっと多くの
組織的問題であると手ごたえをつかむ。


5年前にも訴えたのに、という被害者代表とか、弁護士とかに、もう一度粘り強く
取材を重ねる記者たち。
地下資料室から何年分もの神父名鑑みたいなのをあつめ地道に名前を拾って
統計的には、という数字と照らし合わせる作業。
世紀のスクープをものにするまでの、ほんとに地道な作業の積み重ねが丁寧に
描かれていた。
教会という絶対的権威との対立になる、とはいえ、なんかこうヒーロー映画的に
巨悪と戦いドンパチやるというものではない。
記録、資料、証言にあたる。
そして、じわじわとくる、周囲からの圧力に負けないこと。

被害者の声を聞くことが、本当に辛くて映画見てるだけのこっちにもぐさぐさくる。
家庭環境に問題あるまだ子どもだった彼ら。
そんな時、神父さまに優しくされ認められ特別な秘密だと言いくるめられて
抵抗できなかった。ゲイの男性が、ゲイであることを認められてその時少し
嬉しく感じたことを否定することはできない。
保守的なボストンという地域で、大切な地域のつながりの拠点である教会や神父を
非難告発することを諦めるよう周囲からのプレッシャーがある。
訴えたとしても教会上部に握りつぶされ神父が転属になっておしまい。

私は信仰とか、アメリカ社会において教会がどれほどの絶対的権威なのかは、
実感としてはわからなくて、見たり読んだりでうっすら理解するしかないけれど
それでもこの重苦しいプレッシャー、押しつぶされる被害者という感じは
ものすごく刺さってきた。

記者たちは実態を知るにつれてしばらく無言になる。
そこまでとは知らなかった。我が身に降りかからなかった悲劇、でもそれは
ほんとうにたまたま運よく被害者にはならなかったというだけで。近所で、
学校で、ひっそりとそんな出来事があったことを知る。

大きくなってなんとなく教会には行かなくなったけど、そのうちまた行くように
なるんだろうなと、思っていたんだ。
というようなセリフがあった。
ずっと毎週日曜日に教会へ行くような信者ではなくても、たぶん多くの人に
とってはそういう感じであるんだろう。普段はそう意識することもない信仰。
でも何かあればまた神様の下へ。
そういう感じかなあと想像する。
でも知ってしまった。
その、いつか何かあれば縋ることができるはずの教会によって、性的虐待を受け
信仰そのものを奪われてしまう被害者。
もちろんどんな虐待も酷くてどんな虐待ならより軽いというものではない。
だけど、神父からの性的虐待なんて、奪うものがあまりにも。

途中、神父に話を聞けたシーンもあって、でもその神父もかつて虐待を受けて、
心がどこか壊れている感じが、わずかなシーンながらうかがえた。
虐待の連鎖。
加害者も被害者。

編集長は単純なスクープではなくて、神父たち個人より教会組織そのものを
告発する記事にするようにもっていく。

途中、9.11が起こる。
新聞は当然そっちにかかりっきりになる。
もうすぐ記事に出来るという時に、もうしばらく待って、と言わなくちゃならない
記者も、待たされる被害者も、辛かった。
あの事件で世界の軸がずれたような気がしたけど、もう本当に、いろんな影響が
あったんだよなあ。改めて思い知る。

ついに記事を出した後、新聞社にきっと反響の電話がくるぞ、っていうラスト。
最初は電話番じゃなかったチームの二人も、日曜の朝にやっぱり出社する。
そしてひっそり静かな新聞社受付に怪訝な顔をしながら、受付の人に、
あなたたちの方に人員貸し出したわよ、と言われて、自分たちの部屋へ向かうと、
鳴り続ける電話。電話を受けてメモをとる人たち。
反響は、今まで誰にも声を聞いて貰えなかった被害者たちである、という、ね。
押さえつけられ、なかったことにされて、奪われてきた被害者の声。
声。

アカデミーで作品賞をとった。作業としてはとてつもなく地味な堅実なことを
殊更に大袈裟にではなく、それでもまったく飽きさせず引き込み、他人事に
しない感じがして凄かった。余計な説明ではなく作業やシーンの積み重ねで
しっかり伝わってくる。
重くて辛いけど、見てよかったです。

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